予備試験の科目を徹底解説!科目の特色と対策方法を知ろう!

予備試験

社会人になってから司法試験受験を考える人で、法科大学院に進む経済的・時間的余裕がない人は、もう一つの手段である「予備試験」受験の道を考えるでしょう。

「高校生でも合格できるなら自分でも何とかなるかも?」という思いもあれば、5%を切る合格率に不安を覚えたりもするでしょう。
この記事では、「予備試験とはどんな試験なのだろう?」、「自分にも可能性があるだろうか?」そんな人に向けて、予備試験の試験科目や合格に向けた勉強方法を解説していきます。

1 予備試験とは?

現行の法科大学院修了者の司法試験制度が創設された平成18年ですが、政府が予備試験制度を導入したのは、平成23年からです。法科大学院修了者のみを司法試験の受験資格とするのでは、既に社会人だったり、経済的にも時間的にも難しい人の場合、旧司法試験は誰でも受験できたのですから、急に制度を一変させるのは不公平です。

そのため、法科大学院に進めない事情のある人のために、広く司法試験チャレンジの門戸を開こうとした政府は、救済処置的な制度として、予備試験制度を設けました。そうやって始まった制度ですが、今や時間的・経済的な負担をせずとも、司法試験にチャレンジできる別ルートとして利用する人が増加していきました。

最近では、予備試験に合格できれば司法試験合格に近づく模擬試験的なものとして法科大学院在学中の学生がチャレンジすることも多くなったようです。実際に、法務省のデータによると、ここ数年司法試験合格人数トップテンの法科大学院を追い越して、ダントツ一位の合格者数・合格率を誇るのが予備試験合格者となっています。

令和3年度の司法試験合格者トップテンの予備試験合格者と法科大学院の法務省のデータをグラフ化してみました。

令和3年度 司法試験 法科大学院別 合格者 合格率

予備試験合格者の司法試験合格率は、年々右肩上がりとなっています。令和3年度は前年度の81.8%を大きく上回る93.5%に及び、2位の愛知大法科大学院や3位の京都大法科大学院を25%以上引き離し、堂々の1位となっています。

予備試験は、短答式・論文式・口述の3段階の試験方式で、それぞれの試験に合格して次の試験の受験資格を得るシステムです。

2 予備試験の短答式試験科目とは?

(1) 試験内容

試験科目は、憲法・行政法・民法・商法・民事訴訟法・刑法・刑事訴訟法・一般教養の8科目です。

そして各科目の問題数は、各々10~15問程度で、1科目30分程度で、2科目、あるいは3科目一緒に行われますので、2科目なら1時間、3科目なら1時間半の時間で一気に解きます。一般教養は、人文科学・社会科学・自然科学、英語という広い出題範囲ですが、40問中20問を選択でき、問題数が多いので、まとめて1時間半で解答します。

一般教養だけ範囲が広く科目数も多いので、60点満点ですが、それ以外の7科目は30点であり、合計270満点で、合格点の目安は160点以上です。

マークシートによる解答方法で、朝から1日かけて一気に行われます。

試験時間

試験科目

9:45~11:15(1時間30分)

民法・商法・民事訴訟法

12:00~13:00(1時間)

憲法・行政法

14:15~15:15(1時間)

刑法・刑事訴訟法

16:00~17:30(1時間30分)

一般教養

(2) 合格ライン・合格率について

令和4年度の法務省のデータによれば、短答式試験の合格点は各科目の合計得点159点以上(270点満点)です。令和3年度の合格点の162点に比べ、合計得点が3点ほど下がる結果となりました。また、昨年度との比較でいえば、商法(令和3年 16.0点)については平均点が約5点ほど下がる結果となりました。

得点 最高点 最低点 平均点
合計得点(270点満点) 232 8 127.9
科目別得点
憲法(30点満点) 30 0 19.8
行政法(30点満点) 29 0 12.8
民法(30点満点) 30 0 15.2
商法(30点満点) 30 0 10.9
民事訴訟法(30点満点) 30 0 15.1
刑法(30点満点) 30 0 17.1
刑事訴訟法(30点満点) 30 0 15.9
一般教養(60点満点) 57 0 21.2

短答式試験は、点数を獲得する試験なので、6〜7割程度の点数を獲得することが必須となります。

3 予備試験の論文式試験科目とは?

