法科大学院を卒業(修了)した後の進路については、法曹になるという想像を抱いている方は多いと思います。
他方で、法科大学院を卒業後の進路は、法曹だけにとどまりません。現在では、法科大学院の卒業生が多様な進路に進んで活躍しています。
この記事では、法科大学院を卒業してから司法試験合格後のストーリーだけでなく、その他のストーリーについても触れています。法科大学院への進学を考えている方は、是非、参考にしてみてください。
1 法科大学院を卒業(修了)すれば司法試験の受験資格が得られる
現行の司法試験では、誰でも受験できるわけではなく、受験資格を取得する必要があります。司法試験の受験資格を得る方法のひとつが、法科大学院を卒業(修了)することです。
なお、令和5年度の司法試験から、一定の要件を満たす場合には、在学中でも司法試験の受験が可能となりましたが、この方法で司法試験に合格した場合、司法修習へ行くには法科大学院の修了が必要です。
2 法科大学院に進学するには
法科大学院には、既修コースと未修コースがあります。
既修コースは、学部時代に法律を学んできたことを前提としており、法科大学院で、2年間学修します。法科大学院入試は、学部時代に法律を学んできていることを前提にしているため、基本7科目の論文試験が行われます。
なお、法科大学院によって、出題される科目は異なります。自分が気になる法科大学院があれば、チェックしてみましょう。
一方で、未修コースは、学部時代に法律を学んできていることを前提にしておらず、3年間学修します。
法科大学院入試では、法律の知識は問われず、小論文での試験が行われます。
法科大学院については、下記の記事で詳しく述べていますので、参照してください。
法科大学院とはどんなところ?法科大学院での学生生活について解説
3 法科大学院卒業後(修了後)の未来
⑴ 法科大学院卒業後~司法試験
現行の司法試験では、法科大学院を卒業してから、司法試験を受験するまで、期間があるため、モチベーションを維持させるべく、勉強環境を整える工夫を行う必要があります。
法科大学院を卒業(修了)するのは3月です。一方で、司法試験を受験するのは7月です。
すなわち、法科大学院を卒業してから、司法試験を受験するまで、約4カ月の期間があります。
この期間は、もちろん法科大学院の授業もないため、ひとりで勉強する必要があります。そのため、モチベーションを維持しないと、十分な準備をすることができずに、司法試験を受験することになります。
受験生の中には、法科大学院のクラスメートと司法試験の過去問を検討する自主ゼミを定期的に行い、モチベーションの維持を保つ工夫をしている方も多いです。また、法科大学院によっては、卒業後も、司法試験を受験するまで、自習室を使用できる法科大学院もあります。
このような環境が整っているのであれば、積極的に自習室で勉強することによって、だらけた生活を行わないよう自制するメリットが期待されます。
⑵ 司法試験受験~司法試験合格発表
① 就職活動
司法試験受験直後から、サマークラーク(インターン)が行われます。
このサマークラークでは、数日から1週間程度の期間、日当をもらいつつ、法律事務所で書面の起案等して、法律事務所の業務を実際に経験します。サマークラークでは、採用を前提としているため、サマークラークでの評価によっては、内定につながる場合もあります。
そのため、法科大学院を卒業して、司法試験を受験した後は、サマークラークに積極的に参加することで、合格発表前から就職活動を開始することができます。
なお、大手法律事務所では、法科大学院在学中の夏休み期間に、サマークラークを行っています。
大手法律事務所への就職を考えている場合には、在学中から就職活動に目を向けることで、周りよりも一足早く就職活動を始めることができます。
② アルバイト
司法試験受験後は、比較的時間があるため、短期アルバイトをしてお金を貯めて、旅行に行ったりする方もいます。
アルバイトの業種としては、これまで勉強してきた法律の知識を活かせる法律事務所や予備校でのアルバイトが定番です。
また、全く法律とは関係のないアルバイトを行う方もいます。法律以外の分野の業種を経験することで、お金を得られるだけでなく、視野を広げられるというメリットもあります。
③ 次年度に向けた勉強
不合格であった場合を想定して、対策を行う方もいます。
ただ、現実的に、合否が不明な時点で次年度に向けた勉強に本腰を入れることは、精神的にも難しいです。
