予備試験の刑事訴訟法は、民事訴訟法と同じく手続法です。刑法で規定されている犯罪が発生したと疑われるケースにおいて『どのように捜査、公訴、公判の手続きが進行していくのか』という点を学んでいく事になります。
また、学説の対立も理解しなければ解く事ができない問題が出題されますので、やはり判例学習が重要な科目であるとも言えます。
予備試験の刑事訴訟法はを得意科目にして、短答試験突破はもちろんの事、他の受験生に負けない答案が書けるようにレベルアップしアドバンテージとしていきましょう!
この記事では、刑事訴訟法を得意科目にし、合格へと導く勉強法などを詳しく解説していきますのでご参考になさってくださいね。
1 予備試験科目の『刑事訴訟法』とは?
◆『捜査前』のプロセスが非常に重要!
冒頭でも触れましたが、刑事訴訟法は民事訴訟法に並ぶ『手続法』ですが、民事訴訟法と異なる点は、捜査前のプロセスが非常に重要である点が挙げられます。民事に比べて刑事の方が、いわゆる『認定』に対して厳密さが求められる事になります。
いったいなぜなのでしょうか?法律に興味をもたれている方であればピンと来るのではないでしょうか。
それは、刑罰権を行使するための裁判だからです。
〈刑事訴訟法〉
第1条 この法律は、刑事事件につき、公共の福祉の維持と個人の基本的人権の保障とを全うしつつ、事案の真相を明らかにし、刑罰法令を適正且つ迅速に適用実現することを目的とする。
①事案の真相解明
②個人の人権保障
端的に言えば、この2つが刑事訴訟法の『目的』であり、刑事訴訟法上における諸問題の解釈には常にこの2つの目的の調和を考えていく事が必要という事ですね。
【刑事訴訟法の条文構造】
第一編 総則(1条〜188の7) | |
第二編 第一審
|
第一章 捜査(189〜246条) |
第二章 公訴(247条〜270条) | |
第三章 公判(271条〜350条) | |
第四章 証拠収集等への協力及び訴追に関する合意(350条の2〜350条の15) | |
第五章 即決裁判手続(350条の16〜350条の29) | |
第三編 上訴 | 第一章 通則(351条〜371条) |
第二章 控訴(372条〜404条) | |
第三章 上告(405条〜418条) | |
第四章 抗告(419条〜434条) | |
第四編 再審(435条〜453条) | |
第五編 非常上告(454条〜460条) | |
第六編 略式手続(461条〜470条) | |
第七編 裁判の執行(471条〜507条) | |
附則 |
条文数も刑法とは異なり、507条という倍以上のボリュームとなっています。この事からも手続きの厳密さがうかがえますよね。その根底には、人権保障という尊い権利が保障されているからとも言えますね。
①総則
↓
②第一審
↓
③上訴
↓
④再審
↓
⑤非常上告
↓
⑥略式手続
↓
⑦裁判の執行
上記のような流れに沿って勉強を進めていく事になります。テレビや映画でも逮捕されるシーンや裁判にかけられるシーンは目にする機会もありますので、比較的イメージしやすい流れではないでしょうか。
2 予備試験『刑事訴訟法』の特徴
ex.刑法
第204条 人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
ex.刑事訴訟法
第62条 被告人の召喚、勾引又は勾留は、召喚状、勾引状又は勾留状を発してこれをしなければならない
実体法である刑法と手続法である刑事訴訟法を比較してみましょう。上記は一例ですが、刑訴は『刑罰』に関する規定となっていますね。一方で、刑事訴訟法は被告人の召喚、勾引又は勾留をする際には、いわゆる令状による『手続き』が必要であると規定されたものです。
短答試験と論文試験の特徴をそれぞれ確認しておきましょう。
(1) 短答試験の平均点はあまり高くない
法務省のデータによれば、令和2年度の短答試験(刑事訴訟法)の結果は、30点満点中平均点は13.5点であり、他の科目と比較してもあまり平均点が高いとは言えませんよね。最高平均点であり刑事訴訟法との絡みもある憲法は21.5点、実体法である刑法は14.5点であり、刑事訴訟法と同じ手続法である民事訴訟法は15.1点という結果です。
つまり、刑事訴訟法は苦手意識を持っている受験生も一定数いる事がお分かりいただけるかと思います。
以下、ポイントをまとめましたのでご参考になさってくださいね。
◆『捜査』『証拠』に関しては、以下のような形式で出題されるので判例知識が重要
ex.「・・・略・・ただし、判例がある場合には、それに照らして考えるものとする。」
◆『公判手続き』に関しては、条文知識が問われる問題も出題される
(2) 論文試験の頻出論点には偏りがある
頻出分野には偏りがある
◆任意処分
◆強制処分
◆捜査差押え
◆伝聞証拠(例外含む)
これらの分野については、有名な判例や条文があります。また、①原理・原則(ex.令状主義、強制処分 など)や制度趣旨②条文の根拠 ③原理・原則がどのようなケースで問題となるのかをしっかりと理解しておかなければなりません。
