予備試験制度が導入されてから、若い方々に限らず、社会人から予備試験・司法試験を目指す方々が増えてきました。
しかし、後にみるように、女性弁護士の割合は非常に低く、弁護士=男性というイメージを持っている方も多いのではないのでしょうか?
昨今では、テレビ番組などで女性弁護士が出演されている例も多いと思いますが、統計でみると、女性弁護士はまだまだ少ないのです。
女性弁護士が少ない原因は様々あると思いますが、男性が多いこの業界において、これから「弁護士資格をとりたい!」と思っても、
「女性弁護士は肩身が狭いのではないか」
「弁護士になった後の働き方が見えない」
「結婚・出産も考えているけど、ちゃんと育休を取れるのか」など、
マイナスなイメージを持ってしまう方も少なくないでしょう。
しかし、これからご紹介する記事を読んでいただくと、女性が弁護士になった後でも活躍できる場がたくさんあるだけでなく、ワークライフバランスの実現ができることを知っていただけると思います。
是非この記事を読んで、理想の働き方を描いてみてはいかがでしょうか。
1 女性は弁護士になっても働きづらい?
弁護士といえば、アメリカのドラマ「SUITS」のような、バリバリ働いているようなイメージを持っている方も多いと思います。裁判所との往復や、依頼者との打合せなど、対人でのお仕事の比率も多いため、体力のいる仕事なのではないでしょうか。
しかも、法曹界は男社会といわれるように、男性が相対的に多いため、「女性弁護士は働きづらいのではないか」と思っている方も少なくないでしょう。
では、実際に女性弁護士がどれくらいの割合いるのか、見てみましょう。
(1) 女性弁護士の割合
弁護士全体の女性弁護士の割合は、19%(2018年3月31日現在)となっています。この数字から、女性弁護士の割合が圧倒的に少ないことが分かります。
そもそも、司法試験の出願者数をみても、令和2年の出願者数のうち、女性の割合は29.11%と3割を満たしていないことから、女性がとても少ないのが現状です。
(2) 女性の弁護士が少ない原因
上記の統計をみるとおり、女性弁護士の割合はとても低いです。
なぜこんなに女性弁護士は少ないのか?その原因は一概にはいえませんが、以下のような理由が推測できます。
①結婚・出産が障害?
冒頭でお話したように、将来結婚・出産を考えている女性は、いずれ出産のために産休や育休を取らなければなりません。
しかし、
「法律事務所で働き始めても、育休がとれるのか?」
「男性に比べて長く働くことができず、いずれ辞めなければならないのでは」
「せっかく資格を取得しても長く勤務できなければ、弁護士を目指してもあまり意味がなくなってしまうのではないか」
など、弁護士を目指すことを躊躇してしまうのかもしれません。
他方で、既にお子様がいらっしゃる主婦の方は、日々家事や子育てに追われてしまい、弁護士資格をとってみたいという思いがあっても、なかなか踏み出せない方が多いのではないでしょうか。
昨今では、共働き夫婦も増えてはいますが、「ただでさえ忙しいのに、弁護士になっても子育てや家事との両立が可能なのか?」など、弁護士になった後の働き方が思い描けないということもあるのかもしれません。
②お金がかかる
弁護士になるために必要なことは、司法試験に合格することです。そして、司法試験を受験するためには、法科大学院を卒業するか、予備試験に合格する必要があります。
法科大学院は、学費が一般的に年間100万ほどかかります。
また予備試験は司法試験に匹敵するほどの難関試験です。
そのため、独学で勉強するよりも、予備校に通う方が多いのが現状です。予備校(大手)を選ぶと、約100万円の受講料がかかってしまいます。
このように、弁護士になるためには、莫大な費用がかかるため、社会人の方でも、経済的余裕がなければ目指すのが困難かもしれません。
専業主婦の方であれば、旦那様の経済的な協力が必要になるなど、弁護士を目指すためには様々な壁が立ちはだかりますね。
③時間を確保することが難しい
弁護士を目指そうとすると、予備校のための費用や、法科大学院に進む場合は学費がかかるため、お金がかかります。専業受験生として、受験勉強だけに没頭することはなかなか難しいですよね。
特に兼業主婦の方は、土日を勉強に充てられるとしても、平日は残業がない日でも2~3時間しか時間が確保できないのではないでしょうか。
また、小さいお子さんがいる家庭であればまとまった勉強時間を確保することが難しいかもしれません。
平成30年7月の内閣府のデータによれば、
妻と夫の1日の平均家事時間は、妻は平日263分、休日284分であるのに対し、夫は平日37分、休日66分と、かなり大きな差があります。
また、1日の平均育児時間の方は、妻は平日532分、休日680分であるのに対し、夫は平日86分、休日322分となっています。
このように、女性の家事育児の負担がかなり大きく、育児しながら勉強を継続することはとても大変なことです。
ただでさえ司法試験は難しい試験ですから、家事・育児をこなしながら弁護士を目指そうと決断できる方は少ないのかもしれません。
2 女性弁護士の需要
このように、女性が弁護士を目指そうとしても、様々な障害があるかもしれませんが、女性ならではの案件や相談がたくさんあります。
女性弁護士だからお願いできる、相談できるという、悩みを抱えている方が世の中にたくさんいます。
ここでは、いくつかの例をご紹介します。
(1) 会社のトラブル(セクハラ、マタハラ)
昨今では、仕事上のトラブルとして、セクハラによる訴えが増えていることをご存じですか?
