司法試験の論文式試験ってどんな試験?科目別の特徴と対策方法をご紹介

司法試験

 

この記事ではトップクラスの難関だともいわれる司法試験の2種類の試験形式のうち、論文式試験について詳しく解説していきます。論文式試験がどのようなものか、そしてどのように対策すれば合格することができるのかという点についてまだまだ分からない方も多いと思います。分かりやすく解説していきますのでぜひ最後までご覧ください。

1 司法試験の試験概要

司法試験の論文式試験について解説していく前提として、そもそも司法試験がどのような試験なのかという点を簡単に説明します。

司法試験とは、裁判官・検察官・弁護士の法曹三者になるために必要な試験です。司法試験に合格することで、司法修習生になる資格を得ることができます。司法試験は、毎年1回5月頃(令和5年度は7月中旬)に行われます。試験内容はマークシート式の短答式試験と記述式の論文式試験の2つの形式の試験であり、合否は両試験の総合得点に基づく総合評価によって行われます。

司法試験の受験資格は①法科大学院を修了するか、②司法試験予備試験に合格することで得ることができます。なお、①の法科大学院ルートについては、令和5年度から一定の条件の下、法科大学院在学中でも受験が可能となります。

また、司法試験の試験科目は以下の通りとなっています。今回説明する論文式試験は計8科目となっています。

試験科目
短答式試験 憲法・民法・刑法
論文式試験 ・公法系〔憲法・行政法〕

・民事系〔民法・商法・民事訴訟法〕

・刑事系〔刑法・刑事訴訟法〕

・選択科目

倒産法, 租税法, 経済法, 知的財産法, 労働法, 環境法, 国際関係法 〔公法系〕,国際関係法〔私法系〕から1科目 選択

2 予備試験の論文式試験との違いは?

(1) 科目が異なる

予備試験の論文式試験は、司法試験の論文式試験の科目である8科目に加えて法律実務基礎科目というが課されるので9科目の対策をする必要があります。

『それなら、司法試験の論文式試験対策は予備試験の対策よりも楽なのか?』というとそんなことはありません。

なぜなら、予備試験ならば法律実務基礎科目で頻出の分野が、司法試験だと他の科目で聞かれることがあるからです。

 

例えば、平成28年の司法試験の刑事訴訟法の設問4では公判前整理手続きの知識が問われました。

(参照:法務省 『平成28年司法試験問題』)

公判前整理手続についての問題は、予備試験であれば法律実務基礎科目の刑事の問題で頻出ですが、司法試験では刑事訴訟法の分野から出題されます。

 

『法律実務基礎科目の論文の知識は、予備試験を突破したら不要になる!!』なんてことは絶対にありませんので、予備試験経由で司法試験に挑戦する受験生は注意が必要です。

(2) 試験時間が異なる

また、司法試験と予備試験では論文式試験の試験時間も異なります。

以下の表は、令和4年の司法試験と予備試験の試験時間を比較したものです。

試験科目 予備試験 司法試験
憲法 2時間20分 各2時間
行政法
民法 3時間30分
商法
民事訴訟法
刑法 2時間20分
刑事訴訟法
選択科目 1時間10分 3時間
法律実務基礎科目 3時間30分 なし

予備試験では『憲法・行政法』、『刑法・刑事訴訟法』の試験はまとめて2時間20分、

『民法・商法・民事訴訟法』の試験はまとめて3時間30分で実施されるため、1科目あたりにかけられる試験時間は約1時間10分です。

一方で、司法試験はそれぞれの法律科目ごとに2時間の試験が実施されます

そのため、1科目あたりの試験時間は司法試験の論文式試験の方が長いです。

そのため、予備試験を突破した人も、司法試験の長い試験時間を乗り切るために本番を想定した練習は必須と言えます。

(3) 答案の枚数も異なる

また、1科目あたりの試験時間が異なるのに応じて、試験会場で配られる答案の枚数も異なります。

予備試験では1問につきA4の用紙4枚分の答用紙が配られます。

一方、司法試験では1問につきA4の用紙8枚分の答案用紙が配られます。

このことからも分かるように、司法試験の論文式試験の方が予備試験に比べて書かなければならない量は増えます。

 

(4) 司法試験と予備試験で対策方法は異なるのか?

