合格率が例年10%前後の難関国家試験・行政書士試験。難関であるとはいえ、受験生のなかには一発合格する人もいます。
「地頭がいいから」「法律の知識があったから」と一蹴せず、どんな対策をしたら一発合格者できるのか、知りたいと思いませんか?
この記事では、行政書士試験の一発合格者の体験記から成功の秘訣をまとめてみました。実際の試験の出題内容と合わせながら、一発合格のための戦略も紹介していきます。
1 行政書士試験とはそもそもどんな試験?
行政書士試験は出題範囲がとても広く、何をどう問われるかも分からない試験だといえます。もちろん過去問で出題傾向を知ることはできますが、勉強すべきことが非常に多い試験なのです。
範囲の広さゆえに試験前に脱落する人もいる行政書士試験ですが、一発合格を果たすにはどんな対策が必要なのでしょうか。まずはどのような試験なのか、もう一度確認してみましょう。
(1) 行政書士試験の出題科目と配点
行政書士試験の出題科目とその配点について作表しました。出題数は計60問、300点満点の試験です。なお、配点については年度によって変更になることがあります。
出題形式 | 科目 | 問題数 | 配点 | |
法令等 | 5択一 | 基礎法学 | 2問 | 8点 |
憲法 | 5問 | 20点 | ||
行政法 | 19問 | 76点 | ||
民法 | 9問 | 36点 | ||
商法・会社法 | 5問 | 20点 | ||
多肢選択式 | 憲法 | 1問 | 8点 | |
行政法 | 2問 | 16点 | ||
記述式 | 行政法 | 1問 | 20点 | |
民法 | 2問 | 40点 | ||
一般知識 | 5択一 | 政治・経済・社会 | 8問 | 32点 |
情報通信・個人情報 | 3問 | 12点 | ||
文章理解 | 3問 | 12点 | ||
合計 | 60問 | 300点 |
(2) 行政書士試験の合格率
近年、行政書士試験の合格率は10%前後で安定しています。令和元年の合格率は、11.5%でした。弁護士や司法書士ほど低くはないものの、行政書士試験も簡単に合格できる資格ではないことがわかります。
行政書士試験研究センターは受験者・合格者の属性などを公表しています。それによると受験者、合格者の過半数は30代と40代です。ここから推測できるように、行政書士は仕事をしながら取得を目指せる資格なのです。
受験者数 | 合格者数 | 合格率 | |
令和元年(2019)度 | 39,821 人 | 4,571 人 | 11.5% |
平成30年(2018)度 | 39,105人 | 4,968人 | 12.7% |
平成29年(2017)度 | 40,449人 | 6,360人 | 15.7% |
平成28年(2016)度 | 41,053人 | 4,084人 | 9.95% |
平成27年(2015)度 | 44,366人 | 5,820人 | 13.12% |
平成26年(2014)度 | 48,869人 | 4,043人 | 8.27% |
(3) 足切りがあることにも注意
行政書士試験にも合格基準点が設けられており、いわゆる「足切り」があります。合格基準点は、以下のように公式的に発表されます。
合格基準点
次の要件のいずれも満たした者を合格とする。
(1) 行政書士の業務に関し必要な法令等科目の得点が、122点以上である者
(2) 行政書士の業務に関連する一般知識等科目の得点が、24点以上である者
(3) 試験全体の得点が、180点以上である者
出典:行政書士試験研究センター
このように行政書士の合格ラインは、法令等科目と一般知識等科目、総合得点の3つにそれぞれ設けられています。具体的な合格ラインは以下の通りです。
・法令等科目の得点:満点の50%以上
・一般知識等科目の得点:満点の40%以上
・総得点:満点の60%以上
足切り点があるのは、社労士試験も同様ですが、科目ごとに足切り点がある社労士試験に対して、行政書士試験には科目別のボーダーラインは設けられていません。つまり、必ずしも全範囲を満遍なく学習する必要はないことになります。
例えば、商法や会社法は難易度が高い割に配点が低い科目です。詳しくは後述しますが、この2科目の勉強は優先順位が低いといえます。あくまでも法令等科目、一般知識等科目、総得点の3つで合格基準点に達すれば合格できるのが行政書士試験なのです。そのため、一発合格のためには、科目ごとに優先順位を付けて効率的な学習計画を立てることが重要になってきます。
2 行政書士試験は一発合格できる試験なのか
試験の難易度は年度によってかなり違います。2014年度や2016年度は1桁台だった合格率が、2017年は15.7%まで跳ね上がりました。ただし、そのような年でも、一発合格者は決して多くはないはずです。
一発合格者は、合格者の中で一割にも満たないのではないかと考えられますが、毎年存在することは確かです。ここからは、一発合格が可能である根拠を考えてみましょう。
