弁護士をたてなくても裁判できる!?自力で戦う『本人訴訟』とは

予備試験

弁護士費用って高そう。自分で裁判をしたって話を聞いたことがあるけど、弁護士なしでも裁判できるの?

「自分で裁判する時って弁護士資格がなくても良いの?」

このような疑問を持たれている方もいらっしゃるのではないでしょうか?日常生活の中においても、裁判沙汰になってしまような何らかのトラブルに巻き込まれてしまえば冷静ではいられませんよね。むしろ、普通でいられないことの方が自然であるともいえます。いわゆる『本人訴訟』と呼ばれる訴訟代理人(弁護士・簡裁訴訟代理権を有する司法書士)に依頼せずに自分1人で裁判を行うことは可能なのでしょうか?煩雑な手続きや法的な知識はなくても裁判に勝てるのでしょうか?

また、『本人訴訟』に向き不向きな事件とはいったいどのようなものなのでしょうか?

この記事では、本人訴訟に関する基本的な事柄についてご紹介していきます。是非、ご参考になさってくださいね。

 

1 「本人訴訟」とは?|弁護士に頼まなくても裁判できる?!

 

◆日本の民事裁判は原則「本人訴訟主義」なので、本来は自分でやるもの

    cf.ドイツなどは「弁護士強制主義」

◆本人訴訟とは、弁護士や司法書士などの訴訟代理人を立てずに自ら訴訟を行うこと

 

第一審通常訴訟既済事件数―事件の種類,弁護士等選任状況及び司法委員関与のあった事件数別―全簡易裁判所】※本表は、少額訴訟から通常移行したものを含む。

事件の種類  総数 弁護士又は司法書士を付けたもの               当事者本人によるもの
総数 双方 一方
双方弁護士 原告側弁護士・

被告側司法書士

原告側司法書士・

被告側弁護士

双方司法書士 原告側弁護士 原告側司法書士 被告側弁護士 被告側弁護士
総数 339,903 84,597 19,672 290 1,056 79 26,987 12,219 19,813 4,481 255,306
金銭を目的とする訴え 330,657 78,624 19,376 280 964 52 24,855 8,950 19,673 4,474 252,033
建物を目的とする訴え 4,857 3,747 126 1 44 1,327 2,215 30 1 1,110
土地を目的とする訴え 1,755 1,541 72 8 40 23 408 964 25 1 214

引用・第13表 第一審通常訴訟既済事件数―事件の種類,弁護士等選任状況及び司法委員関与のあった事件数別―全簡易裁判所

 

少額訴訟既済事件数―事件の種類,弁護士等選任状況及び司法委員関与のあった事件数別―全簡易裁判所】※本表は、少額訴訟から通常移行したものを含まない。

    事件の種類

    

      総数

 

弁護士又は司法書士を付けたもの                  当事者本人によるもの 司法委員関与のあったもの
    総数

 

双方           一方
双方弁護士 原告側弁護士・

被告側司法書士

原告側司法書士・

被告側弁護士

双方司法書士 原告側弁護士 原告側司法書士 被告側弁護士 被告側弁護士
総数 6,565 869 19 2 1 433 147 244 23 5,696 2,327
金銭を目的とする訴え 6,565 869 19 2 1 433 147 244 23 5,696 2,327
うち

 

売買代金 697 56 1 38 10 6 1 641 167
貸金 821 80 1 1 38 19 16 5 741 287
立替金・求償金等(信販関係事件に限る) 29 9 9 20 4
交通事故による損害賠償 433 92 9

 

 

 

61 22

 

341

 

210
その他の損害賠償 633 118 4 32 4 76 2 515 298
手形・小切手金

引用・第14表 少額訴訟既済事件数―事件の種類,弁護士等選任状況及び司法委員関与のあった事件数別―全簡易裁判所 

 

