一定以上の規模で建設事業をおこなう場合には、「建設業許可」を取らなければなりません。この「建設業許可申請」は、幅広い行政書士業務のなかでも人気の業務です。
スポット案件が多いことが難点の行政書士業務ですが、建設業許可申請を請け負うことができれば、様々な豊かなメリットを受けることができます。では、建設業許可申請を取り扱うメリットとは何なのか、この記事で詳しくたっぷりお伝えします!
1 行政書士の建設業許可申請の業務内容とは?
建設業に関連する手続きといっても、建設業界関係者でなければ、馴染みがないものです。しかし業界規模が大きいため、他業界より申請業務が多く発生しそうな感じがします。具体的には、どのような申請業務をおこなうことになるのか見ていきましょう。
⑴ 建設業許可申請業務
建設業法には土木、建築、大工、左官など、29の業務が定められています。その中から一定以上の規模で事業をおこなう場合、建設業許可の申請が必要です。
どのような場合に許可申請が必要なのか、東京都行政書士会ホームページより解説文を引用します。
”個人で大工工事や左官工事を請け負っている一人親方さんも、資本金100億円以上の大企業も、建設業許可を取得する場合には「建設業法」という法律の定めに従って許可の申請を行います。軽微な工事しか行わない場合を除いて、建設業を営もうとする者は、建設業の許可を受ける必要があります。”
軽微な建設工事
(許可を受けなくてもできる工事) |
建築一式工事以外の建設工事 1件の請負代金が500万円未満の工事(消費税を含んだ金額) |
建築一式工事で右のいずれかに該当するもの | ①1件の請負代金が1,500万円*未満の工事
(消費税を含んだ金額) ②請負代金の額にかかわらず、木造住宅で延べ面積が150㎡未満の工事(主要構造部が木造で、延面積の1/2以上を居住の用に供するもの。) |
出典:東京都行政書士会
また、拠点が2つ以上の都道府県にある場合は「大臣許可」が、1つの都道府県にある場合は「知事許可」が必要になります。元請会社として仕事を請け負う場合、「特定建設業許可」が必要になるケースもあります。企業の成長にともなって、再度、建設業許可申請が必要になることもあります。
請負代金が500万円以下の工事でも、元請業者から下請会社の建設業許可を取得して欲しいと依頼されることもあります。許可がおりないと、下請け会社が仕事を受注できないからです。
⑵ 顧客獲得から仕事の流れ
先述のように「元請け」「下請け」「孫請け」が存在する建設業界は、重層下請構造によって成り立っています。こうした構造で成り立っていることからも、派生的に仕事が増えていく建築業界の構造が、うかがい知れます。
工事 |
⇩
元請会社から下請会社の許可を取ってほしいと紹介がある |
⇩
許可を取得 |
⇩
毎年「事業年度終了報告書」を提出する必要あり(決算終了後4か月以内) |
⇩
5年に一度は許可の更新 |
⑶ 多種多様な顧客からの依頼
建設業許可申請を依頼してくる顧客は、建設業界だけではありません。意外かもしれませんが、家具製造販売会社、精密機械製造販売会社、運送会社などからの依頼もあるのです。
精密機械 | 商品の据付工事が必要。 |
家具の製造・販売会社 | 家具を販売したら、壁や床面も含めたトータルコーディネートの工事が必要になるから。 |
監視カメラを販売するIT系企業 | ・監視カメラの設置工事。
・監視システム全体を把握する機器やディスプレイなどの設置工事が必要。 |
また、IT企業も建設業許可申請を必要とする場合があります。上表の監視カメラシステム設置が、その良い例です。
2 建設業許可申請は行政書士に人気の業務?
