司法試験を受験するには、予備試験に合格するか、法科大学院を修了する必要があります。
そのため、法科大学院とは、修了すれば司法試験を受験する資格が与えられるという認識を持っていられる方は多いと思います。
一方で、法科大学院の学生生活や、その実態については意外と知られていないと思います。
この記事では、法科大学院について解説しています。是非、この記事を読んで、法科大学院のイメージを掴んでください。
1 法科大学院とは
⑴ 制度の概要
文部科学省によると、法科大学院とは、「高度の専門性が求められる職業を担うための深い学識及び卓越した能力を培うことを目的とする専門職学位課程のうち専ら法曹養成のための教育を行うことを目的とするものを置く専門職大学院(専門職大学院設置基準第18条第1項)であって、法曹に必要な学識及び能力を培うことを目的とするもの(法科大学院の教育と司法試験等との連携等に関する法律第2条第1号)」と記載されています。(法科大学院・法曹コース:文部科学省 (mext.go.jp))
以上の記載からすれば、法科大学院は、法曹になるために必要な養成機関といえます。他方で、法曹になるためには、司法試験に合格する必要があります。そして、法科大学院を修了すれば、司法試験の受験資格が与えられることとなります。
⑵ 法科大学院が創設された理由
平成13年6月の司法制度改革審議会意見書の提言を踏まえ、法学教育・司法試験・ 司法修習を有機的に連携させた「プロセス」としての法曹養成制度の中核的教育機関として、 平成16年度より法科大学院制度を創設されました。(法科大学院・法曹コース:文部科学省 (mext.go.jp))
司法試験に合格後、司法修習という研修を経て、法曹三者になることができます。
従来は、司法修習が2年間ありました。しかし、法科大学院において、司法修習で勉強する内容を学ぶことで、現在の司法修習の期間は、1年間となっています。このように、法科大学院は、理論と実務をリンクさせることを目的として創設されたのです。
⑶ 選べる2つのコース
法科大学院には、未修コースと既習コースがあります。
未修コースの標準修了年数は、3年で、学部時代に法律を勉強していないことを前提にカリキュラムが組まれています。
一方で、既習コースの標準修了年数は、2年です。学部時代に法律を勉強していることを前提にカリキュラムが組まれています。
⑷ 法曹コースについて
法曹コースの授業は法科大学院未修者コース1年目の内容を代替するものであり、法曹コースを修了し、早期卒業をした者は、法科大学院未修者コースの2年目(既修者コース1年目)に進学し、法曹を目指すことが想定されています。
従来は、既習コースで法科大学院を修了するには、6年(学部4年+法科大学院2年)必要でした。これに対し、法曹コースの下では、5年(学部3年+法科大学院2年)で法科大学院を修了することが可能となります。
2 法科大学院での学生生活
⑴ 勉強する内容
① 司法試験受験科目
司法試験で受験科目となっている基本7科目や選択科目については、当然に法科大学院でも学びます。なお、選択科目については、受験者が少ない科目(例えば、国際公法や環境法)については、開講されていない法科大学院もあります。
講義は、ソクラテスメソッドで行われます。ソクラテスメソッドとは、教授が一方的に講義を行うのではなく、教授から学生に対して質問形式で行われる講義形式のことを意味します。そのため、講義を受講するにあたっては、予習が不可欠となります。
② その他の科目
法科大学院では実務を意識した講義が開講されています。例えば、民事実務の講義では、要件事実を学びます。要件事実を勉強すると、民法や民事訴訟法の理解にもつながるため、司法試験対策にもつながります。
また、エクスターンシップを行うことで、単位認定を行う法科大学院もあります。
他にも、司法試験とは直接的には関係ない科目の講義も用意されており、バラエティーに富んでいます。
⑵ 進級するのは難しい?
法科大学院によっては、進級が厳しい法科大学院もあります。そのため、標準修了年数である2年ないし3年で必ず修了できるというわけではありません。
特に、未修コースは、既習コースと比べて留年率が高いです。
⑶ 司法試験対策は法科大学院で十分?
法科大学院の講義では、司法試験の受験科目について、勉強しますが、法科大学院の講義内容が必ずしも司法試験に直結するとはいえません。加えて、法科大学院の教授は、司法試験の過去問を添削する等の受験指導も行いません。
そうすると、法科大学院では、講義とは別に司法試験の対策を行う必要があります。多くの法科大学院生は、司法試験の過去問を解いた上で、自主ゼミを組み、議論を行ったりする等して、別途司法試験の対策を講じています。また、予備校の答練等を使用したりして、対策する学生もいます。
⑷ いつ司法試験を受験するのか?
