「行政書士は英語を使える仕事なのかな?」英語が話せるあなたなら、一度は抱いたことがある疑問ではないでしょうか。
この記事では行政書士の業務の中で、英語を活用できる業務、英語ができると将来的に有利な業務を紹介し、また英語力の必要性を訴える現役行政書士の声を紹介していきます。
1 行政書士の業務と英語
行政書士は「書類のプロ」という呼び名からも分かる通り、公的書類の作成を主な業務としています。
従来はあくまでも日本人に関する書類作成が多かったのですが、近年その様相が変わってきました。入国管理局に提出する書類の作成業務が増え、また外国人雇用に関する業務や外国人の会社設立についての申請・書類作成業務が増えてきているのです。
その背景には、2018年に外国人労働者の届出の義務化が厳格化したこと、2019年4月の出入国管理法の改正により外国人労働者の数が急増したことなどがあります。
(1)在留資格の有無確認や申請
「外国人労働者の雇用状況の届出制度」とは、事業主が外国人労働者を雇用する際にハローワークに届けるべき項目を定めたものです。全ての事業主は、外国人労働者の氏名、在留資格、在留期間などを確認し、ハローワークへ届ける義務を課せられ、届出を怠った場合は罰金刑に処されることとなりました。
「外国人雇用状況の届出」は、全ての事業主の義務であり、 外国人の雇入れの場合はもちろん、離職の際にも必要です!
※届出を怠ると、30万円以下の罰金が科されます。出典:厚生労働省
もとより外国人の雇用にあたっては、事業者はその人物に日本国内における就労が認められるかどうか確認しなければいけません。在留資格については出入国管理及び難民認定法(以下、入管法)で定められており、認められる在留資格27種類は、就労の可否に鑑みると3種類に分けられます。
在留資格の有無確認や申請は、行政書士の業務です。外国人の方が日本国内で暮らすためには「在留資格」の保有が必須ですが、在留資格にかかわる申請業務にはこのように多くの種類があります。
・在留資格認定証明書交付申請
・在留期間更新許可申請
・在留資格変更許可申請
・永住許可申請
・再入国許可申請
・資格外活動許可申請
・就労資格証明書交付申請
東京都行政書士会は、在留資格にかかわる申請業務を行政書士に頼むメリットを、次のように定義しています。
①アドバイスがもらえる
・各在留資格別に、要件や必要書類が異なることについて
・どの在留資格に該当するかやその外国人の経歴などによる、判断の難しい許可について
②本人に代わって申請することも可能
・外国人は本来、自ら地方入国管理局に出頭し申請書類を提出しなければならない(申請する外国人の同一性と申請意思を確認と、申請結果を本人に確実に伝えるため)
・申請取次行政書士は外国人本人に代わって申請ができ、外国人本人の出頭は免除される(出入国管理施行規則第6条の2)
(2)申請取次行政書士による入国管理局への申請業務
「申請取次行政書士」とは、日本で働きたい外国人に変わって入国管理局への申請をおこなうことのできる資格です。申請取次行政書士は申請人である外国人に代わって入管局に申請をおこなえるため、外国人の出頭の手間を省くことができます。
申請取次行政書士になるには出入国管理について一定の研修を受けテスト(効果測定)を修了し、届出をおこなう必要があります。
申請取次行政書士の業務は、代行する外国人申請人とのコミュニケーションが必要になります。すると申請取次行政書士は、英語を話せたほうが良いということになります。英語力という強みを活かして、入管業務に特化した事務所を開設する申請取次行政書士も多くいます。
日本で働く外国人の方の数は年々増加しているので、将来性のある資格だといえます。申請取次研修は、毎回募集を開始するとすぐ定員に達するほどの人気ぶりです。晴れて申請取次行政書士になり届出をすると「届出済証明書」が発行されますが、この届出済証明書がピンク色なので「ピンクカード」と呼ばれています。
(3)国際結婚サポート
行政書士の業務には国際結婚のサポートもあります。
渉外身分関係手続き(結婚、離婚、養子縁組等)
外国人と日本人が結婚・離婚・養子縁組等をする際、相手の方の国籍により、婚姻届等の要件や必要書類が異なりますので、注意が必要です。出典:東京都行政書士会
国際結婚はのピークは2006年で、同年は結婚したカップルの16組に1人が国際結婚でした。現在はピーク時から減少傾向にあります。国際結婚する場合の、配偶者の在留資格の手続きのサポートをしてくれるのが行政書士なのです。
行政書士は、以下の手続きのサポートをしてくれます。
・配偶者の在留資格の手続き(国際結婚VISA手続き)
・永住申請
・帰化申請
前述の入管取次申請者の資格を有する行政書士が、配偶者等の在留資格の手続きを代行します。
まずは配偶者が、いわゆる「国際結婚ビザ」の要件を満たしているかどうかが重要です。国際結婚ビザを発行するにあたり、入国管理局の「永住審査部門」が、配偶者ビザ発行の可否について審査します。
次に「実態調査部門」という専門部署が、配偶者ビザの申請内容が真実であり虚偽の内容がないかについて現地調査をするのです。もし虚偽の内容を申請書に記載していたことが発覚したら、場合によっては刑法に触れてしまいます。
