「離婚は結婚する時の倍のエネルギーが要る」といわれるように、離婚問題は簡単な案件ではありません。
ひとことに離婚といっても、そうなるに至った経緯や、複雑な手続きの必要性の有無で、成立するまでに要する時間とお金が違ってきます。行政書士は離婚協議書作成を請け負うため、離婚案件も業務範囲に含まれています。
この記事では、行政書士が離婚に関わることができる範囲と、弁護士に移行すべき段階についてまとめていきます。
1 行政書士と離婚案件
行政書士は書類のプロという立場から、離婚協議書の作成、離婚契約公正証書作成を請け負います。必要書類を作成するためには十分なヒアリングもおこなうため、行政書士の業務範囲に限って相談もお受けします。
離婚はデリケートな問題ですし、財産分与や親権など、慎重に取り決めなければならない内容もあります。そのため、離婚を専門とする行政書士もおりますし、女性顧客が心を開いて何でも話しやすい、女性の行政書士も活躍しています。
(1) 離婚には大きく2つある
離婚の形には、大きく分けると次の2つの方法があります。
話し合いで離婚の合意をする方法
(協議離婚) |
・夫婦双方に離婚の合意があり、争う可能性がない場合。
・届けを済ませれば離婚が成立する。 ・離婚原因については、法律で規定されない。 |
裁判所の手続きを利用して離婚する方法 | ・夫婦間で話し合いにならず協議離婚が難しい場合。
・家庭裁判所の関与によって成立させる離婚。 ・調停離婚、審判離婚、裁判離婚の3種類がある。 |
(2) 協議離婚する場合、話し合うべき内容とは?
協議離婚をする場合、最も深く話し合われる内容は、下表の扶養料・財産分与・慰謝料でしょう。離婚協議書には、下記のような内容が盛り込まれます。
①扶養料 (養育費) | ・夫(父親)の全収入で子供を扶養している場合は、子供が成人するまで 又は大学を卒業するまで、夫は妻子に扶養料を支払う(財産分与に含まれない場合)。
・扶養料の平均は、子一人当たり3~5万円が多い。夫の収入を参考に決定。 |
②財産分与 | ・離婚前に夫婦の協力で蓄積された財産を、清算し分配すること。
・離婚後の妻子の生活補償を兼ねている。 ・財産分与の法律上の算定方式はない。 ・数十万円から一千万円程度までの間が多い。 ・判例を基準として決定することが多い。 |
③慰謝料 | ・「精神的苦痛損害金」ともいう。
・離婚の原因を作った方が相手に対して支払う。 |
④親権者、監護養育権者(未成年の子がいる場合) | |
⑤離婚後の姓と新戸籍の編成 | |
⑥子との面会権 | |
⑦離婚届の提出、別居、荷物などについて取り決め |
(3) 裁判所で手続きをおこなって離婚する方法とは?
離婚が裁判所に移行する場合とは、話し合いがこじれて、第三者(家庭裁判所)が介入しないと離婚が成立しない段階です。ここからは行政書士の業務外になり、あとは弁護士に委ねられます。
① 離婚協議ができなかった場合(調停離婚)
話し合いによる離婚協議ができなかった場合は、家庭裁判所に調停の申立をする必要があります。
家庭裁判所調査官による事実調査がおこなわれたり、調停委員からの意見を参考にして離婚の合意が成立すれば、この場合を「調停離婚」といいます。
② 調停が不成立だった場合・1(審判離婚)
調停が不成立だった場合は、家庭裁判所が職権でこれまでの調停内容を考慮し、審判をおこないます。
下された審判について、2週間以内に異議申立がない場合は、「審判離婚」が成立します。
③ 調停が不成立だった場合・2(裁判離婚)
②の審判に移行しない場合や、審判に対して異議申立があった場合は、離婚訴訟を起こす必要があります。このように、訴訟によって成立する離婚を「裁判離婚」といいます。
ただし、裁判離婚が成立するためには、下記の「法律で定められた離婚原因」が必要になります。
【法律で定められた離婚原因】
・配偶者に不貞な行為(貞操を守らないこと)があった場合。
・配偶者から悪意で遺棄(すてられること)された場合。
・配偶者の生死が3年以上明らかでない場合。
・配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがない場合。
・その他婚姻を継続し難い重大な事由がある場合。
裁判途中で双方が歩み寄り、和解して離婚が成立することがあります。これを「和解離婚」といいます。
また、訴訟を起こされた側が、起こした側の言い分を全面的に受け入れて離婚が成立した場合を「認諾離婚」といいます。
2 離婚問題は、行政書士と弁護士どちらにお願いすべき?