出典:厚生労働省ホームページ
都道府県労働局に寄せられた相談件数の中でも、最も多いのがセクハラの相談です。また、セクハラの相談件数も増加傾向にあります。
出典:内閣府ホームページ
さらに、セクハラによる相談件数のうち、平成26年度における女性労働者からの相談件数が11,289件のうち6,725件となっており、女性が被害者である割合が多いのが事実です。
典型的なセクハラの例は、身体を触ったり、性的な言動をとるなどありますが、
①「対価型セクハラ」や、
②「環境型セクハラ」など、
セクハラの種類も様々あります。
こういった被害を受けた女性が弁護士に頼ろうとしたとき、弁護士が女性であれば、相談しやしく、また同性として共感が得られると思います。
最近では、セクハラを訴えるケースが増えてきて、声をあげる女性が増えてきています。
セクハラが認められるケースが増えれば、今までは泣き寝入りしてきた被害者が訴えるケースが更に増えていくかもしれません。
また、女性特有のハラスメントの中に、マタハラ(マタニティーハラスメント)があります。
例えば、妊娠して体調が優れないと、上司から「忙しい時期に妊娠しないでほしかった」
と言われ、仕事が与えられなくなり放置されるなどといった場合です。
これもまた女性弁護士の方が相談しやすいですよね。
このように、女性弁護士が増えれば、声なき声を救い上げることができるようになるかもしれません。
(2) 性犯罪
セクハラやマタハラに加えて、強制性交等罪や、強制わいせつ罪などの性犯罪も被害者が女性である割合が圧倒的に多いです。
警視庁が発表している、2018年度における強制わいせつの女性被害者数は、5,340人のうち、5,152人となっています。
また、性犯罪では、被害者女性の平均年齢が低いことも特徴の一つです。
平成26年度における強制わいせつの被害者のうち、0歳から19歳の女性被害者が7,186件のうち、3,536件となっており、約半数にも及んでいます。
小学生や中高生が性犯罪の被害者となった場合には、女性でなければ話しづらいと思います。またメンタルケアももちろん必要になりますね。
こういった場合も、女性弁護士が増えることによって、救われる被害者がたくさんいるでしょう。
(3) 家庭内のトラブル(DVなど)
出典:警視庁
上記の表のように、家庭内でのトラブルの中でも、特にDV(ドメスティックバイオレンス)においては、女性が被害者である割合が約8割と非常に多いのが現状です。
DVを受けている女性は、精神的なダメージを受けている方も多いため、女性弁護士に相談する方が安心できるでしょう。
3 女性弁護士でもワークワイフバランスが実現できる
女性が弁護士を目指す上で、弁護士になった後どういった働き方があるのか、漠然としていて、想像しづらい方も多くいるかと思います。
弁護士といえば、男社会というイメージがまだまだ強いのが現状ですが、女性弁護士でも働きやすい環境が増えてきています。
(1) 育児制度・時短勤務制度の拡充・一時保育の整備
女性の方でも、お子様がいる方、これから結婚・出産を考えている方は、これから弁護士になっても、
「子育てをしながら仕事ができるのか」
「産休や育休はとれるのか」など、
不安を抱いている方も少なくないかもしれません。
後にお話するように、弁護士になりたての方は、即時に独立して法律事務所を開業し、自分のペースで働くことも可能かもしれませんが、一から自分で経営しなければならないため、現実的ではないかもしれません。
そうすると、まずはアソシエイトとして、法律事務所で勤務することになると思いますが、弁護士も基本的には個人事業主なので、案件の数や仕事の量によっては休みづらいという環境も多いのが現実です。
しかし、育児制度や時短勤務制度を取り入れている法律事務所が多数存在します。
このような制度が構築されてた背景として、女性活躍推進法(平成27年8月28日制定)が大きく影響しています。
この法律は、
「自らの意思によって職業生活を営み、又は営もうとする女性の個性と能力が十分に 発揮されることが一層重要。このため、以下を基本原則として、女性の職業生活に おける活躍を推進し、豊かで活力ある社会の実現を図る。」(厚生労働省HPより)
ことを目的とした法律です。
この法律によって、各弁護士会も女性弁護士が育児と両立できるための働き方改革を大きく推進してきました。
このような制度を取り入れている法律事務所であれば、女性としても、働きやすいし、安心して仕事に取り組めますね。
さらに、弁護士会によっては、一時保育を制度化しているところもあります。
これからさらに女性にとって働きやすい環境が整えば、育児との両立も心配ないでしょう。
(2) 独立して法律事務所を開業する
法律事務所で勤務する以外に、自ら法律事務所を開業するという方法もあります。弁護士になりたての状態で開業することは、経営や営業を一人でやらなければならないため、リスクも大きいと思います。
他方で、自分のペースで仕事をすることが可能となるので、メリットも大きいです。
(3) 企業内弁護士として働く
弁護士全体における女性の割合は約2割と少ないのに対して、企業内弁護士(インハウスローヤー)の女性の割合が多いことをご存じですか?
