予備試験に合格するための道のりとして、短答式試験・論文式試験・口述式試験の3つの試験を突破する必要があります。
勉強の仕方は、それぞれ様々あると思いますが、最初はインプットにフォーカスした勉強を進める方が多いのではないでしょうか?
一通りインプットが終わった段階で、いざ論文の勉強を始めると、答案が書けないという悩みを持つ方も多いのではないかと思います。知識は入っているはずなのに、科目ごとの論文が書けないという事態に陥ってしまう方は、もしかしたら論文対策が上手くいっていないのかもしれません。
この記事では、資格スクエアチャンネルを参考に、予備試験論文式の7科目について対策と攻略法をまとめました。是非参考にしてみてください。
1 予備試験論文式の全科目に共通する対策と攻略法
予備試験論文式試験は、その名のとおり、論文を書く試験です。論文式試験では、全10科目から出題されますが、それぞれ傾向と対策は異なります(後述します)。ただ、全科目に共通する対策があります。
それは、過去問を解くということです。
過去問はなるべく試験の直前までとっておき、直前期に力試しで受けたいと思う方もいるかもしれませんが、全く逆の発想になります。
過去問は一通りインプットの勉強が終わったら早い段階で一度解いてみるのがおすすめです。
なぜなら、過去問を解くことで、出題者が何を問うてきているのか、出題範囲を知ることができるからです。出題範囲を知ることができれば、それに見合った勉強計画を立てることができ、合格に必要な勉強が明確になります。
最初はとても難しくて解けないと思うかもしれませんが、この段階ではあくまで出題の傾向と対策を知ることが目的で合格答案を書くことが目的ではないので、気にする必要はありません。
早い段階で過去問をやることができれば、ずるずると長い勉強を続けずに最短合格を目指すことができるのです。
2 予備試験論文式 憲法の対策と攻略法
憲法には、答案の書き方に型があります。
予備試験の憲法では、基本的に同じような形式的な出題がされます。
ざっくりですが、ある法律(条例や立法段階の法律案、処分の場合もあります)が憲法上保障されている権利を侵害しており、違憲か合憲かということが問われます。
例えば、令和2年度の予備試験憲法では、
「以上のような立法による取材活動の制限について、その憲法適合性を論じなさい。」(出典:法務省)
また、平成31年度の予備試験憲法では、
「必要に応じて対立する見解にも触れつつ、この事例に含まれる憲法上の問題を論じなさい。」(出典:法務省)
と問うています。
この「憲法適合性」や「憲法上の問題」というのが、結論としてその法律や処分が違憲か合憲かということを聞いてきているのですね。
そして、答案としての型というのは、
簡単にいうと、憲法では、主に
①どんな権利が侵害されているか、
②侵害されている権利が憲法上保障されている権利なのか、
③当該権利はどの違憲審査基準を用いるか(違憲かどうかを判断する基準をどうするか)、
④本件の事例に違憲審査基準をあてはめたらどうなるか、
⑤結果として、合憲か違憲のどちらか、です。
憲法答案のイメージをつかめたでしょうか?
このように、憲法の論文ではこの処理手順に従って答案を書いていきます。
※この答案の型は、主に自由権についての答案の型になります。自由権以外の権利(平等権や社会権)については、別途書き方がありますが、この記事では省略させていただきます。
「この処理手順どおり書けば簡単じゃん!」と思う方もいるかもしれませんが、予備試験の論文式試験は相対評価試験なので、多くの受験生はこの答案の型通り答案を書きます。そうすると、ここでは合否は大きく決まらないといえます。
では、どこで合否が分かれるのかというと、それは一概には判断できないのですが、多くの受験生は、この処理手順に従って答案を書いていても、雑に書いてしまう場合があります。
違憲審査基準の部分を例に取り上げてみましょう。
憲法の表現の自由が問題になる場合、表現の自由というのは、政治に対して国民が意見することのできるかなり重要な権利です。ここでは多くの受験生が、重要な権利だと書きます。
重要な権利になると違憲審査基準も厳しい基準が必要だということになります。ただ、表現の自由といっても、色んな表現があります。例えば、「消費税増税が良いことだ」「日米安保条約が良い」「日米安保条約が悪い」というのは直接国会に主張する話で、表現の自由ですが、単なる誹謗中傷についても、表現の自由にはあたります。誹謗中傷については、どれほど保護する必要があるか。ここがまさに答案で悩みを見せるところになるんですね。
表現の自由といえば、権利として重要だし、厳しい違憲審査基準を用いるというイメージを持ってしまいがちですが、問題文で問題になっている表現の自由はそれぞれ内容が違うので、具体的に判断する必要があります。