これらをしっかり理解しておけば、比較的早期に論文が書けるようになる方も少なくありません。過去問などを通して何度もアウトプットを繰り返して、書き方をマスターしてしまいましょう。
論文科目のうち1つでもマスターしたと実感できるレベルに持っていく事ができると、精神的にも楽になり、その後に続く科目に取り組むモチベーション維持にも繋がりますよね。
令和2年度の論文試験結果を見ると、全科目500点満点中平均点は192.16点であり合格点は230点でした。全10科目ありますので、1科目につきおよそ23点以上取る事ができれば合格へと近づく事ができますので典型的な論点の取りこぼしのないようにしておきたいものですね。
(参考:司法試験予備試験論文式試験の採点及び合否判定等の実施方法・基準について)
刑事訴訟法に限らず、論文試験全般において言えることですが予備試験の論文試験の問題文は長く(A4 1枚~1枚半ほど)、解答は1,500文字程度(A4用紙4枚以内)で論じなければなりません。
長い問題文から、論点の取りこぼしが無いように丁寧に抽出し検討していく力が求められます。この時に“時系列を意識しておく”ことも大切ですよ。先にも触れたように事件発生→捜査→公訴→公判の流れの中でどの部分の手続きに問題の所在があるのか検討していくとスムーズです。(手続きの適法性や証拠能力について問われる事が多い)
以下のようなポイントを押さえて取り組んでみてください。あくまで一例となりますがご参考になさってください。
◆枠組み(体系)を覚える
→①問題分析②解答手順③答案枠組み
◆判例を踏まえた規範は事前に準備したものを吐き出せるようにしておく
◆問題の所在を把握し(論点を的確に抽出)、解決への道筋を論ずる
3 予備試験『刑事訴訟法』の短答対策は論文学習?!
刑事訴訟法に限らず、予備試験の短答対策はズバリ『論文学習』であり、右に出るものはないと言っても過言ではありません。
予備試験の勉強経験のある方であれば、過去問などで『判例の立場に従って検討すると・・・』というフレーズを何度か目にした事があるかと思います。
既に学習経験のある方にとってはお馴染みのフレーズですよね。
このように刑事訴訟法では、“判例の立場に従って検討した場合にどのような結果となるのか”が問われる事が多いのです。
つまり、テキストに出てくる『判例』はしっかりと押さえておく事が大前提となりますので、日頃から“判例の立場”を意識した勉強をしておく事がとても大切です。
(1) 論文対策が短答対策も兼ねる!
「論文・・・全く歯が立たず書けない。何から書けば良いか分からないからインプットが完成してから手をつけよう。」
などと思い論文対策を後回しにしていませんか?
実は、この論文対策(アウトプット)を後回しにしてしまうと後に苦労する事になってしまいます。それはなぜなのでしょうか?
なぜなら、予備校の講義を聞いただけ、テキストを読み込んだだけ(インプット)では論文が書けるようにはならないからです。
論文を書く練習、つまりアウトプットを徹底して行わなければいつまで経っても合格レベルの答案を書く事はできるようにはなりません。
ですが、これを実行するのは現実的にはなかなか難しいものですよね。
「テキストをもっともっと読み込んでからじゃないとアウトプットに手をつけるのが怖いな・・。」
などと多くの方が思われると思いますが、そこは一歩踏み出す勇気を!
今までこのような経験がないのですから、ましてや予備試験の合格レベルに叶う論文が書けるようになるはずがありませんし、それが普通の事でもあると言えます。
これまでの人生において『論文を書く』という作業をしてきた方の方が少ないのではないでしょうか。
従って、ある程度勉強が進んだら積極的にアウトプット学習に着手してみてください。最初は書けなくても回数を重ねていけば少しずつ書けるようになってきますし、テキストや条文を繰り返し見る事になりますので、必然的に『短答合格の力』も付いてきますよ。
ハードルは高めですが、まさに一石二鳥ですね。
(2) 使用教材
◆基本書(予備校の基本テキスト など)
◆六法(判例六法、ポケット六法 など)
◆過去問題集 など
※論文対策には、後述の「論証集」があると便利です
短答対策も論文対策も使用する教材にほとんど変わりはありません。
予備校に通われている方は、あまり色々なものに手を出さずに“情報を一元化”するスタンスで、予備校のカリキュラムに沿った教材を使われる事をおすすめします。
基本的には、講義を聴きながら(予備校に通われている方の場合)基本書でインプットを行い、都度『条文』に目を通し確認する作業の繰り返しとなります。ある程度学習が進んだら(ex.「刑事手続きの目的」の部分が終わったら)そのタイミングでアウトプット(過去問)を行っていきましょう。
何となく分かってはいるものの、恐らく解けない問題も多いでしょうが気にする必要は全くありません!