このように司法試験と予備試験で論文式試験の形式面の違いはいくつかありますが、受験生の対策方法はほとんど共通です。

なぜなら、どちらの試験も本質は受験生が具体的な問題に直面した際に適切に状況を分析して法律の知識を駆使して説得的な応答ができるかを判断するものだからです。

そのため、予備試験の対策をしっかりと行った受験生はその勉強法を司法試験にも応用す

ることで十分です。

3 司法試験 論文式試験の問題例

司法試験がどのような試験なのか理解できたところで、論文式試験の詳しい説明をしていきます。

まず、司法試験の論文式試験ではどのような問題が出題されるのでしょうか。すべて読まなくてもよいので、以下の問題例を簡単にご覧ください。

[刑事系科目] 〔第1問〕(配点:100) 以下の【事例1】及び【事例2】を読んで,後記〔設問1〕及び〔設問2〕について,答えなさい。 

【事例1】

 1 甲及びその後輩の乙は,それぞれ金に困り,2人で腕時計販売店に押し入って腕時計を強奪し ようと計画していた。甲は,腕時計販売を業とするA株式会社(以下「A社」という。)が直営 するB腕時計店(以下「B店」という。)で働いている親友の丙に対し,警備体制に関する情報 の提供など上記計画への協力を求めた。 

2 丙は,B店の副店長として自ら接客に従事するほか,アルバイトの採用や従業員の勤怠状況の 管理を行い,B店の帳簿作成や売上金管理等の業務も担当していた。売上金管理業務として,丙 には,各営業日の閉店後,当日の売上金額をA社本社に報告することのほか,各営業日の開店前 に,前日の売上金をA社名義の預金口座に入金することが義務付けられていた。また,商品の仕 入れ,店外への持ち出し及び価格設定について,丙に権限はなく,全て店長Cの承認を得る必要 があるとされていた。 B店の売場に陳列されている商品は,ショーケース内に保管されていたが,その陳列方法は全て丙が決定していた。このショーケースは,接客に必要なときを除いて常時施錠され,その鍵は, C及び丙のみが所持していた。また,B店の売場及び従業員控室には,複数の防犯カメラが設置 され,その様子が常時くまなく音声付きで撮影録画されていたほか,警備会社を通じ,警察に非 常事態の発生を知らせるための押しボタン式通報システムも設置されていた。 

3 金に困っていた丙は,甲からの話を聞いて,いっそのことB店の腕時計が強奪されたように装 い,これを自分たちのものにしようと思い付き,某月1日,甲に対し,前記2の事実関係を説明 した上,「午前11時の開店時は,普段だとめったに客も来ないし,明後日は俺しかいないから, その時,店に来て刃物を出して,ショーケースを開けろと言ってくれ。俺は後で怪しまれないように拒むふりをするけど,最後はショーケースを開けるから,すぐに時計を持って行ってくれ。 ただ,俺も通報しないわけにはいかないので,急いで逃げろよ。時計は後で分けよう。それと, 会ったことのない乙は信用できないから,今の話は内緒にしてくれ。」と持ち掛けたところ,これを甲は承諾した。 

4 甲は,同月2日,丙と内通している事実を秘したまま,乙に対し,「明日,俺がB店の開店と 同時に中に入って店員に刃物を突き付けて時計を奪い取ってくる。その間,お前は近くに停めた 車で周囲を見張り,俺が戻って来たらすぐに車を出してくれ。帰ってから時計を分けよう。」と 持ち掛けたところ,これを乙は承諾した。

 5 甲は,同月3日午前10時59分,乙の運転する自動車でB店前路上に到着し,同日午前11 時,その開店と同時に,覆面をかぶり,サバイバルナイフ(刃体の長さ約20センチメートル。 以下「本件ナイフ」という。)及びボストンバッグ(以下「本件バッグ」という。)を持って同 車から降り,B店に向かった。 甲は,B店内に入ると,丙に対し,本件ナイフを示し,「殺されたくなかったら,これに時計 を入れろ。」と言い,ショーケース内に陳列されている腕時計を本件バッグに入れるように要求 した。これに対し,丙は,前記通報システムを作動させ,甲に対し,「通報したから警察が来る ぞ。」と言い,上記要求を拒否するふりをしたので,甲は,丙に対し,「いいからやれ。刺す ぞ。」と語気を強めて言った。その直後,丙は,ショーケースを解錠し,その中にあった腕時計 100点(時価合計3000万円相当)を甲から受け取った本件バッグに入れ,これを甲に差し 出した。甲は,同日午前11時3分,本件バッグを丙から受け取ると,B店内から出て前記車両  に乗り込み,乙の運転する同車で逃走した。 乙は,甲が前記車両を降りてから戻って来るまでの間,通行人が甲を警戒したり,警察官らが 駆けつけたりする様子があれば,これを甲に知らせるつもりで,同車運転席から周囲を見張って いた。

