司法試験は文系最難関の国家資格ともいわれていますが、その難しさとはどんなところにあるのでしょうか。
この記事では、司法試験で出題される問題について、分析しています。
その上で、司法試験の問題を解くためにはどのような能力が必要なのかについても解説しています。
1 司法試験とは
司法試験の問題について見ていく前に、そもそも司法試験とはどのような資格試験なのでしょうか。
司法試験とは、裁判官・検察官・弁護士の法曹三者となるための試験です。司法試験に合格し、1年間の司法修習を修了すると法曹三者のいずれかになることができます。
試験は年1回5月頃に行われています(ただし、令和5年度からは7月中旬に試験日程が変更となります)。
試験内容はマークシート式の短答式試験と記述式の論文式試験の2種類の試験から構成され、両者の総合点に基づく総合評価により合否が決定されます。
試験科目は以下のようになっています。
試験科目 | |
短答式試験 | 憲法・民法・刑法 |
論文式試験 | ・公法系〔憲法・行政法〕
・民事系〔民法・民事訴訟法・商法〕 ・刑事系〔刑法・刑事訴訟法〕 ・選択科目 ▷倒産法, 租税法, 経済法, 知的財産法, 労働法, 環境法, 国際関係法 〔公法系〕 ,国際関係法〔私法系〕から1科目選択 |
司法試験を受験するには、受験資格として①法科大学院を修了する(令和5年度司法試験からは法科大学院在学中でも一定の条件のもと受験が可能となります)か、②司法試験予備試験に合格することが必要となります。
2 司法試験でよく出題される問題
⑴ 条文に関する問題
司法試験では、条文に関する問題が出題されます。
短答式試験では、細かい条文知識について出題されます。ここでは、法律の規定を頭に入れておかなければ問題を解くことができません。そういう意味で、条文を「知っているか」という観点から試されています。
他方で、論文式試験では、短答式試験と異なり六法が貸与されます。そのため、試験中に六法を参照することが可能なのです。そうすると、論文式試験では、条文の知識が問われているのではありません。むしろ、どの条文を適用して問題を解決するかが問われています。生の事実からいかなる法律を適用するのかについては、法律の規定を十分理解していないと対応することができません。つまり、論文式試験では、条文を「理解しているか」という観点から試されているのです。
⑵ 条文の文言を解釈する問題
条文の文言は、抽象的に定められています。
例えば、殺人罪(刑法第199条)の規定を見ると、「人を殺した者は、死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処する」とされています。すなわち、殺人罪が適用されるためには、「人を殺した」ことが必要となります。
ところで、「人を殺した」とは、どのような場合があてはまるのでしょうか。
ナイフで人を刺して死亡させた場合には、「人を殺した」といえそうです。
では、お母さんが赤ちゃんを死んでもいいと思いながら、ごはんも与えず死なせた場合には、「人を殺した」といえるのでしょうか。この場合には、ナイフで刺した場合と異なり、物理的な攻撃を加えていません。この場合に「人を殺した」といってよいと言い切れるでしょうか。
「人を殺した」と法律は規定していますが、この文言から問題は解決しません。この問題を解決するには、「人を殺した」という文言を解釈して、明らかにする必要があります。そのうえで、解釈した規範に、事例をあてはめて考えていく作業が必要なのです。
司法試験では、このように条文を解釈する力が試されます。
適切に条文を解釈するためにも、各条文の制度趣旨や適用場面をしっかりと理解しておく必要があります。
⑶ 過去問で出題された問題
司法試験では、過去問で出題された問題もよく出題されます。
全く同じ問題が出題されるわけではありませんが、同じ知識について形を変えて出題されます。また、問題自体は違っても、問われているポイントについて、一定の傾向を見つけることができます。
このように、過去問の検討を深めることで、司法試験で何が問われているか把握することができます。
3 司法試験で問われる能力
⑴ 条文から考えることのできる能力
法律家は、常に条文を根拠に、議論を行ったり、裁判書類を作成しています。
そのため、司法試験でも条文から物事を考えることができるか試されています。