第一審通常訴訟既済事件数―事件の種類及び弁護士選任状況別 ―全地方裁判所

事件の種類 総数 弁護士を付けたもの
総数 双方            一方
総数  原告側 被告側
総数 131,560 120,367 61,753 58,614 54,718 3,896
人事を目的とする訴え
金銭を目的とする訴え 89,898 83,393 50,034 33,359 30,195 3,164
うち 建築請負代金等 1,416 1,362 935 427 390 37
建築瑕疵による損害賠償 448 446 389 57 34 23
医療行為による損害賠償 821 795 659 136 76 60
公害による損害賠償 64 59 37 22 19 3
労働に関する訴え 2,571 2,530 2212 318 211 107
知的財産権に関する訴え 288 258 184 74 31 43
その他 84,290 77,943 45,618 32,325 29,434 2,891
建物を目的とする訴え 25,109 21,706 2,909 18,797 18,664 133
土地を目的とする訴え 6,948 6,428 2,731 3,697 3,556 141
労働に関する訴え(金銭を目的とする訴えを除く) 866 856 772 84 38 46
知的財産権に関する訴え(金銭を目的とする訴えを除く) 258 246 207 39 25 14
公害に係る差止めに関する訴え 5 3 3
共通義務確認の訴え
その他の訴え 8,476 7,735 5,097 2,638 2,240 398

引用・第23表 第一審通常訴訟既済事件数―事件の種類及び弁護士選任状況別 ―全地方裁判所 

 

控訴審通常訴訟既済事件数―事件の種類及び弁護士選任 状況別―全地方裁判所

事件の種類 総数 弁護士を付けたもの
総数 双方            一方
総数  控訴人側 被控訴人側
総数 3,943 3,521 2,337 1,184 481 703
金銭を目的とする訴え 3,792 3,399 2,279 1,120 460 660
建物を目的とする訴え 58 43 19 24 8 16
土地を目的とする訴え 33 28 15 13 5 8
その他の訴え 60 51 24 27 8 19

引用・第33表 控訴審通常訴訟既済事件数―事件の種類及び弁護士選任 状況別―全地方裁判所

 

 

控訴審通常訴訟既済事件数―事件の種類及び弁護士選任状況別 ―全高等裁判所

事件の種類 総数 弁護士を付けたもの
総数 双方            一方
総数  控訴人側 被控訴人側
総数 12,228 11,677 9,188 2,489 679 1,810
人事を目的とする訴え 1,381 1,362 1,121 241 76 165
金銭を目的とする訴え 8,175 7,777 6,133 1,644 459 1,185
うち 建築請負代金等 95 95 73 22 7 15
建築瑕疵による損害賠償 36 36 32 4 4
医療行為による損害賠償 147 146 123 23 23
公害による損害賠償 5 5 5
労働に関する訴え 328 319 272 47 11 36
知的財産権に関する訴え 64 59 42 17 17
その他 7,500 7,117 5,586 1,531 441 1,090
建物を目的とする訴え 666 610 384 226 46 180
土地を目的とする訴え 718 690 542 148 45 103
労働に関する訴え(金銭を目的とする訴えを除く) 171 169 153 16 16
知的財産権に関する訴え(金銭を目的とする訴えを除く) 67 66 59 7 1 6
公害に係る差止めに関する訴え 1 1 1
共通義務確認の訴え
その他の訴え 1,049 1,002 795 207 52 155

引用・第42表 控訴審通常訴訟既済事件数―事件の種類及び弁護士選任状況別 ―全高等裁判所

 

上告審訴訟既済事件数―事件の種類及び弁護士選任状況別  ―全高等裁判所

事件の種類 総数 弁護士を付けたもの
総数 双方            一方
総数  上告人側 被上告人側
総数 445 314 157 157 58 99
金銭を目的とする訴え 418 298 149 149 56 93
建物を目的とする訴え 9 6 2 4 2 2
土地を目的とする訴え 8 4 3 1 1
その他の訴え 10 6 3 3 3