 6 甲は,同日,乙に対し,その取り分として前記腕時計100点のうち20点(時価合計400 万円相当)を手渡し,さらに,同月4日,丙に対し,その取り分として残りの腕時計のうち40 点(時価合計1300万円相当。以下「本件腕時計40点」という。)が入った本件バッグを手 渡した。

 7 丙は,同月5日,本件バッグを交際中の丁の自宅に隠すこととし,これをその押し入れ内にし まうと,丁に対し,「バッグの中は見るな。しばらく預かっておいてくれ。」と言った。これに 従い,丁は,本件バッグを押し入れ内に放置していたが,同月10日,片付けのため本件バッグ を手に持った際,想像以上の重量であったので,不審に思い,その中を見たところ,本件腕時計 40点を発見した。その時,丁は,本件腕時計40点全てに値札が付いていたことから,丙が自 分のものにするためにB店から無断で持ち出した商品であろうと認識したが,丙のために,本件 バッグを預かり続けることとし,これを元の位置に戻した。丁は,同月25日に本件バッグを丙 に返すまでの間,これを押し入れ内に置き続けた。 

〔設問1〕 【事例1】における甲,乙,丙及び丁の罪責について,論じなさい(住居等侵入罪 (刑法第130条)及び特別法違反の点は除く。)。

出典:令和3年度司法試験 刑事系科目

 

この問題は令和3年度司法試験の刑事系科目のうち、刑法の過去問から抜粋したものです。このように、法試験の論文式試験では、長文の架空の事例をもとに記述での解答を求められます。

4 科目別の特徴

次に、司法試験の論文式試験の科目別の特徴を見ていきましょう。

予備試験の論文式試験とは異なる特徴を有する科目もあるので注意が必要です。 

(1) 選択科目:まずは足を切られないようにする!

司法試験の選択科目の特徴は、各選択科目ごとに受験者数も合格率もバラバラだということです。

そのため、どの選択科目を選ぶかも司法試験の合格のために重要なポイントになってきます。

【選択科目別 受験者数】

令和3年 令和2年 令和元年 平成30年 平成29年 平成28年
倒産法 437人(12.9%) 452人(12.3%) 608人(13.7%) 758人(14.6%) 906人(15.3%) 1190人(17.4%)
租税法 277人(8.2%) 288人(7.9%) 329人(7.4%) 358人(6.9%) 412人(6.9%) 455人(6.6%)
経済法 639人(18.8%) 683人(18.6%) 789人(17.8%) 848人(16.3%) 867人(14.6%) 865人(12.6%)
知的財産法 486人(14.3%) 525人(14.3%) 597人(13.5%) 714人(13.7%) 803人(13.5%) 988人(14.4%)
労働法 1,009人(29.7%) 1,104人(30.1%) 1,299人(29.3%) 1,481人(28.5%) 1,738人(29.3%) 1,932人(28.2%)
環境法 143人(4.2%) 161人(4.4%) 256人(5.8%) 305人(5.9%) 353人(6.0%) 448人(6.5%)
国際関係法(公法系) 46人(1.4%) 48人(1.3%) 59人(1.3%) 64人(1.2%) 81人(1.4%) 109人(1.6%)
国際関係法(私法系) 355人(10.5%) 403人(11.0%) 492人(11.1%) 672人(12.9%) 769人(13.0%) 859人(12.5%)
合計 3,392人 3,664人 4,492人 5,200人 5929人 6,846人

