予備試験の行政法は難しい?難しいポイントから攻略方まで徹底解説

予備試験

予備試験の行政法なんてなければ……と思いませんか?

 

行政法が難しい!行政法の判例は複雑で理解できない!

 

そんなお悩みを抱える方も多いのではないでしょうか?

行政法は試験に他の科目にない特徴があるので苦手意識を持つ受験生も多いです。

本記事では、行政法の試験の特徴と行政法の攻略方法を解説します。

 

行政法の苦手を脱却したい方やさらに行政法で得点を稼ぎたい方は是非ご覧ください。

1 予備試験の行政法は難しい?

予備試験の行政法を難しいと感じる受験生は多いようですが、実際に予備試験の行政法の難易度が高いことを示すデータを法務省が発表しています。

以下の表は直近5年間の予備試験短答式試験の受験生の科目別平均点をまとめたものです。各年の最も平均点が低かった科目は赤字で表示しています。

 

 予備試験

短答式試験 平均点

行政法 憲法 民法 商法 民事訴訟法 刑法 刑事訴訟法
令和3年 10.7 16.7 17.3 16 14.6 17.3 14.6
令和2年 14.4 21.5 12.7 12.8 15.1 14.5 13.5
平成31年 12.1 14.7 20.3 14.2 17.8 14.5 15.6
平成30年 12.4 16.8 14.7 12.8 14.7 15.7 16.1
平成29年 12.4 16.7 16.3 14.3 13.1 17.3 15.3

(出典:法務省

行政法は直近5年中、4回も平均点がワーストでした。

このデータから他科目に比べて行政法で得点できない受験生が多いことが推察されます。

 

予備試験合格の鉄則として『苦手科目を作らない』ことが重要ですが、多くの人が苦手科目としてしまう行政法には特に注意して対策をする必要がありそうです。

 

2 行政法のここが難しい〜短答式試験編〜

行政法の難易度が高いのには理由があります。

それは、他の科目にはない行政法の特殊性が原因です。

以下は、なぜ予備試験の行政法が難しいのかを解説していきます。

 

(1) 消去法が使えない!

 

予備試験行政法の短答式試験では、以下のような消去法が使えない問題が出題されます。

 

訴えの利益に関する次のアからエまでの各記述について,最高裁判所の判例に照らし,それぞれ正しい場合には1を,誤っている場合には2を選びなさい。(解答欄は,アからエの順に[No37] から[No40])

ア.土地改良事業施行認可処分の取消訴訟の係属中にその事業計画に係る工事及び換地処分が完 了したときは,事業施行地域を原状に回復することは社会通念上不可能であり,当該処分の取 消しを求める法律上の利益は消滅する。[No37]

イ.自動車運転免許の効力停止処分を受けた者について,その効力停止期間が経過しても,当該 処分を理由に道路交通法上不利益を受けるおそれがある期間が経過していないときは,当該処 分の取消しを求める法律上の利益は消滅しない。[No38]

ウ.行政手続法により定められ公にされている処分基準において,先行処分を受けたことを理由 として後行処分に係る量定を加重する定めがあっても,そのような量定の加重は先行処分の法 的効果によるものとはいえないから,先行処分に当たる処分の効果が期間の経過によりなくな った後は,当該処分の取消しを求める法律上の利益は消滅する。[No39]

エ.本邦に在留する外国人が再入国許可申請に対する不許可処分を受けて,再入国許可を受けな いまま出国した場合には,当該不許可処分が取り消されても当該外国人が従前の在留資格のま まで再入国することを認める余地はないから,当該不許可処分の取消しを求める法律上の利益 は消滅する。[No40]

(出典:法務省「令和3年司法試験予備試験短答式試験『憲法・行政法』第19問」)

上記のように、ア からエの文章の正誤をそれぞれ判断していく問題の多くは2問以上間違えると1点も得点が入りません。そのため、一つ一つの知識を正確に覚える必要があります。

このような問題形式は判例知識を問う問題でよく見られます。

もっとも、同じ公法科目である憲法でも上記のような形式で判例知識を聞いてくる問題があります。

では、なぜこの形式の行政法の問題が行政法の難易度を上げていると言えるのでしょうか?