引用・第52表 上告審訴訟既済事件数―事件の種類及び弁護士選任状況別  ―全高等裁判所

 

参照:裁判所「司法統計」

 

上記のデータから紐解くと、簡易裁判所(少額訴訟から通常移行したものを含む)においては、本人訴訟の割合が非常に高く75%ほどの件数が当事者双方とも代理人を立てず本人訴訟によるものです。また、地方裁判所においては4割ほどの人が弁護士を立てずに本人訴訟を行なっており、控訴審(地方裁判所)では30%ほど、控訴審(高等裁判所)では20%ほど、上告審では35%ほどという結果が見て取れます。

 

結論から言えば、弁護士に頼まなくても自分1人で裁判を進めることは可能です。上述のとおり、日本の民事裁判は原則「本人訴訟主義」が採られているからです。

『本人訴訟』とは、弁護士などの訴訟代理人を立てずに裁判を行う事をいいますが、裁判所に提出する厳格な書面などを全て1人で考えて作成し、適切に主張立証していかなければならないことを考えると、何だかとても難しそうなイメージですよね。また、上記のデータからもお分かりいただけるように、家庭裁判所、簡易裁判所、地方裁判所、高等裁判所、最高裁判所に至るまで本人訴訟を行うことはできてしまうのですから驚きですよね。実際には、意外にも多くの人が弁護士に依頼せずに自ら裁判を進めています。

しかしながら、抱えている事案の大小と言うと語弊があるかもしれませんが、事案の複雑さによっては、さまざまなリスクが潜んでおり、最終的に予期せぬ不利益を被ってしまうことも考えられます。

本人訴訟を行うか否かは慎重に検討していきたいですよね。

次に、簡単ではありますが『本人訴訟』のメリット・デメリットについて見ていきましょう。

2 本人訴訟のメリット・デメリット|全てを自分1人で行わなければならないという事

「訴えたり、訴えられたりだなんて何だか怖い・・・。」

「訴えられたら必ず罪に問われるんじゃないか・・。」

「未知すぎてよく分からない・・・」

 

一般的には、裁判というとこのようなイメージを持たれる方が多いかと思います。弁護士に頼まずに裁判を行う、いわゆる『本人訴訟』ですが、1点注意が必要です。

本人訴訟は、費用もかからず裁判を行える事などを考えると一見すると良い方法にも思えますが、前述の通り、事案が複雑なケースではあまりおすすめできません。

いったいなぜなのでしょうか?

「なぜ、事案が複雑なケースでは注意が必要なのか?」という点にも着目しながら、本人訴訟のメリット・デメリットをしっかりと確認しておきましょう。

 

メリット(1) 弁護士費用がかからない

弁護士に依頼すると、通常は着手金や成功報酬、実費などがかかるので費用は高額となってしまいます。しかしながら、本人訴訟では弁護士費用がかからないため経済的な負担が軽減できるというメリットがあります。

 

メリット(2) 自分の言いたい事を裁判官に直接主張する事ができる

弁護士に依頼すると、プロフェッショナルかつ法的な観点から「これは言わない方が良い」「こういう風に主張した方が良い」などと裁判を有利に進めるためにアドバイスされることが少なくありません。

この事がかえって、「自分の言いたい事が自由に言えなくなる」というようにデメリットと感じる要因となることもあるでしょう。本人訴訟であれば、自由に主張立証することができることがメリットといえますね。

しかしながら、注意が必要なのは、例え自由に主張立証することができると言っても、必ずしも有利に進めることができるわけではないということです。感情的に訴えただけでは自分にとって有利に進めることには直結せず、書面で適切に主張立証していかなければなりません。

もしも、主張立証に不備があれば、かえって不利益な結果を招いてしまう可能性があることもしっかりと心に留めておきたいポイントですね。

 

