行政書士は元々は「代書人」と呼ばれていたことで知られる、10,000種類以上を担当できる書類作成の専門家です。ですので、行政書士になら大事な契約書の作成もお任せできるはず。契約書は、作成を誤ると後々予期せぬ問題が発生することもあるため、できたら専門家に依頼したいものです。
この記事では行政書士が作成できる契約書の種類や、行政書士に依頼するメリットについて、簡潔にまとめていきます!
1 行政書士と契約書作成
行政書士が「書類のプロ」と呼ばれることには法的な根拠があります。法律系の士業は、独占業務を持つことを法的に許されていますが、行政書士の場合は以下の法律がその根拠となっています。
⑴ 行政書士の独占業務を規定する「行政書士法」
行政書士が契約書などの作成代行を請け負うことができる法的根拠は、行政書士法に確認できます。
“行政書士法第1条の2第1項
行政書士は、他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する書類(その作成に代えて電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)を作成する場合における当該電磁的記録を含む。以下この条及び次条において同じ。)その他権利義務又は事実証明に関する書類(実地調査に基づく図面類を含む。)を作成することを業とする。
第1条の3第1項
行政書士は、前条に規定する業務のほか、他人の依頼を受け報酬を得て、次に掲げる事務を業とすることができる。ただし、他の法律においてその業務を行うことが制限されている事項については、この限りでない。
一~三 (省略)
四 前条の規定により行政書士が作成することができる書類の作成について相談に応ずること。”
引用元:e-gov 行政書士法
⑵ 契約書は「権利義務に関する書類」に該当
同法により、行政書士の独占業務は以下の3つと規定されています。契約書作成は、そのうちの2「権利義務に関する書類」の作成とその代理、相談業務に該当します。
1 | 「官公署(各省庁、都道府県庁、市・区役所、町・村役場、警察署等)に提出する書類」の作成とその代理、相談業務 |
2 | 「権利義務に関する書類」の作成とその代理、相談業務 |
3 | 「事実証明に関する書類」の作成とその代理、相談業務 |
⑶ 具体的にはどんな書類?
「権利義務に関する書類」とは、具体的にはどのような書類を指すのでしょうか。詳しい説明を、東京都行政書士会ホームページから引用します。
”「権利義務に関する書類」とは、契約書や協議書、念書、示談書など、権利・義務の発生、存続、変更、消滅に係る書類をいいます。
主なものとしては、遺産分割協議書、各種契約書(贈与、売買、交換、消費貸借、使用貸借、賃貸借、雇傭、請負、委任、寄託、組合、終身定期金、和解)、念書、示談書、協議書、内容証明、告訴状、告発状、嘆願書、請願書、陳情書、上申書、始末書、定款等があります。”
後述しますが、契約書という書面の作成には、後のトラブル発生の予防という意味もあります。例えば、土地や建物等の賃貸借、金銭の消費賃借等をおこなう場合に、その内容を書面に残しておくことで後々の紛争を防ぐことができます。また行政書士は、発生してしまったトラブルについて協議が整っている場合には、「合意書」「示談書」等も作成します。
2 行政書士に契約書を依頼するメリットとは?