それは、行政法の判例は憲法よりも正確な理解を保持しておくのが難しいからです。

上記の問題を解く際には、『土地改良事業施行認可処分とは何か?』『再入国許可申請とは何か?』といった受験生一般が馴染みのない行政手続について理解する必要があります。

多くの判例を覚える中で、こうした個別の行政手続について忘れてしまう受験生が多く、試験本番で判例の結論や理由づけを思い出せないという受験生はかなりいるようです。

 

(2) 長く複雑な条文の正確な理解が問われる。

 

予備試験行政法の短答式試験では毎年、情報公開法や行政不服審査法と言った法律の条文知識がダイレクトに問われます。

 

行政不服審査法における審理員に関する次のアからエまでの各記述について,同法に照らし,

れぞれ正しい場合には1を,誤っている場合には2を選びなさい。(解答欄は,アからエの順に[No 51]から[No54])

ア.行政不服審査法は,審理手続の公正中立性とともに簡易迅速性を確保するという観点から, 審査庁に対し,審査請求に係る処分に関与した者以外の者を審理員に指名するよう努めるべ き義務を課すにとどめている。[No51]

イ.行政不服審査法は,口頭意見陳述の対審的構造を確保するという観点から,審査請求人の申 立てに基づき口頭意見陳述を行う場合,審理員に対し,審査請求人のみならず,処分庁を含む 全ての審理関係人を招集して行うことを義務付けている。[No52]

ウ.審理員は,審理手続を終結したときは,審理員意見書を作成した上で,審査庁が主任の大臣 である場合にあっては,当該審理員意見書を行政不服審査会に提出し,諮問しなければならな い。[No53]

エ.審査庁は,審理員意見書に拘束されるわけではないが,裁決の主文が審理員意見書と異なる 内容である場合には,異なることとなった理由を裁決書に記載しなければならない。[No54]

(出典:法務省「令和3年司法試験予備試験短答式試験『憲法・行政法』第24問」)

 

上記の問題のアを見てみましょう。

この文は『誤り』と解答するのが正解なのですが、この解答を導くには行政不服審査法9条の知識が必要です。

それでは同条を見てみましょう。黄色のアンダーラインが引かれた部分が解答の根拠です。

 

 

第九条 第四条又は他の法律若しくは条例の規定により審査請求がされた行政庁(第十四条の規定により引継ぎを受けた行政庁を含む。以下「審査庁」という。)は、審査庁に所属する職員(第十七条に規定する名簿を作成した場合にあっては、当該名簿に記載されている者)のうちから第三節に規定する審理手続(この節に規定する手続を含む。)を行う者を指名するとともに、その旨を審査請求人及び処分庁等(審査庁以外の処分庁等に限る。)に通知しなければならない。ただし、次の各号のいずれかに掲げる機関が審査庁である場合若しくは条例に基づく処分について条例に特別の定めがある場合又は第二十四条の規定により当該審査請求を却下する場合は、この限りでない。

 内閣府設置法第四十九条第一項若しくは第二項又は国家行政組織法第三条第二項に規定する委員会

 内閣府設置法第三十七条若しくは第五十四条又は国家行政組織法第八条に規定する機関

 地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)第百三十八条の四第一項に規定する委員会若しくは委員又は同条第三項に規定する機関

 審査庁が前項の規定により指名する者は、次に掲げる者以外の者でなければならない。

 審査請求に係る処分若しくは当該処分に係る再調査の請求についての決定に関与した者又は審査請求に係る不作為に係る処分に関与し、若しくは関与することとなる者

(以下、略)

 

いかがでしょう?

かっこ書きはたくさんありますし、『第〇項に規定する□□』などと他の条文の引用を多用していてとても読みづらいのではないでしょうか?

