司法書士試験は、合格率が例年4%前後の難関試験の1つです。
司法書士試験と司法試験・予備試験の試験科目は重複している科目が多くあります。そのため、司法書士試験で得た知識が司法試験や予備試験受験の際に役立つことは間違いありません。
司法書士として働き実務経験を積みながら司法試験へステップアップする方も珍しくありません。また、司法書士の受験経験を活かして司法試験へとステップアップしている受験生もいます。
この記事では、司法書士試験から司法試験へチャレンジし新たなフィールドへステップアップし活躍する方法や両試験の違いなどについて解説していきます。
是非、ご参考になさってくださいね。
1 司法書士試験と司法試験を比較
似て非なるものとして挙げられることも少なくない「司法書士試験」と「司法試験」ですが、関係者でない限り熟知している方は少ないでしょう。一般的には、司法書士は「登記の専門家」といわれ、司法試験は「弁護士(≒法曹三者)」をイメージされる方が多いのではないでしょうか。
ここでは、司法書士試験と司法試験の違いを少し深掘りして見ていくことにしましょう。
(1) 司法書士と司法試験(弁護士)の業務の違い
“町の法律家”として市民にとって身近な存在でもある司法書士ですが、いったいどのような業務を行うことができるのでしょうか。以下では、司法書士の代表的な業務内容を列挙しましたが、司法書士の業務は多岐にわたるものとおわかりいただけるかと思います。これだけの業務を行うことができるのですから、試験の難易度が高いのも頷けますね。
他人の依頼を受けて行うことのできる司法書士の業務に関しては、司法書士法第3条や司法書士法施行規則第31条に規定されており、およそ下記のとおりです。
1.登記又は供託手続の代理
2.(地方)法務局に提出する書類の作成
3.(地方)法務局長に対する登記、供託の審査請求手続の代理
4.裁判所または検察庁に提出する書類の作成、(地方)法務局に対する筆界特定手続書類の作成
5.上記1~4に関する相談
6.法務大臣の認定を受けた司法書士については、簡易裁判所における訴額140万円以下の訴訟、民事調停、仲裁事件、裁判外和解等の代理及びこれらに関する相談
7.対象土地の価格が5600万円以下の筆界特定手続の代理及びこれに関する相談
8.家庭裁判所から選任される成年後見人、不在者財産管理人、破産管財人などの業務
また、司法書士は、“国民の権利の擁護と公正な社会の実現のため、常に品位を保持し、業務に関する法令及び実務に精通して、公正かつ誠実にその業務を行わなければならない”という重い責任を負っています。
続いて、司法試験についてみていきましょう。「司法試験といえば弁護士」と一般的に多くの方がイメージされることが多く“社会生活における医者”などといわれることもあります。弁護士法を元に弁護士の業務について見ていきましょう。
(弁護士の職務)
第三条 弁護士は、当事者その他関係人の依頼又は官公署の委嘱によつて、訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件に関する行為その他一般の法律事務を行うことを職務とする。
2 弁護士は、当然、弁理士及び税理士の事務を行うことができる。
引用:弁護士法
つまり、弁護士は、法律に関わる全ての事務を行うことができ、司法書士の業務範囲もカバーしています。言い換えれば、司法試験に合格し弁護士資格を取得すれば司法書士試験に合格しなくても司法書士業務を行うことができます。
また、弁護士は、弁護士法第1条「弁護士の使命及び職務(弁護士の使命)」によれば、「基本的人権を擁護し、社会正義を実現すること」を使命としており、法律の専門家として人々の自由や財産、健康などの権利を守るとともに社会秩序の維持及び法律制度の改善に努力しなければならないとされています。そのため、弁護士は、常に深い教養の保持と高い品性の陶やに努め、法令及び法律科目に精通しなければならず(弁護士法第2条「弁護士の職責の根本基準」)重い責任を負うということもまた事実です。