メリット(3) 弁護士との打ち合わせに時間を取られない

弁護士に依頼すると、通常は面談や電話などで打ち合わせや聞き取りを行います。大きな事務所や忙しい弁護士であれば、なかなかスケジュールをおさえる事ができずに時間がかかります。わざわざ仕事を休んで打ち合わせの時間を確保しなければならず、とても手間がかかります。

一方で、本人訴訟においては、時間や場所にとらわれずに裁判の準備を進めることが可能となります。

 

メリット(4) 法律に詳しくなり、達成感がある

難しい法律の世界ですが、一つ一つの手続きや調査を自ら行い、これらを積み重ねていくことで「いつの間にか法律に詳しくなっている!」ということも珍しくありません。

また、たくさんの時間や手間をかけた裁判に無事に勝つ事ができれば、とても大きな達成感を味わう事ができますよね。

このことをきっかけとして、事情が落ち着かれたら、改めて法律を一から学んでみるのも良いかもしれませんね。

デメリット(1) 訴訟要件を満たさなければ却下されてしまう

裁判には、厳格な審査があり、その要件を満たさなければ却下されてしまいます。

訴訟要件とは、①裁判所に関するもの②当事者に関するもの③請求に関するもの などが挙げられます。

それぞれ、とても細かく難しいので、法的な主張を理解し、調査・証拠収集などを適切に進めていくことは大変な労力を伴うことを覚悟しなければなりません。

デメリット(2) 精神的なストレスが溜まる

裁判事務は厳格な様式が求められる手続きが多々あり、「期日請書」「上申書」「答弁書(被告側)」「準備書面(原告・被告)」など、対裁判所、対相手方とのやり取りを何度も行わなければならず、書面の数も多岐に渡ります。

また、専門用語が多く、それらを一つ一つ調べながら進めていくことは大変ですし、有効な証拠集めに時間がかかることもあります。

そして、裁判所は平日しか動いていないため「期日」も平日に行われます。したがって、仕事を休まなくてはならず、必要な調査などは仕事が終わってからか、休日返上で行う必要がある点もデメリットといえるのではないでしょうか。

法的素養がなければ、自分の発言した内容が相手方にうまく利用されるなど不利益となることがある点も心に留めておいてくださいね。

 

デメリット(3) 本人訴訟の勝率は?負けてしまう可能性が高くなる

“権利の上に眠るものは不保護”

といわれるように、例えば時効の援用などを知らなければ使える権利を行使せずに不利益を被ってしまう事もあります。

また、損害賠償請求権などは、消滅時効や除斥期間がありますので本来請求できる権利を行使する事もできなくなってしまいます。

これらの事は、法的な知識がなければ分からないことの方が多いですよね。

 

また、このようなケースに留まらず、相手方にだけ弁護士が付いているケースにおいても注意が必要です。相手方に言われるがままに不本意な和解をしてしまい、後戻り出来ずに泣き寝入りしてしまったというケースも少なくありません。

 

3 本人訴訟に必要なものとは?|「手続き」「訴訟能力」などの要件を満たす事が必要

 

【裁判のイメージ】

 

私的紛争の発生

   ▼→民事保全手続き(事案による)

訴えの提起(原告による訴状の提出、被告に対する訴状の送達)

   ▼

審理〈口頭弁論〉(口頭弁論、証拠調べ、口頭弁論の終結)

   ▼

判決または上訴(判決言い渡し、不服申立て)

   ▼

  判決確定

   ▼

強制執行手続き(事案による)

 

厳格な様式や審査が求められる裁判手続きには、さまざまな『要件』を満たさなければなりません。誰もが要件を満たさなくても簡単に裁判を起こせるのであれば、国家機関である裁判所はパンクしてしまいますよね。

いったいどのような要件を満たすことが必要なのでしょうか?

ここでは、本人訴訟に必要な訴訟能力や手続きについて見ていきましょう。

 

(1) 訴訟能力とは?

