司法試験に合格して弁護士になれば税理士にもなれる?それぞれの資格の比較、免除制度についても解説

司法試験

もし、司法試験に合格したらどんな職業に就くことが出来るでしょう?

多くの人は法曹三者(弁護士、裁判官、検察官)になりますが、実はそれだけではありません。実は、司法試験合格者や弁護士には一定の他の士業の資格を取得することが法律上認められています。

 

そして、税理士資格もその一つです。

本記事では、弁護士が税理士になる方法、税務のプロフェッショナルたる税理士と法律のプロフェッショナルたる弁護士のそれぞれの業務について解説していきます。

国家資格の取得を検討している方の一助となれば幸いです。

 

1 弁護士は無試験で税理士になれる?

結論から言えば、弁護士は税理士試験を受けることなく税理士になることができます

すなわち、弁護士資格を有していれば後は税理士会に登録するだけで税理士と名乗ることができます。

その根拠条文は税理士法第3条3号です。

 

 “第三条 次の各号の一に該当する者は、税理士となる資格を有するただし、第一号又は第二号に該当する者については、租税に関する事務又は会計に関する事務で政令で定めるものに従事した期間が通算して二年以上あることを必要とする。

 税理士試験に合格した者

 第六条に定める試験科目の全部について、第七条又は第八条の規定により税理士試験を免除された者

 弁護士(弁護士となる資格を有する者を含む。)”

 

 この条文を見ると1号で『税理士試験に合格した者』と並んで3号で『弁護士』が挙げられていることから、弁護士資格保持者は税理士試験合格者と同等であると見なされていることがわかります。

 

また、『弁護士となる資格を有する者』を含むと付記されているので、厳密に言えば弁護士資格を有していなくても、司法試験に合格して司法修習を終えれば税理士資格を得ることができます(弁護士法第4条)

2 弁護士と税理士の業務内容の比較

以上のように弁護士資格を取得すれば、税理士資格も取得することができますが、そもそも、弁護士と税理士はそれぞれどんな仕事をするのだろう?と気になりませんか。

ここでは、それぞれの業務について簡単に比較していきます。

(1) 弁護士の業務内容

弁護士は法律の専門家として紛争の解決や紛争の発生防止に務めることが主な仕事です。

 

弁護士特有の活動分野として訴訟における弁護人としての役割があります。

刑事事件であれば、捜査段階における被疑者の取調べ等に対するサポートや、裁判段階において検察官の提示する証拠を吟味して証拠能力や証明力を争ったり、被告人に有利な事情を主張するなどの被告人の弁護活動を行います。

また、民事裁判であれば、例えば一般民事、交通事故、労働問題、家事問題等を裁判所で争う際に当事者の代理人として紛争解決に携わります。

また、こうした訴訟の際には、訴訟に入る前の段階の交渉も弁護士の重要な仕事です。

そして、このような訴訟の場面以外でも最近では弁護士の活動の幅は広がってきています。

例えば、企業の法務部などで活躍するインハウスロイヤーは契約書をチェックしたり、M&Aの際に法的なアドバイスをしたり、企業の有する知的財産の管理を行うなどをしています。

 

(2) 税理士の業務内容

税理士の業務内容は税理士法第2条に明記されています。

まず、法令に基づき依頼者に代わって税務官公署に申告や主張を行う税務代理があります。

また、税務官公署に提出する書類作成を行う 税務書類の作成もあります。

そして依頼者からの税務相談にのるのも税理士の仕事です。

以上の3つの仕事は税理士の独占業務として、税理士資格がないと原則として行うことはできません

 

また、最近では租税知識を生かして、企業の節税につながるスキームを提案するといった税務コンサルティングを行う税理士もいるようです。

3 司法試験と税理士試験の違い

次に、弁護士になるために突破すべき司法試験と、合格すれば税理士になることのできる税理士試験の違いについて見ていきます。

 

(1) 受験資格

① 弁護士

司法試験を受験するには受験資格を取得する必要があります。司法試験の受験資格を取得する方法は二つあります。

 

まず、法科大学院を修了することです。この方法は、さらに二つに分かれており、法律について学んだことがない人が対象の未修者コースと法律について学んだことのある既習者コースに分かれており、それぞれカリキュラムや修了までの長さが違います。

法科大学院を修了して司法試験の受験資格を取得する場合、既習者コースでは2年間、未修者コースでは3年間かかり、その間の学費が必要になります。尚、令和5年より一定の条件をクリアすることで法科大学院在学中でも司法試験を受験できるようになります。最新の情報は法務省ホームページやそれぞれの大学院から発信される情報をご確認ください。