ここが意外と難しいポイントになります。そして、問題文に書いてある事実を拾いながら、答案の型に沿って書く練習を積んでいくことがとても重要になります。
初めて問題を解く方は、参考答案などを見て良い答案のイメージをつかんでみるのも良いかもしれません。
上記でもお話しましたが、過去問を繰り返し解いてみて、それでもなかなか書けない方は、最初は答案の型を守れるようにするなど、段階的に学習を進めてみるのも良いでしょう。
今回は、自由権の答案の型をご紹介しましたが、予備試験では、統治法からの出題もあるので、統治法の分野もしっかり対策していきましょう。
1. 予備試験論文憲法の対策と攻略法
3 予備試験論文式 民法の対策と攻略法
(1) 当事者の主張(請求)を特定する
民法は、私人と私人、つまり個人間の関係を規定している法律です。
予備試験民法では、主に個人と個人との間で紛争が発生し、その紛争を解決する方法として、何ができるのかを問うてきます。
例えば、物を失ったとか、自分が所有している土地を誰かが勝手に使用しているというような場合があります。
そして、その人が「物を返せ」とか「この土地から出ていけ」などそういう主張をします。
このように、民法の問題では、誰かが何かしらの不利益を受けていて、この時に民法を参照しながらその個人のために何ができるのかを考えるのです。論文試験ではこうした事例が問われます。
この時に、特に重要なのは、不利益を受けている当事者が何を一番主張しているのか、何を要求しているのかを特定するということになります。
この当事者の「生の主張」から、民法上の請求権に置き換えて、法律上どのように救済することができるのかを考えます。
実はここは意外と受験生でも見誤ってしまうポイントでもあります。
出題者が想定している請求権と違う請求権に沿って答案を書いてしまい、点数がほとんど入らない場合もあるので、とても慎重にならなければなりません。
そのため、問題文を読む際には、当事者が一番不利益を受けているポイントは何なのか、当事者が一番要求したいことは何なのかをしっかり読解していく必要があります。
(2) 要件効果
当事者の請求権が特定出来たときに、次に問題になるのは、その請求権が認められるのかというところですね。
予備試験民法の論文では、その請求権が認められるのかということ聞いてくることもあれば、別の問い方をしてくる時もあります。
ただ、すべての問いに共通しているのは、民法の条文を適用した結果、ある「効果」が発生させるためには、条文上の「要件」を満たす必要があるということです。
そして、その「要件」にあてはまるというために、問題文に記載されている事実を拾っていくわけです。
例えば、Xさん(買主)がYさん(売主)との間でリンゴを10個500円で購入したとします。
しかし、Xさんが500円を支払わない場合に、Yさんは、Xさんに対して、売買契約に基づく代金支払請求をすることができます。
民法第555条により、Xさんは、リンゴを10個500円で買う、Yさんは、リンゴを10個500円で売るということについて意思の合致があったいうことがYさんの主張の根拠となります。
民法第555条
売買は、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。
では、Xさんが売買契約を錯誤(民法第95条)を理由に取り消したい場合の要件を見てみましょう。
民法第95条を見てみましょう。
民法第95条
1 意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。
一 意思表示に対応する意思を欠く錯誤
二 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤
2 前項第二号の規定による意思表示の取消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる。
3 錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には、次に掲げる場合を除き、第一項の規定による意思表示の取消しをすることができない。
一 相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったとき。
二 相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。
4 第一項の規定による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。
民法95条に基づいて取り消すための要件は、
①-1「意思表示に対応する意思を欠く錯誤」(95条1項1号)
①-2「表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤」+「法律行為の基礎とされていることが表示されていたとき」(95条1項2号、95条2項)
