最近ニュースでも目にすることのある「弾劾裁判」ですが、裁判官が訴追されるというのは、相当重大なことと感じる方も多いのではないでしょうか。
裁判官が実際に罷免されてきた数はまだ少ないですが、裁判官が独立した公正な裁判を行うためには、弾劾制度は重要な制度なのです。
この記事では、弾劾裁判について解説します。
1 弾劾裁判とは
弾劾裁判は、「裁判官弾劾裁判所」で行われます。
この「裁判官弾劾裁判所」とは、
「裁判官の身分にふさわしくない行為をしたり、職務上の義務に違反したとして、裁判官訴追委員会(さいばんかんそついいいんかい)から、罷免の訴追を受けた(訴えられた)裁判官を辞めさせるかどうか判断する裁判所です。
また、辞めさせた裁判官に、失った資格を回復させるかどうか判断する裁判所でもあります。」
出典:裁判官弾劾裁判所
弾劾裁判というのは、要するに裁判官が身分にふさわしくない行為をしたり、職務上の義務に違反した場合に、裁判官訴訟委員会が罷免の訴追を受けた裁判官を辞めさせるかどうかを判断する裁判ということになります。
裁判官は、日本国憲法や法律に基づき、公正な裁判を行い、国民の権利を守るという重大な責務を負っていますが、その責務を全うするためには、国会や内閣などからの圧力を受けずに、独立の立場として職務を果たすことが求められています。
もっとも、そのような立場である裁判官が立場を利用して公正な裁判を揺るがすような行為をした場合には、国民の権利が守れなくなってしまうため、日本国憲法64条に基づき、裁判官を特別に訴追できる弾劾裁判制度ができました。
また、憲法64条に基づき、昭和22年に裁判官弾劾法が制定されました。
ちなみに、弾劾裁判を受けた裁判官は延べ9人で、そのうち罷免された裁判官は7人います。
2 どういう場合に裁判官は罷免される?
罷免事由については、裁判官弾劾法第2条に規定されています。
裁判官弾劾法
第二条 弾劾により裁判官を罷免するのは、左の場合とする。
一 職務上の義務に著しく違反し、又は職務を甚だしく怠つたとき。
二 その他職務の内外を問わず、裁判官としての威信を著しく失うべき非行があつたとき。
これまで、裁判官が罷免された例として、以下のような事例があります。
①事件のすみやかな処理を怠り多数の事件を失効させた
②民事の紛争に介入した
③にせ電話の録音テープを新聞記者に聞かせた
④事件関係者から物を受け取った
⑤児童買春(じどうかいしゅん)をした
⑥女性に対してストーカー行為をした
⑦電車内で盗撮行為をした
出典:裁判官弾劾裁判所
3 弾劾裁判の手続き
(1) 訴追手続
弾劾裁判は、裁判官訴追委員会という、別の機関から罷免の訴追があった場合に開かれます。
裁判官訴追委員会は、独自で罷免事由について調査することができます。そして、罷免事由があると認められた場合に、弾劾裁判所に対して罷免の訴追をすることができます。
一方で、罷免事由がないと判断した場合には、不訴追の決定をし、罷免事由があると認められた場合でも、情状により罷免の訴追をする必要がないと判断した場合には、訴追猶予の決定をします。
(2) 罷免訴追事件の裁判
罷免の訴追がなされると、弾劾裁判所は公判手続を開始します。
公判手続は、原則として公開の法廷で行われ、誰でも傍聴することができます。
弾劾裁判は、衆議院議員7名と参議院議員7名の裁判員で行われます。
14名からなる裁判員のうち、3分の2以上が罷免に賛成した場合に、罷免の判決を宣告します。
罷免の判決がなされると、その効果として、審理の対象となる裁判官は、裁判官としての身分を失うことになります。
(3) 資格回復裁判請求
弾劾裁判所は、一審かつ終審なので、判決は確定とし、不服申し立てをすることができませんが、唯一、資格回復裁判請求により、罷免の判決を受けた裁判官は、資格回復の請求をすることができます。
この場合の資格回復の事由としては、裁判官弾劾法第38条により、2つの事由が規定されています。
(資格回復の裁判)
第三十八条 弾劾裁判所は左の場合においては、罷免の裁判を受けた者の請求により、資格回復の裁判をすることができる。
一 罷免の裁判の宣告の日から五年を経過し相当とする事由があるとき。
二 罷免の事由がないことの明確な証拠をあらたに発見し、その他資格回復の裁判をすることを相当とする事由があるとき。
② 資格回復の裁判は、罷免の裁判を受けた者がその裁判を受けたため他の法律の定めるところにより失つた資格を回復する。
2号事由については、例えば、判決で採用された証拠が偽造されたものであったり、証人が偽証していたことが後に判明した場合などです。
資格回復裁判により、資格回復の決定がされた場合には、裁判官としての資格が回復され、資格回復事由がないと判断された場合には、請求が棄却されます。
4 サマリー
弾劾裁判は、裁判官を罷免するか否かといった審理をするためだけにありますが、現行制度においては、公正な裁判の実現のために欠かせない重要な制度だといえます。裁判官に興味のある方や、受験生の方は、これを機に一度弾劾裁判について学習してみてくださいね。
5 まとめ
- 弾劾裁判は、裁判官が身分にふさわしくない行為をしたり、職務上の義務に違反した場合に、裁判官訴訟委員会が罷免の訴追を受けた裁判官を辞めさせるかどうかを判断する裁判。
- 罷免事由は、①職務上の義務に著しく違反し、又は職務を甚だしく怠つたとき、②その他職務の内外を問わず、裁判官としての威信を著しく失うべき非行があつたとき。(裁判官弾劾法第2条)
- 弾劾裁判の手続きは、①訴追手続き、②罷免訴追事件の裁判に沿って行われる。
- 裁判官は、罷免を受けた場合でも、資格回復裁判請求により、資格回復の事由があると判断された場合には、法曹の資格を回復することができる。