日弁連の「企業内弁護士キャリアパス調査」(2019年3月)によれば、企業内弁護士における女性の割合は、38%となっています。
そして、企業内弁護士を選んだ理由として、「ワーク・ライフ・バランスを確保したかったから」が67.3%と最も多くなっています。
企業内弁護士は、正社員として雇用されるケースが多いので、福利厚生が充実している会社に入れば、法律事務所で勤務するよりも、働きやすいのかもしれません。
また、会社によっては、兼業を可とするところもあるので、弁護士業務もやりたいという希望が叶えられます。
(4) 女性が弁護士資格をもっておくことのメリット
弁護士資格を持っておけば、途中で一度法律事務所を辞めたり、休職しても、いつでも復帰することができるのが大きな強みです。
また、会社員と比べて、定年退職がないので、ずっと働くことができます。
出産や育児で弁護士として働けるか不安な方も、長期的な視点でみれば、メリットの方が大きいので、弁護士資格の取得に向けて受験勉強を初めてみてはいかがでしょうか。
4 何歳から弁護士を目指しても損はない
(1) 弁護士の経験年数はあまり関係ない
弁護士になるためには、司法試験に合格する必要がありますが、司法試験の受験資格を得るためには、法科大学院を卒業する必要がありました。
しかし、予備試験制度が導入されてからは、予備試験に合格すれば、司法試験の受験資格が得られるようになったため、法科大学院に入学する必要がなくなりました。
この制度によって、社会人も、働きながら受験勉強をすることができるようになったので、弁護士を目指しやすくなっています。
最近では、50代、60代で司法試験に合格されている方もおり、弁護士を目指す上で、年齢は関係ありません。
それまでは別の分野で働いていた方も、社会人としての経験が必ず活きるでしょう。
(2) 弁護士になる前の経験や技術も活かせる
最近では、弁護士×〇〇(例えば、弁護士×医者、弁護士×IT)など、弁護士としての資格のみならず、専門的知識をかけ合わせた弁護士の需要が高まってきています。
弁護士といえば法廷に立っているイメージが強いかもしれませんが、上述したように、企業内弁護士としての働き方や、最近ではスクールロイヤーという学校内でのトラブルを法的に解決する弁護士としての働き方もあります。
弁護士になっても、色んな働き方があり、また女性にとっても弁護士を目指す上でどのような働き方ができるのか、一度考えてみてはいかがでしょうか。
(3) 働きながらでも弁護士を目指せる
上述したように、予備試験の導入により、社会人でも働きながら弁護士を目指せるようになりました。
予備試験を独学で勉強することが難しいと考えている方は、予備校を活用するのもよいでしょう。
5 サマリー
女性弁護士はまだまだ少ない現状ですが、制度改革によって女性が働きやすい環境が徐々に整ってきています。これから出産を考えている方や、育児に取り組んでいる方も、弁護士を目指して、理想の働き方を実現してみてはいかがでしょうか?
6 まとめ
・弁護士全体における女性弁護士の割合は19%(2018年3月31日現在)
・女性弁護士が増えることで、女性被害者の多い性犯罪や家庭内トラブルで救われる人がたくさんいる
・女性弁護士でもワークライフバランスが実現できる
・育児制度・時短勤務制度が充実している法律事務所がある
・企業内弁護士の女性の割合は38%(2019年3月、日弁連の調査)
・予備試験の導入により、社会人でも働きながら弁護士を目指せる