②「錯誤に基づくもの」(95条1項柱書)
③「その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるとき」(95条1項柱書)
となります。
これらの要件に該当すれば、効果として、
「意思表示」は「取り消すことができる。」(95条1項柱書)ということになります。
上の要件を満たさなければ、効果は発生しないので、一つでも要件を満たさなければ、Xさんは売買契約を取り消すことはできません。
これが要件と効果の関係になります。
そして答案では、この要件に該当する事実を問題文中から拾ってあてはめていく作業をするわけです。
ただ、よく言われている「論点主義」に陥ってしまうと、当事者の生の主張や、この要件効果を意識しないで、答案の冒頭から、「重大な過失」から検討してしまったり、この論点で何説に立つべきか、などを書いてしまうのです。
上記でもお話したように、請求権から答案を書く受験生と、論点から答案を書く受験生では、書いている内容は同じように見えても、点数では大きな差ができてしまうんですね。
逆にいえば、ここさえしっかりおさえれば、それだけで合格答案に近づくことができます。
2. 予備試験論文民法の対策と攻略法
4 予備試験論文式 刑法の対策と攻略法
刑法にも、刑法特有の答案の型があります。
刑法は総論と各論にわかれています。刑法総論は、主に構成要件、違法性、責任、共犯に分かれており、この順番に沿ってこれらを満たしているかどうかを答案に書いていきます。
刑法各論は、簡単にいえば個別の犯罪のことで、例えば窃盗罪や殺人罪です。
それぞれの犯罪にも構成要件はそれぞれあり、その意味内容を勉強していくのが各論になります。例えば、窃盗罪の「財物」って何なのかを各論で勉強していきます。
他方で、予備試験刑法では、「甲の罪責について論じなさい」(令和2年度予備試験刑法の出題)という問い方をしているので、甲はどの犯罪を犯しているのかというところから分析する必要があります。
これには、問題文中の事実から、犯罪を特定する必要がありますが、例えば、窃盗罪と横領罪では財産犯で共通しており、行為の態様も似ているところがあるので、どちらの犯罪に該当するのか判断することは意外と難しいです。
予備試験や司法試験では、このように、刑法各論の部分で、どちらの犯罪か迷わせる問題が出されるので、特に注意が必要です。
勉強をする際にも、共通している犯罪について、構成要件のうちどこが異なるのかを意識しながらやると良いでしょう。
最初はなかなか型とおりの答案が書けないかもしれませんが、予備試験の過去問を何度も解く中で、だんだん答案の型が身についてくると思います。また処理手順や問題文の分析も洗練されているので、何度も何度も解いてみるのがおすすめです。
5 予備試験論文式 商法・会社法・手形法の対策と攻略法
予備試験商法からは、商法・会社法・手形法から出題されます。
予備試験の論文からは、主に会社法から出題されることが多いです。また、会社法の問題の中でも予備試験の論文式に出る部分は絞られています。
例えば、他の取締役が粉飾決算をしていることに気づきながら、別の取締役がこれを放置していた場合の取締役の責任や、取締役が取締役会の承認を経ずに大規模の借入れをした場合などです。商法や手形法からの出題もありますが、会社法は特に身近にある法律なので、出題頻度が高い会社法から対策をしていくのがおすすめです。
会社法は民法の特別法になります。つまり、民法の一般原理のもとでは、外れた事例について会社法が適用されます。会社法と民法で同じことがか書いてあったら特別法である会社法が適用されるということですね。
会社法の特徴としては、民法と比べて論点が比較的多いのですが、問われる論点の数も多いので、試験時間内に全て書ききるためには、できるだけコンパクトに書き上げることが重要になります。
コンパクトに書き上げると簡単に言っていますが、最初からコンパクトに書ける人はいませんし、テクニカル的な部分を伴うので、過去問を何度も解いて行く中で身に着ける必要があります。
上述したように、会社法で出題される分野は限られているので、過去問と類似した論点が出題される可能性が高い科目といえます。
過去問をやっておいて損はないので、是非早い段階からたくさん解いていきましょう。
4. 予備試験論文式 商法・会社法・手形法の対策と攻略法
6 予備試験論文式 民事訴訟法の対策と攻略法
民事訴訟法は、これまで紹介してきた憲法・民法・刑法とは違い、手続に関する法律になります。
例えば、当事者が訴えたいというときに、そのルールを決めているのが「民事訴訟法」や「刑事訴訟法」(後述)になります。
民法や刑法に比べると、民事訴訟法は身近にない法律なので、苦手意識の多い受験生は多いのではないでしょうか。