【選択科目別 合格率】

令和3年 令和2年 令和元年 平成30年 平成29年 平成28年
倒産法 46.22% 45.13% 37.83% 31.66% 29.80% 25.97%
租税法 39.35% 33.68% 29.48% 28.21% 22.82% 20.66%
経済法 43.35% 39.39% 34.60% 31.25% 25.37% 23.35%
知的財産法 39.71% 38.10% 32.50% 26.89% 25.03% 22.57%
労働法 45.09% 43.57% 37.11% 31.47% 27.62% 23.71%
環境法 30.77% 28.57% 28.13% 21.97% 20.68% 19.64%
国際関係法(公法系) 41.30% 27.08% 22.03% 14.06% 19.75% 16.51%
国際関係法(私法系) 34.37% 34.74% 28.66% 27.53% 24.58% 22.24%

 

また、選択科目で毎年多くの受験生が足切りをされています。

足切りというのはある科目の得点が基準に到達しなかった場合、総合点数に関係なく不合格になってしまう制度です。

令和3年 令和2年 令和元年 平成30年
最低ライン点未満実人員 229人 181人 251人 188人
公法系科目 47人 58人 135人 82人
民事系科目 178人 91人 52人 65人
刑事系科目 61人 29人 115人 33人
選択科目 54人 81人 52人 85人

(参照:法務省『令和3年司法試験の採点結果』、『令和元年司法試験の採点結果』)

公法系科目、民事系科目、刑事系科目の足切りになった人数は2科目または3科目における足切りをされた人数の合計であるのに対して、選択科目は1つの試験だけで上記表の人数の足切り該当者がいます。

多くの受験生にとって選択科目の対策は他の法律7科目に比べて手薄になりがちです。

そのため、まずは選択科目で足切りされないことを目標に勉強する必要があります。

(2) 憲法:三段審査のマスターと多角的な分析が必要!

近年の司法試験の憲法の問題は架空の法律案や条例案の憲法適合性を論じることをもとめらるものが多いです。

また、統治分野からの出題も頻繁にある予備試験に比べて、司法試験の問題は人権分野から出題されることがほとんどです。

司法試験の憲法の問題の対策として重要なのが憲法適合性を論じるための型をマスターすることです。

憲法適合性を論じる際は、三段階審査を意識して論じることが求められます。

三段階審査は以下のフローで行います。

1 問題になる権利は憲法上の自由として保護されるか?

2 問題となる権利は制約されているか?

3 問題となる権利の制約は正当化されるか?

3段階目の「制約が正当化されるか」を判断するには問題文に書かれている背景事情や立案担当者と弁護士のやりとりを読んで、問題となる権利の重要性や、制約の強さを自分で評価して結論を導きだす必要があります。

 

ここで、注意すべきなのは偏った評価をしないことです。

 

最初から違憲という結論を書こうと考えて、問題文の事情を結論が違憲になるように偏った評価をすると、あまり出来の良い答案にはなりません。

このような偏った評価にならないために、反対説を意識して答案を書くようにしましょう。

例えば、違憲という結論で答案を書く際は、必ず合憲の立場の人はどのような反論をするのかを考え、それに対する再反論を考えるようにしましょう。

(3) 行政法:典型論点の処理と問題文の読み込みが重要!

行政法の問題では行政庁とトラブルが発生した市民から依頼された弁護士として、行政庁に対しては抗告訴訟を提起できるかといった訴訟法上の問題や、行政処分などの違法性を論じる実体法上の問題が出されます

 

行政法の問題の特徴として出てくる分野が偏っていることが挙げられます。

 

訴訟法の問題では取消訴訟の訴訟要件である「処分性」「狭義の訴えの利益」「原告適格」(いわゆる「三種の神器」)や、取消訴訟以外の抗告訴訟の訴訟要件の知識を問う問題が頻出です。

行政処分の違法性を問う問題では、行政裁量に関する知識や行政手続法の知識を問う問題が頻出です。

また、行政法の問題の特徴として現場思考を要求される問題が頻出であることも挙げられます。

試験本番で初めて見る法律や条例を読んで、それらの法令に照らして行政庁の行為に違法性があったのかどうかを判断される問題が頻出です。

行政法の試験対策として、まずは頻出分野の知識は徹底的に押さえましょう。

特に抗告訴訟の訴訟要件の分野では、訴訟要件に関する重要判例の正確な知識が求められます。

また、現場思考問題に対応するために過去問演習も大切です。

特に、過去問の解説や模範解答を分析することで初見の法律や条例のどのような点に着目したら良いかや、問題文に付された背景事情や弁護士同士の会話の内容をどのように答案に反映させたら良いのかに注目して勉強することで、現場思考問題に対応する力を養うことが出来ます

(4) 刑法:重要論点を整理して覚える&学説対立問題も意識!

