「まちの法律家」と呼ばれる行政書士。あなたは彼らの仕事がどんなものか知っていますか?「書士」とあるくらいなので、何かを書く仕事かな?と発想される方は多いでしょう。その通り、行政書士の仕事のほとんどは書類作成業務です。しかしその他にも、取り扱える業務が多い職種です。
この記事では、行政書士の担当する仕事について具体的にまとめていきます。
1 行政書士の誕生
まず行政書士法の変遷とともに、行政書士の歴史を見ていきましょう。幅広い分野で活躍する行政書士は、いつごろ誕生したのでしょうか。
(1)行政書士の祖先は代書人?
行政書士の主な仕事が書類作成であることから、行政書士は「書類作成のプロ」だといえます。
日本の士業のルーツは、江戸時代の「公事宿(くじやど)」という「地方から訴訟のために出てきた人の泊まる宿」にあると言われています。公事宿の仕事は、地方から出てきた人を宿泊させるだけではありませんでした。広辞苑によると公事宿は、訴状の作成、訴訟手続きの代行、内済の交渉にもあたっていたそうです。
公事宿は、訴訟に必要とされる各書類の雛形、現在で言えばフォーマットを常備していました。そして、行政書士の祖先といえる「代書人」が、その雛形を用いて書類を作成していました。
その後、訴訟手続きは弁護士の祖先である「代言人」の手に移りますが、代書人は一貫して、文書や図面の作成をおこなってきました。代書人の立場は「代書人取り締まり規則」でいうところの「他人の委託を受け文書、図面を作成することを業とする者」でした。
(2)行政書士制度の発足
次に「代書人取り締まり規則」を含む、行政書士を司る法律の変遷を見ていきましょう。行政書士法が成立したのは戦後で、1951(昭和26)年です。
1872(明治5)年 | 「司法職務定制」による代理人制度発足 |
明治30年代後半 | 「代書人取り締まり規制」が警視庁令や各府県令で定められる |
1920(大正9)年
11月 |
内務省によって「代書人規制」がこれら監督既定の統一化を目的として定められる |
1947(昭和22)年
12月 |
戦後、「日本国憲法施行の際現に効力を有する命令の規定の効力等に関する法律」により、代書人規制が失効 |
1951(昭和26)年
2月10日 |
住民の便益に向け法制化を求める社会の動きを受け、行政書士の制度を定める |
1951(昭和26)年2月22日 | 「行政書士法」が成立し、法律第4号として公布され3月1日に実施される |
2 行政書士の仕事とは
行政書士の仕事は、実に幅広いです。列挙していくと、誰しも「あれ、こんなことも?」と驚くほどです。同じ士業でも弁護士なら「裁判」、司法書士なら「登記」、税理士なら「税務」というように、それぞれ「業務」を言い表すキーワードを持っています。しかし行政書士の業務の場合は「あれもこれも」と言うのが最も適切なのです。
そんな行政書士の特徴について、東京都行政書士会がうまく表現しています。
「行政書士」の説明を難しくしている原因は、一つには「取り扱う業務の数のあまりの多さと範囲の広さ」、もう一つは、前の言い換えになりますが、「これ、という特定のイメージにつながる、一言で表せるような業務的・場所的な特徴がないこと」です。
出典:東京都行政書士会
行政書士の仕事をおおまかに分けると、以下の5つになります。
(1)官公署に提出する書類の作成、代理
主に、許認可等に関する書類の作成、代理業務を指します。
現在、日本の許認可の数は1万以上存在しているため、許認可を主な業務とする行政書士は多く存在します。行政書士は許認可のほとんどに携わることができるうえ、行政書士だけに許される「独占業務」も数多く持っています。
しかし、許認可申請のなかには弁護士法、司法書士法、税理士法、社会保険労務士法、弁理士法、海事代理士法、土地家屋調査士法などで制限されているものもあり、行政書士はこれらについては業務をおこなうことはできません。
(2)権利義務に関する書類の作成、代理
「権利義務に関する書類」は、どんな業務かイメージしやすいのではないでしょうか。
これは権利や義務の発生、存続、変更、消滅についての書類作成業務を指します。具体的には契約書や協議書、念書、示談書作成などです。
