弁護士といえば、年収が高いというイメージを持つ方も多いのではないでしょうか。データからみても、確かに平均年収に比べると弁護士の年収は高いかもしれませんが、最近になって、弁護士はあまり稼げないという声も聞きますよね。
弁護士といっても、勤務弁護士や企業内弁護士など、働き方も様々あります。実際に弁護士の年収は高いのか、また働き方によって差はあるのかなど、気になる点をご紹介するので、是非参考にしてみてください。
1 弁護士の年収
(1) 弁護士全体の平均年収
2020年に日弁連により実施された、弁護士業務の経済的基盤に関する実態調査によると、弁護士の1年間の収入の平均値・中央値は以下の通りです。
平均値 | 2,558万円 |
中央値 | 1,437万円 |
(参照:「弁護士業務の経済的基盤に関する実態調査2020」より『確定申告書に基づく事業(営業等)収入と給与収入の合計の平均値・中央値(0との回答者を含む)』)
また、収入から必要経費を除いた所得の平均値・中央値は以下の通りです。
平均値 | 1,119.1 万円 |
中央値 | 700 万円 |
(参照:「弁護士業務の経済的基盤に関する実態調査2020」より『所得合計の全国平均値・中央値((0との回答者を含む)』)
以下が2006年、2008年、2010年、2014年、2018年の調査によって明らかになった弁護士の年収と所得の平均値と中央値です。
収入・所得の平均値 | 2006年 | 2008年 | 2010年(注2) | 2014年 | 2018年 |
収入 | 3,620万円 | 3,389万円 | 3,304万円 | 2,402万円 | 2,143万円 |
回答者 | 4,025人 | 4,021人 | 1,354人 | 3,199人 | 2,584人 |
所得 | 1,748万円 | 1,667万円 | 1,471万円 | 907万円 | 959万円 |
回答者 | 3,978人 | 3,977人 | 1,280人 | 3,128人 | 2,490人 |
収入・所得の中央値 | 2006年 | 2008年 | 2010年(注2) | 2014年 | 2018年 |
収入 | 2,400万円 | 2,200万円 | 2,112万円 | 1,430万円 | 1,200万円 |
回答者 | 4,025人 | 4,021人 | 1,354人 | 3,199人 | 2,584人 |
所得 | 1,200万円 | 1,100万円 | 959万円 | 600万円 | 650万円 |
回答者 | 3,978人 | 3,977人 | 1,280人 | 3,128人 | 2,490人 |
1.収入及び所得については、弁護士としての活動による収入・支出によるもので弁護士活動以外による収入(その他の事業による 収入、不動産収入等)は含まれていない。2.但し、2010年の「弁護士業務の経済的基盤に関する実態調査」は、確定申告書に基づく弁護士活動以外による収入が含まれてお り、比較の際は注意を要する。3.平均値:個々の回答(金額)の総合計を全個数で割った値。中央値:回答を大きさの順に並べた時、全体の中央にくる値。
(2) 弁護士の年収は減少傾向?
近年、『弁護士は昔ほど稼げなくなった!』という人がいます。
実際はどうなのでしょう?
以下の表とグラフは弁護士業務の経済的基盤に関する実態調査によって明らかになった、1980年、1990年、2000年、2010年、2014年、2018年、2020年の年収(事業(営業等)収入及び給与収入の合計)をまとめたものです。
1980年 | 1990年 | 2000年 | 2010年 | 2014年
(弁護士実勢調査) |
2018年
(弁護士実勢調査) |
2020年 | |
平均値 | 1,635万円 | 3,060万円 | 3,793万円 | 3,304万円 | 2,402万円 | 2,143万円 | 2,558万円 |
中央値 | 2,355万円 | 2,800万円 | 2,112万円 | 1,430万円 | 1,200万円 | 1,437万円 |
なお、この表及びグラフを見る際には注意が必要です。
調査が行われた年によって収入の定義が異なるのでそれぞれのデータを単純に比較することはできません。
例えば、2020年の調査における年収に『雑収入』は含みませんが、2010年の調査には雑収入を含みます。
また、2000年以前の調査では「弁護士活動による収入」=「粗収入」と定義しています。
それでも、大まかな傾向として2000年をピークに弁護士の年収は減少傾向にあると言えます。
(3) なぜ、弁護士の年収は減少傾向? 弁護士に聞いてみた!
