司法試験や予備試験は独学で合格できる?お金と時間をかけずに合格するコツは?

予備試験

弁護士になりたい!だけど、まとまったお金も時間もない……。

そこで、気になるのは『司法試験は独学で合格できるのか?』という点です。

確かに、自分で市販の参考書や基本書、判例集を揃えて勉強すれば、費用を数万円程度に抑えることもできるでしょう。

また、自分のペースで勉強出来ますから、仕事や家事と両立しながら勉強することも出来そうですよね。

しかし、司法試験に独学で合格するのは非常に困難です。

本記事では、司法試験に独学で合格するのが難しい理由や、出来るだけ費用を抑えて自分のペースで勉強する方法をご紹介します。

1 司法試験は独学で合格できるの?

結論から言えば、司法試験に独学で合格することは可能です。

しかし、非常に難しいです。

確かに、法科大学院にも予備校にも通わずに司法試験に合格する人もいます。

しかし、それはごく少数にとどまります。

2 昔と制度が変わった!司法試験までの道筋

旧司法試験と呼ばれる昔の試験制度の時代には司法試験は誰でも受けることができました。

そのため、大学院や司法試験の予備校に通うことなく、自分で全て教材を揃えて司法試験に挑むことが現在よりも一般的でした。

ところが、現在の司法試験は受験資格が制限されています。

具体的には、法科大学院に進学するか、司法試験予備試験に合格する必要があります。

また、令和5年からは法科大学院在学中に一定条件のもと司法試験を受験できるようになります。しかし、その場合でも法科大学院の入試はクリアしなくてはなりません。

(1) 法科大学院進学ルートのメリット・デメリット

法科大学院に進学した場合、一定の単位を取得することさえできれば司法試験の受験資格を得ることができるというメリットがあります。

しかし、法科大学院に進学するためには大学卒業資格などの一定の受験資格が必要になります。また、法科大学院に進学すると毎日のように授業に出席する必要があります。

加えて、受験資格を得るまで年単位の時間が必要になります。さらに、学費や教材費がかかります。

 

法科大学院修了に必要な費用(一例)

必要な費用 司法試験合格までにかかる費用
法科大学院(国立)

既修コース

入学金:28万2,000円

授業料:80万4,000円

(年額)

189万円(2年で修了する場合)
法科大学院(私立)

既修コース

入学金:10万円〜30万円

授業料:60万円〜130万円

(年額)

130万円〜280万円(2年で修了する場合)
※なお、これとは別に、法科大学院の受験料、判例集や基本書、六法などの教材費生活費が必要になります。

このような点を考慮すると、時間的な理由や金銭的理由から独学での司法試験の受験を検討している人にとって法科大学院進学のルートは適切とは言えません。

 

(2) 予備試験ルートのメリット・デメリット

一方、予備試験の場合、受験資格に制限がありません。

そのため、法科大学院に進学するための受験資格を有していなくても予備試験を経由して司法試験に挑戦することができます。

また、予備試験の場合、法科大学院のように時間的な拘束がありませんから自分のペースで勉強をすることができます。そのため、昼は仕事をして夜に勉強するなど、時間の確保が難しい人でも司法試験に挑戦することができます。

また、法科大学院とは違って予備試験の試験科目の勉強に専念することができるので勉強期間を短く済ませることもできます。

実際に、予備試験の勉強を開始して1年半で予備試験と司法試験の両方の試験に合格した人もいます。

 

そして、予備試験に合格した場合、高確率で司法試験に合格することができることも予備試験ルートの魅力でしょう。

以下の表は、予備試験に合格して司法試験に挑戦した人の人数と司法試験の合格率です。

予備試験経由 司法試験合格者数推移

受験者数 合格者数 合格率
平成24年 85 58 68.24%
平成25年 167 120 71.86%
平成26年 244 163 66.80%
平成27年 301 186 61.79%
平成28年 382 235 61.52%
平成29年 400 290 72.50%
平成30年 433 336 77.60%
令和元年 385 315 81.82%
令和2年 423 378 89.36%
令和3年 400 374 93.50%
令和4年 405 395 97.53%

いずれの年も予備試験合格者の司法試験合格率は70%を超えています。

ちなみに、令和4年において、法科大学院ルートで最も司法試験の合格率が高かったのは京都大法科大学院68.0%でした。

同じ年の予備試験合格者の司法試験合格率は97.5%ですから、予備試験合格者の司法試験合格率の高さがわかりますね。

このような理由から、金銭的・時間的な理由から独学での司法試験の挑戦を検討している人は予備試験経由での司法試験挑戦を目指すべきでしょう。

3 予備試験は独学で合格できるの?

