司法試験の合格後の年収は?キャリア別に徹底解説!

司法試験

“弁護士って実際、年収はどれくらいなのだろうか?”

 

ドラマや映画を見ていると『いかにもお金持ち!』といった格好の弁護士がよく出てきますよね。高級なスーツを着こなしたり、外車を乗り回したり……。

そんなフィクションの世界に対して、現実に弁護士として活動すると年収はどのくらいなのでしょうか?

 

また、弁護士になるための関門である司法試験に合格すると、弁護士だけでなく検察官や裁判官になることも可能です。もし、弁護士でなくこれらの道を選んだ場合はどのくらいの年収がもらえるのでしょうか?

 

本記事では、司法試験に合格後のキャリアによって年収がどのように変わってくるか解説します。司法試験に合格した後の人生設計を考えている方の一助になれば幸いです。

 

1 弁護士の年収

(1) 弁護士になるには?

弁護士になるには、まず、司法試験に合格する必要があります。そして、1年間の司法修習を経て、日本弁護士連合会及び全国に52ある弁護士会のいずれかに入会すると弁護士として活動することができます。

ちなみに、司法修習終了者の進路でもっとも多いのが弁護士です。72期(2019年度)では1,487人中1,032人(約70%)が弁護士となっています。

 

(2) 弁護士の年収の決まり方

これから弁護士の年収について解説していくのですが、その前に弁護士の給与体系についてご説明していきます。というのも、弁護士として法律事務所に勤務した場合、一般的なサラリーマンとは異なった給与体系のもとで給与が決まるからです。

 

法律事務所に勤務する弁護士の場合、主な給与体系として年俸制と歩合制の2種類があります。

 

年俸制:1年あたりの報酬を予め定め、その額を各月とボーナス分に分割して支払われる。業績に連動して報酬が増額される場合もある。

 

歩合制当人の売り上げに応じて月額報酬が決まる。月額最低保証額が定められていることが多い。

 

年俸制の場合は、前年の業績に応じて毎年年俸の額が改定されることが多いようです。

この点が職級に応じて段階的給与が増加する企業に勤務する場合と異なります。

 

また、歩合制の月額最低賃金保証額は事務所ごとに異なり契約時に注意する必要があります。

 

そして、事務所によって個人事件の扱いが異なります。

個人事件とは事務所を通して受任する事件ではなく、弁護士自らが直接クライアントとやりとりをして受任する事件のことです。

事務所によっては個人事件の受任を禁止している所もあれば、許可制にしている所もありますし、自由に個人事件を受任して良い所もあります。

この個人事件の扱いも弁護士の年収の決定に大きく関わる要素なので就活の際には注意してください。

(3) 弁護士の平均収入は下がった?

フィクションの世界ではお金持ちのイメージが強い弁護士ですが、最近『もう、弁護士は稼げる資格ではない』という声もききます。実際はどうなのでしょう?

 

以下の表とグラフは厚生労働省によってなされた『賃金構造基本統計調査』の結果をまとめたものです。この調査は弁護士の中から無作為に選ばれた人に、その人の給与について自己申告させるものです。この調査の結果をもとに弁護士の収入の近年の変化について見ていきましょう。

 

以下の表は、弁護士が所属する企業規模毎に『きまって支給する現金給与額』を調査した結果をまとめたものです。

『きまって支給する現金給与額』とは『労働契約、労働協約あるいは事業所の就業規則などによってあらかじめ定められている支給条件、算定方法によって6月分として支給された現金給与額』のことです。(参照:厚生労働省

簡単に言えば、毎年6月にもらえるお給料のことです。

この表の結果をグラフ化したものが下の折れ線グラフです。

折れ線グラフを見ると、弁護士の収入額はこの10年間で減少傾向にあると言えます。

この原因として、司法制度改革により弁護士資格者の数が急増したことが一因と考えられています。

もっとも、弁護士と同じく国家資格を持って活動する他の士業と比較した時、弁護士の年収は未だに高いと言えます。

下の折れ線グラフは2010年から2019年の企業規模10人以上の企業に属する弁護士、公認会計士・税理士、不動産鑑定士、社会保険労務士の『きまって支給する現金給与額』をまとめたものです。

薄紫色の線が弁護士であるところ、弁護士の『きまって支給する現金給与額』は未だに他の士業に比べて多いと言えます。

 

また、国税庁の調査によれば2018年の1年を通じて勤務した給与所得者の年間の平均給与は441万円です。

一方で日弁連の調査によると弁護士の平均年収は2,143万円です。

 

確かに弁護士の年収が減少傾向にあると言っても、まだまだ高年収な職業であるということは間違いないようです。

 

(4) 経験年数によって年収はどう変化する?