実態調査部門は、配偶者ビザの虚偽申請、偽装結婚の摘発を目的として存在する機関ですので、警察のような手法も用いて操作できます。
配偶者ビザが受付されてからも、その後2ヶ月間の審査で疑問点が生じれば、入管から追加資料の提出が求められます。この時、既に提出済の書類と追加提出の書類のあいだに齟齬があれば、また問題が生じることになります。
行政書士が入管に関する依頼を受ける場合、依頼主と会って話を聞いてからでないと依頼をを受けてはいけないと定められています。つまり、行政書士なら会って話をすることで、結婚ビザ取得が可能かどうかを判断してもらうことができるのです。
(4)外国人の起業
近年のグローバル化により、日本での起業を望む外国人も増えています。そんな外国人をサポートすることも行政書士の業務の一つです。
対日投資等に関する手続き
日本に投資したい、又は会社を設立したいという外国人の方に、投資の方法、どのような許認可が必要か、会社設立の手順、誰に頼むと良いか、などをアドバイスします。出典:東京都行政書士会
英語が話せる行政書士は外国人が起業するまでのフローをサポートできるので、他の行政書士と大きく差別化を図ることができます。
1 | 事業計画 | 事業計画書の作成 |
2 | 経営管理ビザ | 経営管理ビザ取得のため法務局に申請 |
3 | テナント契約 | 事業所を定める |
4 | 会社設立 | 会社の目的、名称、資本金額などを決めて定款を作成 |
5 | 各種契約 | 業務開始までの書類作成 |
6 | 許認可申請 | 地方行政等への申請代行 |
外国人がこのボリュームの業務を異国でおこない、会社を設立することはかなりハードルが高いと言えます。英語を話せる行政書士のサポートが必要な場合がほとんどでしょう。
「外国人のための企業ガイドブック」は、外国人が起業に当たり検討すべき事項として、「弁護士や行政書士など専門家の活用」を挙げています。
起業にあたっては税務署や社会保険事務所など、複数の官公署への書類提出が必要となりますし、会社設立に当たっては法務局への申請が必要です。事業開始のための管轄官庁の許認可、届出も必要ですし、そもそも外国人は企業に適した在留資格の許可を受ける必要があります。弁護士や行政書士など専門家は、それらを代行してくれます。
同サイトは、行政書士に依頼すべき業務として
・在留資格申請
・事業に必要な許認可申請
・会社設立書類作成
を挙げています。
(5)帰化
ご存知のように、外国人が日本の国籍を取得することを「帰化」といいます。帰化を希望する場合、日本の法務局に行って「帰化申請」を提出する必要があります。この手続きも行政書士に依頼できます。
日本に長年住んでいたり、日本人と結婚したりして日本の国籍取得を希望する人が増えてきています。そんな時には帰化申請の手続きを行政書士が行います。
また、両親が結婚していない場合でも日本人の父から「認知」された20才未満の人は「国籍取得の届出」をすることによって日本国籍を取得することができます。出典:日本行政書士会連合会
帰化業務も、行政書士が英語力を活かせる業務の一つであるといえます。
2 行政書士は英語を話せるべき?
行政書士の業務には外国人から依頼をうけるものが多いため、英語力があればかなりの競争力がつくといえます。また国内外の社会の変化も、行政書士の英語力の必要性を高めている場合があります。
「行政書士が英語を話せると有利である」といえる根拠を挙げてみましょう。
(1)急増する外国人労働者
前述の「外国人労働者の雇用状況の届出制度」における事業者のへ義務付けは厳しくなりましたが、2017年11月1日施行の「技能実習法」改正では優良な実施団体には優遇措置が取られるなど、外国人労働者の数の増加に繋がるような施策が盛り込まれています。
働き方改革も、外国人労働者の登用などを推奨する「ダイバーシティ」を推進しようとしており、今後も法改正などで、ますます外国人労働者が働きやすい環境が整備されていくと予想されます。外国人労働者の増加は、同時に英語が話せる行政書士の活躍の場が増えることを意味しています。
(2)国際結婚
英語が使えることで広がる行政書士の業務は、入管手続き以外にもあります。前述の「国際結婚」手続きもその一つです。それに付随して「海外の不動産相続」「外国人親族の遺言」といった申請・手続きの依頼に繋がる場合もあるでしょう。
繰り返しますが「国際結婚」は、2006年以降は減少傾向にあります。しかし国際結婚の業務は複雑なので、一定数の依頼はこれからも発生するはずです。
国際結婚のサポートでは、主に次の3つの手続きをおこないます。
①国内における婚姻手続き
②外国人の母国(自国)での婚姻手続き
③外国人の在留資格の「日本人の配偶者等」への変更手続き
④氏の変更の希望の有無の確認
国際結婚の場合、夫婦どちらかの氏を名乗る必要はありませんが、氏の変更の意思がある場合は、婚姻成立の日から6か月以内に届け出を出します。国際結婚のサポートは依頼者との円滑なコミュニケーションをはかる能力が求められるので、英語ができる行政書士が有利であることは間違いありません。
(3)特定技能