金銭的・時間的理由から独学での司法試験合格を目指す人には、法科大学院に進学するルートではなく、予備試験に合格するルートがおすすめです。

しかし、実際に予備試験に完全に独学で挑戦した場合、予備試験に合格することはできるのでしょうか?

結論から言えば独学での予備試験合格も不可能ではありません。

しかし、予備校などを全く利用せず、市販の教材のみで予備試験に合格するのは非常に難しいです。

 

(1) 理由①:予備試験は非常に難関

以下の表を見ればわかる通り、予備試験の合格率は毎年4%ほどと非常に難関です。

年度 受験者数 合格者数 合格率
2021 11,717 467 4.00%
2020 10,608 442 4.20%
2019 11,780 476 4.00%
2018 11,136 433 3.90%
2017 10,743 444 4.10%
2016 10,442 405 3.90%
2015 10,334 394 3.80%
2014 10,347 356 3.40%
2013 9,224 351 3.80%

確かに、予備試験ルートには、効率よく勉強して短期間で予備試験に合格すれば法科大学院に進学するよりも多くのメリットがあります。

しかし、完全な独学だと、この難関試験を突破することは非常に難しいのが現実です。

そのため、独学で司法試験に挑戦しようとして法科大学院に進学するよりもお金も時間もかかってしまう結果になりかねません。

(2) 理由②:そもそも、法律の勉強は独学が難しい

いやいや、私は高校、大学受験は予備校に通わずに合格できたから、予備試験も独学で突破できるよ!』と考えている方もいるかもしれません。

しかし、この考え方は危険です。

なぜなら、法律の勉強は独学が非常に難しいからです。

そもそも、法律の知識を義務教育で習う機会はほとんどありません。

英語や数学などは義務教育によって基礎的な知識を学校で教わります。

そのため、応用的な知識を参考書などを読んで独学で習得することも可能です。

 

しかし、法学部の学生でもない限り、法律の勉強は皆ゼロからのスタートになります。

すなわち、英語の学習で言えば『I like  apples.』と言った簡単な文章すら理解できない状況です。

この段階で法律の学者が書いた分厚い教科書を読んで、法律の知識を習得するのは非常に困難です。

 

また、司法試験の受験生は、法律の勉強を通して習得した知識を実際の問題に対して使いこなせなくてはなりません。

 

例えば、傷害罪について定められた刑法204条を見てみましょう。

第204条

人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

この『傷害』とは『人の生理機能を障害』することと解されています。

 

では、この『傷害』の定義を覚えたら、司法試験の刑法の問題が解けるかというとそんなことはありません。

 

・他人の髪の毛を勝手に切る行為は『傷害』と言えるのか?

・他人の精神をを傷つけた場合(他人にPTSDを発症させたような場合)は『傷害』と言えるのか?

学んだ法律知識をこのような具体的な問題を解決する際に活かせるレベルで使いこなせるようになる必要があります。

 

高校受験・大学受験では知識を習得することさえできれば、そのあとは独学で勉強することも出来たでしょう。

しかし、法律の勉強は、知識を習得した後に、その知識を使いこなせるまで訓練をする必要があります。この訓練の過程でどうしても『先生』の存在が必要になります。

法科大学院や予備校に通っている場合は、先生に質問することも出来ます。

しかし、完全な独学の場合だと自分の使用しているテキストに答えが乗っていない場合、誰にも質問をすることが出来ません。

このような環境では司法試験に合格できるレベルで法律知識を習得するのは非常に困難です。

身近に法曹や、司法書士などの法律の専門家がいて気軽に法律について質問ができるという環境にいるならば話は別ですが、そうでない方にとって独学はリスキーな選択と言えます。