法律の世界には、判例や学説で一定の理論が作り出されています。
しかし、司法試験で、判例や学説に言及する場合には、どの条文のどの文言が問題になっているか常に意識して問題に取り組む必要があります。それを意識しないと、条文から考えることができていないという評価を受けてしまいます。
実際に、司法試験の採点実感で、「条文の引用が当然求められる箇所であるにもかかわらず、その条文を引用していない答案や、引用条文の条番号が誤っている答案も一定数見られた。法律解釈における実定法の条文の重要性は、改めて指摘するまでもない。」と記載されています(出典:令和2年度司法試験民事系第3問採点実感 Taro-02_民事系科目 (moj.go.jp))。
このように、条文を意識することは非常に重要です。司法試験では、条文から考えることのできる能力が問われています。
⑵ 判例を本質から説明できる能力
司法試験では、判例を素材にした問題がよく出題されます。そのため、判例の知識を押さえておくことは必須です。
しかし、判例の結論だけを暗記していても意味がありません。特に、論文式試験では、判例と同じ事案の問題は出題されません。必ず判例の事案と異なった問題が出題されます。ここでは、判例の理解が問われているのです。判例の理論を理解し、核となるポイントを押さえておけば、事案が変わっても対応することができます。
実際に、司法試験の採点実感でも、「条文や判例に関する表面的な知識を習得するだけでなく、そのルールを具体的な事実に適用し、結論を導くことができる能力を身に付けるように努めていただきたい。」と記載されています(出典:令和3年度司法試験民事系第1問採点雑感 001357780.pdf (moj.go.jp))。
このように、試験委員は、受験生に判例を具体的に使うことができるようになることを求めています。そのため、司法試験では、判例をしっかりと理解している能力が必要といえます。
⑷ 未知の問題へ対応する能力
司法試験では、今まで見たことも考えたこともないような問題が出題されます。こういった問題は、実務でも結論が固まっていない場合が多いです。ここでは、「正解」が問われているわけではありません。未知の問題に対して、どのように法律の根拠から論理的に考えることができるか試されているのです。
法律家は、未知の問題に必ず出会います。未知の問題に出会った場合、法律家として適切に事件を処理する必要があります。こういった実務で必要な能力を、司法試験でも試されているのです。
4 司法試験に合格するために必要な能力
司法試験は、覚えなければならないことが多いです。そういった意味で、暗記力が必要なことは否定できません。
他方で、単純な暗記力のみでは、司法試験に合格することはできません。理解して暗記しなければ意味がありません。
詳しくは、こちらの記事を参照してください。
司法試験に暗記は必要?合格するために必要な暗記について徹底解説!
司法試験では、基本的な知識をベースに応用力が試される問題が出題されます。
基本的な知識を押さえた上で、自分の言葉で説明できる能力が必要です。そのため、100個の表面的な知識を押さえるより、理解して覚えた10個の基本的な知識をもっているほうが、司法試験では強い武器になります。そして、基本的な知識について十分な理解をしていれば、応用的な問題が出題されても、対応することができます。
そのため、司法試験に合格するためには、条文の制度趣旨や判例について、説明することができるくらい理解を深めておくことが必要といえます。
5 サマリー
この記事では、司法試験で問われる能力について解説しました。司法試験では、覚える知識が多いです。しかし、単に覚えれば合格するという試験ではありません。基本的知識をおさえた上で、未知の問題に対応できる能力が必要となります。その能力が必要とされる点こそが、司法試験が難関試験といわれる所以です。是非、皆さんもこの記事を読んで、参考にしてください!
6 まとめ
- 司法試験では、条文・判例を理解しているか試される。
- 司法試験では、思考力も問われ、基本的知識から未知の問題に対応できるか試される。
- 司法試験に合格するために必要な能力は、多くの知識を丸暗記する能力ではない。基本的な知識を理解して自分の言葉で説明できる力こそが、司法試験に合格するために必要な能力である。