刑法の問題では犯罪が発生した経緯を描写した問題文を読んで登場人物にいかなる犯罪が成立するのかを答えさせる問題が出されます。

また、予備試験では未だ出題されたことのない問題形式としていわゆる「学説問題」が出題されます。

学説問題では、「登場人物である甲に〇〇罪が成立する立場からはどのような理論構成が考えられるか?」といった形式の問題です。

刑法には様々な学説の対立があります。

そして、対立する学説のうちどちらの立場を支持するかで帰結が変わる論点もあります。

もし、設問が単に「登場人物甲に〇〇罪が成立するか?」という問いならば、自分の支持する立場の論証を書けば十分です。

しかし、学説問題だと、普段自分が支持しない立場の学説の理解が問われることになるのです。

司法試験の刑法の対策としてまずは犯罪成立の判断過程をマスターしましょう。

犯罪が成立するには、

1 登場人物の行為が刑法の構成要件に該当する

2 登場人物について、違法性阻却事由がない

3 登場人物について、責任阻却事由がない

の大きく3つを認定する必要になります。

次に、刑法の個々の論点が上記3つのどの段階に関連したものなのかを理解しましょう。

最後に、学説問題の対策として学説が対立している部分について重点的に勉強しましょう。

その際に特に意識すべきなのは次の5点です。

1 なぜ、対立する学説が存在するのか?

2 学説によって結論はどのように変わるのか?

3 それぞれの学説の根拠は何か?

4 それぞれの学説にはどのような批判がなされているか?

5 判例のはどの学説の立場か?

基本書や予備校のテキストで、学説の対立について解説しているページの端に以上の1〜5の内容を自分で書き込んでおくのも非常におすすめです。

こうしておくと、まとめノートを作らずとも、自分の書き込みのあるページだけ見直すことで試験直前に効率良く復習をすることができます。

(5) 刑事訴訟法:典型論点で差をつけられないように!

刑事訴訟法の分野では、犯罪発生から、刑事裁判までの流れが描写された問題文を読んで各手続きが適法かを答えさせる問題が出されます。

近年の問題の特徴として、設問1において逮捕や差押え、取調べなどの捜査方法の違法性について出題され、設問2以降で伝聞証拠の証拠能力や、訴因変更請求についての問題など裁判手続についての問題が出されています。

 

刑事訴訟法 の対策として、まずは頻出論点をしっかりと押さえましょう。

 

捜査法の分野では、逮捕、任意処分・強制処分の区別、捜索・差押えについての知識がよく問われます。

裁判手続の分野では、伝聞証拠の証拠能力、違法収集証拠排除法則、訴因変更についての知識がよく問われます。

こうした頻出分野はほとんどの受験生が念入りに対策をしてくるので、他の受験生に差を付けられないように特に力を入れましょう。

 

次に、こうした頻出分野以外の分野も一通り答えられるように学習しましょう。

平成28年で公判前整理手続について出題があったように頻出分野以外からの出題も当然ありえます。

頻出分野以外にも出来るだけ穴を作らないようにしましょう。

 

また、刑事訴訟法の対策をする際は判例学習を大切にしましょう。

司法試験で出題される事案は、重要判例と似ているようで異なる部分がいくつかある場合がほとんどです。

 

