この記事では企業内弁護士(インハウスローヤー)の仕事内容や、他の一般の弁護士と比較した場合のメリット・デメリット、どうすれば企業内弁護士になれるのかという点について解説しています。近年、企業内弁護士はますます注目されており、皆さんも将来の選択肢として気になっていると思います。ぜひ今回の記事をみなさんの将来の職業選択の参考にしてみてくださいね。
1 企業内弁護士(インハウスローヤー)とはどんな弁護士?
まず、今回の記事で扱う企業内弁護士(インハウスローヤー)とはどのような弁護士のことを意味するのでしょうか。一般的にみなさんがイメージする弁護士は法律事務所に所属し、民事事件や刑事事件などの裁判や和解交渉などの業務を行うというイメージがあると思います。
一方、企業内弁護士は法律事務所ではなく特定の企業の法務部に属し、当該企業の法務を行う弁護士のことを指しています。
2 企業内弁護士の人気の高まり
近年、企業内弁護士の人気・需要は非常に高まっています。
まず、法務省の令和元年のアンケートによれば現在法曹等を志望しているか、選択肢の 1つとして考えている学生が、法曹等の活動領域が拡大している分野のうち興味・関心がある分野はどれかという質問に対して、企業内弁護士を選択した学生は63.2%と過半数を超え、非常に高い人気が伺えます。
(出典:法務省、文部科学省による法学部に在籍する学生に対する法曹志望に関するアンケート調査結果)
次に、2021年6月時点での企業内弁護士を抱える企業上位20社は以下の通りとなっており、特に大企業において多くの企業内弁護士が勤務していることがわかります。また、全体での採用企業数は1,324社、採用人数は2,820人と非常に多く、企業内弁護士に対する強い需要が伺えます。
3 企業内弁護士(インハウスローヤー)の仕事
それでは、企業内弁護士は具体的にはどのような業務を行っているのでしょうか。
すでに説明した通り、企業内弁護士は法律事務所ではなく企業の法務部に属している弁護士のことです。この法務部において企業内弁護士は、企業の契約関連業務やコーポレート・ガバナンスの維持や、コンプライアンスといった業務を行います。また、企業活動を行う際の法的な観点での相談や検討も行います。具体的な業務について個々に見ていきましょう。
まず、契約関連業務については、企業と他の法人や個人が契約を締結する場合において、後の法的なトラブルを防ぐために契約書のチェックをするなどの仕事が挙げられます。
次にコーポレート・ガバナンスという単語は横文字である上、聞き慣れない言葉なので簡単に説明します。上場企業などでは、所有者である株主の利益をあげるために経営者が適切な行動をしているか、また、企業の不正行為等の不祥事の防止のため社外取締役を設置するなどして経営者を監視することが求められます。この仕組みをコーポレート・ガバナンスといいますが、企業内弁護士はそのコーポレート・ガバナンスを維持する仕事も行います。
最後のコンプライアンスについては企業内での相談窓口や社内規定の整備などの業務が含まれます。
以上のような企業内弁護士は、第三者として相談や助言を行う企業法務系の法律事務所に所属する弁護士とは異なり、企業という当事者としての目線から業務を行うという点が特徴です。
4 企業内弁護士(インハウスローヤー)になるメリット
ここまで説明してきた企業内弁護士ですが、実際に将来の職業として選択するメリットはどこにあるのでしょうか。資格スクエア創業者の鬼頭が語る、企業内弁護士のメリットについて解説します。動画を併せて参考にしてみてください。
資格スクエア創業者の鬼頭によれば、一般的にいわれている企業内弁護士のメリットは①ワークライフバランスが実現しやすい、②福利厚生が充実している、③事業やビジネスに携わることができる、④年収が安定しているという4点にあるといいます。いずれも一般の法律事務所所属の弁護士と比較した場合のものですが、やはり企業内弁護士はサラリーマンとして働くため、個人事業主として働くことが多い弁護士と比べれば、待遇面などでの違いが見られます。
特に④の年収が安定している点については、日本組織内弁護士協会における2021年3月のアンケート調査によれば、企業内弁護士の年収は以下の通りとなっています。
出典:日本組織内弁護士協会による企業内弁護士に関するアンケート調査
多くは年収500万〜1,000万未満に収まっており、平均的なサラリーマンよりは年収は多いといえるのではないでしょうか。また、割合的には多いとは言えないものの、年収1,000万円以上の弁護士もおり、高収入を目指すことも十分可能な職業であるといえます。
また、①のワークライフバランスを実現しやすいという点については、同協会による企業内弁護士の平均的な勤務時間や土日祝日の勤務の有無に関する2021年3月のアンケート結果をご覧ください。
出典: 日本組織内弁護士協会による企業内弁護士に関するアンケート調査
こちらは企業内弁護士の平均的な勤務時間や土日祝日の勤務の有無に関する2021年3月のアンケート結果です。平均的な勤務時間は8時間〜9時間未満と答えた弁護士が最も多い結果となっています。また、土日祝日等の勤務の有無に関しては70%の弁護士は「ほとんどない」と解答しており、激務となりやすい一般の弁護士と比べればプライベートの時間を確保しやすいといえます。
5 企業内弁護士になるにはどうすればよいか
以上のように企業内弁護士は法曹の一選択肢として魅力的なメリットがあります。では、そのような企業内弁護士になるにはどうすればよいのでしょうか?
まず、企業内弁護士は弁護士、つまり法曹であるため、1年間の司法修習を経て法曹資格を取得する必要があります。そして、司法修習に行くためには、みなさんもご存知のとおり司法試験に合格しなければなりません。ただし、その司法試験を受験するためには、受験資格として①法科大学院を修了するか(なお、令和5年度司法試験からは一定条件のもと法科大学院在学中受験が可能となります)か、②司法試験予備試験に合格する必要があります。
①の法科大学院修了というルートは、時間や費用がどうしても多くかかってしまったり、現在すでに社会人であるという方には働きながらの法科大学院修了は難しかったりするというデメリットがあります。そこで、皆さんは②の司法試験予備試験の合格を目指すと良いでしょう。合格率は高くはないものの、司法試験予備校できちんと対策すれば合格することができる試験ですし、社会人の方でも挑戦しやすいでしょう。
6 サマリー
いかがだったでしょうか。記事で見てきたように、企業内弁護士の注目度は近年ますます高まっているといえます。一般の法律事務所に属する弁護士とは異なり、紛争当事者となりうる企業の中において働くという点で仕事内容や性質も大きく異なります。また、福利厚生や年収などといった待遇や働きやすさの面でも大きく違いがあります。皆さんも今回の記事を参考に、将来の選択肢の1つとして企業内弁護士を考えてみてくださいね。
7 まとめ
- 企業内弁護士の人気は近年高まっている
- 企業内弁護士の仕事内容は、契約関連業務やコーポレート・ガバナンス、コンプライアンスに関するもの
- メリットはワークライフバランスの実現や福利厚生・年収の安定さなどにある
- 企業内弁護士になるには、司法試験やそのための司法試験予備試験の合格を目指すのがオススメ