行政書士試験に合格するのは法科大学院生が半数?試験の難化に貢献する法科大学生にとって行政書士とは?

行政書士

「行政書士」と検索すると「大学院」というワードが上がってくることがあります。士業の中には社会保険労務士(社労士)のように、連合会が大学院と提携して学びの場を創設しているものがあります。行政書士会も大学院と提携をおこなっていますが、行政書士にとってそれ以上に気になるのが「法科大学院」の存在です。

この記事では「大学院」、そして気になる「法科大学院」がどのように行政書士と関わってくるのか、詳しく解説します!

1 行政書士と大学院

 文部科学省によると、 学校教育法上の大学院の位置づけとは、以下のようになります。

① 大学には、大学院を置くことができる。(学校教育法第62条)
② 大学院は、学術の理論及び応用を教授研究し、その深奥をきわめて、文化の進展に寄与することを目的とする。(学校教育法第65条)

そして、「専門職大学院」という「高度で専門的な職業能力を有する人材の養成」を目的・役割とした機関も創設されました。特に、専ら法曹養成のための教育をおこなうことを目的とする専門職大学院を「法科大学院」といいます。

⑴ 提携大学院の科目履修生になる

日本行政書士会連合会は、行政書士の資質の向上のため、大学院との提携をおこなっています。行政書士は大学院の科目履修生として司法研修を受講します。

⑵ 大学院との提携事例

2009年、神戸学院大学法学部と兵庫県行政書士会は学術交流協定を締結し、5月19日(火)に調印式がおこなわれました。目的は学術交流をはじめとして、密接な連携と協力の体制を取り、今後も活動を推進することです。

2005年 法科大学院で、兵庫県行政書士会に所属されている行政書士を、大学院科目等履修生として受け入れる。
2009年4月 法学部で2009年4月からリレー講座をスタート。受講者は100名ほど。
法学部において、行政書士チームによる半年科目(法政基礎講座Ⅴ〔行政書士会提携講座〕)を開講。
2010年 大学院において法学部教員による「行政書士のための司法研修講座」を開講。
2011年 法学部が兵庫県行政書士会とともに、シンポジウムや講演会を開催。

出典:神戸学院大学 

⑶ 非常に高い行政書士試験合格率をたたきだす

神戸学院大学大学院は、2005年より現役行政書士の受け入れを開始しています。ちなみに、同大学の行政書士試験の合格率は大変高く、2019年は47人が受験したうち35人が合格しました。全国平均合格率が前年度比で3%下がる中の大健闘でした。

また2020年は、72人が受験したうち46人が合格しました。同大学の合格率は約64%と実に高く、全国平均合格率(11.5%) を大きく上回りました。 

2 法科大学院(ロースクール)生が行政書士試験を受けている

次に、行政書士と検索すると、もう一つのワード「法科大学院(ロースクール)」が上がってくるのは何故なのかについて解説します。

⑴ 弁護士になるには

司法試験の受験は「司法予備試験」が設けられてから、法科大学院に行かなくてもできるようになりました。また法科大学院生は、2006年の新試験以降、卒業後5年以内、3回以内に合格しないと弁護士になれないことになったのです。

【弁護士になるには】

法科⼤学院に入学する(3年間または2年間) 法科⼤学院で、法律の理論や実務を勉強する。
予備試験 経済的事情などで法科⼤学院に通えなくても、予備試験に合格することで司法試験を受験することができる。
司法試験に合格する 司法試験で、短答式の試験と論文式の試験を受ける。
研修(司法修習)を受ける 1年間、法律事務所、裁判所、検察庁、司法研修所等で、法律家になるための必要な研修を受ける。研修終了後の研修所の試験に合格すると、法曹(弁護士、裁判官、検察官)になる資格が与えられる。

日弁連の資料を基に作表 

⑵ 司法試験合格から行政書士試験合格に目標を変更する人も

繰り返しますが、法科大学院生が弁護士になるには、卒業後5年以内、3回以内に合格しないといけないという制限が設けられています長い年月をかけて法律を学んできたものの、結局司法試験には合格できない場合、出題内容に類似点のある行政書士試験を受ける人が増えているのです。そのような法科大学院卒生の体験談を集めてみました。