(3) 理由③:論文式試験を突破する力は適切なアドバイスが必要

さらに、司法試験の論文式試験を突破するには自分の答案を添削して適切なアドバイスをしてくれる『先生』の存在が必要不可欠になります。

 

意外かもしれませんが、司法試験の問題には『正解』がありません。

そのため、市販の司法試験の過去問について解説した問題集の模範解答は出版社ごとに全く異なる内容が書かれているように見える場合もあります。

『正解がないのにどうやって採点しているのか?』と疑問に思うかもしれません。

実は、設問のポイントを押さえて、設問の事情を自分なりに評価し、適切な知識を駆使して、説得的な文章を書くことができれば評価される仕組みになっています。

 

そのため、模範解答と全く同じでなくとも優秀な答案というのは存在します。

反対に模範解答と構成は似ているものの、要所要所で論理が破綻していたり、ポイントを落としているために試験本番で全く評価されないような答案もあります。

 

法科大学院や予備校に通う場合、『先生』から自分の書いた答案のどこが問題だったのか、本番で評価される答案を書くにはどのようにしたら良いのかをアドバイスをもらうことが出来ます。

 

ところが、完全な独学の場合だとこの貴重なアドバイスをもらうことが出来ません。

結果的に、テキストに書いてある模範解答を理解することなく、ただ丸暗記するといった生産性の低い勉強をすることになってしまいます。

このような勉強では論文式試験を突破できる力を得ることは非常に困難でしょう。

 

(4) 理由④:自力では適切な情報収集が難しい

法律は毎年のように改正されます。

特に近年民法は毎年のように改正されています。

(民法の改正と試験対策はこちらの記事で解説しています。)

2017年 債権法改正
2018年 相続法改正、成年年齢の引き下げ
2019年 特別養子関係
2021年 物権法・相続法改正

これらの分野は司法試験や予備試験の頻出分野であり受験生の勉強にも大きな影響を与えます。

法科大学院や予備校に通う受験生は先生や仲間からこのような改正の状況を知らせてもらえるかもしれません。

ところが、完全な独学の受験生の場合、自分で動かなくてはこのような情報は入ってきません。

そのため、法務省のホームページにアクセスして試験科目の法律の改正状況を把握する必要があります。もし、これを怠ると試験本番で書いた答案を改正前の法律で書くことになってしまい、全く評価されない場合があります。

 

また、近年、司法試験予備試験の制度自体も変革期にあります。

 

令和4年 ・論文式試験の一般教養科目の廃止

・論文式試験に選択科目を追加

令和5年 ・短答式試験、論文式試験、口述試験の試験日程が変更

これらの試験制度の変更も法務省のホームページで確認することが出来ますが、忙しい受験生がいちいち法務省のホームページにアクセスして情報をキャッチアップすることは難しいのが現実です。

 

(5) 理由⑤:独学だと学習が続けられない

司法試験や予備試験に完全な独学で挑戦する場合、全て自分の判断で勉強方針を決定しなくてはなりません。

この場合、誤った勉強方針に沿って勉強を進めたばっかりに勉強量に対して成果を得ることができず、結局多くの時間とお金を無駄にしてしまうことがあります。

 

例えば、受験生の多くは予備試験の過去問を初めて解く際に、何を書いていいのか分からず戸惑ってしまうことがあります。

この原因は、知識不足ではなく、『学んだ知識を生かして論文を書くというスキル』が不足していることがほとんどです。

そのため、このスキルを養うために、自分なりに試行錯誤して論文を書くという勉強が必要になります。

 

ところが、完全に独学で勉強する場合、『自分が論文式試験の問題が解けないのは知識不足のせいだ!』と誤った判断を下してしまいがちです。

こうして、いつまでもインプットの勉強を続けて自分で論文を書く訓練を怠ることで、いつまでたっても論文式試験を突破することはできません。

予備校や法科大学院にはこうした勉強方針についてアドバイスをしてくれる先生や先輩がいるでしょう。場合によっては自分の失敗談を交えながら受験生が同じミスをしないように戒めてくれる人もいるでしょう。