そこで、少なくとも、司法試験受験後は、再現答案を作成することをおすすめします。再現答案を作成しておけば、不合格であった場合、合格者に再現答案を添削してもらうことで、敗因分析を行うことが可能です。
このように、次年度に向けた勉強に集中することができなくても、再現答案を作成しておけば、不合格であった場合でも、周りの受験生よりも有利に次年度に向けた勉強を開始することができます。
また、短答式試験の合格発表は、司法試験を受験してから約1カ月で行われます。
短答式試験に不合格だった場合は、翌年に向けて勉強を開始する必要があります。たしかに、短答式試験で不合格であった場合、論文式試験の採点は行われません。
しかし、論文式試験の合格発表前に不合格が判明するため、論文式試験で不合格となった受験生よりも早く次年度に向けた勉強を再開できます。短答式試験に不合格であった場合、次年度に向けた勉強はすぐに始めましょう。
⑶ 司法試験に合格した場合
①司法修習
司法試験に合格し、法曹三者(裁判官・検察官・弁護士)を目指す場合には、1年間の司法修習を経る必要があります。
この司法修習では、裁判所・検察庁・法律事務所において、それぞれ実務を経験します。1年間の司法修習を経た後、それぞれの進路へ進みます。
②法曹以外の進路
司法試験に合格した場合でも、法曹三者以外の進路に進む方もいます。
例えば、近年では、司法修習を経ておらず弁護士資格を有していなくても、司法試験に合格している方を対象として、法務部での採用を積極的に行っている大手企業も増えてきました。司法試験に合格すれば、さまざまな進路があります。
⑷ 司法試験に不合格だった場合
① 翌年度の司法試験にリベンジ
司法試験合格を目指す場合、翌年度に向けて司法試験の勉強を再開します。
法科大学院在学中と同様に、受験に専念する方もいれば、働きながら受験する方もいます。いずれにしても、司法試験に向けて勉強できる環境を整えることが重要です。
また、現行の司法試験の制度では、法科大学院を卒業してから5年以内に5回しか司法試験を受験できません。そのため、法科大学院を卒業してから、5年以内に5回司法試験を受験したものの不合格であった場合、失権してしまいます。受験回数に制限があることには留意しましょう。
なお、失権した場合でも、再度法科大学院に入学し、卒業すれば受験は可能です。また、予備試験に合格すれば、再度司法試験を受験することが可能になります。
② 民間企業へ就職活動
翌年度の司法試験にリベンジするのではなく、民間企業へ就職される方もいます。
法科大学院の卒業生を積極的に採用する企業も増えています。近年では、大手企業の法務部だけでなく、中小企業においても、コンプライアンスへの意識の高まりから、積極的に法務部での採用に目が向けられています。法務部での仕事は、法科大学院で学んだ知識を活かせる場でもあり、法科大学院卒業生の活躍が期待されています。
企業への就職については、転職サイトを活用したり、法科大学院にくる求人に申し込む方法等で就職活動を行う方が多いです。
③ 公務員試験の受験
司法試験は、公務員試験と受験科目が重なります。そこで、司法試験ではなく、公務員試験に挑戦する方も多くいます。法科大学院の卒業生は、市役所や裁判所事務官等、多岐にわたって活躍しています。
4 サマリー
この記事では、法科大学院卒業後の未来について紹介しました。法科大学院卒業後は、さまざまな進路があります。法科大学院を志望する方は、司法試験合格を目指されていると思いますが、法曹という進路だけでなく、その他の進路についても知っておくと進路の幅が広がるでしょう。
また、この記事では、法科大学院修了後や司法試験受験後、司法試験合格発表後、それぞれの段階でやっておいたほうがいいことも紹介しました。事前に知っておくと、法科大学院を卒業してから周りに差をつけることができるので、是非、参考にしてください。
5 まとめ
- 法科大学院を卒業すれば、司法試験の受験資格を得られる。
- 法科大学院を卒業してから、司法試験までは4カ月近くあるため、モチベーションの維持や勉強環境を整えることが重要である。
- 司法試験受験後は、法律事務所が主催するサマークラークに参加することで、就職活動を有利に勧めることが出来る。
- 司法試験受験後は、再現答案を作成しておくと、不合格の場合でも、合格者に添削してもらうことで敗因分析が可能である。
- 司法試験に不合格の場合、翌年の司法試験を受験する以外に、企業への就職や公務員試験を受験するという選択肢もある。