(1) 近年の高い合格率
前述の通り、近年の合格率は10%前後で比較的高めに安定しているので、一発合格を狙いやすい状況ではあります。実はその背景には、行政書士試験の受験者数の減少があります。合格後、登録を義務づけられている行政書士会としては、毎年一定の合格者数を輩出しなければなりません。そのため、試験のレベルが難化することは考えにくいのです。
このような理由から、近年の行政書士試験は合格しやすくなっているといえます。
(2) 受験資格のない試験である
行政書士試験には、司法試験や社労士試験と違って受験資格がありません。誰でも受験できます。勉強していない人、受かる見込みのない人でも受験できるので、その結果不合格率が上がり、合格率が下がっているという現状もあります。
(3) 600時間勉強すれば合格できる
行政書士試験に合格するには、600時間程度の勉強時間が必要と言われています。膨大な時間数に感じますが、しっかり勉強すれば1年程度で満たせる時間数です。行政書士試験はある意味、1年勉強すれば合格できる試験だといえるのです。
(4) 法的知識がある場合はとても有利
法的知識がある受験生は、一発合格の可能性が初学者より高いです。弁護士や司法書士を目指している人が、力試しで行政書士試験を受けるケースもあります。
法律系の基礎知識、「法的思考力」がある人は、一発合格に近い位置にいるのは間違いありません。
3 行政書士試験に一発合格するためにすべきこと
行政書士試験には合格基準点が設けられており、足切りがあることは既に解説しました。しかし、科目別の基準点はありません。つまり、戦略的に点数を獲得すれば合格できるのです。
行政書士試験合格のために外せないのは、出題割合の高い民法と行政法を押さえることと、一般知識で6問正解することだと言われます。そのためにはどうすればよいのかをまとめてみました。
(1) 民法、行政法を押さえる
この2科目は、最も勉強時間を割くべき科目です。また、これらで高得点を取れるようになれば、自動的に記述式の得点力もついてくるでしょう。なぜなら、民法や行政法に出てくる条文の勉強を通して、法的理解が深まるからです。
①民法
出題の1/4を占めるのが民法です。財産法に含まれる物権法、債権法は出題が多く、家族法(親族法・相続法)も出題されます。民法の問題はなかなか細かく、判例や条文理解なども出題されます。専門用語も難解なうえ、初学者は出題傾向に慣れるのも大変で、「いったい何を聞かれているのか?」と始めは悩むでしょう。
繰り返しますが、民法は大きく分けて次の4つの分野からなります。
1 | 民法総則 | 民法全般に関する共通事項 | 例年2問出題 |
2 | 物権法 | 物に対する権利 | 例年2問出題 |
3 | 債権法 | 財産上の行為を請求する権利 | 例年4問出題 |
4 | 親族・相続法 | 婚姻、親子関係、遺言など家族に関すること | 例年1問出題 |
上表から、民法では債権法分野が最重要科目だとわかるでしょう。民法の特徴をまとめてみると、以下のようになります。
・個数問題や組み合わせ問題がある
・条文、判例に関する問題が多く出題される
・法律用語が難しく、似たような言葉が多く使われる
・過去問学習は有効
過去問は、解きながら覚えるくらいの気持ちでよいでしょう。過去問でアウトプットしたら、条文を確認してインプットするなど、同時進行でおこないましょう。条文・判例が出てきたら、付箋を貼っておいて後で確認しましょう。六法もどんどん使うべきです。
②行政法
行政法は、国民と行政との関係を定めた法律であるため出題範囲も広く、行政書士の実務と直結する分野でもあります。範囲は広いのですが、行政法攻略の鍵となるのは「暗記」です。思考力を問う出題ではありません。
ちなみに「行政法」という法律は、実は六法には載っていません。行政手続法・行政不服審査法・行政事件訴訟法・地方自治法・国家賠償法の総称が行政法なのです。行政法5法のうち最も難関なのは地方自治法で、地方の組織とその運営について定めているものです。
行政法の制定目的は、行政と私人との歴史が背景にあります。歴史的に、私人は行政に対して非常に弱い立場にありました。行政法は、行政が理由なく権力をふるわないようにと制定された背景があるのです。
(2) 「法的思考力」をつける
法的思考力といっても、法律の初学者にはピンとこないかもしれません。
法的思考力を磨くためには、過去問などを解きながら、正誤判断の理由を書き出していく勉強法を取り入れましょう。ただなんとなく〇☓を付けるのではなく、解答の根拠をしっかり書き留めていくことはとても有効で、多くの合格者が推奨しています。根拠となる条文には、付箋などを貼り付けておきましょう。
初学者にはとても難しい作業ですが、慣れるにつれ法的思考力はしっかりと付いていきます。一発合格するためには、法的思考力を身につけようと努めるだけでも、試験勉強がスムーズになるなど、その効果が現れてくるでしょう。
(3) 記述の対策とは?
