最近よく目にする「予備試験ルート」と、「法科大学院ルート」ですが、予備試験ルートで司法試験に合格した方は、法科大学院ルートで合格した方に比べて、その後の就職活動に有利に影響するという話があります。実際に予備試験ルートの司法試験合格者の就職活動にどのように有利に働くのか、実際の法律事務所の採用募集や、5大法律事務所に就職した新人弁護士の割合などの数字をみながら分析してみました。
1 予備試験合格者は就職に有利?
まずは、予備試験の合格率を見てみましょう。
出典:法務省
この表から分かるように、予備試験の合格率は4%前後を推移しており、合格率は非常に低く、難易度の高い試験といえます。
司法試験の合格率もみてみましょう。
出典:法務省
これらの合格率を比較すると、予備試験の方が圧倒的に合格率も低いですよね。この難易度の高い予備試験をくぐり抜けてきた合格者は、採用者の立場からみれば、採用したいと思う一因といえるかもしれません。後述するように、特に大手法律事務所に就職したいと考えている方は、予備試験に合格することも、一つの大きな手段といえるでしょう。
2 予備試験経由の司法試験合格者の合格率
予備試験経由で司法試験に合格した方々の合格率はどれくらいなのでしょうか。
平成30年度合格率 | 令和元年度合格率 | 令和2年度合格率 | |
法科大学院修了者 | 24.75% | 29.09% | 32.68% |
予備試験合格者 | 77.60% | 81.82% | 89.36% |
この数字をみると分かりますが、予備試験合格者の司法試験の合格率は、法科大学院経由の合格者に比べて圧倒的に高いです。予備試験に合格した方のうち、9割近い方々が司法試験に合格しているのですね。
この予備試験経由の司法試験合格率が高いことは、就職活動にも影響しているのかは、次の項目でご紹介します。
3 予備試験合格者の就職活動の時期が早い
予備試験に合格した方は、司法試験を受験する前から就職活動が始まります。
まだ司法試験に合格するか分からないのに就職活動をするというのは、一見して不思議ですよね。予備試験に合格したということが、採用の判断の一つになっているということなので、他の資格試験の中でも、特に異質なことかもしれません。
上の合格率から分かるように、予備試験に合格した方は、相当高い合格率で司法試験にも合格できること、合格率の低い予備試験を突破してきた合格者は優秀な人材が揃っているとの採用者側の判断があるのかもしれません。
予備試験に合格した方も、司法試験の勉強を続けながら就職活動をするのは、プレッシャーも高く、司法試験に合格できるか分からない状態でやることはとても不安かもしれません。
ただ、後にご紹介するように、大手法律事務所に就職したい方にとっては、早めに就職活動をしておいて損はないので、予備試験を受験する前の時間に余裕がある段階で、採用ページに目を通しておいた方が良いかもしれません。
4 予備試験合格者向けの採用募集がある
予備試験合格者の就職活動の時期が早いことを上記でご紹介しましたが、実際に予備試験合格者向けの採用募集について、いくつかご紹介します。
まずは、インターンです。
予備試験の合格者向けに、インターンを募集している法律事務所がいくつかあります。例えば、筆者が調べたものの中には、5大法律事務所である長嶋・大野・常松法律事務所、AMT(アンダーソン・毛利・友常法律事務所)、西村あさひ法律事務所がウィンターインターンの募集をしています。このように大手法律事務所は毎年積極的にインターンを募集し、予備試験合格者に、弁護士業務について知る機会を設けています。
このインターンの目的は、まさに採用にあります。インターンの機会を利用することで、予備試験合格者は法律事務所で働いている弁護士の方々とコミュニケーションをとることができ、交流をもつことができます。予備試験合格者にとっても、採用側に顔を知ってもらうことができるので、就職活動をする上で大きなメリットといえます。
早い方は、司法試験を受験する前に内定をもらう方もいるので、あとは試験に本腰を入れて集中するだけということになりますよね。このように大手法律事務所に就職したい方にとっては、予備試験合格はとても大きなメリットとなります。
また、予備試験合格者のための採用募集をしている法律事務所もあります。事務所説明会を開催しているところもあるので、予備試験に最終合格する11月頃から就職活動が始まります。
司法試験の受験勉強と併用しながら就職活動をするのはとても大変かもしれませんが、約4%の合格率で予備試験を突破した方にとっては、希望している法律事務所に就職ができる大きなチャンスなので、是非この機会を逃さないようにしてくださいね。
5 大手法律事務所の予備試験合格者の採用率が高い
大手法律事務所の予備試験合格者向けのインターンが開催されていることをご紹介してきましたが、実際に新人弁護士のうち、多いところでは約半数が予備試験合格者であることをご存じでしたか?