特定技能制度は、国内の深刻な人材不足を乗り越えるための対策として、2019年4月に施行されました。優れた専門性や技能を持ち、即戦力となり得る外国人を国内の労働市場に受け入れていくために、創設された新たな在留資格です。
中小企業をはじめとして深刻な人材不足に呻吟する特定産業分野(14分野)において、専門性・技能を持ち即戦力となりうる外国人材の、就労の機会を広げました。
出典:出入国在留管理庁
人口減少下にあってもアベノミクスの推進により、就業者数は5年で251万人の増加を見ました。しかしその一方で、特に中小企業を中心とする企業の人手不足感は、バブル期の水準の再来にまで強まっています。
「就労を目的とした新たな在留資格」である特定技能制度の特長は、次の通りです。
・ 高い専門性を有する者については、在留期間の上限を設けない。
・また、家族帯同を認める
・ 的確な在留管理・雇用管理を実施
・入国・在留審査に当たり、日本人と同等以上の報酬の確保等を確認する
また、在留資格として「特定技能1号」「特定技能2号」が創設されました。このような優秀な外国人材の在留資格申請は、英語が話せる行政書士に打ってつけの業務です。国内の労働力確保という社会的意義の大きい仕事でもあります。
3 ネット上の声
これまで英語が話せる行政書士の優位性や実際に従事できる業務を紹介してきました。最後に、国際的に活躍する行政書士のブログやホームページから、リアルな声を引用してみましょう。
(1)英語ができないとむしろキツイ
行政書士の業務には在留資格申請など外国人相手の業務が多いため、クライアントの外国人率も自然に高くなります。こちらのブログオーナーの行政書士は、数ある言語の中でも英語を話せると一番メリットが大きいと言い切ります。
求人を出している行政書士事務所は入管関係をメインとしているところがほとんどで、外国人相手の仕事になるため、英語が話せないと行政書士事務所への就職は厳しいようです。このブログオーナーは、英語でお客様対応ができることが採用の決め手となるのではないかと推察しています。
(2)外資系企業と外国人を雇う日本法人がクライアント
次は社会保険労務士とのダブルライセンス、加えて英語が話せるという才媛行政書士のインタビューを引用します。外資系企業や外国人雇用をおこなう日本法人がクライアントとなると、幅広く国際的な業務がおこなえる様子が分かります。
── 開業されてからはどのような業務を展開してこられましたか。
開業から現在まで、日本で活動する外資系企業や初めて外国人を雇用する日系企業、あるいは日本で新たに起業される外国人・外国法人のサポートを行っていきたいと考えて、就労ビザ取得のための入管手続き代行・外資系企業の日本支店・日本支社設立手続き、労働・社会保険関連手続き、就業規則(和文・英文)を始めとした各種規程作り、外国人を雇用する際に必要な雇用契約書の作成・レビュー等を中心分野として業務を展開してきました。
現在は8〜9割が「入管=ビザ申請手続き業務」です。この仕事を依頼してこられるのは日本に進出してくる外資系企業と、外国人を雇う日本法人が半々の割合です。あとは就業規則と雇用契約書作成、また英文翻訳をアメリカ人と一緒に行っています。
秀逸な英語力と行政書士としての能力の両方があれば、これだけの業務が遂行可能なのだということが分かります。国際的な行政書士を志す方にとっては励みになるインタビューです。
(3)行政書士は英語版ホームページの解説が必須
英語版のホームページを解説している行政書士は、まだまだ少ないのではないでしょうか。
以下のホームページオーナーは入管などをおこなう行政書士です。時間を見つけては英語版ホームページを自作していますが、海外からの訪問数に驚いています。ネット上でも英語でアピールできれば、集客の可能性が世界的になるという事例です。
まだ完成度50%くらいのホームページですが、米国から毎月ある程度コンスタントにアクセスがあるのが不思議です。
Facebookで繋がっている数人の昔の仕事仲間か、Californiaに住んでいる実姉家族からかなって思っていますが、入管関係の業務を中心に先週末、英語サイトづくりに取り組みました。頑張ったつもりですが、久しぶりの英語文章の作成なので、たいして進みませんでした。Googleなど翻訳サイトを使ったら変な英語なのでその修正を繰り返すという感じでした。
出典:さくらい行政書士事務所
4 サマリー
いかがでしたか?
英語が話せる方は、「自分も国際行政書士になりたい!」と奮起させられる内容だったのではないでしょうか。在留資格申請業務には、海外から日本の労働力を確保するという社会的使命があるといえます。大きなやりがいを感じながらできそうな業務です。
5 まとめ
- 行政書士の業務にはもともと外国人在留資格申請があったが、政府の外国人労働者獲得のための法改正でより仕事が増える様相を見せている
- 申請取次行政書士の資格があれば、外国人に変わって入管局に申請に行ける
- 国際結婚サポートや外国人の起業支援といった業務もある
- 「技能実習法」改正や特定技能制度には、外国人労働や雇用主を優遇して渡日する外国人を増やしたいねらいがある。
- 現役行政書士は、英語が話せるメリットを大きく訴えている