その他には、遺産分割協議書、各種契約書(贈与、売買、交換、消費貸借、使用貸借、賃貸借、雇傭、請負、委任、寄託、組合、終身定期金、和解)、内容証明、告訴状、告発状、嘆願書、請願書、陳情書、上申書、始末書、定款なども含まれます。
(3)事実証明に関する書類の作成、代理
「事実証明に関する書類」とは、自ら社会的に証明を要する事項について、証明するための文書のことです。主なものでは、各種図面類(位置図、案内図、現況測量図など)、各種議事録、会計帳簿、申述書などがあります。
前述の通り、これらには、行政書士だけでなく他士業者も作成できる書類があります。例を挙げれば「非紛争的契約書」は、行政書士と弁護士のいずれも作成できます。また「外国人の帰化許可申請書」は、行政書士と司法書士のいずれも作成可能です。
(4)作成した書類を官公署に提出する手続きや聴聞手続き・弁明手続きの代理
行政手続法第13条によると、行政庁が不利益処分をする場合、意見陳述の手続きを執らなければなりません。意見陳述手続きには不利益処分の重さに応じて、2つの手続きが用意されています。それが「聴聞」と「弁明」です。一般的には重い不利益処分の場合は「聴聞」をおこない、軽い不利益処分の場合は「弁明」の手続きが執られます。
行政手続法13条1項1号イ~ニによると、聴聞の機会は
①、許認可を取り消す処分をしようとするとき
②、資格や地位をはく奪する不利益処分をするとき
③、法人の役員の解任や会員の除名を命ずる処分をするとき
④、他、行政庁が相当と認めるとき
に付与されると規定されています。それ以外の場合は「弁明」の機会を付与することなります。
(5)書類作成について相談に応じること
行政書士の最後の仕事は、相談業務です。相談業務は多くの場合、代理業務、書類作成業務とセットでおこなわれます。行政書士への問い合わせを「書類作成・代理・相談」で分類すると下表のようになります。
株式会社を作りたいので手続き書類を作って欲しい | 書類作成業務 |
株式会社を作りたいので手続きを代理でおこなって欲しい | 書類作成業務
代理業務 |
株式会社を作りたいがどうしたらよいか? | 相談業務 |
株式会社を作りたいがどうしたらよいか?
その内容をやって欲しい |
相談業務
書類作成業務 |
お分かりのように、相談業務を請けた後に、続けて書類作成業務や代理業務を依頼されるケースが多いのです。官公署に提出する書類は素人にはなかなか作成できないものがほとんどなので、クライアントは行政書士に「相談」したら、続く必要業務を依頼するようになります。
(6)一定の行政に対する不服申し立てを代理
不服申し立てはすべての行政書士が担当できる業務ではありません。「特定行政書士」という、研修過程を終了した行政書士が、新たに担当できるようになりました。不服申し立ては2014年に行政書士法が改正されたことにより、行政書士の業務に追加されたのです。
それまでは不服申し立てを依頼者に変わっておこなえるのは、弁護士だけでした。しかし法改正をもって特定行政書士も、一定の行政に対する不服申し立てを依頼者に代理することができるようになりました。
東京都行政書士会によると、行政書士が取り扱うその他の業務として近年増えているのは、中小企業支援、成年後見、ADR(裁判外紛争解決)といった新分野への取組みです。
この中からADR(裁判外紛争解決)について、まず説明しましょう。
ADR(裁判外紛争解決手続き)とは、「訴訟手続きによらず民事上の紛争を解決しようとする紛争の当事者のため、公正な第三者が関与して、その解決を図る手続き」とされており、仲裁手続き、調停手続きその他の手続がこれにあたります。行政書士会が開設するADRセンターにおいておこなう手続きは、調停手続きです。
出典:日本行政書士会連合会
ADR(裁判外紛争解決)のなかでも、行政書士が主に取り扱う分野は次の通りです。
・外国人の職場環境などに関する紛争
・自転車事故に関する紛争
・愛護動物に関する紛争
・敷金返還などに関する紛争
しかし、地域によっては、
・外国人の学校教育環境、労働職場環境などに関する紛争
・外国人を一方の当事者とする騒音、ゴミ処理その他の日常生活に関する紛争
といったような分野も取り扱っており、地域性や世相を反映しているといえます。
3 その他の行政書士の仕事とは?