(1) 試験内容

令和4年の論文式試験は、7月9日(土)、10日(日)の2日間で実施されました。短答式試験に合格した人が受験資格を持つ論文試験です。各科目1題ずつ出題されますが、その時間と科目は以下の通りです。

【令和4年度の予備試験論文式試験 時間割・科目】

試験期日 集合時間 着席時間 試験時間 試験科目
7月10日(土) 8:30 9:00 9:30〜11:50(2時間20分) 憲法・行政法
 ― 13:00 13:15〜15:35(2時間20分) 刑法・刑事訴訟法
 ― 16:15 16:30〜17:30(1時間) 選択科目
7月11日(日) 8:30 9:00 9:30〜12:30(3時間) 法律実務基礎科目(民事・刑事)
 ― 13:45 14:00〜17:30(3時間30分) 民法・商法・民事訴訟法

令和4年度からの大きな変更点は、一般教養が廃止され選択科目に変更されたという点です。
選択科目では、倒産法・ 租税法・ 経済法・ 知的財産法・ 労働法・ 環境法・ 国際関係法(公法系)・ 国際関係法(私法系)からいずれか1科目を選択し解答します。

どの科目を選択するかは出願時に申請する必要があり変更することができません。

(2) 合格ライン・合格率について 一科目50点、10科目で500点満点です。1科目1500文字程度の論文を、制限時間内で作成しなければなりません。

論文試験まで突破して口述試験に進める人は、令和3年度のデータから見れば4.1%と聞くと倒れそうですが、短答式合格者の内17.5%です。約5人に1人は合格できると思うと、気休めですが安心ではありませんか?

 

4 予備試験の口述試験科目とは?

(1) 法律実務基礎科目の口述試験の内容

① 試験日のスケジュール

口述試験は、論文式合格者が受験できるもので、令和4年11月5日(土)、6日(日)に実施されます。試験時間は1人あたり15分~30分で、試験日に個室に案内されて行われます。

受験票に、日程が書かれています。順番は早ければ待ち時間が少ないですが、遅い順番だと、数時間待たされることになります。就職試験の面接と同じですが、待ち時間はリラックスして、個室に案内されて集中できるのが理想です。そして、その本番までに、自分の精神力を持続できるのかが、結果を左右します。

② 法律実務基礎科目について

法律実務基礎科目の民事刑事です。弁論能力を試されます。民事では、事例を分析して解決のために、どのような法律をどう構成して問題を解決し、依頼人を利益に導くかを試されます。刑事では、事件を分析して、どの刑罰に該当するかを法的な構成要素に該当するかを検証して、正しい罪を求刑し、あるいは弁護し、どのような判決を下すかを弁論する能力を試されます。

これらの弁論内容は、論文試験の知識で十分足ります。卒論の後に自分の卒論について行われる口述テストのような感じです。

(2) 合格ライン・合格率

時間制限はありませんが、だいたい10~15分と予定されています。基準点60点で、57~63点で採点され、56点以下だと不合格です。しかし、概ね60点が半数程度となるような判定とされています。

口述試験は、よほどのことがないと合格させる試験ですから、対策さえしっかりしておけば、あまり心配する必要はありません。面接のような気持ちで、論文試験の勉強の成果を、緊張せずにしっかりと弁論できるよう雰囲気に慣れておくようにしましょう。そのためにも、予備校や塾の口述模試等で慣れる練習をすることをお勧めします。

5 予備試験に効率よく合格するためには

(1) 予備試験の勉強は論文式から始めよう

① 論文式から始めるのはなぜ?

予備試験の合格は、短答式試験に合格した人だけに論文式試験の受験票が送付される、いわゆる短答式合格が論文式の受験資格なのです。というと、短答式からの勉強かと思われがちですが、実は論文式から入るのが、合格への近道なのです。

論文と聞くと難しそうですが、内容は法律の基礎知識ですから、司法試験よりもずっと簡単です。だから法律初心者でも入門しやすく、基礎知識ですが、その正確性を身につけるためにも、論文として書いていく事は、基礎知識を身につけるのに合理的な方法なのです。

また、もう一つ理由があります。論文式試験を解くには、問題分析力・条文適用能力・答案作成能力が必要です。短答式は、問題分析能力・条文適用能力が必要であり、問題を読んで、この2つの能力を駆使して、事象を読みながら分析し、どの法律で解決するかを即座に判断して問題を解いていく問題です。

法律の基礎知識を正確に身につけて入れば、短答式も制覇できるというわけです。論文式の対策は、同時に短文式の基礎対策もできるというわけです。しかし、逆は上手くいきません。
短文式の勉強では、問題解決のための分析能力・条文適用能力が身につきます。

この2つの能力が身につくことは重要ですが、これだけでは論文の答案作成能力が身につきません。実は、論文は短文式の勉強で身につけた知識能力を普通に文章にしようとしたら、ほぼ時間オーバーとなってしまうからです。

理系論文を普段から書き慣れている人は、そうでもないかもしれませんが、予備試験受験をする人は、文系の方が多いので、文系の論文形式では、多くの場合文体改造が必要となります。

② 一般的な文体(文系論文等)と正解答案(理系論文)はどう違うの?

