倒産法は、司法試験の選択科目の中でも比較的受験者数が多く、実務で活用できる幅も広いことから一定の人気があります。
この倒産法では破産法と民事再生法からそれぞれ出題されますが、倒産法というとまずは破産法から勉強を始めるのが一般的です。
そこで、この記事では、司法試験における選択科目の倒産法のうち、破産法の特徴と破産法の効率的な勉強法について解説します。
破産法ってどんな科目なんだろうと疑問に思っている人は、ぜひ参考にしてみてください。
1 破産法の特徴
破産法の特徴としては、民法の延長線上にあり、民法の理解がベースになること、司法試験の破産法については実体法と手続法それぞれの側面から出題されること、条文検索能力が求められるということがいえます。
(1) 破産法は民法の延長線上にある
破産法は、支払不能もしくは支払停止が発生した場合に、民法の原則を修正して問題を規律する法律です。そして、債権者は原則として破産手続の中でしか債権の弁済を受けることができなくなります。しかし、民法の原則によって保護されている債権者については、破産手続においても特別の保護が認められていることがあります。
たとえば、民法のルールとして期限付債権や解除条件付債権を自働債権として相殺する場合、その期限が到来もしくは解除条件が成就していなければ、相殺をすることはできないのが原則です。
しかし、本来相殺には担保的機能があることを考慮して、破産法では、民法のルールを拡張し、期限付債権について期限が未到来の場合や、解除条件付債権について解除条件が未成就の場合であっても、その期限付債権や解除条件付債権を自働債権として相殺することが認められています。
このように破産法は民法の延長線上にあり、破産法を勉強することで民法の理解を再確認することになるため、破産法を勉強することは民法のより深い理解にもつながります。
特に、破産法では相殺や担保物権がよく出てくるため、これらの理解は必須です。
(2) 司法試験の破産法は実体法と手続法について問われる
司法試験の破産法では実体法と手続法についてそれぞれ問われることになります。
たとえば、実体法の問題としては、法人が破産した場合において敷金返還請求権を自働債権とする相殺が認められるか、敷金返還請求権を有する賃借人の寄託請求が認められるか、また、別除権者が賃料債権について物上代位をした場合にその寄託請求が認められるかという内容が出題されています(平成30年度司法試験倒産法)。
この問題では、破産法70条後段に規定されている寄託請求について指摘した上で、この制度の趣旨をふまえて賃借人の敷金返還請求権保護の要請と、破産財団の確保のバランスを論じるということが求められています。
また、手続法の問題としては、法人が破産手続開始決定を受けた場合において、破産財団から放棄された不動産の帰属先がどうなるか、またその不動産について抵当権を有する者が破産手続に参加して配当を受けるためにどのような手続を誰に対してとるべきかという内容が出題されています(平成30年度司法試験倒産法)。
いずれの問題も、該当する条文を探し出して、破産法の制度趣旨やそれぞれの利益を考慮しながら結論を導くという民法と似た方法で問題を処理していくことが求められているといえるでしょう。
(3) 破産法では条文検索能力が必要
破産法の特徴としては、該当する条文を探してあてはめる能力が問われる傾向にあるということが挙げられます。
上記の平成30年度司法試験倒産法の問題でも、まずは該当する条文を的確に指摘した上で、論点を展開していく必要があります。
もっとも、一通り勉強が進んでくると該当する条文を探してくるのは難しくないため、破産法では条文選択が問題となることはほとんどないといえます。
2 破産法の勉強法
(1) 知識のインプット
破産法の試験では、まず該当する条文を引くことができなければならないため、破産法の勉強としてはまず破産手続全体の体系を把握して、条文の構造を理解するようにしましょう。
破産手続全体の概要を把握するもっともスタンダードな方法としては基本書を読むという方法が一般的です。もっとも、破産法の基本書は細かい議論について詳細に書かれた分厚いものが多いため、それを通読するというよりは、入門書をざっと読んで概要を把握し、わからないところについては基本書で調べるという方法がいいでしょう。
破産法は条文操作も重要となるため、破産法の勉強においては何がどのあたりに規定されているかを頭に入れるよう意識しておきましょう。
破産法については司法試験でよく問われる内容をコンパクトにまとめた予備校本も出版されているので、基本書である程度全体像を把握したらこのような教材を用いるのもおすすめです。
破産法は民法の理解が必須なので、もし民法の理解があやふやな場合は、民法の該当箇所についても勉強しておくのがいいでしょう。こうすることで破産法の理解が進むだけではなく、民法の理解も深めることができるため、結果的に司法試験の対策として有意義な勉強となります。また、破産法の世界ではどのような規定になっているか、民法との対比でみてみるとより理解が深められます。
また、司法試験の破産法の問題は、判例百選の事例をベースとして出題されているものが多いので、破産法の勉強においては判例百選の事案は確実につぶしていくようにしましょう。
(2) インプットした知識のアウトプット
基本書や判例百選である程度インプットができたら、次は過去問や問題演習本を用いてアウトプットをしていきましょう。
司法試験の破産法では、ある程度出題されやすい分野は固定されています。そのため、過去問を解いて出題分野や出題傾向、そしてどのような答案が求められているかといった点は必ずおさえておく必要があります。
過去問を解く際には、実際に自分で時間を測って解いてみた上で、出題趣旨や採点実感、答案例や解説などをみながらどこができなかったのか、何が足りていないのかを分析していくことが重要です。可能であれば友人や先輩など第三者から添削をしてもらうとより改善点が見つかりやすいのでおすすめです。
また、筆者の司法試験受験時代は倒産法選択者は『倒産法演習ノート(第3版)』(山本 和彦他著(2016年、弘文堂))を使って問題演習をしている人が多かったです。これは、基本的な論点について事例問題形式になっていて、解説も充実しているので、これをもとに問題演習や知識の確認をしていくのがおすすめです。
3 サマリー
司法試験の選択科目のうち、倒産法では破産法と民事再生法から各1題出題され、破産法については実体法と手続法についてそれぞれ問われます。
破産法は、通常時に適用される民法の原則を破産という状況下で事案を適切に処理できるように修正したものなので、破産法を勉強することは民法のより深い理解にもつながります。
破産法の勉強法としては、まずは全体像を掴んだら百選でどのような事案でどのようなことが論点になるのかを把握した上で、過去問を中心にアウトプットとして問題演習をしていくのがおすすめです。
4 まとめ
- 司法試験の破産法では実体法と手続法について問われる
- 破産法では条文検索能力が重要
- 破産法を勉強することは民法のより深い理解にもつながる
- 破産法の勉強法としては、百選と過去問を使った勉強がおすすめ