『ああ、あの重要判例と同じような事案だから同じ結論にしよう!』と安易に考えると試験官からの評価は伸び悩むでしょう。

判例を学習する際は、裁判所がどんな事情を重要視してその結論に至ったのかに注目してください。

そして、試験本番では、問題文の事案と判例で異なる部分を見つけ出し、結論に影響を与えるかどうかを必ず検討しましょう。

基本書や判例集のページの隅に、『この事件において、判例が重要視したポイント』を箇条書きにメモをしておいて、試験本番前に見直すのもおすすめです。

(6) 民法:問題文のマーキング&結論の妥当性のチェックが重要

民法の問題では、当事者間で紛争が発生する経緯が描写された問題文を読み、登場人物の請求が認められるかを答えさせる問題が出題されます。

実は、司法試験の論文式試験の中で民法が一番難しいと言われます。

その理由は以下の3点です。

① 民法の試験で問われる知識量が莫大。
民法は民法典だけで1,000条以上の条文があるので全体を一通り学習するだけでも時間がかかります。
②  問題文が長く複雑。
例えば、平成28年の司法試験では登場人物がAから始まって、Mまで出てくるという総勢13名の権利関係について答えさせる問題が出されました。(参照:法務省『平成28年司法試験問題』)この年の受験生は、請求の適法性を検討する以前に、まず誰が誰なのかを把握するのに時間を取られたようです 現場思考問題も出題される。
司法試験の民法の問題では、受験生が学習する基本書や判例集に乗ってないような問題が出題されることが多々あります。このような問題に直面した受験生は、自分の頭で適切な結論を導くことが求められます。

民法の対策として、まず、素早く全体を一通り勉強することが大切です。

民法の知識は各分野が複雑に絡み合っているので全体を勉強しないと個々の論点について理解できないということが多々あります。

そのため、教科書の頭の方から一つ一つ理解しようとする『木を見て森を見ない勉強法』ではいつまでたっても民法の論文を書くことはできません。

そこで、各分野につき30%ほど理解できたら、次の分野に進むというくらいのペースで素早く全体の学習を進めていきましょう。

そうして、不完全ながらも全体の勉強ができたら、改めて個々の論点の学習をするようにしましょう。

 

次に、司法試験の問題文を読む際に、ポイントをマーキングしましょう。

長い問題文を読んでから、「あれ、Dさんって誰だっけ?』となって問題文を再度読み返していてはとても時間内に答案を完成させることはできません。

そこで、問題文に、日時、登場人物、法律行為が出たら必ずマーキングをしましょう。

特に登場人物は人物ごとに色を変えると、あとで混乱することを防ぐことができます。

 

また、現場思考問題には以下のフローで対処することができます。

1 まず、条文を直接適用をしてみる。

2 直接適用を得られた結論が妥当かどうかをチェックする。

3 直接適用による結論が『不当』である場合、妥当な結論を導くための理論構成を考える。

民法の答案に書き慣れない人には3の『妥当な結論を導くための理論構成を考える。』

ことが難しいでしょう。

 

よく使う手法としては以下のようなものがあります。

・類推適用

・信義則・権利濫用などの一般規定の適用

・黙示の意思表示の認定

このような手法は実際に問題演習をすることで養うことができます。

 

(7) 商法:現場思考問題に対応できる力が試される

商法の問題では、株式会社をめぐる紛争の経緯が描写された問題文を読み、当事者の請求が認められるかや、会社法上の手続きの適法性を答えさせる問題が出されます。

商法の問題はほとんどが会社法から出題されます。

予備試験の商法では手形法分野からの出題もありますが、近年の司法試験の問題で手形法の問題が出されたことはありません。

また、民法と同じく会社法も条文数は1,000条を超えますが、論文式試験で出題される条文は限られているので、民法ほど難易度は高くないと言えます。

商法の対策としては、まず会社法の典型論点を重点的に学習する必要があります。

取締役会決議や株主総会の効力、役員等の責任追及、株式発行の効力、組織再編の効力の分野は頻出なので特に力を入れましょう。

また、商法も民法同様、現場思考問題が出されます。

民法同様のフローでこうした現場思考問題に対処していきましょう。

 

(8) 民事訴訟法:重要判例の理解が鍵を握る。

民事訴訟法の問題では、当事者間の紛争が民事訴訟に発展していく経緯が描写された問題文を読み、各手続の適法性を答えさせる問題が出題されます。

民事訴訟法の特徴として、『処分権主義』『弁論主義』『既判力』といった抽象的な概念の理解を答えさせる問題が多く出題されます。

また、司法試験では、『判例射程問題』といわれる形式の問題が出されます。

『判例射程問題』とは、問題文の事案とよく似た事案を取り扱った重要判例が挙げられて、問題文の事案において重要判例と同じ結論をとるべきか否かを答えさせる問題です。

すなわち、判例の射程は今回の問題文の事案に及ぶのかどうかが問題になるので『判例射程問題』と言われます。

設問で取り上げられた判例についての知識が曖昧だと説得的な答案を書くことは不可能ですので、受験生は各判例について正確な理解が求められます。

民事訴訟法の対策としては、まず、各論点が民事訴訟が始まって、終結するまでのどの段階の問題なのかを押さえましょう。


そして、抽象的な概念については、『どんな場合に問題になるのか』『どんな帰結になるのか』など具体例と合わせて覚えるようにすると司法試験本番でも迷わず解答することができます。

また、『判例射程問題』の対策は、刑事訴訟法と同様、それぞれの判例がどんな点を重要視してその結論に至ったのかに注目して勉強しましょう。

3 司法試験の論文式試験はどう対策すればよい?