ちなみに、弁護士バッチの外側には「ひまわり」がデザインされており、中央には「はかり」がデザインされています。弁護士の使命や職責を表しているといえます。(参照元:日本弁護士連合会)
■ひまわり 『正義と自由』を追い求める
■はかり 『公正と平等』を追い求める
(2) 試験制度
◆司法書士試験・・・例年7月初旬に筆記(択一式・記述式)試験実施
例年10月頃に口述試験実施
◆司法試験・・・・・例年5月中旬に実施
試験制度の違いは顕著です。下図からもおわかりいただけるように、司法書士試験は誰もが受験できる試験ですが、司法試験は前提となる受験資格(法科大学院修了者or予備試験合格者)が必要です。
試験の方法も、司法書士試験は全ての試験が1日で完結します。「午前科目」「午後科目」に全11科目を分けて出題され「午前科目の合計点」「午後科目の合計点」が基準点に満たなければ足切りとなり、それ以上進むことができません。また、記述式では実際の問題事例から登記申請書を作成する方法で出題されます。
一方、司法試験では「短答式試験」「論文式試験」時期を同じくしてそれぞれ計8科目出題され、5日間のうち中1日を挟み計4日間にわたり実施されます。とても長丁場となりますので、高い集中力は勿論のこと体力勝負ともいえます。足切りに関しては、合格ラインに達していない科目が1科目でもあればそれだけで不合格となる大変厳しい試験です。
【司法書士試験制度】
【司法試験の制度】
(3) 試験科目
司法書士試験という難関試験に合格した方もしくは受験経験がある方だからこそ、司法試験がいかに厳しい試験であるかはある程度把握されている方も少なくないと思います。しかしながら、試験科目が重複しているからこそ「4科目補えば、手の届かない試験ではなく合格できるのでは?」と感じていらっしゃる方もいらっしゃるのではないでしょうか?
ここでは、司法書士試験と司法試験の科目の差異を確認しておきましょう。(※あくまで科目での比較となり難易度は加味しておりません。)
司法書士試験受験経験者が司法試験にチャレンジする場合は、上記表中の緑色部分は既に習得済みなので、ピンク色の部分のみを習得すれば良く、大きなアドバンテージとなることは間違いありません。
(4) 難易度
続いて、司法書士試験と司法試験の難易度について、法務省のデータから見ていきましょう。どちらも難関試験であることに変わりありませんが、合格率という点だけをピックアップすると司法書士試験は例年4~5%ほどを推移しており、司法試験は近年では40%台を超え右肩上がりとなっています。
これは、司法書士試験は受験資格に制限がないことで合格率が絞られることに対し、司法試験では、一定の受験資格を得なければ受験することができないことが要因です。司法試験の受験資格を法科大学院修了者または予備試験合格者に限定することで、言葉を選ばずにいえば、ある程度のスクリーニングにかけていることになりますので、レベルの高い受験者層となっており合格率は上がると考えられます。
また、近年では予備試験合格者ルートでの受験者も増加し、同ルートでの司法試験合格率が93.5%に達していることから、最終的に司法試験合格率も上昇していると考えて差し支えないでしょう。
【司法書士試験 受験者数・合格者数・合格率の推移】
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参照:法務省「司法書士試験」
【司法試験 受験者数・合格者数・合格率の推移】
参照元:法務省「司法試験の結果について」
2 司法書士試験から司法試験へステップアップするメリットとは
司法書士試験から司法試験へステップアップする際に、司法書士試験で得た知識や経験を活かせるメリットはどのようなものが挙げられるでしょうか?
