アメリカで弁護士になるためには?司法試験制度、弁護士のなり方、メリット等について解説

司法試験

最近はアメリカの弁護士資格についてのニュースを目にすることも多く、メディアでは米国弁護士資格保有者といった肩書きがよく見られるため、アメリカの弁護士事情について気になるという方も多いのではないでしょうか?

 

実は、米国弁護士といっても、アメリカで一つの統一された弁護士資格があるわけではありません。アメリカではそれぞれの州ごとに司法試験が実施されており、州によって司法試験の受験資格や難易度が異なっています。

 

そこで、この記事では、アメリカの中でも日本人に人気があるニューヨーク州とカリフォルニア州の司法試験制度と弁護士になる方法、そしてアメリカの弁護士資格を取得するメリットについて解説します。

 

アメリカで弁護士資格を取得したいという方、アメリカの弁護士事情が気になるという方は、ぜひ参考にしてみてください。

1 アメリカの司法試験制度

アメリカは共和制に基づく連邦国家なので、それぞれの州が主権を持っています。

 

そのため、州ごとに異なる法律を制定していることから、弁護士資格もそれぞれの州ごとに異なっています

とはいえ、一般的なシステムとしては、アメリカには法学部はなく、学部では一般教養を勉強した後、ロースクールで法律専門科目を3年間勉強するシステムになっています。

 

ロースクールの入学においては、LSAT(LawSchool Admission Test)というテストを受験する必要があります。

そして、ロースクール卒業後に自分が受験したい州の司法試験を受験して、合格すれば晴れて弁護士になることができます。

 

また、外国人留学生向けにはLL.M.という1年間の法学修士号コースがあり、これを修了することで司法試験の受験資格を得られる州もあります。

2 アメリカで弁護士になるには?

アメリカで弁護士になるためには、まず司法試験の受験資格を得る必要があります。

 

司法試験の受験資格としては原則としてロースクール修了が必要となりますが、カリフォルニア州やニューヨーク州、ワシントン州などについてはLL.M.を修了し、一定の要件を満たすことで司法試験を受験できるなどの例外が設けられています。

 

司法試験制度は州ごとに定められており、各州の司法試験委員会が司法試験を実施しているので、アメリカの司法試験制度としてひとくくりにすることはできません。

 

そこで、ここでは、日本人に人気のあるニューヨーク州とカリフォルニア州の司法試験制度について具体的にみていきます。

(1) ニューヨーク州

① 受験資格

The New York State Board of Law Examinersによると、ニューヨーク州の司法試験受験資格を得る方法としては、次の5つがあります。

①ABA(American Bar Association)が認定するロースクールを修了して法務博士(JD)を取得すること

②ABAが認定するロースクールで学習し、かつ法律事務所での学習をすること

③ABAに承認されていないロースクールを修了して法務博士(JD)を取得し、ニューヨーク州の司法試験受験申請直前の7年間のうち5年間、認定された司法管轄区で実務を行うこと

④米国外のロースクールで米国内のABAに認定されたロースクールでの学習プログラムと期間的にも実質的にも同等の学習プログラムを修了し、また必要であれば米国内の認可されたロースクールで追加の学習プログラムを修了したこと

⑤ABAが承認したロースクールの最終学期に承認されたプログラムを通じてプロボノ活動を行ったこと

 

このうち、日本で法学部やロースクールを修了した人であれば④の方法でLL.M.を修了することによって受験資格を得ることができます。

 

もっとも、この受験資格は、日本での法学教育内容やLL.M.での学習内容などについて個別に判断されるため、まずは司法試験委員会に対して受験資格があるかどうか確認する必要があります。

② 合格率

ニューヨーク州の司法試験合格率は他の州に比べると比較的高いといえます。

例えば、The New York State Board of Law Examinersが公表しているデータによると、2021年7月に実施された司法試験の合格率は全体で63%、1回目の受験者に限っていえば78%の合格率となっています。

 

ただし、ABAが認定するロースクール修了者については1回目受験者で合格率が86%と高くなっている一方、海外の法学教育を受けた受験者については、1回目受験者で合格率が46%と、合格率はかなり低くなっています。

 

英語を母語とせず、またアメリカのロースクールで3年間勉強するわけではない海外の法学教育を受けた受験者については、ニューヨーク州の司法試験のハードルは高いようです。

③ 試験内容

ニューヨーク州の司法試験は2日間にわたって行われます。

 

まず1日目は、90分のMPT(Multistate Performance Test)と呼ばれる資料をもとに書面を作成する試験が2問、30分のMEE(Multistate Essay Exam Test)と呼ばれる論文式試験が6問出題されます。

 

2日目は、MBE(Multistate Bar Exam)と呼ばれる200問の多肢選択式試験(午前100問、午後100問)となっています。

 

MBEの試験科目は、憲法、契約/販売法、刑法/訴訟法、証拠法、連邦民事訴訟法、不動産法、不法行為法で、MEEはこれらに加えて会社法、抵触法、家族法、信託法、財産法が出題されます。

 

これらの試験はそれぞれMBE 50%、MEE30%、MPT20%の配分となっていて、合格するためには合計266点以上が必要となります。

 

また、ニューヨーク州で弁護士登録をするためには、ニューヨーク州法コース(NYLC)とニューヨーク州法試験(NYLE)の受験、50時間のプロボノ活動、弁護士としての実務能力・職業倫理を有することの証明が必要となります。

 

NYLCはオンラインのコースで、約15時間のビデオ講義に問題が組み込まれています。NYLEは、多肢選択式のオンライン試験で、2時間で50問が出題されます。

 