それでは、実際にこのような問題を解けるようになるにはどうすればよいのでしょうか。対策方法を解説します。

(1) 事例問題集をやり込む

まず2でみたように司法試験の論文式試験は一定の事例を素材にした記述式で行われます。そのため、事例問題特有の解き方を身につける必要があります。そこで使うのは事例式問題集です。

事例式問題集にはいわゆる「論点」が含まれる問題があります。

演習の際は、この論点の部分は問題提起→規範を定立する→事実を規範にあてはめる→結論という法的三段論法に基づいて答案を書けているかということやどの事実からその論点が問題となるのか、加えて、論点以外の部分は条文の摘示や法律要件をきちんと検討できているかなどの点について特に意識を払いながら進めていきましょう。

そして、通常はインプットのあとにアウトプットであるこの事例式問題集を解くことになります。

その際、インプットが完璧でないからといって問題集を始めないのではなく、インプットが終わったらその定着が不完全でも事例式問題集に手を付けることをおすすめします。事例式問題集で具体的な事例にあたることで、インプットの内容が理解できることが法律学習では頻繁にあるからです。

(2) 過去問演習をする

事例式問題集に取り組んだあとは司法試験の過去問を演習するようにしましょう。

最初は事例式問題集をやっていても事実の多さからなかなか歯が立たないこともあると思いますが、自分の答案構成と模範解答の解答筋を見比べてみて、どこかずれていたのか、それはなぜなのかを丁寧に確認し、演習を繰り返すことで徐々に解答の方針がずれたり、大きな論点の検討を忘れたりすることは少なくなってくるはずです。

また、過去問演習の段階では、実際の試験時間に基づいて演習を行い、問題を読む時間・答案構成(答案の大まかな方針を決める)を行う時間・実際に記述する時間の配分をどうするかという点を色々試し、修正していくことも大切です。

記述する時間は個人の記述のスピードに依存するため、事前に答案用紙1枚を記述するのにどれくらい時間がかかるのかを測っておくとよいでしょう。

そして、司法試験の論文式試験では、合格者が本番で実際に書いた答案を再現した再現答案が参考になります。

これを分析することで、合格者がどう記述して受かっているのか、加えて、逆にどの部分ができていなくても一定の評価を受けるのかという点が理解できます。特に、規範に対するあてはめの部分の記述を参考にし、あてはめの素材をストックすると役に立つでしょう。

過去問演習については、実際に記述した答案を第三者に見てもらうことも効果的です。

自分だけでは気づかなかった文章の書き方や理解の甘い点などに気づくことができます。司法試験予備校や合格者が添削を行っているので積極的に利用しましょう。

4 サマリー

いかがだったでしょうか?司法試験の論文式試験の問題は科目ごとに異なる特徴を有しています。そのため、各科目の特徴に合わせた対策をすることが重要です。

また、論文式試験の対策方法としてもっとも重要なのはアウトプットの勉強です。

インプットの勉強が一通り終わったら、ためらうことなく事例問題集や過去問演習に取り組みましょう。

5 まとめ

  • 論文式試験の選択科目ではまず、足切りされないように注意して勉強する。
  • 憲法では、三段階審査の型をマスターし、評価が偏らないように論じることが重要。
  • 行政法では、頻出論点を重点的に押さえた上で、問題演習を通して初見の法令を使いこなす力を養う。
  • 刑法では、犯罪成立のフローをマスターする。学説問題に対処するために基本書に書き込みをするのも有効。
  • 刑事訴訟法では、頻出論点を重点的に抑える。裁判所が何を重要視したかを判例集にまとめるのも有効。
  • 民法では、問題文にマーキングするとともに現場思考問題への対象方法を重点的に訓練しよう。
  • 商法も典型論点の重点的な対策が重要。
  • 民事訴訟法では、抽象的な概念について具体的なイメージを持つことと、裁判所が重要視したかを判例集にまとめる勉強法が有効。
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