”法律家になることを諦められず、法律系資格の中でも比較的合格しやすいといわれる行政書士試験を受験することにした。”

”司法試験の勉強に時間を取られてしまったが、行政書士に合格してようやく法律家になれる。”

”最初から行政書士をめざしていたわけではなかった。(中略)ロースクール卒業後、司法試験の短答式試験で不合格。司法試験に落ちたあと、行政書士のドラマ「カバチタレ」を観て、それまで知らなかった行政書士の魅力を知りました。これまで学んできた法律の知識を駆使していける仕事だと考え、行政書士になりたいと思いました。”

旧司法試験の勉強をした人には、憲法・民法について知識の素養があるといわれます。新司法試験からは、出題科目に行政法も加わりました。そのため、法科大学院生は、行政書士試験の主軸科目である民法・行政法では有利だと思われます。

しかし、一般知識等については力を入れて勉強すべきです。新司法試験と行政書士試験は、出題の仕方が異なる点にも注意が必要です。過去問をフルに活用して対応しましょう。

⑶ 司法試験の模擬試験として行政書士試験を受けている

司法試験と行政書士試験の出題範囲が重なることから、司法試験の前哨戦のつもりで行政書士試験を受験する法科大学院生もいます。法科大学院の入学試験の延長や模擬試験を受けるようなつもりで、行政書士試験を受験しているのです。そして、彼らは合格者の中でかなり高い割合を占めるようになりました。最近の行政書士試験は、受験生の質においてかなり変化してきているのです。

2 法科大学院生と行政書士試験

多くの法科大学院生が行政書士試験を受験して合格している反面、純粋な行政書士試験受験生は、なかなか合格できなくなっているともいわれています。

⑴ 日本行政書士会連合会も法科大学院卒について言及

2012年5月17日の日本経済新聞による取材で、日本行政書士会連合会・専務理事の田後隆二先生は、以下のように言及しています。

”司法試験に落ちた人が入ってきている。06年度から始まった新試験では法科大学院を出た後、5年、3回以内に合格しないと弁護士になれない。国は当初、年間3,000人を合格させる計画だったが約2,000人に絞った。不合格者が法律家の夢をあきらめきれず、行政書士などに流れている。”

法科大学院生はこれまでなら、行政書士試験受験を考えることは、ほとんどありませんでした。行政書士試験の受験生に占める法科大学院生の数は、何をもって割り出しているのでしょうか。それは、日本行政書士会連合会の行政書士名簿に登録するために提出する、履歴書の内容から判断されているのでしょう。

つまり、法科大学院卒生による行政書士登録が増加しているということは、登録の前提条件となる「法科大学院生の行政書士試験合格者数」がそれ以上に増加していると考えられます。

⑵ 新司法試験の合格率は下がってきている

反対に、新司法試験の合格率は毎年どんどん下がってきています。初年度の48%から、3年後には約25%ほどになりました。つまり、法科大学院にせっかく入学した人でも、70~75%くらいの人達は新司法試験に合格することができないのです。

不合格者になった場合、法科大学院に入学したという事実はどうなるのでしょうか。行政書士のような資格と違って、履歴書に書くことはできません。それならば誰しも、何かしらの法律系資格を取得しておこうと考えるのではないでしょうか。

⑶ 法科大学院生は行政書士試験にどれくらい合格しやすい?

新司法試験での法科大学院生の合格率を考えると、何か他の国家試験を受けて合格しておきたいと考えるのは自然です。それでは法科大学院生にとって最も受験しやすく、また合格しやすい国家試験とは何でしょうか。ここでは司法書士試験と行政書士試験を例に挙げて、比較してみます。

国家資格種 司法試験との類似性 法科大学院生が受験する場合の注意点
司法書士試験 両者の難易度の高さは法律系資格試験の中でもツートップ。

以下は試験科目が重複する科目。「憲法」「民法」「刑法」「商法」「民事訴訟法」

司法試験は上記の科目に加え、「刑法」「刑事訴訟法」が出題される。

以下の科目は、法科大学院生は全く勉強していないため不利になる。

・不動産登記法・商業登記法(の理論及び書式)

