”予備試験には『魔物』が潜む”
本記事では、令和2年度司法試験予備試験に合格した筆者が論文式試験を受けた感想についてご紹介します。
実際に体験した筆者だからこそ分かる試験会場の雰囲気やアクシデントについてご紹介します。
これから、論文式試験を受ける方のイメージトレーニングに役立てば幸いです。
1 会場に到着!
私は五反田の会場で論文式試験を受けました。
ずらりと長机が並んだとても広い教室に私の座席がありました。
教室を見渡すと100人以上の受験生が視界に入り、こんなにライバルがいるのかと、1日目の朝の時点で少し弱気になりました。
受験生の数がとても多いのでトイレには行列が出来ます。
列に並んでいる時に、知り合い同士で話をしている受験生の声が耳に入ります。
私は一人で予備試験の勉強をしてきたため、会場に知り合いは一人もいません。
試験前の緊張感も相まって、急に心細くなりました。
ぼっちには辛い環境です。
耳栓を持ってくればよかったな〜、と思いました。
(注意:試験中の耳栓の使用は禁止です。耳栓の使用は休み時間のみにしましょう)
2 憲法
ここからは科目ごとの感想を書きます。
憲法では『犯罪被害者への取材の自由』が問題となりました。
まず、『取材の自由』ということでセオリー通り『博多駅事件』に触れます。
権利の重要性で少し悩みました。
『被害者に取材しなくても犯罪事件の報道って出来るよな〜』、と思いつつ、『事件の当事者の声って時に世論や歴史を動かすからな〜』、問題の権利は重要でないとは言い切れないなと悩みます。
結局、その悩みも素直に答案に表現して中間審査基準で処理しました。
最初の科目ということもあり、やや時間を使い過ぎたのが反省点ですが、まずまずの手応えです。
憲法の判定はAでした。
『権利制限を認めるべき』という人と、『認めるべきでない』という人を想定して、事案を丁寧に分析する姿勢が評価されたのだろうと思います。
3 行政法
問題を読んだ瞬間に『公害防止協定』じゃん、とピンときました。
あまりメジャーな論点ではありませんが、ちょうど試験直前に見返していた範囲だったのでスムーズに書くことが出来ました。
ただ、ここで私は調子に乗ってしまいます。別に書かなくてもいいのに、『これ書いたら加点されるかも?』と気が迷って『行政行為の附款』論点につい触れてしまいます。
結果、ただでさえ憲法で時間が遅れていたのに、さらに時間がなくなって、第2問の当てはめがとても雑になりました。
書くべき論点か否かをもっと真剣に吟味すべきだと反省しています。
行政法の判定はAでした。
やはり、公害防止協定についてしっかり解答出来たのが評価されたのだと思います。
試験直前まで、参考書を読んでいるといいことがありますね。
4 刑法
問題文を読んで、『あれ、今年の刑法、簡単じゃん』と思いました。
珍しく共犯者がいないし、、暴力団構成員の詐欺は有名な論点だし、私文書偽造は昨年の試験でも出題されていたので楽に処理が出来ると調子に乗りました。
かなり手応えがあったのですが、刑法の判定は意外にも低くDでした。
調子に乗って自分が犯したミスに気がつかなかったようです。
知っている論点だからこそ、慎重に分析する必要があると反省しています。
5 刑事訴訟法
問題文を読んで冷や汗が出ました。
『今年の刑訴法は何かな〜?捜査法かな?証拠法かな?訴因かな?』
と、ワクワクしながら見てみれば、
『え、……一事不再理、だと?』
模試でも、答練でもお目にかかったことがありません。
テキストの後ろの方に、判例があったな〜、くらいの微かな記憶しかありません。
その微かな記憶を頼りに答案を書きます。
書きながら、自分の答案が最初と最後で矛盾していることに気がつき、ラスト10分で慌てて軌道修正するというハプニングもありました。
(『予め、しっかり答案構成をする』という基本を怠ると私のようになります。)
刑事訴訟法の判定はAでした。
全く手応えがありませんでしたが、周りの受験生も苦戦したため、評価されたようです。
余談ですが、刑法・刑訴法の試験のあと、トイレの行列に並んでいると、
『なー、刑訴、出来た?』
『ああ、こないだゼミでやったとこだよな〜』
という他の受験生の会話を聞いて、私はとても落ち込みました。
やっぱり耳栓を持ってくればよかったと思いました。
(または、鋼のメンタルが欲しい……。)
6 一般教養科目
まず、問題文を読んで最初の感想は『何をいってるんだ?』でした。
登場人物の名前がカタカナでややこしいのに、会話が抽象的過ぎて私の理解が追いつきません。思わずペンがとまります。
しかし、『未完の傑作より、完成した駄作!』と言い聞かせて、『多分、こういうこといってるんだろう』と手探りで答案を完成させました。
一般教養科目の判定はDでした。