次に、司法試験予備試験という試験に合格することでも司法試験の受験資格を得ることができます。

司法試験予備試験に合格すれば大学生でも司法試験に挑戦することができますが、合格率は3~4%と狭き門であると言えます。

 

② 税理士

税理士試験にも受験資格が必要です。

その受験資格を得るためには下記の表の学識、資格、職歴、認定のいずれか一つに該当する必要があります。

 

特徴的な点として、まず、『学識』で受験資格を得る場合、法律学または経済学に属する科目を履修する必要があります。在学中から税理士を目指す方は履修登録の際に注意をしましょう。

 

また、大学や短大、高専で法律学、経済学を学ばなかったという人は『資格』に記載のある日商簿記1級を取得することで税理士試験の受験資格を得ることもできます。

 

そして、『職歴』では、他の士業(​​​​弁理士、司法書士、行政社会保険労務士、不動産鑑定士)の業務や税理士、弁護士、公認会計士の業務の補助の事務に通算2年以上従事した人も受験資格を得ることができます。ご自分の経歴に当てはまるものがないか確認してみてください。

 

  受験資格
学識 大学、短大又は高等専門学校を卒業した者で、法律学又は経済学に属する科目を1科目以上履修した者
大学3年次以上の学生で法律学又は経済学に属する科目を含め62単位以上を取得した者
専修学校の専門課程(1.修業年限が2年以上かつ2.課程の修了に必要な総授業時数が1,700時間以上に限る。)を修了した者等で、法律学又は経済学に属する科目を1科目以上履修した者
司法試験に合格した者
旧司法試験法の規定による司法試験の第二次試験又は旧司法試験の第二次試験に合格した者
公認会計士試験短答式試験合格者(平成18年度以降の合格者に限る。)
公認会計士試験短答式試験全科目免除者

 

  受験資格
資格 日本商工会議所主催簿記検定試験1級合格者
公益社団法人全国経理教育協会主催簿記能力検定試験上級合格者(昭和58年度以降の合格者に限る。)
会計士補
会計士補となる資格を有する者

 

職歴 右欄の事務又は業務に通算2年以上従事した者 弁理士・司法書士・行政書士・社会保険労務士・不動産鑑定士の業務
法人又は事業を営む個人の会計に関する事務
税理士・弁護士・公認会計士等の業務の補助の事務
税務官公署における事務又はその他の官公署における国税若しくは地方税に関する事務
行政機関における会計検査等に関する事務
銀行等における貸付け等に関する事務
認定 国税審議会より受験資格に関して個別認定を受けた者

 

(参照:国税庁

 

(2) 試験内容

① 弁護士

司法試験は4日間にわたり論文式試験及び短答式試験を受けます。

論文式試験は憲法、行政法、民法、商法、民事訴訟法、刑法、刑事訴訟法、選択科目(労働法、経済法、知的財産法、国際法(私法)、国際法(公法)、環境法、租税法、倒産法の中から一科目)を受験します。

 

また、最終日に実施される短答式試験では憲法、刑法、民法の3科目を受験します。

司法試験の特徴として、「短答式試験で合格点に達しないと、論文式試験を採点してもらえない」ということがあります。つまり、司法試験の場合には、せっかく論文式試験を受けたのに、採点されないということもあるのです

また、司法試験においては、他の資格を有していることで特定の科目が免除になることもありません。

 

② 税理士

税理士試験は合計5科目の試験に合格する必要があります。

まず、必須科目として簿記論と財務諸表論には必ず合格しなければなりません

そして、『所得税法』、『法人税法』、『相続税法』、『消費税法または酒税法』、『国税徴収法』、『住民税法または事業税』、『固定資産税』の7科目の中から3科目選択して合格しなくてはなりません。

ただし、この選択する3科目の中に必ず『所得税法』か『法人税法』を入れる必要があります。

毎年、一回の試験で受けられるのは5科目までですが、一度に全て合格する必要はありません

一度合格した科目はもう一度受け直す必要はないので、何年かかっても上記のルールにしたがって合計5科目合格すれば税理士試験に合格したことになります。

 

(3) 合格率

① 弁護士

司法試験の合格率は、20%~35%です。(出典:日弁連

(法務省データより作成)

② 税理士

税理士試験の合格率は20%前後です。(出典:国税庁

(国税庁データより作成)

なお、司法試験と税理士試験は上述したように受験資格や試験方式に差があるので、合格率から単純に各試験の難易度を比較できないことはご注意ください。

 