記述問題は、行政法から1問、民法から2問出題されます。
行政法では、条文の要件・効果を問われることが多く、出題内容にはどの条文を使うべきなのかを読み解けるようになる必要があります。主要判例も大事です。
民法では、与えられたシチュエーションを正確に読み解く必要があるため、図を書いてみることが必須であることはもうご存知でしょう。過去問や問題集に取り組むことで出題傾向はつかめてきます。
(4) 過去問学習はどうすればよい?
過去問を多く解くことは、行政書士試験対策には実に有効です。5年分、できれば10年分を解いていくと、それまで付箋でチェックした条文から、頻出箇所が浮かび上がってくるはずです。それらの条文の趣旨や判例を押さえておきましょう。
特に民法は条文を押さえることが重要ですし、記述にも条文が用いられます。一発合格を目指すなら、過去問でアウトプットし、根拠となる条文をインプットする、この繰り返しをおこないましょう。何度も繰り返すほど、知識となって定着していくはずです。
4 あまり時間を取られない方がよい科目
また、行政書士試験の合格のために大事なことの1つに「絞って学ぶ」ことがあります。行政書士試験には科目別の合格基準点がないので、合否に影響が出ない問題には、必ずしも力を入れることはないのです。
例えば会社法などは、働いたことがない学生はもちろん、会社員にも馴染みの薄い厄介な科目ですが、これは0点でも合格できるのです。反対に、民法は試験問題の1/4を占めるため、0点ならば合格は難しくなります。
このように行政書士試験には、得点源にしなくてもよい科目が存在します。要領よく、効率的な学習を続けることも一発合格の鍵です。
(1) 絞ってもよい科目も
それでは、勉強時間を無駄にかけなくてもよいといわれる科目を挙げていきましょう。
①基礎法学
基礎法学は、試験問題の最初の1、2問目にあたり、わざと難解な問題を出して出鼻をくじかせるような立ち位置の科目です。
対策のしようがない問題が出題されることは、過去問を解いた方ならお分かりのはずです。日頃、法的リテラシーを高めるために法や行政に関連するニュースを読んでおくことが、せめてもの対策にはなるでしょう。
②商法(会社法)
会社法は、1問も取れなくてもよいと言い切る合格者も、実は多いのです。しかし、手元のテキストに書いている内容は覚えておきましょう。会社法とは、会社の設立、組織とその運営など、行政書士の実務にも関わってくる内容でもあるからです。
一発合格を目指すのであれば、会社法は最低限の内容をテキストで押さえ、民法など重点科目に力を注いだ方がよいでしょう。
5 受験生泣かせの一般知識
最後に、一般知識についてはどう対処すればよいのかまとめてみましょう。
一般知識も難解な科目なうえに対策のしようがなく、受験生泣かせの科目です。
一般知識は例年14問出題され、1問4点なので満点で56点、その4割を正解するとなると22.4点、つまり6問(24点)正解しないと一般知識の合格基準点には届きません。
一般知識は勉強しなくてもよいという極論もあるようですが、過去問には取り組んで出題の傾向を押さえておきましょう。また、予想模試にトライしてみるのもよいでしょう。
(1) なぜ一般知識が受験生泣かせなのか
一般知識は勉強しなくてよい、と言われる理由は、対策のしようがない出題内容です。対策できないように問題が作られている、と言われることもあります。
その時期に試験委員が高い関心を持った問題が出題されているため、対策できないのも納得できます。本番では自らの人生経験を総動員させて考え、答えを導き出さなければなりません。
一般知識が難解科目である理由を他にも挙げてみましょう。
①範囲が広いので対策が難しい
一般知識が合格基準点に届かず、不合格になることも多いのです。60問中14点という配点の少なさから対策が後回しになりがちであるうえ、いざ始めても対策がしにくい分野だからです。
