現在法律関係の仕事をされている方であれば、一度は転職やキャリアアップのために海外留学をしたり、海外の弁護士資格を目指したりすることを考えた方も多いのではないでしょうか。
海外留学や海外の弁護士資格の取得を検討するとなると真っ先に候補に上がるのがアメリカですよね。アメリカではそれぞれの州ごとに司法試験が実施されており、州によって司法試験の受験資格や難易度が異なっています。
この記事では、ワシントン州の司法試験概要とワシントン州で弁護士になる方法について解説します。
アメリカで弁護士資格を取得したいという方は、ぜひ参考にしてみてください。
1 アメリカの法曹・司法試験制度
アメリカには法学部はなく、学部で一般教養を勉強した後、ロースクールで法律専門科目を3年間勉強するシステムになっています。ロースクールの入学においては、LSAT(LawSchool Admission Test)というテストを受験する必要があります。
また、外国人留学生向けにはLL.M.という1年間の法学修士号コースもあります。
司法試験制度は州ごとに定められており、各州の司法試験委員会が司法試験を実施しています。
原則として司法試験を受験するためにはロースクール修了が必要となりますが、カリフォルニア州やニューヨーク州、ワシントン州などについてはLL.Mを修了し、一定の要件を満たすことで司法試験を受験できるなどの例外が設けられています。
2 ワシントン州の試験制度
ワシントン州では、アメリカの統一試験(UBE)を導入しています。
UBEでは、MPT(Multistate Performance Test)、MEE(Multistate Essay Examination)、MBE(Multistate Bar Examination)の3種類の試験が実施されます。
MPTは法律文書の起案、MEEは連邦法に関する記述式試験、MBEは4択式試験です。
また、ウィスコンシン州とプエルトリコを除くアメリカのすべての州において、弁護士資格を取得するための要件となっているMPRE(Multistate Professional Responsibility Exam)も受験する必要があります。
MPREは法曹倫理と職業上の行動規範についての試験で、2時間の試験時間で60問の多肢選択式の試験となっています。
この試験はオンラインで実施され、受験者が合格点を取得したUBEの実施日の3年前から40ヶ月後までに85点を取得すればいいことになっています。
さらに、ワシントン州ではこれらに加えてWLC(Washington Law Component)という試験にも合格しなければなりません。WLC は、ワシントン州固有の法律についてのオンライン多肢選択式試験です。教材を見ながら受験でき、合格最低点である80%の点数が取れるまで何回でも受験することができます。
3 ワシントン州で弁護士になる方法
(1) 受験資格
ワシントン州裁判所の「Admission and Practice Rules」によると、ワシントン州の司法試験受験資格を得るためには、以下の4つのうち1つを満たす必要があります。
①理事会が承認したロースクールで法務博士号(JD)を取得して卒業すること。
②law clerk programを修了したこと。
③イギリスのコモンローが法律学の基礎となっている法域での弁護士資格を有し、出願直前の5年間のうち少なくとも3年間の法律実務経験があること。
④以下のいずれかに該当し、かつ法学修士号(LL.M.)を修了していること。
・理事会が承認していないアメリカのロースクールでJDを取得したこと
・アメリカ以外の管轄区域の大学またはロースクールを卒業し、その管轄区域で弁護士として活動する資格を有すること。
①の方法は一番スタンダードな方法で、アメリカで3年間のロースクールを修了することで受験資格を得ることができます。
日本で弁護士資格を有している場合は、④の「アメリカ以外の管轄区域の大学またはロースクールを卒業し、その管轄区域で弁護士として活動する資格を有すること」という要件を満たすことになるので、LL.M.を修了することでワシントン州の司法試験を受験することができます。
他方、LL.M.を修了したとしても、弁護士資格を有していない場合には、ワシントン州の司法試験は受験することができません。そのため、弁護士資格を有していない方がワシントン州で弁護士になるためには、基本的にはJDとしてアメリカのロースクールを修了する必要があります。
(2)合格率
Washington State Bar Associationの「Review the 2021 July Lawyer Bar Exam Statistics」によると、2021年7月に実施された司法試験では、全体の合格率は74.1%となっています。
これだけをみるとかなり合格率は高いようにみえます。しかし、アメリカ以外の弁護士資格を有している人でLL.M.を修了した受験生に限っていうと、合格率はたった18.9%となっており、難関であることがうかがえます。
(3)試験内容
試験は2日間にわたって行われます。
まず1日目は記述式で、午前中にMEE(30分×6問)、午後にMPT(90分×2問)が実施されます。
次に2日目は択一式で、MBE(午前中に100問、午後に100問)が実施されます。
MBEの科目は、憲法、契約・販売法、刑法・訴訟法、証拠法、民事訴訟法、不動産法、不法行為法という内容になっています。
MEEの科目は、これらのMBEの科目に加えて、会社法、抵触法、家族法、信託法、財産法などの内容となっています。
さらに、MPTでは、試験官から提供される指示に従い、データ、事例、法令その他の参考資料を用いた問題が出題されます。
アメリカの司法試験予備校barbriの「Washington Bar Exam (UBE) details」によると、MEEとMPTの点数は、MBEに合わせてMBE50%、MEE30%、MPT20%の配分に調整されるようです。
ワシントン州の司法試験に合格するには、得点が270点以上であることが必要となります。
3 サマリー
ワシントン州では、日本の弁護士資格があれば、LL.M.を修了することで司法試験を受験することができます。しかし、その合格率は20%弱程度とかなりの難関になっています。
他方、弁護士資格がなければLL.M.を修了しても受験資格を得ることができません。
日本の弁護士資格はないけれどアメリカでの弁護士資格を取得したいという方は、カリフォルニア州の司法試験をお勧めいたします。カリフォルニア州であれば弁護士資格がなくとも日本で法学部もしくはロースクールを卒業していればLL.M.を修了することで受験資格を得ることができます。
4 まとめ
- ワシントン州では日本の弁護士資格があれば、LL.M.を修了することで司法試験受験可能
- ワシントン州ではアメリカの統一司法試験UBEが導入されている
- 2021年7月に実施された全体の司法試験の合格率は74.1%
- 外国の弁護士資格を有する者の合格率はかなり低く難関