あまり、いい評価ではありませんが、F判定も覚悟していたので上出来でしょう。
一般教養は点をとる科目ではなく、点を落とさないことが重要な科目とよく言われますし。
最後まで諦めなくてよかったなと思いました。
7 法律実務基礎科目
民事科目では最初の問題から『あれ、これでよかったんだっけかな』と自信がなくなりました。
法律基本7科目に注力し過ぎて、実務科目にあまり時間を割けなかったツケがここで巡ってきたか、と後悔しました。
そんなこんなで民事科目に時間をかけ過ぎて、刑事科目はかなり余裕がなくなりました。
半ばやっつけのように最後まで答案を書きました。
この法律実務基礎科目で私の前の方に座っている何人かは、試合放棄したのか、机に突っ伏して寝ていました。
私の実務基礎科目の判定はBでした。
意外にも高評価なのは、やはり受験生全体が実務基礎科目を苦手としているからでしょう。
余談ですが、要件事実は少し時間をかければ安定的に得点が出来るようになるので、時間がない方は要件事実に絞って対策するのがおすすめです。
おすすめの参考書はいわゆる大島本(大島眞一『完全講義 民事裁判実務の基礎(第3版〈上巻〉)』)です。私は口述式試験前に慌てて同著を使って対策しましたが、解説が明解で、論文式試験の前に出会いたかったな〜と思いました。
8 民法
私が予備試験の中で一番失敗した科目です。
まず、第一問で、『ああ、『無権代理と相続』の論点で出てくる判例がベースの問題だな』とはわかりました。しかし、民法の判例学習が不十分だった私は思うようにペンがすすみません。
また、第二問で『複数の構成を挙げなさい』と言われましたが、すでに時間が足りず、詐害行為取消しの構成しか書けませんでした。
結局民法は今回の予備試験で初めての途中答案となります。
民法の判定はFでした。
判例百選の最初の方に出てきて受験生がみんな知っている判例の理解があやふやだったのと途中答案だったのが敗因ですね。
9 商法
民法で大幅に時間を超過したプレッシャーの中で商法の問題を解きました。
問題文を読んですぐに『特定責任追及の訴え』が問題になるとわかりました。
短答式試験対策で会社法の条文を読み込んでいてよかったと思いました。
しかし、論文式試験で使うのは初めての条文だったので当てはめに手こずり、第2問は6行くらいにまとめて答案を完成させました。
商法の判定はAでした。
第1問でしっかりと解答出来たことと、雑ではありますが答案を最後まで完成させたことが評価されたのだと思います。
10 民事訴訟法
民訴法の問題を解き始めたとき、終了まで残り40分しかありませんでした。
この時点で私は完全にパニックになっていました。
一部請求や既判力、確認判決といった平常時であればすぐに出てくる知識が、思うように出てきません。ペンも思うように動かせず、何度も文章を間違えては斜線を引いて書き直すことを繰り返しました。
思うように進まない中、『もう辞めたい』と強く考えるようになります。
周りに机に突っ伏す受験生が多かったのもその気持ちに拍車をかけました。
たった数十分経てば、嫌でも試験から開放されるのに試験を放棄するなんて、と思う方もいるかもしれません。
しかし、予備試験の会場には『魔物』がいます。
2日間に渡って、プレッシャーに晒されながら、最後の最後に3時間半の長時間の試験を受けていると正常な判断が出来なくなります。
私は何度も『もう辞めたい』と思いながらも、『諦めたらそこで試合終了』と言い聞かせてペンを動かしました。
(出典:井上雄彦『スラムダンク』)
結局、書けた答案はたった1ページ半でした。
第2問はほぼ手付かずでした。
民訴法の判定はBでした。
意外にも高評価でびっくりしました。
きっと周りの人も途中答案になった人が多いのではないかなと思います。
諦めなくてよかったです。
11 まとめ
いかがだったでしょうか?
私は論文式試験を全て受け終わったとき帰りの電車の中で『ああ、これは落ちたな』
と考えていました。試験後、勉強が嫌になって就活をしていたくらいです。
ところが、合格していて本当に驚きました。
反省点がたくさんある試験でしたが、よかった点をあげるなら『最後まで諦めなかった』ことでしょう。
予備試験は相対評価なので、自分がどんなに答案が書けなくても周りも書けていなければ、致命傷にはなりません。
だから、最後まで諦めなければ希望はあります。
安西先生は偉大だな、としみじみ思いました。
12 サマリー
- 周囲の受験生の声が気になる人は耳栓を持っていこう!
- 試験直前まで勉強しよう!意外とその範囲が出るかも?
- 簡単と思う問題こそ、慎重に。みんなが出来る問題を落とすと致命傷になる。
- 答案構成はしっかりと!
- 『未完の傑作より、完成した駄作!』途中答案を出さないで!
- 最後まで、絶対に、絶対に、絶対に諦めない。