訴訟をするには、『訴訟要件』が必要で、その一つとして訴訟能力が必要となります。ここでは、訴訟能力に注目して見ていきましょう。

 

訴訟能力とは、端的にいえば、自ら単独で有効に訴訟行為を行い、または受けるために必要な能力のことをいいます。

 

(民事訴訟法 第28条) 

当事者能力、訴訟能力及び訴訟無能力者の法定代理は、この法律に特別の定めがある場合を除き、民法(明治二十九年法律第八十九号)その他の法令に従う。訴訟行為をするのに必要な授権についても、同様とする。

 

訴訟能力者とは、民法の「行為能力(契約などの法律行為を単独で確定的に有効に行うことができる能力)」に従うこととされています。

なぜ、訴訟能力が求められるのでしょうか?

訴訟能力が求められる趣旨は、訴訟上の自己の利益を十分に主張・擁護出来ない者を保護する点にあるといえます。裁判を進めていくことは、複雑かつ大変な労力がかかり負担は大きなものとなりますし、場合によっては『敗訴』などの不利益を被ることもあります。

したがって、訴訟能力を欠く者(ex.未成年者など)の訴訟行為などは無効となります。このような場合は、常に法定代理人が訴訟追行をしなければなりません。訴訟能力の他にも、民事訴訟の当事者として帰属主体となれるか否かなどの調査が行われます。訴訟の当事者となる者の置かれている立場により様々な原則・例外が適用される余地がありますので、これらを一つ一つ調べながら適切にクリアしていかなければなりません。

(2) 裁判所の民事事件受付の担当者(職員)は意外と優しく教えてくれる

【訴状のイメージ】

 請求の原因

1,令和◯年◯月◯日,原告は被告に金10,000,000円を期限3ヶ月として貸し付けた。

2,しかし,被告は返還期限が経過しても返済していない

 

法律関係の仕事に就いている人であれば一度は目にした事があるかもしれませんね。民事事件受付には複数の職員がいて、提訴の受付を行なっています。本人訴訟と思われる方に限らず、提訴の際に不備があると具体的にどの部分がどのように不足しているのかを教えてもらうことができます。

裁判を行うには、まずは「訴状」を提出するところから始まります。その大切な訴状や付属書類(証拠・証明書など)に不備があれば受け付けてもらうことができません。

ですが、法律関係の仕事に就いている人でもない限り、分からないことの方が普通ですよね。怖いイメージの裁判所ですが、受付の職員の方は比較的優しい方が多く不明点は教えてくださいます。裁判所のイメージは、ニュースなどで度々目にする事もあり「暗いし怖そう・・・。」と思われる方もいらっしゃるかと思いますが、意外にも?と言ったら怒られてしまいそうですが、職員の方に教えていただくことはできますので、その点はあまり心配なさらなくても大丈夫です。

 

(余談ですが、東京高等裁判所・地方裁判所の地下にはコンビニや郵便局などもあるので、買い忘れてしまった収入印紙や郵券(切手)、法律に関する書籍の販売、不足分のコピー、を取ることもでき便利です。)

 

(3) 訴状などの雛形は裁判所のホームページからダウンロードできる

先にご紹介した訴状のサンプルは、一から作成したものですが、簡単そうに見えて、初めて作成する方にとっては少しハードルが高いのではないでしょうか。

裁判で使用する雛形の書籍集を参考にされても良いと思いますが、実は、裁判所のホームページ内からも一部ですが雛形をダウンロードすることができます。

 

【ex.答弁書】引用:裁判所ホームページ

もちろん、これ以外にも、個々の事案のケースや裁判の進行に合わせて、さまざまな書面が必要となり、提出期限が設けられています。その度に、必要な雛形を探し必要事項を抜け漏れなく書面に盛り込んでいく作業は大きな負担となりますよね。全てパソコンで作成しなければならないというわけではありませんが、パソコンが苦手な方にとっては更に大きな負担となってしまいますよね。

 

そこで、以下のように、法律の専門家のサポートを受けて裁判を進めていくこともできます。

・難しい書面だけを作成してもらう

・弁護士や司法書士のアドバイスを受けながら自分で書面を作成し裁判を進める(いわゆる「本人訴訟支援」)

 

参考までに、本人訴訟に向いているケースまたは不向きなケースについてご紹介します。個々のケースにより、一概にはいえませんが、①事案が複雑ではなく②証拠書類が明確である事③当事者同士の話し合いが可能なものが本人訴訟に比較的向いているといえます。

 

 ex.