出典:ジュリナビ
こちらは、ジュリナビの調査結果で、5大法律事務所に就職した71期新人弁護士の出身法科大学院別人数を表したものです。
この統計を見ると、西村あさひ法律事務所と森・濱田松本法律事務所の予備試験出身者が6割を超えています。長島・大野・常松法律事務所も予備試験出身者が約4割を超えており、他の法科大学院出身者の割合の中でも最も割合が多くなっています。
これらの統計から分かるのは、5大法律事務所の予備試験合格者の採用率がとても高いということです。
出典:ジュリナビ
こちらもジュリナビの調査結果になりますが、5大法律事務所の71期予備試験経由者の割合は48.5%と、ほぼ半数を占めています。
法科大学院修了者は、上記の表のとおり、東京大学法科大学院、慶應義塾大学法科大学院、京都大学法科大学院など、偏差値の高い法科大学院修了生の割合を大きく占めていることからすると、学歴は就職において重要な要素になるものといえます。そして、予備試験合格も、東大や京大などと並んだ一つのブランドといえるかもしれません。
6 法科大学院生も予備試験を受験する理由は就職に有利だから
実は、法科大学院生も予備試験を受験しています。
職種別 | 受験者 |
公務員 | 925人 |
教職員 | 97人 |
会社員 | 2,064人 |
法律事務所事務員 | 234人 |
塾講師 | 110人 |
自営業 | 449人 |
法科大学院生 | 1,064人 |
法科大学院以外大学院生 | 34人 |
大学生 | 3,141人 |
無職 | 2,116人 |
その他 | 374人 |
この表は、令和2年度予備試験受験者数の統計です。この表から分かるように、予備試験受験生のうち、約1割が法科大学院生となっています。大学生、無職、会社員に次いで多いので、意外と法科大学院生が多いんですね。
法科大学院生は法科大学院を卒業すれば司法試験の受験資格が得られるので、わざわざ受験しなくても?と思うと思います。
これには、様々な理由が考えられますが、理由の一つとして、「予備試験に合格することが就職に有利だから」と考えている法科大学院生がとても多いのです。
法曹養成制度改革推進室が行った平成26年司法試験予備試験口述試験受験者に対するアンケート調査結果によると、法科大学院在学中に予備試験を受験した理由について、78.5%の方が「予備試験に合格しておいた方が就職等の面で有利」に選択していました。
8割近い人が、就職に有利だからという理由で予備試験を受けているのです。実際に就職に有利なのかどうかは別として、有利であると考えている受験生が多いということでもあります。
ただ、これまでご紹介してきたように、少なくとも、大手法律事務所が予備試験合格者を多く採用していることからすれば、予備試験合格は一つのブランドのようなもので、自分の希望する法律事務所に就職しやすいといえるかもしれません。
7 サマリー
予備試験は、就職においてもメリットがあるので、法科大学院生も、大学生も、受験したいと思う魅力的な試験といえます。予備試験は合格率も低く、難関試験ですが、就職の幅が広がると思うと、希望が持てますよね。
これから受験する方も、既に学習をしている方も、一度合格後の就職について考えてみてはいかがでしょうか?予備試験に合格した後のことを考えながら勉強を続けることもモチベーションが上がるのでとてもおすすめです。
8 まとめ
- 予備試験は、合格率が約4%と難関試験である
- 大手法律事務所は積極的に予備試験合格者向けの採用活動をしている
- 実際に大手法律事務所の新人弁護士の約半数が予備試験合格者である
- 予備試験を受験した法科大学院生のうち、約8割が就職に有利だから受験したとの統計がある
- 予備試験合格も、一つのブランドとして、就職活動の幅が大きく広がる