予備試験の出題科目の一つである民法は、会社法や民事訴訟法の理解にも繋がる重要科目の一つといえます。2020年には大幅な改正がなされたため、これまで改正前民法を勉強してきた受験生の方は、苦戦している方も多いのではないでしょうか。
民法は私生活のルールに関する法律でもあるので、一番身近にある法律といえますが、1000条以上もあって出題範囲も広いため、民法の全体像や体系が理解できるようになるためには時間がかかる科目でもあります。
この記事では、少しでも民法の理解が早く進むようにするために、短答対策から論文対策までご紹介します。是非参考にしてみてください。
1 予備試験民法が難しい理由
民法が難しい理由として、いくつか考えられます。
一つは、条文が多く、出題範囲が広いということです。民法は、全部で1050条あります。特に短答式では、各分野から出題されるので、幅広く勉強する必要があります。
また、不法行為分野なら不法行為法の条文だけ見ればよいというわけではないのです。
というのも、民法はパンデクテンシステムという方式を採用しているからです。個別の規定の前に一般的な規定など共通部分を先に規定するという方式です。例えば、ほとんどの条文に適用できる信義誠実の原則は民法1条に規定されています。
一見して分かり易い配置ともいえそうですが、事例問題を解く際には、個別の規定だけを見ていては解決できず、民法を体系的に理解していないと、どの条文を適用すべきか分からず、かえって混乱する場合もあります。
事例問題に対しては、このように民法の全体の体系が理解できていないと、正誤の判断ができないので、とても難しいのです。
さらに、条文の階層関係も複雑になっています。例えば、条文に規定されている効果が、他の条文の要件になっていたりするので、答案を書く際にも、この階層関係を明確にし、論理構成に従って書かなければなりません。
ここの階層関係が明確に書けていないと、答案として何を言いたいのかが分からず、採点者にも伝わりにくい答案になってしまう恐れがあります。
2 予備試験民法の短答対策
(1) 民法短答の出題形式
民法の短答では、どれが正しくてどれが間違っているのか、正誤の組み合わせを5つの選択肢から選ぶといった問題が多いです。過去4年、連続で15問の出題がされています。
また民法の難易度ですが、民法の得点は民法は平均点も高く正答率も良い科目です。
もっとも、令和2年度の予備試験短答式では、平均点が令和元年の20.3点から下がって12.7点と、例年に比べて極端に下がってしまいました。
年度 | 民法平均点 |
令和元年 | 20.3点 |
令和2年 | 12.7点 |
出典:法務省
これは、例年民法の得点率が高かったことが起因して問題の難易度を上げたことが原因なのか、民法改正が影響しているのかは一概に判断することはできませんが、決して油断できない科目といえます。
問題自体が簡単というわけでもありません。条文数は1,000を超え、しかもそこからまんべんなく出題されるのです。
上記でご紹介したとおり、民法は体系的な理解が不可避なので、短期合格を目指すためには、まずは一通り全体の知識をさらっておく必要があります。
詳しい対策については次の項目でご紹介します。
(2) 短答対策
短答対策で、最もやるべき重要なことは、過去問を解くことです。
最初から過去問をやっても解けないと思う方もいるかもしれません。
過去問は、何周も解いていくものなので、最初は解けなくても構いませんし、過去問を解いていくうちに、何が一番問われていて、合格のために何が一番重要なのかが見えてきます。
資格試験の勉強では、初学の段階ではインプットばかりしてしまいがちですが、最初から知識を全て入れたり、暗記したりすることは難しいことですし、一定程度の理解が進んできたら、過去問を解いてみましょう。
そうすれば、必要な学習範囲が見えてきて、インプットすべき重要な判例や知識を優先して勉強していけば、とても効率的な勉強ができるようになります。
特に民法においては、各分野から出題されやすい条文や、判例知識などが分かります。
短答対策が苦手な方に特におすすめしたいのは、判例付きの六法や、市販で売られている解説付きの六法などを使用しながら、過去問で間違えた条文や判例にチェックしていくことです。
過去問を一通り終えると、自分が間違った条文や判例が一見して分かるので、そこを集中的に勉強することができます。また、出題頻度の高い条文・判例も明らかになります。
過去問で何度も繰り返し出題される条文・判例については、再度出題される可能性が高いので、必ずチェックしておきましょう。
次に、さらに重要なことは、過去問を一通り終えた段階で、間違った条文を個別的に勉強するのはなく、その分野全体の学習をするということです。
この学習法をやることで、未知の問題にも対応できるようになります。
例えば、弁済に関する問題のうち、第三者弁済(民法474条)の肢を間違えてしまった時、474条だけ読んで暗記したり、趣旨を勉強するのではなく、
「第六節 債権の消滅>第一款 弁済>第一目 総則」
弁済・総則という分野ごとについて学習をするということです。
上記でもご紹介したように、民法は体系的な理解が重要になります。弁済という制度が設けられている理由は何なのか、弁済は民法の中でどう位置付けられているのか、他の制度との相互関係などをテキストを読みながら意識することで、弁済という制度の理解も深まりますし、弁済に関する未知の問題が出題された時にも、正しい法的思考に沿って考え、正解に近づくことができます。
分野をセットで勉強するということですね。
過去問を何度も解いたけど何度も必ず間違えてしまうという方は、是非この勉強法を実践してみてください。
3 予備試験民法の論文対策
(1) 当事者の主張(請求)を特定する
民法は、私人と私人、つまり個人間の関係を規定している法律です。
予備試験民法では、主に個人と個人との間で紛争が発生し、その紛争を解決する方法として、何ができるのかを問うてきます。
例えば、物を失ったとか、自分が所有している土地を誰かが勝手に使用しているというような場合があります。