行政書士に契約書作成を依頼することのメリットとは何でしょうか。
⑴ 法令を遵守した契約書が作成できる
契約書の作成は、業種に応じてそれぞれ規定された法令に則りおこなう必要があります。業種によって遵守すべき法令が違うことからも、行政書士に作成を依頼することをおすすめします。
⑵ トラブル発生を未然に予防
行政書士の業務にはトラブルの発生を未然に防ぐ「予防法務」も含まれ、年々その需要は高まっています。
予防法務の観点から契約書を作成すれば、トラブルの発生を事前に想定し、万が一起きた場合の対処法も記載できます。金銭の貸し借りなどでは、特にトラブルが起こりやすいものです。行政書士に依頼すれば、契約書にトラブルが起きないような条項を加えたりしてくれます。
⑶ 自社にとって有利な契約内容に
行政書士に契約書作成を依頼すると、法的観点からのみならず、ビジネス的な視点からも作成してもらえます。契約書は法的視点のみに偏らず、自社に利益をもたらす内容になっていなければなりません。
そもそも、契約書にはビジネスオーナーのビジネスモデルと、ビジネスパートナーとの約束事が記載されるべきですが、”法的に云々”という観点に偏重しすぎて、ビジネス的視点を忘れてしまうことがあります。この辺りの見極めは難しいので、作成しようとしている契約分野に詳しい行政書士を探し、依頼するのが一番です。
3 契約書作成の流れ
行政書士に契約書作成を依頼すると、どのような流れで実務が進んでいくのでしょうか。作業のフローを紹介します。
⑴ ヒアリング
まずは、おおよそ以下のような内容について、契約内容のヒアリングがおこなわれます。
- 契約書の内容
- 契約書の作成目的
- 契約書締結の相手
- 契約書締結のフェーズ
⑵ 関連法令の調査
次に行政書士は、当該契約書に係る関連法令の有無について調査をおこないます。行政書士は事前におこなったヒアリングを基にして、これまでの経験から、関連する法令等は何かを掴みます。ベテランになると、ヒアリングの最中から「これは〇〇法が問題になる事案だな」とイメージできるといいます。詳しく分析をおこなうと、更に別の法令等が関わってくる場合もあります。
このことからも、行政書士を選ぶなら、依頼する分野についてノウハウを持った人を選ぶようにしましょう。
⑶ 契約書は当事者同士の事情や状況で変わる
昨今は、契約書のひな形をネット上で簡単に見つけることが出来ますが、現実には契約書作成はそんなに簡単なものではありません。ネット上にある契約書のなかには、いくつか誤りがあるものが少なからず見受けられます。また、そもそもその契約書が有効ではないというケースもあります。
契約書には、完璧なひな形は残念ながら存在しません。その理由は、契約書とは、あくまでも契約を締結する当事者同士で結ばれるものだからです。「最適な契約書」は当該当事者間の事情や状況等によって、当然変化するのです。
4 行政書士に契約書を依頼する場合の費用
費用については、依頼する契約書の種類によって異なります。契約書作成をはじめ、各種報酬については、近年は事務所によって自由に設定できるようになりました。日本行政書士会連合会の調査によると、契約書作成の料金設定は以下の結果となりました。
【契約書作成の報酬】
1万円未満 | 11.3% | 5~6万円 | 10.2% |
1~2万円 | 30.7% | 6~7万円 | 1.2% |
2~3万円 | 16.5% | 7~8万円 | 1.2% |
3~4万円 | 19.1% | 8万以上 | 5.9% |
4~5万円 | 3.8% |
日本行政書士会連合会 平成27年度報酬額統計調査の結果の資料を基に作表
一口に契約書といっても、種類によって作成費用が変わってきます。そのため、主にどのような契約書の作成を請け負っているかで、料金に差が生じているのでしょう。
5 サマリー
いまや、契約書の作成フォームはネットで簡単に探せます。しかし法律的にも、ビジネス的視点からも申し分のない契約書を作成するとなると、やはり「書類のプロ」行政書士に依頼する方が良さそうです。
6 まとめ
- 行政書士は行政書士法により、契約書等の作成代行を請け負うことができると規定される。
- 契約書作成は「権利義務に関する書類」の作成とその代理、相談業務に該当する。
- 契約書の種類には贈与、売買、交換、消費貸借、使用貸借、賃貸借、雇傭、請負、委任、寄託、組合、終身定期金、和解等がある。
- 行政書士は年々需要が高まっている「予防法務」の観点から、契約書を作成できる。
- 法的観点のみならずビジネス的な視点からも作成。
- 契約書作成に当たって先ずヒアリング、次に関連法令の調査をおこなう。
- 契約書には、完璧なひな形は存在しない。