法科大学院を修了すると、司法試験の受験資格を取得することができます。そして、司法試験に合格することができれば、法曹の道へ進むことができます。実は、法曹以外にも、進路はあり、司法試験に不合格となってしまったとしても、選べる道はたくさんあります。
それぞれの進路に進んだ場合の気になる年収について調査しました。是非参考にしてみてください。
1 法科大学院修了後の進路は?
法科大学院を修了した後の進路として、大きく5つの進路が考えられます。
まず、一つは司法試験に合格し、法曹(弁護士、検察官、裁判官)として働くという進路です。多くの修了生はこの進路をまずは目指すのではないでしょうか。
また、弁護士の中でも、法律事務所に就職するケース以外にも、企業内弁護士(インハウスローヤー)といい、民間企業の弁護士として働くというケースも最近では増加傾向にあります。
次に、司法試験に合格したものの、法曹以外の進路に進むケースもあります。
これは、例えば、一般企業に就職したり、国家公務員試験を受験して公務員として働くといった場合です。
次に、司法試験に不合格となったため、企業に就職するケースや、国家公務員試験を受験し公務員として働くという進路も考えられます。
こちらでは、法科大学院修了を条件として求人をする企業や、院卒を対象とする公務員試験もあるため、法曹の道が閉ざされてしまったとしても、この進路に進んで活躍している方は多くいます。
最後に、法科大学院を修了したものの、司法試験を受験せずに企業就職や国家公務員として働くというケースがあります。
2 法曹資格をもつ場合の気になる年収
(1) 弁護士の年収
出典:日本弁護士連合会による近年の弁護士の実勢について(弁護士白書2018年版)
こちらは、2006年、2008年、2010年、2014年、2018年に実施した弁護士の収入と所得の調査結果になります。
この統計を見ると、2006年の平均年収が3,620万円、2008年の平均年収が3,389万円、2014年の平均年収が2,402万円、直近の2018年の平均年収は2,143万となっています。
この統計を見ると、弁護士の年収は年々減少しており、特に2008年から2010年にかけて年収が900万円近く下がっており、一気に減少していることが分かります。
とはいえ、弁護士の年収は、後述するように、一般会社員の平均年収に比べてみると、依然としてとても高いといえます。
弁護士の平均年収が下がっている要因として考えられるのは、制度改革により、司法試験合格者数が増加したことに伴い、競合が増えたことなどが推察できます。
(2) 企業内弁護士の年収
企業内弁護士(インハウスローヤー)とは、一般企業内で働く弁護士のことをいいます。
最近では、法律事務所で働く弁護士以外にも、こういった企業内弁護士として働く弁護士が増えてきており、人気です。
下表のとおり、全国の企業内弁護士数は2,629人(2020年6月30日現在)となっており年々右肩上がりで増加傾向となっています。
【注】
企業内弁護士数は、日弁連データをもとにJILA(日本組織内弁護士協会)調べによるもの。
日本弁護士連合会 弁護士白書2020 資料2-3-1「組織内弁護士数の推移」を元に資格スクエアメディアにてグラフを作成
こちらは、企業内弁護士の経験年数別の平均年収です。
2020年の最も割合の大きかった年収は750万円~1,000万円未満で28.3%でした。その次に多いのが1,000万円~1,250万円未満で22.8%でした。
上記弁護士全体の平均年収と企業内弁護士の年収を比較してみると、半数以上の割合の弁護士の年収が250万円~1,000万円となっており、企業内弁護士の平均年収は低いといえるかもしれません。
企業内弁護士として働くのは年収が低すぎるのでは?と思われるかもしれません。もっとも、法律事務所で勤務する弁護士は、抱えている案件の数によって忙しさも変わり、1日の勤務時間が10時間を超えるところも多々あります。これに対して、企業内弁護士は、会社員として受けられる福利厚生や、残業が少ない会社であれば時間に余裕ができるなど、法律事務所での勤務とは異なった生活が送れるので、年収が低いとはいえ、魅力度が落ちるわけではありません。
また、弁護士全体の収入平均に比べると低い傾向にあるといえるかもしれませんが、最も高いのだと5,000万円以上と、弁護士全体の平均収入に劣らず高いことがいえますね。
(3) 裁判官の年収
裁判官の報酬については「裁判官の報酬等に関する法律」で「報酬月額」が定められています。
判事補十二号 | 234,900円 | 判事補四号 | 341,600円 | 判事四号 | 818,000円 |
判事補十一号 | 240,800円 | 判事補三号 | 364,900円 | 判事三号 | 965,000円 |
判事補十号 | 247,400円 | 判事補二号 | 387,800円 | 判事二号 | 1,035,000円 |
判事補九号 | 256,300円 | 判事補一号 | 421,500円 | 判事一号 | 1,175,000円 |
判事補八号 | 277,600円 | 判事八号 | 516,000円 | その他の高等裁判所長官 | 1,302,000円 |
判事補七号 | 287,500円 | 判事七号 | 574,000円 | 東京高等裁判所長官 | 1,406,000円 |
判事補六号 | 304,700円 | 判事六号 | 634,000円 | 最高裁判所判事 | 1,466,000円 |
判事補五号 | 319,800円 | 判事五号 | 706,000円 | 最高裁判所長官 | 2,010,000円 |
簡易裁判所判事 | |||||
十七号 | 234,900円 | 十一号 | 304,700円 | 五号 | 438,900円 |
十六号 | 240,800円 | 十号 | 319,800円 | 四号 | 574,000円 |