そして、その人が「物を返せ」とか「この土地から出ていけ」などそういう主張をします。
このように、民法の問題では、誰かが何かしらの不利益を受けていて、この時に民法を参照しながらその個人のために何ができるのかを考えるのです。論文試験ではこうした事例が問われます。
この時に、特に重要なのは、不利益を受けている当事者が何を一番主張しているのか、何を要求しているのかを特定するということになります。
この当事者の「生の主張」から、民法上の請求権に置き換えて、法律上どのように救済することができるのかを考えます。
実はここは意外と受験生でも見誤ってしまうポイントでもあります。
出題者が想定している請求権と違う請求権に沿って答案を書いてしまい、点数がほとんど入らない場合もあるので、とても慎重にならなければなりません。
そのため、問題文を読む際には、当事者が一番不利益を受けているポイントは何なのか、当事者が一番要求したいことは何なのかをしっかり読解していく必要があります。
(2) 要件効果
当事者の請求権が特定出来たときに、次に問題になるのは、その請求権が認められるのかというところですね。
予備試験民法の論文では、その請求権が認められるのかということ聞いてくることもあれば、別の問い方をしてくる時もあります。
ただ、すべての問いに共通しているのは、民法の条文を適用した結果、ある「効果」が発生させるためには、条文上の「要件」を満たす必要があるということです。
そして、その「要件」にあてはまるというために、問題文に記載されている事実を拾っていくわけです。
例えば、Xさん(買主)がYさん(売主)との間でリンゴを10個500円で購入したとします。
しかし、Xさんが500円を支払わない場合に、Yさんは、Xさんに対して、売買契約に基づく代金支払請求をすることができます。
民法第555条により、Xさんは、リンゴを10個500円で買う、Yさんは、リンゴを10個500円で売るということについて意思の合致があったいうことがYさんの主張の根拠となります。
民法第555条
売買は、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。
では、Xさんが売買契約を錯誤(民法第95条)を理由に取り消したい場合の要件を見てみましょう。
民法第95条を見てみましょう。
民法第95条
1 意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。
一 意思表示に対応する意思を欠く錯誤
二 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤
2 前項第二号の規定による意思表示の取消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる。
3 錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には、次に掲げる場合を除き、第一項の規定による意思表示の取消しをすることができない。
一 相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったとき。
二 相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。
4 第一項の規定による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。
民法95条に基づいて取り消すための要件は、
①-1「意思表示に対応する意思を欠く錯誤」(95条1項1号)
①-2「表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤」+「法律行為の基礎とされていることが表示されていたとき」(95条1項2号、95条2項)
②「錯誤に基づくもの」(95条1項柱書)
③「その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるとき」(95条1項柱書)
となります。
これらの要件に該当すれば、効果として、
「意思表示」は「取り消すことができる。」(95条1項柱書)ということになります。
上の要件を満たさなければ、効果は発生しないので、一つでも要件を満たさなければ、Xさんは売買契約を取り消すことはできません。
これが要件と効果の関係になります。
そして答案では、この要件に該当する事実を問題文中から拾ってあてはめていく作業をするわけです。
ただ、よく言われている「論点主義」に陥ってしまうと、当事者の生の主張や、この要件効果を意識しないで、答案の冒頭から、「重大な過失」から検討してしまったり、この論点で何説に立つべきか、などを書いてしまうのです。
上記でもお話したように、請求権から答案を書く受験生と、論点から答案を書く受験生では、書いている内容は同じように見えても、点数では大きな差ができてしまうんですね。
逆にいえば、ここさえしっかりおさえれば、それだけで合格答案に近づくことができます。
普段から条文を読むときに、この「要件」と「効果」が何なのかを意識しながら読むことをおすすめします。
論文を解く際にも、要件漏れのリスクを回避することができるので、是非おすすめです。
4 サマリー
民法は判例の蓄積もたくさんあり、学習範囲が広いので、学習の途上で挫折してしまいそうになることもあると思います。また、最初のインプットの段階では理解できないことも多いですが、アウトプットとインプットを交互に繰り返す中で、理解が一気に深まる科目でもあるので、是非最後まで諦めずに、民法を得意科目にしていきましょう!
5 まとめ
- 予備試験の出題科目である民法が難しい理由として、条文数が多く出題範囲が広いこと、条文の階層関係が複雑なため論理構成が難しいことなどがあげられる
- 予備試験民法の短答対策・論文対策のいずれにおいても重要なのは過去問を解くこと
- 予備試験民法の短答対策としては、分野をセットで勉強するのがおすすめ
- 予備試験民法の論文対策(短答対策としても)としては、要件効果を意識しながら勉強することがおすすめ