弁護士の年収減少傾向の理由について、実際に弁護士として活躍されている先生にインタビューを行いました。
先生によると上記減少傾向の理由として以下の4つの理由が考えられるそうです。
① 弁護士の業務分野の拡大
近年の弁護士の数の増加によって、従前取り扱っていない分野に対応する弁護士の先生も出てきました。あまり報酬が大きくない分野についても積極的に関与している先生もいることから全体としての所得は下がることになっているのかもしれません。
②任意保険における弁護士特約の普及
任意保険の弁護士特約の普及に伴って、交通事故で弁護士を利用される方はかなり増えたのではないでしょうか。ただ、弁護士特約案件は少額の(例えば5万円程度の)物損でも弁護士が対応することになる一方、一件あたりの報酬額はそれほど大きくないため案件は多くても所得としてはそれほど上がりにくいような印象です。
お話の中に出てきた『任意保険の弁護士特約』の例として、自動車保険の弁護士費用特約が挙げられます。
弁護士費用特約を予め結んでおくと、自動車に関する被害事故に巻き込まれた際に相手方に対して損害賠償請求をするための手続きを弁護士に委任する費用や、弁護士に相談する費用について補償を受けることができます。
③ 過払金バブルの終息
2000年代中旬は過払い金バブルがあったため全体の収益を押し上げていた可能性はあるのではないでしょうか。
お話の中にあった『過払金バブル』とは、消費者金融業者に対して消費者の過払金返還請求が一斉に行われた時期のことを指します。
この時期に法律事務所のテレビCMなどで『あなたの払い過ぎた借金が戻ってくるかもしれません!』という文句を耳にした方も多いかもしれません。
この過払金バブルの原因は、平成18年1月13日に最高裁判所によって貸金業法43条の「みなし弁済規定」が事実上否定されたことにあります。(参照:裁判所 『平成16(受)151号』)
このように弁護士の収入は判例や法改正によっても影響を受けます。
④ インハウス弁護士の増加
また昔に比べてインハウスの弁護士も増えているところ、インハウスでは一般的な会社の給与体系に従うため、弁護士だからといってそれほど高収入になるわけではない、という要素はあると思います。
インハウスローヤーとは、企業や地方公共団体のメンバーとして活躍する弁護士のことです。
かつて弁護士は、クライアントとなる法人や個人から独立した存在として業務委託されることで生計を立てることが主流でした。
しかし、現在はいわゆるサラリーマンや公務員として活躍する弁護士も増えています。
2 弁護士は高収入と言えるのか?
さて、弁護士の年収が減少傾向にあるようですが、それでも弁護士は高収入と言えるのでしょうか?
(1) 民間給与との比較
以下の表とグラフは日弁連の弁護士業務の経済的基盤に関する実態調査と国税庁の民間給与実態統計調査をもとに弁護士の平均所得と民間平均給与を比較したものです。
2006年 | 2008年 | 2010年 | 2014年 | 2018年 | |
民間の平均給与 | 435万円 | 430万円 | 412万円 | 415万円 | 440万円 |
弁護士の平均所得 | 1,748万円 | 1,667万円 | 1,471万円 | 907万円 | 959万円 |
2018年を見ると、弁護士の平均所得額は民間平均給与額に比べると2倍以上多いことがわかります。
このことから、弁護士の平均所得は減少傾向と言ってもまだまだ民間平均給与に比べると高収入ということができます。
(2) 経験年数と収入の関係は?