◆試験勉強のアドバンテージが大きい
ずばり、試験勉強のアドバンテージが大きいということが他の受験生と比較すると大きなメリットといえます。たとえば、前述にておすすめした予備試験ルートで司法試験を目指すのであれば、予備試験合格のために必要な最低限の学習時間は、個人差はありますが、およそ 2,000 時間といわれています。しかしながら、この数字は法学について全くの初学者を想定したものであり、ある程度学習の進んだ方であればこの限りではありません。
特に、予備試験において天王山となる論文式試験については、基礎的な法律知識だけでなく「答案の書き方」「文章力」といったいわゆる演習部分に多くの勉強時間を費やすこととなります。司法書士合格者や受験経験者の方であれば、予備試験突破のために必要な法律知識の土台部分などは備わっているといえます。 したがって、予備試験合格のために必要な勉強は、専ら司法書士試験で試験科目となっていなかった4科目(刑事訴訟法・行政法・実務基礎・選択科目)の法律知識を習得し、それを予備試験の出題形式に対応させることが主となります。
また、簡裁代理権認定考査試験をクリアされた方は、要件事実論を核とする民事実務基礎科目については論文対策・口述対策も既に相当レベルの実力をお持ちですから、やはり、この点についても大きなアドバンテージとなります。
3 司法書士試験から司法試験を目指すには
◆法科大学院修了者
◆予備試験合格者
司法試験の受験勉強に大きなアドバンテージを持つ司法書士資格合格者もしくは受験経験者ですが、どちらかのルートを経て司法試験受験資格を得なくてはなりません。どちらが良いと一概にはいえませんが、敢えておすすめするのならば予備試験ルートです。
なぜなら、忙しい社会人(司法書士として働きながらでも)や学生の方であってもスキマ時間を活用して合格している方が多いからです。
法科大学院ルートのメリットも勉強仲間と切磋琢磨し合えるなど多々ありますが、時間的にも経済的にも負担が大きいのが少々ネックとなります。ご自身の置かれている環境などを考慮して最適なルートを選択してくださいね。
【※注】
文部科学省「法科大学院の教育と司法試験等との連携等に関する法律等の一部を改正する法律案」によれば、令和5年より一定の条件を満たすことにより、法科大学院在学中においても司法試験を受験することが可能となります。詳細については、随時チェックされることをおすすめします。 |
4 全方位型法律家(弁護士)という新たなフィールドへチャレンジする
◆全方位型法律家(弁護士)として新たなフィールドで活躍できる
◆収入がUPする可能性が高い
◆社会的地位が更にUP
◆司法書士実務の経験を活かすことができる
これらは、司法書士から司法試験にステップアップする際に、一般的に考えられる全方位型法律家(弁護士)の魅力です。言い換えれば、難関試験にチャレンジするメリットともいえますね。
“これまで難関試験である司法書士試験を経験してきたからこそ新たなフィールドへチャレンジしてみてはいかがでしょうか?!”
どちらの資格の方が優れているなどと優劣をつけられるわけありません。なぜなら、同じ法律を扱い業務を行うことは共通していても、専門的な分野は似て非なるものであり、実務的には、士業間において上手く棲み分けが為されていることが多いからです。
しかしながら、司法書士資格の行える業務範囲には限りがあることもまた事実です。
この点に、限界を感じている司法書士有資格者の方も少なからずいらっしゃるのではないでしょうか。訴訟業務に関しては、司法書士には一定の制限がありワンストップサービスが行き届かないなどと思われることもあるかもしれません。逆にいえば、弁護士であっても司法書士が得意とする登記分野を積極的に行っている弁護士は少ないのが実情であり、それだけ難易度の高い業務ともいえます。
ですが、司法書士有資格者としての経験があり、ステップアップとして弁護士資格を取得したとしたらどうでしょうか。ワンストップサービスを提供することが叶いクライアントから喜ばれることも多く、活躍のフィールドはますます広がります。
司法書士の業務範囲では手の届かなかった業務が行えるようになり、専門性に特化した弁護士として事案を解決に導くことができるようになるということ1つとってみても、法律家冥利に尽きるといえ、チャレンジする価値が多いにあるといえるのではないでしょうか。
5 サマリー
司法書士試験と司法試験について詳しく見てきましたが、試験制度や業務範囲など同じ法律を扱う仕事でもさまざまな違いがあることがおわかりいただけたかと思います。司法書士試験受験で得た知識は重複している科目が多いことから、司法試験受験の際に大きなアドバンテージとなります。全方位型法律家として一歩踏み出すのなら、時間的・経済的に負担の少ない予備試験ルートで司法試験にチャレンジしてみてはいかがでしょうか?!
6 まとめ
- 司法書士試験と司法試験制度の違い|①業務範囲②試験制度③試験科目④難易度
- 司法書士試験から司法試験へステップアップする際に、司法書士試験で得た知識や経験を活かせるメリットは「試験勉強のアドバンテージが大きい」こと
- 司法書士試験から司法試験を目指すには2つのルート(受験資格)がある|◆法科大学院 修了者(法科大学院ルート)◆予備試験合格者(予備試験ルート)
- 全方位型法律家(弁護士)の魅力|①全方位型法律家(弁護士)として新たなフィールドで活躍できる②収入がUPする可能性が高い③社会的地位が更にUP④司法書士実務の経験を活かすことができる