Ⅰ)一般的な文体(文系論文)の場合

一般的に起承転結の文章になる人が多いと思います。しかし、この文体(文系論文等)で論説すると、次のようになります。

<事件のあらまし→問題点・争点→条文適用→争点部分の条文該当の理由解説→結論>

この文体では非常に長い文章となり、最後まで読んでいくうちに事情はよくわかっても、争点や理由がぼやけてきて、最後に結論ですから、最後まで読まないと何が言いたいのかわからない文章となります。内容としては理にかなっていても、まずは時間内に結論まで文章にできないので、要点はぼやけるし、結論が無い文章では、その答案は0点です。

Ⅱ)正解答案(理系論文)の場合

一方、正解答案(理系論文等)の文章は次のようになります。

<事件のあらまし→結論(適用条文)→問題点・争点→争点部分の条文適用の理由>

「起結承転」の文章です。結論が先に来ますので、結論を想定しながら文章を読むのでわかりやすい端的なものになります。そして、時間不足で理由が不十分となっても、事象分析と結論(適用条文)が先に来ているので、読んでいるだけで、理解している文章となっています。

例え、争点部分となる問題点を書く途中で時間切れになっても、結論が合っていれば加点されます。つまり、部分点が取れる答案になるのです。しかし、起承転結の文章に慣れている人が、「起結承転」の文章を書くのは、実は大変なのです。

長年かけてついた書き癖は、なかなか直りません。だから、論文式を初めから勉強することで、答案作成能力をつけながら理解していくのが、最も効果的な勉強法なのです。

(2) 初心者にお勧めの論文式の勉強方法

法律初心者の方が、いきなり論文式試験問題を見てもちんぷんかんぷんでしょう。

読んだだけで、「自分には無理」と諦めてしまいそうになってしまうかもしれません。

最初はインプットから入る方が多いかと思います。ただ、一通り知識を入れた上で事例問題を読んでみても、「論点が見つからない・・」「どう答案を書いたらいいんだろう・・」「どういった順序で書いたらいいのか分からない」など、悩んでしまう方も少なくないでしょう。

ただでさえ法律は難しいのに、事例問題をいざ解き始めてみると余計に難しく感じてしまい、挫折しそうになりますよね。

ただ、予備試験・司法試験の答案を書くときには、守らなければならない基本的な作法があります。この作法を知り、これに従えば、必ず論文も書けるようになります。また、論文を書けるようになるだけでなく、法律の最適な勉強法を身に着けることができるので、短答の勉強にも活きます。

では、その基本的な作法(ポイント)とは何なのか?

それはこちらの3つです。

①原則・例外・再例外の関係性

②要件効果

③重要な最高裁判例

(3) 論文試験が一通り終えたら短答式試験の問題を解こう

論文式試験問題を一通り勉強したら、短答式試験問題を解いてみましょう。

「一通りとは?」と思うかもしれません。

一通りとは、過去問を少なくとも5年分、あるいは塾や予備校・通信教育の問題集の範囲別だったり、全部通しでやった後だったり、あなたがやりやすいやり方で大丈夫です。でも、短答式の試験は5月なので、夏くらいから勉強を始めたとして、年を明けて遅くとも2~3月くらいから始めましょう

短答式は、マークシートの選択問題なので、既に文章が書かれています。正しい解答、共犯・正犯・共同正犯等を選んだり、論文の考察過程の分析力が身についていれば解けます。ただし、短答式に入っても、論文式試験問題を、試験当日の時間で1日2科目は解きましょう。

予備試験ではスピードが要求されます。毎日やっておかないと、体力がついていかなくなります。スポーツ選手や楽器の奏者は、毎日練習しないと、取り戻すのに休んだ数倍の時間がかかるといわれています。予備試験も同じなのです。

6 サマリー


予備試験の合格率は非常に低いものです。でも、地道にやっていけば不可能な道ではないのです。非常に科目数が多いように思えても、受験勉強と同じです。独学では難しいかもしれませんが、過去問を研究し尽くした予備校や塾・通信教育等のスケジュールに合わせて、地道にやっていけば登れない山ではないのです。1年では難しくても、数年かけて地道に行いましょう。

年齢が上がるほど、論文の文体を変えるのが難しくなります。さらに、大学生は大学4年間の勉強と卒論で文体が身についてしまいますので、大学在学中の若い年齢ほど有利なのかもしれません。丸覚えではなく、法律を理解して楽しみながら勉強できれば、それが理想です。そういう人でないと、法曹界は向かないかもしれません。

1年間は、参考書や判例、論文式の回答書を、推理小説や週刊誌を読むように、楽しみながら読み尽くすことに費やし、その文体を読み慣れたところで、論文式の勉強を始めるのも良いかもしれません。

7 まとめ

  • 予備試験、法科大学院に進むのに経済的・時間的余裕のない人のための救済処置としてできた制度
  • 予備試験の合格率は、4%を切る難関試験
  • 備試験は例年、5月に短答式試験1日、7月に論文式試験2日、10月に口述試験2日、11月初旬に合格発表
  • 予備試験短答式はマークシート、論文式は科目別に1問ずつ、口述試験は9割以上が合格する面接試験のようなものである。
  • 予備試験論文の勉強は、短答にも活きてくるので、論文の勉強で基礎知識・解き方を習得してから短答の勉強を始めるのがおすすめ
  • 予備試験は司法試験の入り口として、法律初心者でも着実に勉強していけば突破できる試験である。ただし、独学は難しいので、予備試験・司法試験の研究対策をやり抜いた予備校・塾・通信教育のスケジュールに乗って勉強するのがおすすめ
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