法科大学院を修了してから、司法試験を受験します。そのため、3月に法科大学院を修了してから、その年の7月に司法試験を受験することになります。すなわち、法科大学院を修了してから、少し期間が空いてから司法試験を受験することになるのです。
なお、令和5年度からは、一定の単位を取得すれば、法科大学院の最終学年時に司法試験を受験することが可能となります。
⑸ 経済的支援
法科大学院の学費は、国立でも年間100万円弱、私立であればそれ以上の金額がかかります。
他方、法科大学院では、奨学金も利用できる等、経済的支援も用意されています。また、私立の法科大学院の中には、入学時の成績によって学費が減免されることもあります。
具体的な内容は、法科大学院ごとに異なるため、気になる法科大学院のホームページから、どのような経済的支援を確認してみることをおすすめします。
⑹ 法科大学院修了後の進路
① 司法試験合格後の進路
司法試験の合格者の多くが、法曹三者(裁判官、検察官、弁護士)の道へ進みます。
法曹三者になるためには、司法試験を合格した後、1年間の司法修習を経る必要があります。司法修習では、裁判所、検察庁、法律事務所にて、実務能力を身に付けていきます。
昨今では、従来の弁護士像にとらわれることない進路へ進む方もいます。例えば、インハウスローヤー(企業内弁護士)として活躍する方も多くなってきました。現在では、司法試験合格者の進路も多様になってきています。
② その他の進路
近年、企業では、法科大学院修了者を対象として、法務部の採用も増えてきました。多くの法科大学院修了者が企業で活躍しています。
また、公務員試験は、司法試験と科目が重なります。そのため、公務員として活躍する方も多くいます。
3 司法試験と法科大学院
⑴ 法科大学院卒の合格率
受験者 | 合格者 | 合格率 | |
令和3年度 | 3,024 | 1,047 | 34.62% |
令和2年度 | 3,280 | 1,072 | 32.68% |
令和元年度 | 4,081 | 1,187 | 29.09% |
直近の法科大学院修了者の合格率は、30%前後です。
新司法試験が始まってから司法試験の合格者は増加しました。しかし、法律を2年ないし3年みっちり学んできたにもかかわらず、法科大学院修了者の3割程度しか合格できていないというのが現状です。依然として、司法試験は難しい試験といえるでしょう。
⑵ 既習コースと未修コースで合格率が異なる
法科大学院修了者の中でも、既習コースのほうが、未修コースよりも合格率が高いです。
既習合格者数 | 既習合格率 | 未修合格者数 | 未修合格率 | |
令和3年 | 829人 | 45.4% | 218人 | 18.2% |
令和2年 | 828人 | 43.7% | 244人 | 17.6% |
令和元年 | 901人 | 40.0% | 286人 | 15.6% |
⑶ 予備試験合格者との比較
【合格率】 | 予備試験合格者 | 法科大学院修了者 |
令和3年度 | 93.50% | 34.62% |
令和2年度 | 89.36% | 32.68% |
令和元年度 | 81.82% | 29.09% |
直近の予備試験合格者の司法試験合格率は、90%前後です。
予備試験合格者の司法試験合格率は、法科大学院修了者と比較すると、圧倒的に高いです。
また、どの法科大学院よりも、予備試験合格者の司法試験合格率が1番高いです。
4 法科大学院に入るには
⑴ 試験日程
8月〜9月にかけて、私立の法科大学院の入試が行われます。
そして、10月~11月にかけて、国立の法科大学院の入試が行われます。
大学入試と異なり、日程がかぶらなければ、国立であっても、複数の法科大学院の入試を受験することができます。
なお、年明け以降に、二次募集が行われる法科大学院もあります。
⑵ 試験科目
既習コースの試験では、法科大学院によって、試験科目は異なりますが、司法試験で必要となる科目(憲法、民法、刑法など)の論文試験が出題されます。法科大学院によっては、基本7科目(憲法、行政法、民法、商法、民事訴訟法、刑法、刑事訴訟法)すべてが出題されるところもあれば、その一部しか出題されないところもあります。気になる法科大学院があれば、入試要項をチェックして、どのような試験科目が出題されるのか確認してみましょう。
一方で、未修コースの試験は、法律を勉強していないことを前提としたカリキュラムが組まれています。そのため、試験でも、法律科目は問われません。未修コースは、小論文が出題されます。
⑶ 予備試験ルートを考えている受験生にも法科大学院はおすすめ
司法試験を受験するためには、予備試験に合格するか、法科大学院を修了する必要があります。受験生の中には、予備試験ルート一本で勝負しようと考えている方もいるでしょう。
しかし、予備試験は合格率も低く、合格するのは狭き門です。他方で、予備試験と法科大学院入試の試験科目は、重なる科目も多く、相関関係があります。
学生においては、学部の4年間で予備試験を目指したうえで、合格の見込みが立たなかった場合は、法科大学院への入学も検討するというパターンが最終的な司法試験の受験資格を得るという観点からは、可能性を最大限に広げられる方法であるといえます。
5 サマリー
法科大学院は、司法試験を受験するために通う学校という点については、知っている方が多いかもしれませんが、具体的に、法科大学院でどのようなことを勉強するのか、法科大学院出身者の何%が司法試験に合格するのか等について知っていた方は少なかったのではないでしょうか。これから法曹を目指そうという方はぜひこの記事を参考にしてみてください。
6 まとめ
- 法科大学院は、司法試験を受験するための資格を得られる方法の1つであり、既習コースと未修コースがある。
- 法科大学院では、司法試験受験科目以外も勉強する。
- 司法試験対策は、法科大学院で十分とは必ずしもいえない。
- 令和5年度から在学中に司法試験を受験することができる。
- 司法試験の合格率は、既習コースと未修コースで差がある。
- 予備試験ルートを考えている受験生にも法科大学院はおすすめ。