業界規模が大きく案件数が大変多い建設業許可申請は、行政書士が扱うなかでもメジャーな分野であることが分かります。行政書士として働いていれば、誰でもいつかは建設業許可申請に関する相談や、申請依頼をされることでしょう。
⑴ 建設業許可は「許認可申請」業務の基本
建設業許可申請には、許認可申請業務のエッセンスが詰まっているといわれます。そのため、建設業許可申請業務をマスターしておけば、他の許認可申請にも自信をもって臨むことができます。幅広い行政書士業務のなかで、まだ専門分野を決定していないなら、建設業許可申請に関する基本的な知識を得ておいた方がよいでしょう。
なお許認可申請業務に関しては、申請要件や添付書類などについて「ローカル・ルール」が存在する場合があります。それについては、都道府県の建設課に相談しましょう。
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⑵ 建設業許可申請を請け負う4つのメリット
建設業許可申請を請け負うメリットを挙げるなら、まず建設業界そのものの大きさを挙げざるを得ません。また、建設業は都市部に一極集中しているというよりは、地方であっても需要が絶えずある点もメリットだといえます。
行政書士の請け負う案件は「スポット案件」といって単発のものが中心ですが、建設業許可申請の場合は下表①に記した通り、継続性のある仕事ができることもメリットです。
その他にも、②~④のメリットがあります。
① | 5年に一度更新申請が必要 | ・年に一度の事業年度終了報告の提出。
・役員や専任技術者の変更届。 |
② | 建設業者に人脈を作りやすい | ・建設現場には、多種多様な業種が出入りする。
・つきあいも密接なので、紹介も期待できる。 |
③ | 実務ノウハウの資料が多い | ・ほとんどの各都道府県に建設業許可申請の詳細な手引きがあり、ダウンロードできる場合もある。
・建設業許可関連書籍も多く出版されている。 ・既に建設業許可を手掛けている先輩・同僚がいる。 |
④ | 派生する業務が多い | 以下のような行政書士業務が派生する場合がある。
・入札に参加するための許可申請(経営事項審査申請) ・個人事業者からの法人化 ・「のれん分け」しての会社設立 ・産業廃棄物収集運搬業申請 ・電気工事業の登録 ・解体工事業の登録 ・建築士事務所の手続き ・産業廃棄物収集運搬業、産業廃棄物中間処分業など |
⑶ 競合は多い
建設業許可申請は需要が高いこともあって、行政書士業務で最も人気がある分野です。ですので競合はおのずと多くなります。
一方、行政書士の平均年齢が60代であることに鑑みれば、これから建設業許可申請に新規参入しても、十分勝算があるという考え方もあります。
3 行政書士にとって建設業申請スタートアップの苦労とは?
仕事に継続性があり、需要が高い建設業許可申請ですが、始めたらすぐに上手く行くでしょうか。「石の上にも3年」といいますが、やはり軌道に乗るまで時間を要するのでしょうか。建設業許可申請を始めたばかりだと、どんな苦労があるのか調べてみました。
⑴ 仕事がない
よほどしっかりした人脈を築いていなければ、開業したばかりだと何の反応もないものです。ホームページを解説しても、はじめはPV(訪問者)もなかなか増えないはずです。
巷の建設業許可が既におりている会社は、既に他の行政書士の顧客になっているはずです。そこに営業をかけていっても、よっぽど現行の行政書士に不満を持っていない限り、自分の顧客に鞍替えしてもらうのは難しいでしょう。
しかし、繰り返しますが、建設業許可申請は継続性のある案件です。一つの案件から派生する業務も豊富です。顧客をある程度獲得してしまえば軌道に乗るので、それまで頑張って営業にいそしみましょう。
⑵ 買い叩かれる
行政書士の報酬は自由設定ですが、報酬額についてはその根拠を明確にしておきましょう。競争が激しい地域では、値引きを要求されることもあるからです。
ベテランになると、値引きを要求してくる業者の依頼は一切受けない行政書士もいます。自分の市場価値を落とさないためです。一旦「あの行政書士は安い」といった評判が立ってしまうと、今後の営業活動が難しくなってしまいます。
一方で、実力主義の建設業界は、いい仕事をする人にはそれ相応の支払いをするといわれています。例えば、駆け出しだからと足元を見られて安い報酬で契約させられてしまっても、こちらが良い仕事をすれば、本来の報酬を支払ってくれるのが建設業界だというのです。
しかし、報酬に関しては基本的にはしっかりと提示し、毎回顧客に納得してもらえるような仕事をするようにしましょう。
⑶ 商工会に入れてもらえない
許認可申請、会社設立などビジネス絡みの業務を生業とする行政書士は、商工会に入会して地域の事業者に認知してもらえたら有利なはずです。
しかし、地元の商工会議所に入会の申し込みに行って、入会を断られた行政書士もいるようです。商工会の人から見れば、駆け出しの行政書士は、収入も不安定ですぐに退会するに違いない、と思われるのでしょう。これが既に軌道に乗っている行政書士の場合は、商工会から二つ返事で入会を許諾されるようです。
4 行政書士が建設業許可申請で成功するコツとは?