行政書士の主な仕事には、専門性を駆使した書類作成やこれまで紹介したものの他にも、まだまだ取扱える業務が多くあります。
(1)国際業務
行政書士の仕事には外国人の在留資格手続きや、帰化サポートがあることをご存知でしたか?「在留資格」とは、下表にまとめた外国人の3つの状態を指します。「出入国管理及び難民認定法」(以下入管法という)によると、日本に上陸または在留する外国人は、この在留資格のいずれかに該当している必要があります。また在留資格は、下表の通り、できる仕事によって大きく3つに分けられます。
在留資格 | できる仕事 |
永住者
日本人の配偶者など 永住者の配偶者など 定住者 |
どのような仕事にも就業可能。どんな仕事内容で雇っても問題なし。 |
外交/公用/教授/芸術/宗教/報道
投資・経営/法律・会計業務/医療/研究/教育/技術 人文知識・国際業務 企業内転勤/興行/技能 |
在留資格の範囲内の仕事しかできず、仕事内容が限定される。 |
文化活動
短期滞在 留学 就学 研修 家族滞在 特定活動 |
原則として仕事をすることができない。ただし「資格外活動許可」を持っていればアルバイトは可能。
※資格外活動許可書を持っていても、どんな仕事でもできるわけではない。 ①1週間28時間以内(長い休暇は除く。聴講生、研究生、就学生はより短時間) |
(2)行政書士は風俗営業の専門家?
行政書士は風俗営業について、開業の相談からサポートできます。まずは風俗営業許可申請をおこない営業許可を取得するところから、行政書士に依頼できます。
申請内容 | 適用される法律 | 申請先 | 注意点 |
風俗営業許可申請 | 風営適正化法 | 管轄する都道府県公安委員会 | ・添付書類が多い
・収集に手間がかかる ・複雑な図面の添付が必要の場合あり ・発行する役所はまちまち |
深夜酒類提供飲食店営業開始届 | 風俗営業法 | 所轄の警察署(公安委員会) | 無許可での風俗営業、不正の許可の受理は、罰則規定が適用される |
風俗営業許可申請から営業許可が出るまでの期間は、原則的に55日以内です(土日をのぞく)。しかし素人が慣れない業務をおこなうとそれ以上の日数がかかることもあります。
また風俗営業は許可制なので、無許可での営業は罰則規定が適用されてしまいます。このことからも、風俗営業のプロである行政書士に依頼した方がよいといえます。
風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律は、通称「風営適正化法」と呼ばれます。風営適正化法第49条には、無許可で風俗営業を営んだ者や不正に許可を受理した者は、2年以下の懲役もしくは、200万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する、と定められています。
(3)相続
行政書士は相続問題にも携わることができます。ご存知のように相続とは、亡くなった方(被相続人)の権利義務が特定の者(相続人)に承継されることをいいます。下表は相続のために発生する様々な手続を時系列であらわしたものです。
1 | 相続人が誰であるのかの確認手続 | 相続人の確定 |
2 | 相続財産の確認手続 | 相続財産調査 |
3 | 被相続人の生前の意思の確認手続 | 遺言書の有無の確認・遺言書検認手続 |
4 | 被相続人の所得税申告手続 | 準確定申告 |
5 | 被相続人の相続財産を相続人がどのように分けるかを確定する手続 | 遺産分割協議 |
6 | 各相続人が相続によって取得した相続財産の名義変更手続 | |
7 | 相続税の申告手続 |
「相続人が誰であるのかの確認手続」は民法の範囲に属し、被相続人の権利義務を承継する相続人の範囲は「法定相続人」として民法で定められています。しかし、遺言がある場合はその範囲が違ってきます。
(4)クーリングオフ
クーリングオフ制度は、もはや一般的に知られるところとなりました。一言でいえば「契約を無条件に解除できる制度」です。
実は、法律上は通信販売にはクーリングオフ制度はありません。大手の業者がサービスでつけているだけなのです。また法律上でのクーリングオフは、通信販売にはありません。
このような事実に鑑みても、消費者被害手続きは行政書士に依頼するのが得策です。消費者被害手続きにおいて、行政書士が力を発揮するのは「トラブルの予防」です。
特定商取引法の改正によって、クーリングオフ妨害に関しての事項が新設されたため、行政書士が解約手続きをおこないやすくなりました。消費者分野においては、「消費者被害救済業務」を主な業務としておこなっている行政書士を探して依頼しましょう。
4 他の士業と目指す「ワンストップサービス」とは