十五号 | 247,400円 | 九号 | 341,600円 | 三号 | 634,000円 |
十四号 | 256,300円 | 八号 | 364,900円 | 二号 | 706,000円 |
十三号 | 277,600円 | 七号 | 387,800円 | 一号 | 818,000円 |
十二号 | 287,500円 | 六号 | 421,500円 |
最初は判事補十二号もしくは簡易裁判所判事十七号からのスタートとなり、報酬月額は23万4,900円です。新卒者・社会人経験者ともに扱いは変わりません。ただし、法曹界での経験は考慮されるようです。
出典:裁判官の報酬等に関する法律(昭和二十三年法律第七十五号)施行日: 平成二十八年十一月三十日平成三十年十一月三十日公布(平成三十年法律第八十五号)改正
(4) 検察官の年収
検察官の報酬体系については、検察官の俸給等に関する法律で定められています。
検察官の俸給等に関する法律
別表(第二条関係)
区分 | 俸給月額 | |
検事総長 | 1,466,000円 | |
次長検事 | 1,199,000円 | |
東京高等検察庁検事長 | 1,302,000円 | |
その他の検事長 | 1,199,000円 | |
検事 | 一号 | 1,175,000円 |
二号 | 1,035,000円 | |
三号 | 965,000円 | |
四号 | 818,000円 | |
五号 | 706,000円 | |
六号 | 634,000円 | |
七号 | 574,000円 | |
八号 | 516,000円 | |
九号 | 421,500円 | |
十号 | 387,800円 | |
十一号 | 364,900円 | |
十二号 | 341,600円 | |
十三号 | 319,800円 | |
十四号 | 304,700円 | |
十五号 | 287,500円 | |
十六号 | 277,600円 | |
十七号 | 256,300円 | |
十八号 | 247,400円 | |
十九号 | 240,800円 | |
二十号 | 234,900円 | |
副検事 | 一号 | 574,000円 |
二号 | 516,000円 | |
三号 | 438,900円 | |
四号 | 421,500円 | |
五号 | 387,800円 | |
六号 | 364,900円 | |
七号 | 341,600円 | |
八号 | 319,800円 | |
九号 | 304,700円 | |
十号 | 287,500円 | |
十一号 | 277,600円 | |
十二号 | 256,300円 | |
十三号 | 247,400円 | |
十四号 | 240,800円 | |
十五号 | 234,900円 | |
十六号 | 223,600円 | |
十七号 | 215,800円 |
上記別表をみると分かるのですが、検察官の月給は階級ごとに定められています。
検事については、最も階級が低いのが20号で月給が234,900円となっています。数字が小さくなるにつれて階級が上がるので、最も階級の高い1号の月給は1,175,000円となります。
副検事についても同様で、数字が小さくなるにつれて階級が上がり、月給も上がるように定められています。
基本的に毎年昇給がありますが、役職については昇格試験を受ける必要があります。
3 法曹資格を持たない進路に進む場合の気になる年収
(1) 一般企業に就職する場合
法曹以外の進路として、一般企業に就職する場合は、これまでの法学の知識を活かして、法務部に入社する方が多くいます。
実際に法務部を中心とする求人が多くあるので、法科大学院を修了した後に、求人情報を検索してみると様々な情報が得られると思います。
法務の平均年収については、約567万円となっています(「求人ボックス給料ナビ」より)。
全体の民間企業における平均年収に比べると高い傾向にあるといえます。
法学の知識を活かして出世することも可能なので、是非参考にしてみてくださいね。
(2) 国家公務員の年収
国家公務員の中でも、法科大学院修了生の場合は、国家公務員総合職(法務区分を除く)に就職するケースが多いです。
2019年度国家公務員総合職試験では、215人の法科大学院出身者が受験しており、そのうち87人が合格し、12人が採用されています(「人事院国家公務員試験採用情報NAVI」より)。
もっとも、年齢制限がある点には注意が必要になります。
2022年度の試験においては、受験資格として、1992(平成4)年4月2日以降生まれの者である必要があります。
令和3年4月1日現在における一般行政職員の平均給与月額は、407,153円となっています(「国家公務員給与の実態」人事院より)。
年収に換算すると、4,885,836円であり、上記法務の平均年収に比べると若干少なくなります。
4 サマリー
法科大学院を修了した後の進路としては、やはり法曹資格を持って働く方が、高い年収になり、キャリアも幅広いといえますが、法曹資格をもたなくても、これまで紹介してきたように、様々な進路があり、それなりの年収が得られるといえます。
法科大学院にこれから入学することを考えている方や在学中の方は、修了した後の進路として是非参考にしてくださいね。
5 まとめ
- 法科大学院を修了した後の進路として、①司法試験に合格し、法曹資格を持って働く進路、②司法試験に合格したものの、法曹以外(企業就職、国家公務員)として働く進路、③司法試験に不合格となり、企業就職や国家公務員になる進路、④司法試験を受験せずに企業就職、国家公務員になる進路などがある
- 2018年の弁護士全体の平均年収は2,143万
- 検察官と裁判官の年収は、法律で階級ごとの報酬が定められている
- 法務における平均年収は約567万
- 令和3年4月1日現在における一般行政職員の平均給与月額は、407,153円