次に、弁護士になってから経験年数を重ねることで収入がどのように変化するのか見ていきましょう。
以下の表とグラフは日弁連の弁護士業務の経済的基盤に関する実態調査に基づいて作られた司法修習期別の年収の平均値を中央値を示したものです。
司法修習期の数字が小さいほど、より法曹としての経験年数が長い傾向にあります。
推定年次 | 司法修習期 | 平均値(万円) | 中央値(万円) |
5年未満 | 70 期~(N=158) | 519万円 | 461万円 |
5年以上10年未満 | 66~69 期(N=406) | 860万円 | 550万円 |
10年以上15年未満 | 60~65 期(N=624) | 955万円 | 799万円 |
15年以上20年未満 | 55~59 期(N=178) | 1,514万円 | 1,000万円 |
20年以上25年未満 | 50~54 期(N=135) | 1,622万円 | 1,101万円 |
25年以上30年未満 | 45~49 期(N=73) | 1,519万円 | 1,043万円 |
30年以上35年未満 | 40~44 期(N=74) | 1,863万円 | 910万円 |
35年以上40年未満 | 35~39 期(N=82) | 2,122万円 | 950万円 |
40年以上45年未満 | 30~34 期(N=77) | 1,299万円 | 1,000万円 |
45年以上50年未満 | 25~29 期(N=61) | 1,456万円 | 736万円 |
50年以上55年未満 | 20~24 期(N=63) | 579万円 | 300万円 |
15~19 期(N=26) | 702万円 | 448万円 | |
10~14 期(N=15) | 469万円 | 358万円 | |
1~9期(N=4) | 314万円 | 256万円 |
弁護士は経験年数を重ねると比例して収入も高くなる傾向にあります。
経験年数が15年以上20年未満の弁護士の平均値が1,000万円になっています。
このことから、この年次まで弁護士業を継続した場合、半数の弁護士の年収は1,000万円を超えることになります。
厚生労働省の『国民生活基礎調査』によると日本の全世帯のうち所得が1,000万円を超える世帯の割合12.1%であることから経験年数を重ねた弁護士の年収は一般的に見ても高いことがわかります。
(参照:厚生労働省『国民生活基礎調査』(2019年調査)より『2 所得の分布状況』)
また、弁護士は民間企業や公務員と異なって定年退職がありません。
そのため、経験値を溜めて高収入を目指すことも可能な職業と言えます。
3 裁判だけじゃない!弁護士の働き方いろいろ
ドラマや映画を見ていると、『弁護士は裁判所で颯爽と紛争を解決してくれる人』というイメージを持つ方も多いかもしれません。
しかし、弁護士の業務は裁判所関係に限らず、多様な働き方があります。
以下では、近年の弁護士の働き方の一部をご紹介します。
(1) ビジネスローヤー(ビジネスロイヤー)
ビジネスローヤーとは簡単にいうと、『主として企業が事業活動を行う上で直面する法的問題の予防や解決に携わる弁護士』のことを言います。
株式会社などの企業が事業活動をする上で法律問題は避けて通ることができません。
例えば、会社設立、株式市場への上場、企業買収、会社が有する知的財産の管理、従業員との労働問題、日々の契約書のチェック……など扱う内容は非常に多岐にわたります。
こうした問題に対処するのがビジネスローヤーの役割です。
ビジネスローヤーは法的問題の発生を防ぐために経営陣にアドバイスを行ったり、実際に紛争が生じた際にはクライアントの事情を踏まえて適切な解決がなされるように尽力します。
(2) インハウスローヤー (インハウスロイヤー)
近年数が増えている働き方としてインハウスローヤー という働き方が挙げられます。
インハウスローヤー は企業や自治体の一員として、日々法律問題に対処する弁護士のことです。
企業の場合、法務部などに勤務することが多いようです。
インハウスローヤーは、外部弁護士と比べて日々の細かい法律問題にも対処することが求められるためジェネラリストとして気質がある人にむいていると言えます。
また、インハウスローヤー はその企業や自治体の内情のエキスパートとして適切に問題に対処することが求められます。
さらに、外部の弁護士に業務を委託する際、外部の弁護士と所属組織の仲介役として活躍することが期待されます。
一般的に、日々の法律問題には組織内のインハウスローヤー が対処し、訴訟などの専門知識が必要な業務は外部のビジネスローヤーに委託することが多いようです。
(3) スクールローヤー(スクールロイヤー)
スクールローヤーとは、教育現場において子どもの最善の利益を図るため学校や教育委員会に法的なアドバイスをすることで問題の発生防止や早期解決に尽力する弁護士のことです。
教育現場では、いじめや不登校、モンスターペアレント対応など問題が絶えません。
こうした問題に法的に対処するのがスクールロイヤーの役割です。
また、近年では教師の労務問題(過労問題など)についても扱うことがあるようです。
勤務形態は、学校や自治体に所属してインハウスローヤー として活動する場合や、外部の法律事務所に所属して学校や教育委員会の相談に対応するなど多様な形態があります。
(参照:第二東京弁護士会『スクールロイヤーの実務〜経験者から学ぶ〜』)
4 稼げる弁護士になるには?