行政書士の仕事はそもそも幅広いのですが、近年はより顧客獲得の幅を広げることのできるやり方が取られるようになりました。それが「ワンストップサービス」です。
(1)「ワンストップサービス」とは
「ワンストップサービス」とは、複数の士業にまたがる要件を、一か所で完結できるサービスのことです。各々の士業を訪ねなくてよいワンストップサービスは、クランアントにとって労力的にも有り難いサービスです。共同事務所を設立して競争力を高める動きも活発です。
東京都行政書士会も、ワンストップサービスの動きについて触れています。
また、例えば相続のための手続きを考えてみると、一つの士業だけでは手続きが完結しないことがよくあります。相続人の調査や遺産分割協議書の作成は行政書士の仕事ですが、不動産の所有権移転登記が必要になるとそれは司法書士の独占業務ですし、税金の申告で税理士に頼む必要があるかもしれません。相続争いが起きてしまったら、弁護士にお願いしなくてはなりません。
このような場合に、依頼者が複数の士業事務所に足を運ばなくて済むよう、現在、各士業者は、複数の士業者でネットワークを組み、「ワンストップサービス」の試みを始めています。
出典:東京都行政書士会
(2)ワンストップサービスの具体例
他の士業との連携とは、具体的にはどのような状況でおこなわれるのでしょうか。ワンストップサービスの具体例として、「会社設立」「相続」「事業継承」のケースを挙げてみましょう。これらのケースで生じる業務は、それぞれどの士業に属するのかを作表します。
①会社設立
会社設立 | 社会保険手続き | 社会保険労務士 |
変更登記 | 司法書士 | |
労働問題 | 社会保険労務士 | |
債権回収 | 弁護士 | |
会計、決算業務 | 税理士 | |
融資 | ||
助成金申請 | 社会保険労務士 |
トリプルグッド税理士法人のホームページをもとに作表
会社設立時においては「労務のプロ」である社会保険労務士が取扱う業務が多いことが分かります。株式会社を設立するとき、会社の名称や目的、資本金の額などを決定してから「定款」を作成しますが、この「定款」は行政書士の業務です。その他にも行政書士が担当できる業務はさまざまあります。
・定款の作成
・発起人の議事録作成
・役員の就任承諾書作成
・資本金の払い込み証明書作成
会社設立の最後のステップ「登記申請書作成」は、行政書士ではできません。本来、司法書士か弁護士に限られている仕事ですので、行政書士は司法書士と連携して業務をすすめていくとスムーズです。
②相続
相続 | 相続人調査 | 行政書士、司法書士 |
財産調査 | 税理士 | |
遺産分割協議書作成 | 行政書士、司法書士 | |
不動産相続登記 | 司法書士 | |
相続税申告 | 税理士 |
トリプルグッド税理士法人のホームページをもとに作表
相続には遺言書作成や相続手続きのための調査・書類作成など、様々な書類の作成が必要になります。それらの仕事は行政書士も取扱うことができます。また、財産調査や相続税の申告は税理士に、不動産相続登記は司法書士に依頼すべき内容となります。
③事業継承
事業継承 | 事業継承計画策定 | 税理士 |
役員変更登記 | 司法書士 | |
株式移転 | 税理士(司法書士) | |
贈与税申告 | 税理士 | |
社会保険関係手続き | 社会保険労務士 | |
行政許認可変更手続き | 行政書士 |
トリプルグッド税理士法人のホームページをもとに作表
事業継承では「登記のプロ」である司法書士の活躍の場が多いです。また、授業継承に係る業務には、「会社のプロ」である社会保険労務士の独占業務も見られます。行政書士は許認可申請(変更)が主な業務なので、「行政許認可変更手続き」に携わります。
複数の士業が連携しておこなう「ワンストップサービス」が、如何に効率的かお分かりいただけたでしょう。そもそも士業間の連携は、クライアント目線に立てば必然と言える内容です。
5 サマリー
近年の「ワンストップサービス」の試みにより、行政書士の仕事獲得のチャンスはより増大しています。もともと幅広い業務をおこなう行政書士は、これからも活躍の場を広げていくでしょう。
6 まとめ
- 行政書士の仕事は主に書類作成業務だが、その他にも多くの業務を取扱うことができる
- 作成できる書類の数は1万以上である
- 行政書士の祖先は、公事宿で訴訟に必要な各書類を作成した「代書人」である
- 行政書士の業務の場合はとても幅が広いため「あれもこれも」と揶揄されるが、近年特定行政書士になれば不服申し立ても代理できるようになった
- 外国人の在留資格手続き、風俗営業許可申請、相続の手続き、クーリングオフといった業務もおこなう
- 近年「ワンストップサービス」といって複数の士業の連携の動きが活発になっている