弁理士試験と司法試験を比較!ダブルライセンス取得で専門性に特化した弁護士を目指そう

司法試験

『弁理士』と『弁護士』は、似て非なる職業ともいえますが、具体的な業務内容や試験内容に関することを把握している人はあまり多くはないでしょう。どちらも難関試験であり、弁理士試験、司法試験に合格しなければなりませんが、両者の違いとはいったいどのようなものなのでしょうか?

一文字違いの肩書きであり、一見すると見間違えてしまいそうなこともありますよね。この記事では、弁理士試験と司法試験を比較し詳しく解説します。

最近では、『弁護士×〇〇』のように、ダブルライセンスを保有し専門性を磨き上げ活躍する弁護士も珍しくなくなってきましたね。とはいえ、弁理士資格を保有している弁護士はあまり多くはありません。他者との差別化を図り専門性に特化した弁護士として活躍できるチャンスは大いにありますので、是非ご参考になさってくださいね。

 

1 弁理士とは

端的にいえば、知的財産に関する専門家のことをいいます。弁理士法に定められている文言から紐解いてみましょう。

 

【弁理士法】〈弁理士の使命〉

第1条 弁理士は、知的財産に関する専門家として、知的財産権の適正な保護及び利用の促進その他の知的財産に係る制度の適正な運用に寄与し、もって経済及び産業の発展に資することを使命とする。

 

知的財産についても簡単ではありますが、確認しておきましょう。

【知的財産権とは?】

人間の知的活動により生み出されたアイデアや創作物などには財産的な価値を持つものがあり、それらを総称して『知的財産』と呼ぶ。また、法律で規定された権利や権利上保護される利益に係る権利として保護されるものを『知的財産権』という。(参考:日本弁理士会HP

 

〈知的財産権一例〉

◆特許

◆実用新案

◆意匠権

◆商標権 など

 

会社だけではなく個人にとっても、デザインや論文、音楽、生産方法や半導体集積回路配置など、さまざまな護りたい権利が存在します。

 

「自社のオリジナルデザインとそっくりのものが売られている。」

などといった知的財産権侵害に関する報道は、度々見聞きする機会があり、私たちの生活に密着している身近な権利であるともいえます。

 

上記のような知的財産権を取得したい方の代理人として特許庁への手続きを行うのが弁理士の主な仕事となります。また、知的財産の専門家として、知的財産権の取得についての相談をはじめ、自社製品を模倣された場合の対策や他社に権利侵害を及ぼしていないか等の相談、知的財産全般にまつわる相談を受けて助言、コンサルティング、出願後の対応に至るまで、幅広い業務を行います。

さらに、特許権や実用新案権、意匠権、商標権などの侵害に関する訴訟に、補佐人または弁護士と共同で(一定要件のもと)訴訟代理人として参加するケースもあります。

参照:日本弁理士会「弁理士とは」

 

2 弁理士試験と司法試験の違いを比較

弁理士試験と司法試験には、どのような違いがあるのでしょうか。

ここでは、両者の違いについて見ていきましょう。

  弁理士試験 司法試験
受験手数料 特許印紙12,000円 収入印紙28,000円
出願期間 例年3月中旬〜4月中旬 例年2月初旬頃
受験資格及び期間 学歴、年齢、国籍等による制限は一切なし

 

・法科大学院の課程を修了した者

(修了日後最初の4月1日から5年を経過するまでの期間)

・司法試験予備試験に合格した者

(合格後最初の4月1日から5年を経過するまでの期間)

試験日程 【短答式筆記試験】

・5月中旬~下旬

【論文式筆記試験(必須科目・選択科目)】

・6月下旬~7月上旬

【口述式試験】

 ・10月中旬~下旬

例年5月中旬頃 4日間

(1日目、2日目、中1日挟み3日目は論文式試験が実施され、最終日に短答式試験が行われる)

試験科目
 

短答

 

 

 

 

 

工業所有権に関する法令

(※1)出題には、工業所有権に関する条約に関する規定が含まれる場合があり、工業所有権法令の範囲内で条約の解釈・判断を考査する。

(※2)出題には、工業所有権に関する条約に関する規定が直接関係する工業所有権法令が含まれる場合がある

憲法
特許・実用新案に関する法令(※1)  民法
意匠に関する法令(※1)  刑法
商標に関する法令(※1)
工業所有権に関する条約(※2)
著作権法及び不正競争防止法  
論文

 

 

 

 

 

 

 

工業所有権に関する法令(※)

(※)出題には、工業所有権に関する条約に関する規定が含まれる場合があり工業所有権法令の範囲内で条約の解釈・判断を考査する

憲法
特許・実用新案に関する法令

 

民法
意匠に関する法令 刑法
商標に関する法令 商法
選択科目【理工I(機械・応用力学)•理工II(数学・物理)・理工III(化学)・理工IV(生物)・理工V(情報)・法律(弁理士の業務に関する法律)】※いずれか1科目を選択

 

民事訴訟法
刑事訴訟法
行政法
選択科目【倒産法・ 租税法・ 経済法・ 知的財産法・ 労働法・ 環境法・ 国際関係法(公法系)・ 国際関係法(私法系)】※いずれか1科目を選択
口述 工業所有権に関する法令(特許・実用新案に関する法令・意匠に関する法令・商標に関する法令)