解けなかった問題に関しては、解説を読み、基本書や六法に戻り条文を確認するなどして知識の定着を図りましょう。
本試験では、いわゆる『短答プロパー』と言われる、論文試験には出題されない論点なども出題されます。
しかしながら、過去問で一つずつしっかりと潰していけば恐れるに足りずです。
4 予備試験『刑事訴訟法』の論文対策は徹底的なアウトプットが功を奏する
◆結論:問題文から事実関係を漏れなく抽出し、それを適切に評価することが重要。
『あてはめ』の練習をこなしましょう!
条文や判例を踏まえた規範など基本的な部分をある程度身に着けたら、アウトプット(問題演習)を徹底的に行いましょう。
・条文学習
・学説の理解(自説だけではなく反対説もしっかり)
・判例学習
刑事訴訟法は、会社法で重要視されていたいわゆる条文操作ではなく、『判例の規範』を用いて解いていきます。どちらかというと憲法に近いかもしれませんね。それだけ、判例学習の重要度が高い科目とも言えます。ケースによっては、憲法を引用して解く事もあります。
◆判例がどのような基準を用いているのか
◆どのような結論を出しているのか
このような点に着目して勉強を進めていってくださいね。刑事訴訟法は、先にも触れましたが出題される分野に偏りがあり、書き方も枠にあてはめてしまえば比較的書きやすい科目です。論文答案は、刑法や憲法に次いで比較的早期に答案が書けるようになる科目とも言われていますので、しっかりとアウトプットをこなして得意科目にしてしまいましょう!
また、予備試験や司法試験の論文式試験の本番で貸与される六法には、条文番号の前に括弧書きで見出しのよう表記がないと言われています。普段の勉強の際は、見出しを頼りに該当条文を検索する事が多いかと思いますが、日頃から頻出の条文に関しては何条に記載されているのかを覚えておく必要がありそうですね。ポケット六法などには条文前に見出しが記載されていますので、普段愛用されている方は少しこの辺りを意識してみてくださいね。
(1) 論証集を活用しオリジナル論証集を作ろう
本番当日に効率良く答案を仕上げるために準備しておこう
◆『論点』の理解
◆『キーワード』の意味を理解し覚える
◆ 論点とキーワードを盛り込んだ『論証パターン』の習得
×ただし、丸暗記はおすすめしません
まず、論文試験で効率良く論点を吐き出すには、法律上の論点の書き方を典型化(パターン化)させ自分のものにしてしまう(定着化)事が前提として大切な事です。
本試験の場で答案を書く際に、書き直してばかりいては時間がもったいないですし時間が足りなくなり途中答案となってしまう事も懸念されますよね。加えて、論点の取りこぼしをしてしまっては元も子もありません。
論証集は、法律上の『論点』と言われる部分を典型的な書き方でまとめたものであり、予備校の教材に含まれていたり市販されているものもあります。
論証パターンを身に着けるためには、『重要なキーワード』を必ず押さえる事も意識して勉強を進めてくださいね。長い論証を覚えるのが辛い場合は、まずはキーワードだけでも覚えるように努力してみてください。
ここで心に留めておいていただきたいのは、論証集は効率良く論文を書くためのツールであるという事です。
従って、論証集に書いてある文章そのものを丸暗記すれば良いと言うわけではありません。
また、論証集に書いてある文章は、あくまでも一例です。一言一句正確に覚えなくてはならない性質のものでもありません。
キーワードが適切に書いてあれば、書き方に関しては厳密さが求められるわけではなくある程度は許容されます。
これからさまざまな問題に触れていく事になると思いますが、都度、論証集に書かれていない論点も出てくるでしょう。そのような時は、手持ちの論証集に書き込むなりしてオリジナルの論証をストックしてみてはいかがでしょうか。
スキマ時間や、1日の終わりに論証集を見て『知識の整理・確認』『キーワードのおさらい』として有効活用される事をおすすめします。
(2) 答案構成や答案作成は徹底的に数多くこなそう
答案構成は、いわゆるメモ書き。本番で素早く答案に落とし込むためには不可欠。
◆何を書くか(いわゆる三段論法を守る①問題提起②規範定立③あてはめ④結論 など)
◆条文番号(面倒でも六法で確認する事を怠らない!)
