この記事では、司法試験の2種類の試験形式のうちの1つ、短答式試験について、合格のためにはどのような勉強をしたらよいのかという点を各科目の特徴を踏まえた上で詳しく解説しています。
現在、法曹を目指して司法試験の受験を考えている方だけではなく、司法試験の勉強を既に始めたものの、具体的にどのような勉強方法を行えば短答に受かることができるのかよく分からないからこの機会に知りたいという方もぜひこの記事をご覧ください。
1 司法試験の全体像
司法試験の短答式試験について理解するには、まず司法試験という試験の全体像を把握したうえで、短答式試験の位置づけを理解する必要があります。そこで、まずは司法試験の全体像について確認していきましょう。
司法試験を受験するためには全体となる資格を取得しなければなりません。司法試験の受験資格を取得する方法は、現時点では2つのルートがあります。
・法科大学院課程修了者(令和5年から一定の基準を満たせば在学中受験が可能となる)
・予備試験合格者
予備試験は、学歴や年齢等の制限がなく誰でも受験することが可能であり、合格すれば司法試験を目指すことができ、近年人気のルートです。
そして、司法試験は、「短答式試験」「論文式試験」の2段階の試験によって構成されています。
例年5月中旬頃に中1日を挟んだ4日間において実施されていましたが、令和5年からおよそ2ヶ月後ろ倒し(7月中旬)で実施されることとなりました。受験を検討されている方は実施日程の変更にご注意ください。
司法試験の合否判定については、試験の点数を合計した総合点に基づく総合評価で決まります。ただし、合計点が合格最低点を上回ればよいというわけではなく、合格最低ラインなどの足切り制度があるのでその点は注意が必要です。
2 司法試験の短答式試験とは
司法試験の短答式試験とは、どのような試験なのでしょうか。ここからは短答式試験の内容について解説します。
(1) 試験形式
試験科目 | 問題数 | 試験時間 | 配点(満点) |
民法 | 37問 | 1時間15分 | 75点 |
憲法 | 20問 | 50分 | 50点 |
刑法 | 20問 | 50分 | 50点 |
参照:法務省「令和4年司法試験の実施日程等について」「令和4年司法試験短答式試験結果」
短答式試験の試験科目は、憲法・民法・刑法の3科目です。
解答方式はマークシート方式ので各科目ではそれぞれの法律の条文や判例等の知識、法的な推論の能力が主に問われます。
各科目の試験時間は、民法が1時間15分、憲法・刑法がそれぞれ50分ずつとなっており、問題数においては、例年、民法が36問程度、憲法・刑法がそれぞれ20問程度とされています。また、配点(満点)は民法が75点、憲法・刑法がそれぞれ50点の合計175点となっています。
また、司法試験の短答式試験は、例年、試験日程中の最終日に行われています。
尚、論文式試験においては、公法系(憲法・行政法)、民事系(民法・民事訴訟法・商法)、刑事系(刑法・刑事訴訟法)に加え、倒産法・租税法・経済法・知的財産法・労働法・環境法・国際関係法(公法系)・国際関係法(私法系)から1科目選択する選択科目の計8科目となっています。
論文式試験の詳細はこちらの記事をご覧ください。
(3) 足切りについて
司法試験の合否は、短答式試験の得点と論文式試験の得点を合計した総合点に基づく総合評価によって決まります。
しかしながら、足切りといって一定の基準を満たさない場合は不合格になるという基準があります。
短答式試験においては、各科目における最低ラインを下回った場合、若しくは3科目の合計得点が一定の得点に満たない場合は不合格となります。
最低ライン
短答式試験の各科目の「最低ライン」は満点の40%です。つまり、得点でみると、民法では30点未満、憲法・刑法では20点未満となると最低ラインを下回り不合格となってしまいます。
一定の得点
一定の得点とは、短答式試験において3科目ともに最低ラインを上回ったとしても、3科目の合計点が「一定の得点」を下回った場合に不合格となる基準のことです。
この得点は、相対的に決まるものなので毎年上下しますが、直近3年間の「一定の得点」は175点満点のうち、令和4年度が96点、令和3年度が99点、令和2年度93点(法務省公表)という結果が出ています。
短答式試験の成績が良ければ、論文式試験での失敗を一部カバーできるといえる側面もあります。短答式試験の勉強をする際は、闇雲に最低ラインや一定の得点を超えることを目標にするのではなく、上位の成績を狙うことを目標にするとよいでしょう。
(4) 合格率
司法試験短答式試験の合格率は、以下のとおりです。
直近5年のデータでは、短答式試験の合格率は概ね7~8割ほどと高い水準ですが、合格に届かない受験生も一定数いることは事実です。科目数が少なくかつマークシート方式の短答式試験だからといって油断は禁物といえるでしょう。
