現在法律関係の仕事をされている方であれば、一度は転職やキャリアアップのために海外留学をしたり、海外の弁護士資格を目指したりすることを考えた方も多いのではないでしょうか。
海外留学や海外の弁護士資格の取得を検討するとなると真っ先に候補に上がるのがアメリカです。アメリカではそれぞれの州ごとに司法試験が実施されており、州によって司法試験の受験資格や難易度が異なっています。
この記事では、アメリカの中でも比較的海外の留学生が受験資格を得やすいカリフォルニア州の司法試験概要とカリフォルニア州で弁護士になる方法について解説します。
アメリカで弁護士資格を取得したいという方は、ぜひ参考にしてみてください。
1 アメリカの法曹・司法試験制度
アメリカには法学部はなく、学部で一般教養を勉強した後、ロースクールで法律専門科目を3年間勉強するシステムになっています。ロースクールの入学においては、LSAT(LawSchool Admission Test)というテストを受験する必要があります。
また、外国人留学生向けにはLL.M.という1年間の法学修士号コースもあります。
司法試験制度は州ごとに定められており、各州の司法試験委員会が司法試験を実施しています。
原則として司法試験を受験するためにはロースクール修了が必要となりますが、カリフォルニア州やニューヨーク州、ワシントン州などについてはLL.Mを修了し、一定の要件を満たすことで司法試験を受験できるなどの例外が設けられています。
2 カリフォルニア州の試験制度
カリフォルニア州の司法試験は、年2回、2月と7月に行われます。
試験は、Essayと呼ばれる論文試験が5問、PT(Performance Test)と呼ばれる資料をもとに書面を作成する試験が1問、そしてMBE(Multistate Bar Examination)という択一式の試験が200問という構成になっています。
また、ウィスコンシン州とプエルトリコを除くアメリカのすべての州において、弁護士資格を取得するための要件となっているMPRE(Multistate Professional Responsibility Exam)も受験する必要があります。
MPREは法曹倫理と職業上の行動規範についての試験で、2時間の試験時間で60問の多肢選択式の試験となっています。
カリフォルニア州では86点以上のスコアを獲得する必要があります。
3 カリフォルニア州で弁護士になる方法
(1) 受験資格
The State Bar of Californiaの「TITLE 4. ADMISSIONS AND EDUCATIONAL STANDARDS」によると、カリフォルニア州の司法試験の受験資格が認められているのは、次の3つのカテゴリーの人です。
①Law School Applicants(アメリカ国内でロースクールを修了して法務博士(JD)を取得した人)
②Attorney Applicants(アメリカ国内外を問わず、弁護士登録をしている人)
③General Applicants(アメリカ国内外で大学教育を受け、アメリカ国内の法学修士(LL.M.)で1年間所定の単位を取得した人)
つまり、日本の弁護士資格を有する人は、Attorney ApplicantsとしてアメリカのLL.M.を取得することなく司法試験を受験することができるのです。
また、General Applicantsについては、以下のうちいずれかの要件を満たす必要があります。
①米国法曹協会が承認または委員会が認定したロースクールで法学博士号(JD)または法学士号(LL.B.)を取得していること。
②委員会に認可されたロースクールなどで、少なくとも4年間、真面目にかつ誠実に法律を学んだこと。
③外国において、法学教育の要件を満たしていること。
そして、この③外国における法学教育の要件としては、外国のロースクールで、委員会が認めた法学の学士号を取得し、米国法曹協会またはカリフォルニア州認定のロースクールで1年間のLL.M.を修了するというのが主な内容となっています。
つまり、日本の大学で法学部やロースクールを卒業し、それを委員会に認めてもらえれば、アメリカでLL.M.を修了することでカリフォルニア州の司法試験を受験できるということになります。
カリフォルニア州は他州よりも広く受験生に門戸が開かれているようです。
(2)合格率
カリフォルニア州の司法試験は難易度が高いとされています。
例えば、The State Bar of Californiaの「General Statistics Report February 2021 California Bar Examination」によると、2021年2月に実施された司法試験では、全体の合格率は37.2%となっています。
また、アメリカ以外の弁護士資格を有している人については合格率は22.6%となっており、難関であることがうかがえます。過去の低い年度では16%程度の合格率になっています。
さらに、General Applicantsのうち外国で法学教育を受けてLL.M.を修了した人については合格率15.8%とさらに低くなっています。こちらも過去の低い年度は10%程度の合格率となっています。
(3)試験内容
試験は2日間にわたって行われます。試験の具体的なスケジュールは以下のとおりです。
まず1日目は記述式のEssayとPTで、午前中にEssay(3問×60分)、午後にEssay(2問×60分)とPT 1問が実施されます。
次に2日目は択一式のMBEで、午前中に100問、午後に100問が実施されます。午前、午後とも試験時間は3時間となっています。
試験科目は、MBEが憲法、契約・販売法、刑法・訴訟法、証拠法、民事訴訟法、不動産法、不法行為法となっています。
そして、Essayはこれらの科目に加えて、会社法、カリフォルニア州民事訴訟法、カリフォルニア州共有財産法、カリフォルニア州証拠法、カリフォルニア州法曹倫理、救済法、信託法、カリフォルニア州遺言および相続法となっています。
さらに、PTでは、試験官から提供される指示に従い、データ、事例、法令その他の参考資料を用いた問題が出題されます。
配点としては、択一式のMBEが50%、記述式のEssayとPTが50%となっており、合計2,000点満点のうち1,390点以上が合格となります。
3 サマリー
カリフォルニア州では、日本の弁護士資格があればアメリカでロースクールに行かなくても司法試験を受験することができます。
しかし、2021年2月に実施された試験で外国の弁護士資格を有する人の合格率は22.6%と日本の司法試験よりも合格率は低くなっています。
また、弁護士資格がなくても、法学部やロースクールを卒業し、アメリカで1年間のLL.M.を修了することによっても受験資格を得ることができます。
しかし、この場合の合格率も年度によってばらつきはありますが、2021年2月に実施された試験の合格率はわずか15.8%となっており、かなりの難関であるといえるでしょう。
4 まとめ
- カリフォルニア州では日本の弁護士資格があれば司法試験を受験することができる
- 弁護士資格がなくても法学部やロースクールを卒業し、アメリカでLL.M.を修了すれば受験可能
- 外国弁護士の合格率は16%〜20%程度
- 外国で法学教育を受け、アメリカでLL.M.を修了した人の合格率は10%〜15%程度