◆書く順番(ナンバリングのパターンは予め決めて慣れておく)
◆書く分量(厚く書くべきところなど全体のバランスを考える など)
ただし、あまり時間をかけすぎるのは×
初学者の方にとっては、論文を書くと言うイメージはできるものの、いざやり始めてみるとあまりの出来なさに愕然としてしまう事があるかもしれませんね。これは、皆が通る道ですので諦めないでくださいね。
いったいどのように対策をすれば良いのでしょうか?
例えば、“5分考えて分からなかったら解答を読んでしまう方法”が効率良く理解できるのでおすすめです。
まず、論文試験を突破するためには①問題提起 ②規範規範定立 ③あてはめを正確にできるようにしておく事が不可欠です。
特に、問題文にある事例をあてはめる事が難しく苦手としている方も多いものです。ここは、粘り強く鍛えていかなければならない重要なポイントです。
更に“合格レベル”に達するには、『基本概念の定義や規範は書けて当たり前で、いかに適切にあてはめて評価(認定)できている、その評価(認定)の方法は間違えていない』レベルに到達する事が必要となります。
具体的な方法としては、アウトプットをする際に、最初はテキストなどを見ながら時間制限なしでも良いのでとにかく論文を書く事に慣れてしまう事が大切です。
分からないからといって悩んでいる時間がかかり過ぎる位なら、問題文を読み5分程度考えてみて直ぐに解答や解説を読んでしまいます。
罪悪感を感じる必要は全くありませんよ。
他には、時間的に余裕がある場合は、実際に手を動かし書いてみる『写経』もおすすめです。
初学者の方の中には、どこの部分が規範、あてはめなのかがよく分からないという事もあるかと思います。
「論文無理かも・・・向いてないかも。」
などと思われるかもしれませんが、焦る必要はありませんよ!慣れていなければ分からない事が普通です。
おすすめの方法をご紹介しますね。
テキストや問題集の解答欄に、色違いのマーカーで①問題定義②規範(判断基準)③あてはめをマークして、視覚的に捉えてみる事で理解が深まるかもしれません。自分に合った方法を探し『答案構成スキル』を磨いていってくださいね。
予備試験の天王山は論文試験とも言われています。予備試験合格者の声を聞くと「論文答案や答案構成は100通以上書いた」と言う声も度々聞かれます。つまり、普段から何通も書いて論文を書く時間をルーティン化して体に染み込ませる事がとても大切だと言う事ですよね。
(3) 過去問は合格対策の鉄板!
『過去問を回す』勉強法は、予備試験に限らずあらゆる試験に共通して言える最強の勉強法と言っても過言ではありません。
余裕のある方は『旧司法試験』の問題にもチャレンジされてみてはいかがでしょうか。旧司法試験の問題は分量が少なく、取り組みやすい事が挙げられます。
また中上級者の方は、司法試験特有の『採点実感』なども参考にしながら、より精度を高めた答案を目指してみるのも良いかもしれません。
5 サマリー
予備試験の刑事訴訟法は、手続きの流れを意識しながら勉強を進めると理解しやすい科目です。また、短答対策においても判例や条文学習は重要であり、論文対策では判例を意識した規範を立てて取り組む事が必要です。原理・原則を正確に理解する努力も怠ってはいけません。諦めずに何度もテキストや六法で条文を確認し知識の定着を図り、論証パターンを身に付けていってくださいね。
6 まとめ
- 刑事訴訟法は、①事案の真相解明 ②個人の人権保障の2つが『目的』であり、刑事訴訟法上における諸問題の解釈には常にこの2つの目的の調和を考えていく事が必要
- 刑事訴訟法は、民事訴訟法に並ぶ『手続法』であり、民事訴訟法と異なる点は捜査前のプロセスが非常に重要であり認定には厳密さが求められる
- 予備試験の特徴は、①短答試験の平均点はあまり高くない(令和2年度は13.5点)②論文試験は頻出論点に偏りがある(任意処分、強制処分、捜査差押え、伝聞証拠(例外含む))
- 予備試験の論文学習は短答対策も兼ねている
- 予備試験『刑事訴訟法』の論文対策は、論証集や過去問で知識の定着を図りアウトプットを徹底する事が功を奏する