3 司法試験の短答式試験の勉強法
(1) 短答式試験全体の勉強法
まずは3科目に共通する短答式試験全体の勉強法をみていきましょう。
① 何度も同じ問題集を繰り返す
司法試験の短答式試験の教材には予備校のものを含めれば様々なものがあります。
しかし、短答式試験の勉強では教材の幅を広げずに、1つの問題集を繰り返すことが大切です。
短答式試験の試験科目は3科目と、予備試験の短答式試験に比べれば科目数は少ないものの、合格に必須といえる過去問を潰すだけでも過去問の量はかなりの量があります。
それにも関わらず、色々な教材に手を出してしまうと演習量はこなしていても、人は暗記したものでもすぐ忘れてしまうために問題演習の完成度は低くなってしまいます。
そこで、短答式試験では、過去問形式や肢別の問題集などの形式面での違いはさておき、短答式試験の過去問題集を軸にそれを繰り返して、1つの問題集の完成度をできるだけ完璧に近づけることが有効な勉強法となります。
② 条文と判例を重視する
続いて、短答式試験では基本的には条文と判例を大事にすることが大切です。
裏返していえば、学説を重視しすぎないということです。
勉強が進んでいくと判例だけではなく、様々な学説にも興味が飛びがちですが、短答式試験では基本的には条文と判例を素材にした問題が出題されるので、過度に学説にのめり込みすぎないようにしましょう。
そして、条文に特化して勉強をしたい際には、ポケット版六法の条文を「要件」と「効果」を意識しながら素読することが有効です。
なお、憲法や刑法については一部、学説を素材にした問題が出題されますが、それらの問題では学説を知っているかどうかが問われているわけではなく、学説を事例にあてはめるなどをして法律的に「思考」することができるかどうかを問うているので、学説を知識として丸暗記する必要性は高くありません。
③ 苦手な問題だけに絞って演習する
最後のポイントは、苦手な問題だけに絞って問題演習を行うということです。
前述の通り、短答式試験の試験科目は3科目と科目数は少ないものの、過去問自体は非常に多く蓄積されています。
そこで、問題演習の際には、1つの問題集を繰り返すことに加え、既に自信をもって解けた問題については演習の対象から外して、苦手や分からない問題に絞って演習をすることが効率化のコツとなります。
具体的には、問題演習では、解けた問題(肢)には◯、自信がない・間違った問題には×などを付けて、それ以降では×のついた問題のみを解きます。これを繰り返すことで、自分の分からない問題だけを演習することができます。
(2) 各科目の勉強法
① 憲法
憲法は大まかにいえば①総論分野、②人権分野、③統治分野に分かれています。
この中で、メインは論文式試験の学習で中心となる②人権分野となります。
しかし、人権分野の短答式試験は問題によっては細かい判旨の内容の理解まで求められているものも多く、正解することが難しいものもあります。そこで、短答式試験においては①総論分野や③統治分野で安定的に得点することを目指しましょう。
①総論分野は過去問をしっかりと潰せば対応可能ですし、③は過去問の完成度を高めることに加え、統治分野の条文を素読するなどしてしっかりと抑えることが対策のコツとなります。
② 民法
民法はとにかく演習量が多く、過去問演習をすべて行うだけでも大変だと思います。
ただし、出題の傾向としては、3科目の中で最も条文と基本的な判例の理解を問われているといえ、過去問と条文をしっかりと潰していくことで、安定的に得点することができるでしょう。
こなさなければいけない量は多いですが、やればやるだけ伸びる科目でもあるので頑張って勉強しましょう。
③ 刑法
刑法は細かな罪数論など短答式試験にしか出題されない分野(いわゆる短答プロパー)を除けば、論文式試験の勉強で短答式試験にも対応可能でしょう。そのため、前提として論文問題の勉強がしっかりと行えていることが大切です。
一部には学説問題もありますが、学説を知っているかどうかというより、学説を元に一定の結論を導くことができるかという点が問われているので、過去問で出題形式に慣れておけば大きな心配はないといえます。
4 サマリー
いかがだったでしょうか。司法試験の試験形式の1つである短答式試験。3科目と科目数が少ないことからの油断を原因として足切り制度により不合格とならないためという点ではもちろん、論文式試験でのミスを埋めるためにもきちんと勉強するようにしましょう。その際には、今回の記事で取り上げた勉強方法を用いながら効果的に学習を進めていってくださいね!
5 まとめ
- 短答式試験は司法試験の2種類の試験形式のうちの1つ。
- 条文と判例を中心に過去問題集で対策を!
- 間違えた問題だけを潰していくことが大切。
- 各科目の特徴に気を払いながらメリハリをつけて勉強する。