行政書士試験には択一式と多肢選択式、記述式がありますが、一般知識では択一式のみ出題されます。
②6問取れないと足切りになってしまう
一般知識に出題される分野は、①政治・経済・社会、②情報通信・個人情報保護、③文章理解です。近年は、①政治・経済・社会からの出題が減少し、他の2分野が増えました。分野別の足切りはありません。つまり、政治・経済・社会が0点でも、他で6問正解すればよいのです。
(2) 一般知識の攻略法
以下は、一般知識の分野別配点と、出題傾向についてまとめたものです。一発合格するためには、敵をよく知る必要がありますので、出題傾向を把握し、的を射た対策をすることが重要です。
政治・経済・社会 | 7問 (8問のときも) |
政治・経済・社会分野は出題範囲が広く過去問はあまり参考にならない |
情報通信・個人情報保護 | 4問 (3問のときも) |
情報通信・個人情報保護は出る分野が決まっている |
文章理解 | 3問 | ①空欄補充 ②並べ替え ③要旨把握文章理解は正解を導く法則がある |
①政治・経済・社会
政治・経済・社会には、近時の内容が出題されます。つまり対策としては問題集を解くよりも、毎日意識してテレビ・新聞・SNSのニュースをチェックして情報に触れることの方が有効です。その時のトレンドを掴む心がけが大事になります。
②情報通信・個人情報保護
情報通信は日進月歩の分野でもあるため、過去問からの出題はほとんどありません。近時のトレンドであるIT用語などは、しっかり押さえておきましょう。総務省「国民のための情報セキュリティサイト」にある用語辞典からの出題が多いので、対策に活用しましょう。
個人情報保護に関しては「個人情報保護法」と「行政機関個人情報保護法」は必ず押さえ、重要な条文もチェックしましょう。この分野に関するニュースのトレンドを日々チェックしていれば、正解を導き出すことができるでしょう。
③文章理解
文章理解は、学生の時に履修した現代国語のようだといわれます。文章理解こそ、パターンさえつかめば高得点が可能となる分野です。ここでは速読とまではいかなくとも、文章を素早く読み取るスキルが求められます。文章問題に割ける時間は、3時間の試験時間でも限られます。
「主題となっているキーワード」「接続詞」「前後の文章」に気をつければ得点できます。一発合格したければ、得点源にしたいところです。
(3) 文章理解に時間を取られすぎない
繰り返しますが、行政書士試験は180分、つまり3時間で解く必要があります。時間がたっぷりあるようで、実はそうでもありません。一発合格するためには、時間配分も重要な戦略です。
文章理解には予想外に時間を取られてしまうことが多いので、やはり読解のスピードをあげる訓練は必要です。早く読み取れれば、あとは解答を導き出せばよいからです。
一発合格を目指すなら、一般知識で不合格になってしまってはもったいないです。日頃から情報をキャッチし、文章読解のスピードも付けていれば、自信を持って本番へ望めるでしょう。
6 サマリー
行政書士試験に一発合格するためのコツをまとめましたが、いかがでしたか?
この内容は、2回目以降の行政書士試験受験生にも役立つはずです。膨大な範囲の試験には戦略も必要です。この記事をあなたの一発合格に役立てていただければ幸いです。
7 まとめ
・行政書士試験は出題範囲が広く、合格率10%の難関国家試験である。
・合格基準点は分野別に3つで、法令等50%以上、一般知識等40%以上、合計点60%以上。
・科目ごとのボーダーラインはないため、戦略的学習で一発合格を狙いやすい。
・必要学習時間は600時間程度なので、一年しっかり勉強すれば一発合格できる。
・最重要科目の民法、行政法をしっかり押さえる。
・過去問を解きながら正誤判断の理由を書き出していくと法的思考力が身につく。
・過去問を5〜10年分解きながら条文や判例を付箋でチェックすると頻出箇所が浮かぶ。
・一般知識は6問(24点)以上が合格基準点。近時のトレンドを意識してチェックすること。