・供託法

・司法書士法

(これらの科目を合わせると司法書士試験受験勉強の約50%を占める。)

行政書士試験 以下の科目は、法科大学院生が法科大学院入学試験や講義において徹底的に勉強しているため有利。

①基礎法学、②憲法、③行政法、④民法、⑤商法・会社法、⑥一般知識等

以下の科目は、新司法試験の内容とほとんど変わらない。

①憲法、②民法、③商法・会社法

法科大学院生は、1年生又は2年生時に行政書士試験を受験し、確実に合格しておくことが重要になってくる。

司法書士試験と比べると、行政書士試験は法科大学院生にとって、ずっと受験しやすく合格しやすい試験であることが分かります。

3 法科大学院生から合格のコツを学ぶには?

法科大学院生は、とても高い合格率で行政書士試験をパスしています。法科大学院生の合格者の割合は公開されていませんが、合格者全体の過半数を占めるといわれています。彼らの影響で、行政書士試験の実質的な合格率は大きく下がり、また試験問題も年々難化しているといった影響が出ているのです。

⑴ 法科大学院生から見た行政書士の豊かな将来性

行政書士はそもそも「代書人」からはじまり、先人の方々が努力して活躍の場を広げてきた歴史がある資格です。取り扱う書類は10,000種類以上といわれ、もともと広い業務範囲を誇る行政書士ですが、法科大学院生から見ると、次のような将来性も見えてくるのです。

① 「代理権」付与

行政書士法改正により平成14年7月1日から、官公署に提出する書面や権利義務・事実証明に関する書面について、正式に「代理権」が付与されました。許認可申請書類作成はもとより、民民契約について代理人としての参入が法定化され、一般民事・商事の契約行為についてもその法的知識を活用できることになりました。

② 行政書士事務所の法人化が認可される

行政書士事務所の法人化が認められ、平成16年8月1日に施行されました。法人化により、弁護士や税理士などとネットワークを組むことが可能になり、クライアント目線に立った「ワンストップサービス」が実現できます。

③ 司法への更なる参入が期待される

現行法では、行政書士が訴訟に参加することはできません。しかし行政書士は今後、紛争を未然に防止する予防法の観点からADR(裁判外紛争処理)の参加など、司法制度への更なる参加を促進しようとしています。法科大学院卒生は、行政書士という資格が、将来的には自らの法律的知識をより活かせる資格になるであろうと期待しているのです。

⑵ 法科大学院生の圧倒的な合格力の秘密は?

法科大学院生は、裁判官の思考を意識して司法試験の受験勉強をおこなうといわれています。判決を言い渡す人を意識して考察していくとは、さすがだと言わざるを得ません。裁判官とは、常に法律を解釈し適用して、具体的な事案に当てはめていく立場です。過去の判例との抵触がないように、慎重に検討することも重要です。

このような視点の有無で、法律家としての質は、全く違ってくるのではないでしょうか。

4 サマリー

現役行政書士を受け入れた大学院の事例と、法科大学院生が行政書士試験を受験し圧倒的な合格者数を出していることについてまとめて参りました。行政書士試験は絶対評価の試験なので、論理的には、法科大学院生が受験することで合格できない人は増えません。しかし、出題問題の難化には、彼らは結果的に貢献しているといえます。

5 まとめ

  • 行政書士会も、大学院と提携をおこない現役行政書士を送り込んだことがある。
  • 2009年、神戸学院大学法学部と兵庫県行政書士会は学術交流協定を締結した。
  • 法科大学院生が弁護士になるには、卒業後5年以内、3回以内に合格しないといけない。
  • 長く法律を学んできたものの司法試験に合格できない場合、行政書士試験を受ける人が増えている。
  • 出題範囲が重なることから、司法試験の前哨戦で行政書士試験を受験する場合もある。
  • 新司法試験の合格率は毎年下がっており、70~75%くらいは合格できない。
  • 法科大学院生は、行政書士に将来性も見ている。
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