繰り返しますが、離婚するにしても裁判所の介入が必要である場合と、そうでない場合があります。
話し合いでは収まらず、争いの舞台が裁判所に移行したら、今度は弁護士の出番です。
(1) 離婚における弁護士と行政書士の業務範囲の違い
下表は、離婚業務の様々な種類を、弁護士と行政書士のどちらに依頼できるのかを分かりやすくまとめたものです。ご覧の通り、行政書士は離婚関連の書類作成とその相談に、自らの業務範囲内で携わることができることが分かります。
弁護士 | 行政書士 | |
離婚協議書の作成/
その作成のための相談 |
〇 | △ |
離婚に伴う養育費・財産分与・慰謝料等の支払を求める書類の作成/
その作成のための相談 |
〇 | △ |
夫婦関係調整(離婚・円満)調停申立書等や離婚請求訴訟の訴状等の作成/
その作成のための相談 |
〇 | × |
離婚問題における相手方との交渉代理/
その交渉のための相談 |
〇 | × |
夫婦関係調整(離婚・円満)調停や離婚請求訴訟における代理/
その代理のための相談 |
〇 | × |
出典:神奈川県弁護士会
(2) 弁護士と行政書士の比較
他の角度からも、離婚問題を依頼する場合の弁護士と行政書士について比較してみました。繰り返しますが、行政書士は紛争(不倫などで慰謝料争い・親権争いなど)には関与できません。こういった紛争にもつれ込む場合は、行政書士から弁護士を紹介されるでしょう。
円満離婚の場合は行政書士に離婚協議書を作成してもらうだけですので、かなり費用を抑えることができます。
弁護士 | 行政書士 | |
離婚 | 【協議離婚】
離婚協議書作成で代理人になれる。 【調停離婚】 調停でも代理になれる。 【裁判離婚】 代理を務めることができる。
※離婚後の法的な処理や手続きもおこなう。 ※法的なアドバイスもできる。 |
【協議離婚】
離婚協議書など書面を作成できる。
【強制執行】 離婚協議書を作り公正証書にすると、慰謝料や養育費が支払われなくなった場合に、調停や裁判を経ずに強制執行をかけることが可能。 (公正証書に強制執行認諾文言が必要)
※紛争に関わることはできない。 ※調停や裁判で代理人となることはできない。 |
業務 | ・法律の専門家。
・民事事件で相手と交渉してくれる。 ・裁判で代理してくれる。 |
・官公庁に提出する書類を作ったり、依頼人の権利義務に関する書類を作成する。
・書類作成のプロフェッショナル。 |
費用 | ・相談費用は、1時間に5000円くらい。
【調停事件、交渉事件】 着手金・報酬金が20~50万円 【訴訟事件(裁判)】 着手金・報酬金が30~ 60 万円 (旧日本弁護士連合会報酬等基準より)
【報酬】 実費、慰謝料などの利益の10%程度 |
離婚協議書の作成費用:3〜6万円程度
離婚協議書の添削:1万円〜 |
おすすめ | 離婚協議書の作成のみ:
5~10万円でやってくれる弁護士もいる。 訴訟相手が有責配偶者(不倫等)の場合には、慰謝料が多く貰える可能性があるので弁護士に依頼しましょう。 |
書類の作成だけを依頼する、争いもない円満離婚なら、行政書士に依頼しましょう。 |
⑶ 行政書士が依頼者の代理人として離婚相手側と交渉することは弁護士法抵触?
離婚相手側と交渉することは、弁護士法に抵触するので法律違反になります。
いくらお得意様の顧客からの依頼でも、行政書士がおこなうと弁護士法違反になるので、お受けできません。
3 離婚にまつわる問題について
最後に、離婚を専門とする行政書士が対峙する、様々な難しいケースをご紹介します。
行政書士ができることは、あくまでも自らの業務範囲で離婚の相談を受けるのみです。ですが、世相を反映したものも含めて、実際には様々な相談を受けるようです。
⑴ 「相談難民」の存在
夫婦が離婚を決断する時期で一番多いのは、実は子どもが未就学児のうちだそうです。
子どもがまだ幼いうちの方が、新しいスタートを切りやすいという理由もあるのでしょう。
それでも、離婚を成立させるまでには、(組んでいれば)住宅ローンの財産分与問題、子どもの扶養料(養育費)や学資保険の問題、生命保険の受取人など、解決すべき問題が山積みです。
なかでも、慰謝料を回収したい相手が自己破産しているケースなどは、難しい案件です。そのような難題を抱える顧客は、複数の行政書士事務所から断られて「相談難民」になってしまうこともあるのです。
⑵ 養育費や慰謝料の見直し問題
離婚する際に養育費や慰謝料で夫婦合意したものの、数年後には状況が変わってしまい、見直しが必要になる場合もあります。
夫の収入が大幅に減少して、支払いが滞ってしまう場合などです。今般の新型コロナウィルスによる景気の悪化も、見直しが必要な事例を増やしているに違いありません。
⑶ 国際離婚
海外にいる日本人が、外国人の配偶者との離婚を考えている場合もあります。
この際、公正証書の作成が必要で、日本に帰国して公正証書に署名して離婚届を提出すれば、離婚成立となるのです。
しかしこのような案件も、新型コロナウィルスの水際問題の影響で、現在はいくつも保留になっています。日本へ帰国ができなかったり、また現地への再入国ができなかったりといった事情があるからです。
サマリー
離婚問題は単なる手続きだけにはとどまらず、財産分与や親権、慰謝料の問題で複雑にもつれる場合もあります。
しかし行政書士の業務範囲は、家庭裁判所に調停の申し立てをする前までです。「円満離婚」のケースを担当し、離婚協議書や公正証書の作成までを請け負います。
まとめ
- 行政書士は書類のプロとして離婚協議書の作成、公正証書作成を請け負う。
- 行政書士は話し合いで離婚の合意が可能な協議離婚において、離婚協議書を作成する。
- 離婚協議書には扶養料、財産分与、慰謝料、親権者、監護養育権者、離婚後の姓と新戸籍の編成、子との面会権、離婚届 の提出、別居、荷物などの取り決めを記載する。
- 裁判所に申し立てしての離婚は、弁護士が担当する。
- 家庭裁判所では調停離婚、審判離婚、裁判離婚を取り扱う。
- 行政書士が離婚相手側と交渉することは、弁護士法に抵触して法律違反になる。