 

参照:「特許庁」「法務省」 

 

特許庁及び法務省によれば、弁理士試験は、弁理士になろうとする者が弁理士として必要な学識及びその応用能力を有するかどうかを判定することを目的としており、その合格率は例年1割を下回る難関試験です。一方で、司法試験の合格率は例年3〜4割となっています。

 

弁理士試験の筆記試験は短答式と論文式により行い、短答式に合格者でなければ論文式を受験することはできず、筆記試験合格者でなければ口述試験を受験することはできません。

弁理士試験に晴れて合格し、実務修習を修了すると「弁理士となる資格」が得られます。これに対して司法試験合格者は、司法修習を経て二回試験に合格すると法曹三者となる資格が与えられます。

 

3 弁護士×弁理士のダブルライセンスで専門性を高める

知的財産に関する訴訟では、企業間のやり取りが多く訴額が大きいため、弁理士と弁護士がタッグを組んで訴訟対応をするケースが多いです。知的財産のプロフェッショナルである弁理士と、訴訟のプロフェッショナルである弁護士ですから当然の流れともいえるのかもしれません。

日本国内のみならず海外とのやり取りも多いので、収入的に見ても稼げる期待可能性を秘めているといえ、両者の資格のもつ魅力の一つであるともいえます。英語が得意でコミュニケーション能力が高い人にはグローバルに活躍できるチャンスがありますよね。

 

また、知的財産法に長けている弁護士数が少ないという実情も影響しているといっても過言ではありません。

 

日本弁理士会によれば、弁理士の多くは、研究開発経験を持ち技術的素養を備えています。故に、発明を技術的に十分理解した上で、最適な権利を取得できるよう特許・実用新案の観点から発明を捉え直して出願します。万が一、審査庁により拒絶理由通知が為されても、最終的に権利を取得できるようにするためにあらゆる策を講じます(補正、反論など)。

 

これは、日頃から特許庁の判断例や裁判例、頻繁に行われる法改正に対応する研鑽を積んでいる弁理士ならではの技能ともいえます。弁理士資格と弁護士資格のダブルライセンス保有者として、高度な専門スキルを併せ持ち他者と一線を画すことができるので、さらに活躍の場を拡げることができるのではないでしょうか。

 

英知の結晶ともいえる大切な権利を護るのですから、とてもやり甲斐のある仕事ですよね。

 

4 司法試験合格後に弁理士試験にチャレンジしてみよう

司法試験も弁理士試験も非常に難しい試験であることには変わりありませんが、弁護士が弁理士試験を受験する際には、『試験科目免除制度』があることをご存知でしょうか?

 

特許庁によれば、特許庁が指定する他の公的資格を有する者は永久に論文式筆記試験(選択科目)が免除されるとあります。(受験願書提出時に一定の証明書を要添付)

公的資格の中には、司法試験合格者含まれています。

 

【免除される科目】

◆法律(弁理士の業務に関する法律)

 ※総則、物権、債権から出題される

 

本免除制度の具体的な内容や認定を受けるための具体的な手続については、「他の公的資格に基づく論文式筆記試験(選択科目)の免除について」をご確認くださいね。

 

文系の色が強い法律系資格の中で、唯一の理系資格といわれる弁理士ですが、それだけに職業専門性は非常に高く、法律の立て付け上、弁護士は弁理士登録が可能となります。しかしながら、実質的には弁理士と同じ業務を行うことは難しいとされています。

 

なぜなら、権利申請業務の中でメインとなる「特許」に関しては、そもそも知的財産の新規性・創作性を判別するために相当の理系知識が不可欠となります。故に、法学部出身者が大半を占めている弁護士では、日本の最先端技術について開発者と見識を共にし、いち早く発明を権利保護下に置くための聞き取りなどが容易ではないからです。

 

理系出身者でなくても、司法試験合格者は免除科目がある分有利といえます。社会人経験のある方で理系出身の方は、司法試験合格後に弁理士試験にチャレンジされてみてはいかがでしょうか。将来性に加え、業務のやり甲斐を考えてみても、弁理士試験合格を目指すには十分なメリットがあるといえるのではないでしょうか。

 

5 サマリー

弁理士として独立した人の中には、2,000万円、3,000万円以上の年収を稼ぐような成功した人もいますので、夢がありますよね。何よりも、依頼者の並々ならぬ努力の結晶である無形の価値(知的財産権)を護ることのできる非常にやりがいのある仕事であることに間違いはありません。弁護士資格保有者には弁理士試験の科目免除制度がありますので、弁護士資格プラスアルファとして弁理士試験にチャレンジしてみてはいかがでしょうか。

6 まとめ

  • 弁理士とは、知的財産に関する専門家のことをいう
  • 弁理士試験は主に工業所有権に関する法令より出題される
  • 弁理士資格と弁護士資格のダブルライセンス保有者として、高度な専門スキルを併せ持ち他者と一線を画すことができるので、さらに活躍の場を拡げることができる
  • 弁護士が弁理士試験を受験する際には、『試験科目免除制度』がある

 

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