弁護士としての実務能力・職業倫理を有することの証明は、フルタイムの弁護士経験が1年間あればこの要件を満たすことができます。

(2) カリフォルニア州

① 受験資格

The State Bar of Californiaの「TITLE 4. ADMISSIONS AND EDUCATIONAL STANDARDS」によると、カリフォルニア州の司法試験の受験資格が認められているのは、次の3つのカテゴリーの人です。

①Law School Applicants(アメリカ国内でロースクールを修了して法務博士(JD)を取得した人)

②Attorney Applicants(アメリカ国内外を問わず、弁護士登録をしている人)

③General Applicants(アメリカ国内外で大学教育を受け、アメリカ国内の法学修士(LL.M.)で1年間所定の単位を取得した人)

 

これによると、日本の弁護士資格を有する人は、Attorney ApplicantsとしてアメリカのLL.M.を取得することなく司法試験を受験することができます。

 

また、General Applicantsについては、以下のうちいずれかの要件を満たす必要があります。

①米国法曹協会が承認または委員会が認定したロースクールで法学博士号(JD)または法学士号(LL.B.)を取得していること。

②委員会に認可されたロースクールなどで、少なくとも4年間、真面目にかつ誠実に法律を学んだこと。

③外国において、法学教育の要件を満たしていること。

 

そして、この③外国における法学教育の要件としては、外国のロースクールで、委員会が認めた法学の学士号を取得し、米国法曹協会またはカリフォルニア州認定のロースクールで1年間のLL.M.を修了するというのが主な内容となっています。

 

つまり、日本の大学で法学部やロースクールを卒業し、それを委員会に認めてもらえれば、アメリカでLL.M.を修了することでカリフォルニア州の司法試験を受験できるということになります。

② 合格率

カリフォルニア州の司法試験は難易度が高いとされています。

 

例えば、The State Bar of Californiaの「General Statistics Report February 2021 California Bar Examination」によると、2021年2月に実施された司法試験では、全体の合格率は37.2%となっています。

また、アメリカ以外の弁護士資格を有している人については合格率は22.6%となっており、難関であることがうかがえます。過去の低い年度では16%程度の合格率になっています。

 

さらに、General Applicantsのうち外国で法学教育を受けてLL.M.を修了した人については合格率15.8%とさらに低くなっています。こちらも過去の低い年度は10%程度の合格率となっています。

③ 試験内容

試験は2日間にわたって行われます。試験の具体的なスケジュールは以下のとおりです。

 

まず1日目は記述式のEssayPTで、午前中にEssay(3問×60分)、午後にEssay(2問×60分)とPT1問が実施されます。

次に2日目は択一式のMBEで、午前中に100問、午後に100問が実施されます。午前、午後とも試験時間は3時間となっています。

 

試験科目は、MBEが憲法、契約・販売法、刑法・訴訟法、証拠法、民事訴訟法、不動産法、不法行為法となっています。

 

そして、Essayはこれらの科目に加えて、会社法、カリフォルニア州民事訴訟法、カリフォルニア州共有財産法、カリフォルニア州証拠法、カリフォルニア州法曹倫理、救済法、信託法、カリフォルニア州遺言および相続法となっています。

 

さらに、PTでは、試験官から提供される指示に従い、データ、事例、法令その他の参考資料を用いた問題が出題されます。

 

配点としては、択一式のMBEが50%、記述式のEssayとPTが50%となっており、合計2,000点満点のうち1,390点以上が合格となります。

3 アメリカの弁護士資格取得のメリット

アメリカの弁護士資格を取得するメリットとしては、①アメリカの法律が関係する案件に対応できることと、②英語力を証明できることの2点が挙げられます。

(1) アメリカの法律が関係する案件に対応できる

当然ながらアメリカの弁護士資格を取得することで、アメリカの法律が関係する案件に対応することができるようになります

 

日本にいる場合であっても、アメリカの法律が関係する案件が発生した場合にはその対応をすることもできるようになります。

 

日本の弁護士資格を保有している方であれば、アメリカの弁護士資格を取得することで活躍できる範囲がさらに広がることになります。

 

もっとも、アメリカでは州ごとに法律が異なるため、アメリカのどの州の法律にも対応することは難しく、通常は資格を有する州についてのみ弁護士として活動することができます。

(2) 英語力を証明できる

アメリカの司法試験に合格するためには英語で難解な専門用語を理解し、それを英語でアウトプットすることが求められるため、高度な英語力が必要となります。

 

つまり、アメリカの弁護士資格を有しているということは、このような司法試験に合格したということで、一定の英語力を有しているということを証明できることになります。

4 サマリー

アメリカは各州が主権を持つ連邦国家なので、司法試験もそれぞれの州ごとに異なり、弁護士資格は司法試験に合格した州でのみ有効です。

 

司法試験の受験資格としては、基本的にはロースクール修了が要件とされていることがほとんどです。

 

合格率も各州で異なりますが、日本人に人気があるニューヨーク州の司法試験については全体の合格率は60%程度です。

 

とはいえ、海外の法学教育を受けた人に限っていえば合格率は46%と、英語が母語ではない日本人にとってアメリカの司法試験は相当に難易度が高い試験といえるでしょう。

5 まとめ

  • アメリカの司法試験制度は州ごとに異なる
  • ロースクール(JD)3年もしくはロースクール(LL.M.)1年修了が必要とされるのが一般的
  • 合格率は州によって異なるものの70%以上と高い州もある
  • アメリカの弁護士資格取得のメリットはアメリカの法律が関係する案件に対応できることと英語力の証明ができること
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