しかし、完全な独学だとそんなアドバイスをしてくれる人はいません。

最悪の場合、司法試験の膨大な試験範囲を前にして、どうしていいのか分からず法曹になる夢を諦めることになってしまいます。

4 予備試験に挑戦するには予備校を利用しよう

以上の理由から、司法試験・予備試験に完全な独学で挑戦するのはおすすめできません。

では、金銭的・経済的理由から法科大学院に進学することが難しい人は法曹になる夢を諦めるべきでしょうか?

(1) 予備試験合格には予備校を上手く活用しよう!

金銭的・時間的な理由から法科大学院に進学することが難しい人におすすめなのが予備校の活用です。

理由は3つあります。

まず、1つ目に予備校の講座には予備試験の合格を追求したカリキュラムが備わっています。

法科大学院の授業には実務的な内容やアカデミックな内容のものもあり、必ずしも司法試験や予備試験に直接役に立つ授業ばかりではありません。

ところが、予備校の授業は必要な知識を凝縮して最短ルートで予備試験合格を目指すことができます。

2つ目に法科大学院進学に比べて費用を抑えることができます。

以下の表は法科大学院の学費と一般的な司法試験予備校の受講料を対比したものです。

この表からわかる通り、予備校に通う方が法科大学院に進学するのに比べて費用を抑えることができます。

必要な費用 司法試験合格までにかかる費用
法科大学院(国立)

既修コース

入学金:28万2,000円

授業料:80万4,000円

(年額)

189万円(2年で修了する場合)
法科大学院(私立)

既修コース

入学金:10万円〜30万円

授業料:60万円〜130万円

(年額)

130万円〜280万円(2年で修了する場合)
大手司法試験予備校 受講料:110万円〜130万円 110万円〜130万円

(参照:平成十六年文部科学省令第十六号国立大学等の授業料その他の費用に関する省 第2条)

(参照:文部科学省 『令和3年度法科大学院関係状況調』より

 

3つ目の理由として、予備校の利用生には多くの社会人の受講生がいることです。

予備校には忙しい社会人を予備試験に合格させる知識と経験が蓄積されています。

そのため、忙しい社会人の方でも仕事やプライベートと両立しながら司法試験を目指す方法を教えてもらうことができます。

以上のような理由から、予備校の利用は確かに完全な独学に比べれば費用はかかってしまいますが、その費用を支払う価値はあると言えますね。

(2)あなたにあった予備校をちゃんと選べていますか?

このように予備試験の合格を目指す場合、予備校を上手く活用することが重要です。

しかし、一言で司法試験予備校と言ってもその種類は様々です。

・通学なのか、オンラインなのか

・個別カウンセリングの有無

・社会人受験生の数

・費用

・答案の添削をどれだけしてくれるか

 

などなど、予備校によってサービスは様々です。そのため、自分の状況やニーズにあった予備校を選ばないとせっかく司法試験予備校を利用するとしても、その効果を十分に得ることができません。

 

したがって、予備校を選ぶ際はなんとなくで選ぶのではなく、各社の特徴をよく比較してから選ぶようにしましょう。

5 サマリー

いかがだったでしょうか?

確かに、独学には費用を抑えられる、自分のペースで勉強できるというメリットもあります。

しかし、難関試験である司法試験に独学で立ち向かうのはあまりに困難です。

 

では、経済的理由・時間的理由から法曹になる夢を諦めるべきでしょうか?

そんなことはありません。

選択肢として、予備校のサポートを受けつつ司法試験合格を目指すルートを考えてみませんか?

 

6 まとめ

  • 司法試験に独学で合格することも可能。しかし、非常に困難。
  • 法科大学院進学には多額の費用と時間がかかる。
  • 法律の知識を習得する段階や学んだ知識を使って論文を書く段階では『先生』の存在が必要不可欠。
  • 完全な独学のデメリットを考慮すると、予備校のサポートを受けるのがおすすめ。自分にあった予備校を選ぼう。
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