建設業許可申請を始めたばかりは、繰り返しますが、やはり顧客獲得が難しいものです。顧客を一定数獲得するまでは、たゆまぬ営業活動の継続はもちろんのこと、コツコツ頑張りましょう。では、どのようにして「コツコツ」頑張れば良いのかをまとめていきます。
⑴ はじめはどんな仕事も引き受ける
建設業許可申請の駆け出しのころは、相談のみで終わってしまうことが多く、なかなか依頼に繋がらないでしょう。しかしそれでも一生懸命に対応しているうちに、その姿勢が継続案件に繋がることもあります。人が人を紹介してくれて、顧客になってもらえることもあります。
軌道に乗るまでは、下記のような仕事も「コツコツ」引き受けましょう。
・建設会社で、日雇いで雑務や行政書士業務をおこなう。
・行政支援の創業セミナーの講師として登録する。依頼があれば全国どこへでも行く。
・建設業許可申請を専門にする先輩行政書士の手伝いをさせてもらう。
・スポットで許可申請業務の依頼が入ったら、引き受ける。
⑵ 他士業とのつきあいを大事にする
まず、ひとことで行政書士といっても、業務が幅広いことから専門とする業務は違うものです。行政書士同士のネットワークがあると、連携して取りこぼさず仕事をしていくことができます。
行政書士同士もそうですが、地元で活躍する他士業とも積極的につきあいましょう。士業はそれぞれ独占業務をもっています。自分が請け負うことができない独占業務は、他士業と連携して紹介してあげましょう。反対に、他士業が請け負うことができない行政書士の独占業務は、こちらに回してもらえます。弁護士、税理士、社会保険労務士(社労士)などと連携すれば、いつか建設業許可申請の仕事を振られることもあるでしょう。
⑶ 法人化する
事務所が軌道に乗ってきたら、法人化も視野に入れましょう。顧客の立場で考えると、法人化することで仕事の不履行を防ぐことができます。法改正によって行政書士の一人法人も設立できるようになりましたが、常に複数の有資格者で法人事務所を構えることで、継続性のある建設業案件を完璧に遂行することができます。一人だけでたくさんの継続案件を抱えていたら、予期せぬ事故や病気で見舞われ、更新申請ができなかった、ということも起こり得るからです。
また、法人化した方が、大手企業からの依頼も増えていきます。
5 行政書士の近年増加している仕事
最後に、建設業許可申請業務に起きている変化についてまとめていきます。行政書士業務全般にいえることですが、定型的な手続き業務をこなすだけでは、顧客の満足度を満たせなくなってきています。
⑴ コンサルティング
まずは経営コンサルタントとしての役割です。建設業許可申請業務では、顧客が公共工事案件の入札資格を得たい場合、どうやって「経営事項審査」にパスするか相談に乗ってあげる必要があります。この審査の基準となる総合評定値(P点)を、どうやって上げるのかをコンサルティングしてあげるのです。行政書士は社長の経営方針、経済状態、経営戦略などをヒアリングして、会計事務所とも連携しながら、経営内容の改善をサポートします。
このコンサルティングスキルは、将来AIが台頭し電子化・省力化が進んだ時代に、行政書士が生き残れるかどうかの鍵になります。誰でもできる仕事は、いずれ間違いなく淘汰されるため、行政書士はより高付加価値的な仕事を主軸業務にできるように、マインドセットしなければなりません。
実は相性が良い!公務員経験者や志望者が行政書士になる方法について徹底解説!【後編】
⑵ コンプライアンスの相談・指導(コンサルティング)
日本の建設業法は、諸外国に比べてとても厳しいといわれています。例えば、法令違反を犯して処分を受けると、国土交通省のWebサイトに企業名が掲載されます。それも約5年間という長期間にわたってです。このリストに載った企業は、それまでの契約を破棄されても文句が言えません。このように、コンプライアンス遵守は建設業界にとっても、会社の経営に影響する問題になってきました。
⑶ 事業承継問題
事業継承は、建設業界だけの問題ではないかもしれません。経営者に子どもがいても、事業継承の意思がない場合もあります。また、従業員に継承を引き受けてもらえない場合もあります。後継者がいない場合は、会社売却という手段を取ってM&Aをおこなったりします。また、会社の合併で企業規模を大きくしたりします。
M&Aなどをおこなうことで、それまでの建設業許可の効力が失効してしまう場合もあります。合併する企業にはそれぞれ建設業許可がおりていても、合併の方法によっては新会社も許可を維持できるとは限らないので、注意が必要です。
行政書士は、事業継承で発生しがちな問題を専門家として予測しながら、会社の存続がスムーズに図れるように導くスキルを求められます。
6 サマリー
建設業許可申請について、よくお分かり頂けましたか?許認可申請業務の王道だといわれる、建設業許可申請。行政書士として安定し且つ発展性のある経営を目指すなら、建設業許可申請の取り扱いは外せないでしょう。
7 まとめ
- 幅広い行政書士業務のなかでも「建設業許可申請」は人気の業務である。
- 建設業法が定める土木など29の業務の中から、一定以上の規模で事業をおこなう場合建設業許可の申請が必要である。
- 建設業を営もうとする者は、軽微な工事のみの場合を除いて建設業許可の申請が必要。
- 建設業界は重層下請構造によって成り立つため、派生的に仕事が増える特徴がある。
- 建設業許可申請を請け負うメリットは5年に一度更新申請が生じる、人脈を作りやすい、実務ノウハウの資料が多い、派生業務が多いなどがある¥