試験本番で、上記アの問題を解く際、9条2項1号にしっかりとたどり着くのは難易度が高いと言えます。

 

条文の知識を問う問題は民法などにもありますが、行政法の条文は長く、複雑なので受験生にとっては対策に苦労するようです。

 

(3) 短答式試験特有の対策をする必要がある。

 

また、予備試験行政法の短答式試験には、論文式試験ではほとんど問われたことはないけど、短答式試験では頻繁に聞かれる分野があります。

このような分野を司法試験業界では『短答プロパー』と呼ぶことがあります。

 

行政法はこの『短答プロパー』がとにかく多いのが特徴です。

行政代執行法や、情報公開法関連、行政不服審査法、国家賠償法などは近年の論文式試験で問われたことはほとんどありませんが、短答式試験ではほぼ毎年聞かれています。

 

予備試験の対策として論文式試験の対策をメインに据えるのがセオリーですが、こうした『短答プロパー』の対策が手薄になると行政法が短答式試験で足を引っ張って悲惨な結末を迎えることもよくあるようです。

3 行政法のここが難しい〜論文式試験編〜

(1) 超重要論点の複雑な処理が毎年問われる。

 

予備試験行政法の論文式試験では『処分性』『訴えの利益』『原告適格』と言った超重要論点が毎年聞かれます。

幅広い試験範囲を有する短答式試験とは対照的ですね。

 

これらの超重要論点に対処する最初の難関として、判例で挙げられた長い定義を覚える必要があります。

例えば、原告適格の問題なら行政事件訴訟法9条1項の『法律上の利益を有する者』の定義を毎回正確に書かねばなりません。

ほとんどの受験生はこの定義を正確に覚えているので、この定義を答案に書く段階でつまづくと致命傷になるリスクがあります。

 

さらに、問題文の事案を読んでこの重要論点の知識を運用する必要があります。

問題文の特殊性を丁寧に拾って、判例とどこが違うのかを検討しながら、自分の評価を加えて論文を作成しなくてはなりません。

 

『論証を丸暗記して、当日は答案にその論証を貼り付ければ答案の出来上がり!』と言った甘い考えが全く通用しないのが行政法の論文式試験の怖いところです。

(2) 初見の法律を見て現場で考えることが必要!

 

行政法の試験の特徴として、受験生の多くが初めてみるであろう法律を資料として添付してそれをもとに解答させる問題が毎年出題されます。

憲法との時間配分も考えながら、初見の法律を分析し、問題文の事情との関係でどのように運用されるかを考えるということは一朝一夕にできることではありません。

 

受験生は過去問や答練を何回も解く過程で初見の問題への対処方法を身につける必要があります。

 

 

4 短答式試験の攻略方法

以上、予備試験の行政法がなぜ難しいのかを分析しました。

ここからは、行政法の苦手を克服するための勉強方法を紹介していきます。

(1) 条文を素読する時間を確保しよう!

法律を1条から全部読んでいくことを素読といいます。

行政法の短答式試験の対策として試験範囲の条文を素読することは非常に有用です。

 

基本書やテキストはしっかり読むけれど、素読はしないという受験生がいます。

確かに基本書などは条文の内容が要約されて読みやすいですが、行政法短答式試験は条文の文言をベースに作成されています。そのため、一度も生の条文を見たことない受験生と条文をしっかり素読した受験生とでは必然的に差が生じます。

また、問題を解いて答え合わせの時に問題を解答するための根拠条文だけ確認するけど、素読をするのは面倒臭いという受験生もいます。

しかし、それでは各法律を構造的に理解することができません。

行政法の試験範囲の条文は『第〇項に規定するように』というように他の条文の引用を多用していて、一部の条文を見ただけでは条文構造を理解するのが難しいです。

そのような法律を理解し、試験本番で活用できるようにするためには、問題ごとに個別に条文をチェックするより、時間を確保して素読することが効率的です。

そうは言っても、あの長い条文を素読するのは大変です。

そんな時は蛍光ペンでカッコ書き以外の本文を塗りながら読んでみてください。

条文の意味が掴みやすくなりますし、次に確認するときも瞬時に条文の内容を思い出すことができます。

また、但書で色を変えると原則と例外を整理して覚えられるのでおすすめです。

 

先ほどの行政不服審査法9条1項の場合ですと、以下のようになります。

 

第九条 第四条又は他の法律若しくは条例の規定により審査請求がされた行政庁(第十四条の規定により引継ぎを受けた行政庁を含む。以下「審査庁」という。)は、審査庁に所属する職員(第十七条に規定する名簿を作成した場合にあっては、当該名簿に記載されている者)のうちから第三節に規定する審理手続(この節に規定する手続を含む。)を行う者を指名するとともに、その旨を審査請求人及び処分庁等(審査庁以外の処分庁等に限る。)に通知しなければならない。ただし、次の各号のいずれかに掲げる機関が審査庁である場合若しくは条例に基づく処分について条例に特別の定めがある場合又は第二十四条の規定により当該審査請求を却下する場合は、この限りでない。

 内閣府設置法第四十九条第一項若しくは第二項又は国家行政組織法第三条第二項に規定する委員会

 内閣府設置法第三十七条若しくは第五十四条又は国家行政組織法第八条に規定する機関

 地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)第百三十八条の四第一項に規定する委員会若しくは委員又は同条第三項に規定する機関

 

いかがでしょう?