・少額訴訟                      

・敷金返還請求訴訟                

・売買代金請求訴訟                

・貸金返還請求訴訟                

・遺産分割調停、訴訟事件

・夫婦関係調整調停事件 など

 

一方で、事案が複雑で賠償額も高額となる事が予想されるようなケース(医療過誤や交通事故など)においては、やはり弁護士に依頼し事件解決に向かわれた方がスムーズかつ有利に進めることができるという期待可能性が高まります。

 

4 本人訴訟の実例|実際にあった判例

本人訴訟の判例はいくつか有名なものがありますが、今回は旭川市国民健康保険条例事件について見ていきたいと思います。

(!)判例をチェック| 旭川市国民健康保険条例事件

・事件名 国民健康保険料賦課処分取消等請求事件

・事件番号 平成12年(行ツ)第62号、同年(行ヒ)第66号

・裁判の要旨 国民健康保険料の保険料率について、具体的に条例で定めておらず、これを告示に委任しても憲法84条の趣旨に違反ではないとされた事案

 

◆争点◆

国民健康保険料には、憲法84条の「租税法律主義」が適用されるか否か

憲法84条【課税】

あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。

・国民健康保険料は、被保険者が保険給付を受け得ることに対する反対給付として徴収されるものであり、憲法84条の規定が直接に適用されることはない。

・ただし、租税以外の公課においても、その性質に応じて法律や条例で適正な規律がされるべきであり、憲法84条の埒外(≒範囲外)ともいえない。

・保険料方式であっても、賦課徴収の強制の度合いにおいて租税に類似する性質を有するものに関しては憲法84条の趣旨が及ぶ。

参照:裁判所裁判例検索

 

つまり、憲法84条に規定される租税法律主義が、税ではない国民健康保険料にも適用されるかどうかが争われたケースです。

参考までに、このケースでは、賦課処分の取消しを求めるとともに、憲法25条(生存権)や憲法14条(法の下の平等)に違反するとして、同市の条例が恒常的に生活が困窮している者が保険料の減免の非該当処分の取消しを求めた訴訟でもあり、非常に複雑な訴訟でした。

このような複雑な訴訟を本人訴訟で行ってきたのですから、大変な労力であったと推測するのは容易なことですよね。

5 サマリー

本人訴訟は、簡易裁判所に限らず最高裁判所においてもできますが、その労力は大変負担の大きいものであることがお分かりいただけたのではないでしょうか。本人訴訟に限らず、自分自身や身内などが訴訟に巻き込まれた経験がきっかけとなり法律家を志したという話は珍しいことではありません。また、本人訴訟は比較的シンプルな事案に向いており、複雑な事案においては弁護士のサポートが功を奏する期待可能性が高まります。

 

6 まとめ

  • 日本の民事裁判は原則「本人訴訟主義」が採られており弁護士に頼まなくても自分で裁判ができる(いわゆる『本人訴訟』)
  • 本人訴訟を選択する前にメリット(①弁護士費用がかからない②自分の言いたい事を裁判官に直接主張する事ができる などデメリット(①訴訟要件を満たさなければ却下されてしまう②裁判事務は審査が厳格なので不備があれば追完しなければならない などをしっかり確認しよう
  • 本人訴訟においては「訴訟能力」「手続き」などさまざまな要件を満たすことが必要
  • 過去には、本人訴訟で最高裁で争った有名な判例(旭川国保料訴訟など)がある

 

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