以下は日弁連が調査した経験年数別の弁護士の年収です。

(参照:日弁連『近年の弁護士の実勢について』)

2018年の各年代の年収を見ていきましょう。

 

まず5年未満の平均年収は735万円ですが、5年以上10年未満では1,550万円となっています。また、10年以上15年未満は1,900万円、15年以上20年未満は2,962万円、20年以上25年未満は3,469万円と経験年数が増えるにしたがって年収は上昇する傾向にあります。

 

ここで注目すべきなのは弁護士の年収の上がり幅です。

5年以上10年未満の弁護士の平均年収は735万円ですが、10年以上15年未満では約2倍、15年以上20年未満では約3倍になるというかなりの上がり幅、年収が増加しています。

 

もちろん、2018年時点の各年代の弁護士の年収であるため、今後弁護士になった場合この上がり幅で年収が増加するとは限りません。

 

(5)  働き方と弁護士の年収

一口に弁護士と言ってもその年収は専門として扱う分野や働き方によって異なります。

以下では『企業法務を中心として扱う法律事務所』、『一般民事を中心として扱う事務所』、『インハウスローヤー 』の3つに分けて働き方と年収の傾向をご説明いたします。

(あくまで傾向であり個人の能力やその他の環境要因に左右されることは多いにありますので、その点をご了承の上でお読みください。)

 

① 企業法務を中心として扱う法律事務所

企業法務とは、主として企業に対して法的サービスを提供する分野です。企業が日々締結する契約書の権利義務関係のチェックや、ガバナンスの適正化、紛争対応など企業活動を法務面から支えます。

この企業法務を主として扱う中小規模から大規模の企業法務系法律事務所に所属した場合、どのような働き方になるのでしょうか?

まず、年収面では、同年代の他の弁護士よりも高額の年収がもらえると言えます。

例えば、4大法律事務所と言われる大規模事務所では入所1年目の弁護士の年収が1,000万円を超えると言われます。また、パートナーまで勤め上げればその年収は数千万円から数億円と言われます。

一方で、働き方はかなりの激務であることが一般的であるようです。

企業法務案件の特徴として、『案件が大規模かつ高度の専門性が求められること』や『納期がタイトであること』が挙げられます。

そのため、企業法務を扱う弁護士は深夜まで案件に従事することが多くなります。

企業法務を扱う場合、強靭な体力やメンタルが求められます。

 

② 一般民事を中心として扱う事務所

一般民事とは、主として、個人に対して法的サービスを提供する分野です。金銭貸借や交通事故、医療事故など多様な紛争を訴訟や法律相談、代理業務を行います。

この一般民事を主として扱う一般民事法律事務所に所属した場合、どのような働き方になるのでしょうか?

まず、年収面について、初任給については企業法務を主として扱う事務所よりは安くなることも多いようです。

もっとも、案件を多数こなすことで高額の年収を得ている人もいるので個人の能力次第という面もあるようです。

さらに、独立して自分の事務所を開設し、経営手腕を発揮して高額な年収を得る人もいるようです。

 

③ インハウスローヤー

インハウスローヤーとは企業や役所などの組織内に所属しながら法的事務に従事する弁護士です。所属組織によって扱う業務は異なりますが、企業の場合、法務部に配属されるケースが多いようです。扱う事務も所属先によって異なりますが、契約法務や社内法務、知的財産、事業承継やM&Aなど幅広い業務があるようです。

では、インハウスローヤー となった場合、どのような働き方になるのでしょうか?

以下は日本組織内弁護士協会によるアンケート調査の結果です。

(参照:日本組織内弁護士協会​​企業内弁護士に関するアンケート調査集計結果(2021年3月実施) 

2021年の調査で全体に占める割合が最も大きいのは750万円〜1,000万円未満で、全体の29%を占めました。また、その次に占める割合が大きいのは500万円〜750万円未満で、全体の23%を占めました。

『インハウスローヤー は法律事務所勤務より稼げない』と言われることもありますが、それでも一般的に見れば高年収と言えそうです。

また、働き方の面では、インハウスローヤー は法律事務所勤務よりも一般的にワークライフバランスを取りやすいと言われます。というのも、インハウスローヤー は所属組織と雇用契約を結ぶ場合が多く労基法上の『労働者』として保護されるからです。

以上を背景として近年ではインハウスローヤー を選ぶ弁護士の数も増加しています。

▼こちらの記事も合わせてご覧ください。
弁護士の気になる年収は?働き方によって差はあるの?

 

2 検察官の年収

次に検察官の年収を見ていきましょう。

 

(1) 検察官になるには?