第9条1項が『審査請求された行政庁は、審理手続を行うを指名して、審査請求人と処分庁にその旨通知しなければならない』ことを定めた規定だと大意が掴みやすくなったのではないでしょうか?

 

(2) 行政法の判例は『問題』『結論』『理由づけ』をメモして

 

判例を学習する際にはテキストや、基本書に『何が問題となったか?』、『判例はどんな結論を出したのか』、『その理由は何か』を小さくメモをしておくと覚えやすくなりますし、試験直前に効率的に復習することができます。

また、自分の言葉で端的に判例の内容をまとめることで記憶に定着しやすくなる効果もあります。

 

例えば、土地区画整理事業の事業計画決定に取消訴訟の処分性を認めた判例(最大平20.9.10)だと、以下のようにメモをするといいでしょう。

 

問題点:事業計画決定に処分性認めていいの?

    (普通、行政計画は紛争の成熟性が認められないから、だめ)

結論:処分性、肯定

理由づけ: 実行的権利救済のため。土地区画整理事業の事業計画決定がなされたら換地処分が当然予定されてるし、換地処分の取消判決は事情判決がなされてしまうから。

(この決定に処分性を認めないと換地処分を受ける予定の土地所有者は争うチャンスがない!)

 

また、『土地区画整理事業』『換地処分』『事情判決』と言った判例を理解するのに重要な難しい単語が出てきたら、その意味もメモしておくといいでしょう。

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5 論文式試験の攻略法

(1) まず頻出論点をしっかり押さえよう!

 

論文式試験の対策として、『処分性』『原告適格』『訴えの利益』を完璧にマスターしましょう。

予備試験合格には周りの受験生に差をつけることよりも、差を付けられないことが重要です。上記重要論点で周りの受験生が当たり前にできることを当たり前にできるようになりましょう。

 

まずは定義をしっかり覚えます。

その次に重要論点に関連する判例を整理して覚えましょう。

例えば一言で『処分性』の判例と言っても、国民に対して法的効果性があるかが問題になった判例もあれば、紛争の成熟性が問題になった判例もあります。

そう言った各判例を類型別に整理して覚えることで、本番で問題を読んだ際に『あの判例の問題と同じことが問題になるな』と気づくことができるようになります。

 

(2) 過去問を繰り返して処理手順をマスターしよう!

初見の法律の処理を求められる行政法の論文式試験で安定的に得点をするには、試験への慣れが重要になります。

 

ここで、行政法の試験に慣れるためにたくさんの問題集に手をだす受験生もいますが、おすすめなのは過去問を2回、3回と繰り返し解くことです。

繰り返し同じ問題を解くことで、より完成度の高い答案を自力で書けるようになります。

また、試験本番で初見の問題に出会った際も、『繰り返し解いた〇〇年の過去問の処理手順と同じ考え方ができるな』と気づくことができます。

 

同じ問題を何度も解くのは退屈に感じる人もいるでしょうが、有用なので是非試してみてください。

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予備試験の論文式試験の対策とは?試験の特徴・勉強法を解説

6 サマリー

いかがだったでしょうか?

予備試験の行政法は短答式試験、論文式試験共に独特な試験なので苦手とする受験生も多いです。しかし、条文を大切にし、判例を大切にし、過去問をしっかりマスターすることができれば必ず苦手科目から脱却することができます。

 

7 まとめ

  • 行政法の短答式試験の平均点は毎年低い。
  • 条文問題で得点するために素読がおすすめ。
  • 行政法の難しい判例は『問題点』『結論』『理由づけ』を端的にまとめて理解しよう
  • 『処分性』『原告適格』『訴えの利益』をまずは徹底的に対策。
  • 過去問を繰り返して処理手順をマスターしよう
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