例えば、「既判力」や「弁論主義」なども、民事訴訟法で毎年頻繁に出題されている割に、多くの受験生は躓いてしまいます。実は、これらの分野について、いろんな角度から聞かれるところが、民事訴訟法が難しい要因の一つといえます。
民事訴訟法では、定義を覚えるのは簡単でも、どういう場面で、どういう働き方をするのかを理解しないといけないので、暗記部分がとても少なく、制度について理解しているのかどうかが特に問われる科目といえます。
これは、逆を言えば、予備試験過去問がとても重要なことを意味しています。ただテキストを読んで勉強をしても、いざ過去問を解いてみると、全く書けないなんてこともあります。民事訴訟法は、インプットとアウトプットのギャップを一番感じてしまう科目かもしれません。
民事訴訟法は、特に基本概念がとても大事です。既判力や弁論主義などの基本概念について過去問を解きながら理解を深めていけば、合格レベルに近づけるので、なるべくアウトプットに勉強をシフトしていってください。
5. 予備試験論文式 民事訴訟法の対策と攻略法
7 予備試験論文式 刑事訴訟法の対策と攻略法
予備試験で出題される刑事訴訟法の分野は大きく分けると「捜査」と「証拠」に分かれます。
捜査は、ドラマなどでも刑事や捜査したりするのを目にするので、比較的イメージしやすいかと思います。
例えば、麻薬をやっている疑いのある不審者に対して、職務質問の範囲でどこまで捜査できるか、採尿を拒否した場合に強制することはできるのか、などです。この場合に捜査官が捜査として認められている範囲を超えた捜査をしているのか、その捜査の適用性が問題になります。
これに対して、「証拠」の分野では、仮にその捜査が違法だったとすると、その捜査に基づいて押収した採尿は証拠としていいのか、証拠能力が認められるのかという問題になります。
特に、民事訴訟法で頻繁に出題されるのは、「伝聞証拠」です。
伝聞証拠は頻繁に出題されていますが、毎回いろんな角度から聞いてくるので、暗記だけでは対応できない問題で受験生の多くが躓くところでもあります。
何度も繰り返しますが、過去問を何度も解き、判例やケースごとに伝聞証拠の理解を深める必要があります。
8 予備試験論文式 行政法の対策と攻略法
実は、「行政法」という法律は存在していないことをご存じですか?
行政に関連する複数の法律をまとめて行政法と読んでいるだけで、実は行政法という法律はないんです。
予備試験によく出る行政に関連する法律でいえば、行政事件訴訟法や、行政手続法などがあります。
たくさん法律があると、じゃあどこから手をつければいいの?って思われると思います。
予備試験や司法試験で出題される行政法は、他の法律と違って行政法上の論点や判例は少なく、試験範囲も他の科目に比べて狭いです。
暗記しないといけない部分も少なく、暗記がもともと苦手な方にとっては有利な科目といえるかもしれません。
逆にいえば、暗記に頼っている方にとっては苦手意識が強い科目かもしれません。
また、行政に関連する個別の法律が出題されるので、初めてみるような法律を試験本番で見ることになります。そして、これらの個別法を本番で読み、法律の仕組みを理解した上で問題を解かないといけないので、行政法は他の科目に比べて、「法律の本質」を理解していないといけない点で難しいともいえます。
最初に学習する段階ではとても難しく感じ、見たことのない法律を本番で読んで理解することの苦手意識を持つ受験生も少なくありません。
しかし、例えば、他の科目を先に優先して学習をしていき、一定程度学習が進んだ段階で行政法の勉強に入れば、意外とスムーズに理解ができるようになることもあります。暗記も少ないので、とても効率的な方法ともいえます。
行政法が苦手という方は、他の科目の勉強を先にやり、行政法は一番最後に勉強する方法でトライしてみるのがおすすめです。
9 サマリー
以上が予備試験の法律基本7科目の論文対策・攻略法となります。
これから予備試験の学習を始める方は、一度先に読んで対策を知っておくことがとても重要です。予備試験の論文式突破のヒントが随所にあるので、これで論文式の合格に向けて頑張っていきましょう!
- 予備試験論文式の対策として、法律基本7科目全てに共通していることは、過去問を必ず解く(早めの段階で)ということ
- 予備試験論文式憲法では、答案の型に沿って書けるようになりましょう
- 予備試験論文式民法では、当事者の生の主張と、要件効果を意識して勉強していきましょう
- 予備試験論文式刑法では、刑法総論と刑法各論をそれぞれ理解し、刑法答案の型に沿って書けるようになりましょう
- 予備試験論文式商法では、特に会社法の対策が重要
- 予備試験論文式民事訴訟法では、手続きの流れを理解しながら、基本概念の理解を深めていきましょう
- 予備試験論文式刑事訴訟法からは、主に捜査法と証拠法から出題される
- 予備試験論文式行政法では、法律の本質を理解していることが問われるため、一番最後に勉強するのがおすすめ