検察官になるには、まず弁護士同様、司法試験に合格した後、司法修習を終了する必要があります。

検察官の採用はこの司法修習の過程でなされます。能力や人柄を見られて、適性ありと判断された修習生が検察官として採用されます。

ちなみに、第72期の終了生1,487人中検察官になったのは65人(約4%)です。

このことから検察官になるのは狭き門だと言えるでしょう。

 

(2) 検察官の年収は?

検察官の俸給月額(月給)は『検察官の俸給等に関する法律』によって定められています。検察官は階級制であり、報酬額は階級ごとに決まります。

以下は各階級ごとの俸給月額です。(同法第2条別表参照)

 

区分 俸給月額
検事総長 146万6,000円
次長検事 119万9,000円
東京高等検察庁検事長 130万2,000円
その他検事長 119万9,000円
検事 1号 117万5,000円
2号 103万5,000円
3号 96万500円
4号 81万8,000円
5号 70万6,000円
6号 63万4,000円
7号 57万4,000円
8号 51万6,000円
9号 42万1,500円
10号 38万7,800円
11号 36万4,900円
12号 34万1,600円
13号 31万9,800円
14号 30万4,700円
15号 28万7,500円
16号 27万7,600円
17号 25万6,300円
18号 24万7,400円

(『検察官の俸給等に関する法律』第2条別表より筆者が作成)

 

司法試験合格後、検察官として採用された場合、検事18号からキャリアがスタートするため、検察官の初任給は24万4,700円となります。

また、検察官も国家公務員であり、他の国家公務員と同様に期末手当・勤勉手当(ボーナス)が支給されます。そのため新人検察官の場合、年収は600万円前後になることが多いようです。

また、中堅とされる検事8号の年収は手当を含めて1,000万円を超えると言われます。

 

3 裁判官の年収

次に裁判官の年収を見ていきましょう。

(1) 裁判官になるには?

裁判官になるためには、司法試験合格後、司法修習を終了する必要があります。

裁判官の採用は検察官同様、司法修習生からなされることが多いです。司法修習中に能力や人柄を見られて裁判官としての適性を判断されて採用に至ります。

裁判官としての採用は非常に枠が狭く、かなりの難関と言えます。

第72期(2019年度)の修習終了生1487人中裁判官になったのは75人(約5%)です。

 

(2) 裁判官の年収は?

裁判官の俸給月額(月収)は『裁判官の俸給等に関する法律』によって定められています。

裁判官も階級制であり、裁判官の俸給月額も階級ごとに定められています。

以下の表は、階級ごとの報酬月額を示しています。(同法2条別表参照)

 

区分 俸給月額
最高裁判所長官 201万0000円
最高裁判事 146万6,000円
東京高等裁判所長官 140万6,000円
その他高等裁判所長官 130万2,000円
判事 1号 175万5,000円
2号 103万5,000円
3号 96万500円
4号 81万8,000円
5号 70万6,000円
6号 63万4,000円
7号 57万4,000円
8号 51万6,000円
判事補 1号 42万1,500円
2号 38万7,800円
3号 36万4,900円
4号 34万1,600円
5号 31万9,800円
6号 30万4,700円
7号 28万7,500円
8号 27万7,600円
9号 25万6,300円
10号 24万7,400円
11号 24万800円
12号 23万4,900円

(『裁判官の俸給等に関する法律』第2条別表より筆者が作成)

 

司法試験合格後、裁判官として採用された場合、判事補12号からキャリアがスタートするため、裁判官の初任給は23万4,900円となります。

また、検察官と同じく、裁判官も国家公務員であり、期末手当・勤勉手当(ボーナス)が支給されます。そのため新人裁判官の場合、年収は600万円前後になることが多いようです。

また、裁判官の多くは任官から約10年で判事に昇格します。判事になると一人で裁判ができるようになり、また複数人の裁判官で裁判を行う場合は裁判長になることもできるようになり権限が大きくなります。

判事8号の年収は手当を含めて1,000万円を超えると言われます。

 

4 サマリー

いかがでしたか? 司法試験に合格して司法修習を終了してもそのキャリアパスは様々であり、得られる年収もまた様々です。自分の希望に応じて多様な働き方を選べる弁護士や、安定的に年収がアップする検察官や裁判官などあなたのキャリアプランに当てはまる職業は見つかったでしょうか? 司法試験の受験を検討をする際には是非その後のキャリアプランも含めて検討して見てください。

5 まとめ

  • 弁護士の年収は減少傾向。しかしまだまだ稼げる資格であることは間違いなない
  • 弁護士は経験年数に応じて大幅な昇給が見込める
  • 弁護士は企業法務系の法律事務所、一般民事系法律事務所、インハウスローヤー など多様な働き方がある
  • 裁判官、検察官は安定的に昇給。約10年で年収は1,000万円を超える

 

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