(4) 試験合格後、資格取得までの流れ

弁護士も税理士も試験に合格するだけでは資格を取得することはできません。

 

① 弁護士

弁護士になるためには、司法試験合格後1年間の司法修習を受けて、司法修習生考試(いわゆる二回試験)に合格する必要があります

 

司法修習では全国各地の裁判所、検察庁、法律事務所に配属され、実務家から指導を受けながら実際の事件の処理を学ぶとともに、司法研修所での集合修習で実務教育を受けることで法曹としてのスキルを養います。

 

司法修習中は準国家公務員として修習専念義務が課せられ、基本的にアルバイト等はできません(兼業の原則禁止)。そのため、修習給付金として一定額のお金が国から支給されます。

司法修習を終えた後は、日弁連と各地の弁護士会に弁護士登録をして初めて弁護士になることができます。

 

② 税理士

税理士になるためには税理士試験に合格後、税理士登録をする必要があります。

この税理士登録のためには通算で2年間以上の租税または会計に関する実務経験が必要です。この実務経験は試験の合格の前後を問いません。

 

また、正規の雇用関係のもと、勤務時間内になされた経験である必要がありますが

パートやアルバイトでもこの期間に通算することができます。

(参照:日本税理士連合会

こうして税理士登録をしてはじめて税理士として活動することができます。

 

4 弁護士と税理士のダブルライセンス

上述のように弁護士は無試験で税理士になることが出来ますが、ここでは弁護士資格と税理士資格の両方を持った『ダブルライセンス』について解説していきます。

 

(1) 税理士登録している弁護士の数は?

2020年3月現在税理士登録をしている弁護士は685人です。2020年現在の弁護士数が42,164人であることからすれば、弁護士と税理士のダブルライセンスを有している人は全体の1%程です。

(参照:日弁連『複数の資格登録をしている弁護士』、『弁護士数』)

まだまだ、弁護士と税理士のダブルライセンスは希少価値が高いと言えます。

 

(2) ダブルライセンスのメリットは?

① 他の弁護士との差別化

かつて司法試験合格者は年間500人前後でした。ところが、制度の変更もあり令和3年度の司法試験の合格者は1,421人とおよそ3倍に増えています。一方で訴訟の件数はそこまで増加していません(参照:法務省

このことから、弁護士同士の仕事をめぐる競争が激化するという見方もあります。

そんな中、弁護士と税理士のダブルライセンスを有する人はまだまだ少なく特に街弁として活動していくのであれば、他の街弁事務所の弁護士との差別化を図ることができます。

 

② 租税知識は弁護士として武器になる

弁護士が扱う法律分野の問題には解決のために租税知識が必要な問題が多々あります。

例えば、相続が挙げられます。遺産の分割協議や遺言に関する手続きなどの法律問題に加えて、相続税に関する手続きも相続の案件を処理する上で重要な要素になってきます。

弁護士が租税知識を有していればこうした問題もワンストップで解決することが可能です。

 

また、企業法務の分野でも租税知識は近時重要視されています。企業の税負担は大企業であればあるほど巨額なものとなり、適法な枠組みの中で税負担を減らすことに企業は高い関心を示しています。そのため、企業間の取引や組織再編の際に、租税知識を生かしてより税負担を軽減できる枠組みを提案することのできる弁護士は企業から重宝されると言えます。

 

もちろん、税理士登録しただけでは、弁護士が実際の租税業務を扱うことは難しいでしょう。しかし、しっかりと租税知識を身につけることでこれらの分野で活躍することもできるでしょう。

 

5 サマリー

いかがだったでしょうか?弁護士は税理士試験を受けることなく税理士登録をすることが出来ます。弁護士は弁護士本来の活動分野以外にも近時活動範囲を広げています。一方、税理士も独占業務の他に税務コンサルティングを行う人も現れています。また司法試験は全科目の合計点合格点に達する必要がある一方で、税理士試験は何年かかってでも5科目に合格すれば資格を得られます。そして、弁護士が税理士資格を得ることで他の弁護士との差別化を図ることが出来ます。

 

6 まとめ

  • 弁護士は無試験で税理士登録ができる。
  • 税理士の独占業務は税務代理、税務書類の作成、税務相談の3つ。
  • 税理士試験は何年かかっても5科目の試験に合格すれば資格を得られる。
  • 税理士登録をする弁護士はまだまだ少数。
  • 弁護士の活動分野でも租税知識は役に立つ。
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