(1) ビジネスローヤーになる
弁護士の仕事は多様ですが、一般的に高額の収入を得るには弁護士事務所に所属してビジネスロイヤーになる方法が考えられます。
特に、大手渉外事務所のような企業法務を中心に扱う法律事務所に所属した場合、入所1年目から年収が1,200万円になるとも言われています。
ただし、その分、業務量やストレスの量も大きいそうです。
(2) 顧問契約を獲得する。
ビジネスロイヤーにならずとも、高収入を狙う方法として顧問契約を多数獲得することが挙げられます。
顧問契約を結ぶと、クライアントは月毎など定められた金額を定期的に払うことによって、弁護士から継続的にアドバイスや法律問題に関する手続きの代行を提供してもらうことができます。
ゴルフなどのレクリエーションの場で積極的に人脈を築いたり、インターネットツールを導入することで積極的に自分の存在をアピールすることで顧問契約を獲得する場合が多いようです
(3) やっぱり、仕事の質が重要。
どんな弁護士になるにしても、収入を伸ばすには、一つ一つの仕事を丁寧にして地道に顧客の信頼を得ることが正道だと言えます。
仕事が丁寧な弁護士は顧客が新しい顧客を紹介してくれることもあります。
一方で、仕事が雑だと、懲戒請求の対象になり簡単に悪名が広まってしまいます。
業種や宣伝も大切ですが、『顧客のために最善を尽くす』という弁護士の基本姿勢が重要と言えます。
5『高収入』だけじゃない!弁護士の魅力!
ここまで、弁護士の収入面に着目してきましたが、弁護士の魅力は高収入なだけではありません。
法律の専門家として自由に専門分野や働き方を選べるのも弁護士ならではでしょう。
離婚案件や、刑事事件など、クライアントの一生を左右しかねない重大局面に救いの手を差し伸べることもできます。
多くの物事が多数決で決定される世の中において、マイノリティの救済のために働けるのも弁護士ならではでしょう。
(現在でも多くの弁護士がLGBTQに関する問題や難民問題、ハンディキャップがある人の社会進出の問題に取り組んでいます。)
弁護士の仕事に少しでも興味を持っていただけたなら、多様な側面から弁護士の仕事について考えてみることもおすすめです。
6 まとめ
- 2020年弁護士の平均所得は1,119.1 万円。所得額の中央値は700 万円。
- 弁護士の年収は減少傾向にある。しかし、民間に比べるとまだまだ高収入と言える。
- 弁護士の年収は経験年数を重ねる毎に増加。20年で半数は年収が1,000万円に到達。
- 弁護士には民間企業や公務員と違って定年がないので、生涯で多くの収入を得ることができる。
- 弁護士には裁判以外にも多様な働き方がある。
- 稼げる弁護士になるには、ビジネスローヤーになることや、多数の顧問契約の獲得などの方法があるが、まずは目の前の案件を丁寧に対処することが大切。