行政書士試験に合格できたら、「次はどの資格を取ろうかな?」と思いますよね。これまでの頑張りを土台として、更にスキルアップしていきたいと思うのは、誰しも同じです。でも、どの資格を取れば、最もダブルライセンスの相乗効果が得られるのでしょうか?
この記事では、行政書士とのダブルライセンスを目指すあなたに、どの資格がおすすめなのか詳しく紹介していきます!
1 行政書士がダブルライセンスを持つ意義とは?
行政書士は「書類のプロ」と呼ばれる通り、10,000種類以上の書類作成を担当できます。こんなに広い業務範囲を持っているなら、ダブルライセンスの必要なんかないのでは?と思われます。しかし、行政書士がダブルライセンスを取得すると、次のようなメリットが享受できます。
(1) コンサルティング(書類作成について相談に応じる)の幅が広がる
将来台頭するAIの時代には、単純作業は簡単に取って代わられてしまうといわれていますが、これは行政書士の場合も同様です。しかしコンサルティングができるなら、高い専門性とコミュニケーション能力を必要とするため、AIによる代替を懸念しなくて良いのです。
行政書士業務と相性がいいダブルライセンス資格を取得できれば、コンサルティングも業務範囲に取り入れ提供できるようになります。
(2) ワンストップサービスを提供できる
「ワンストップサービス」とは、複数の士業が連携して一か所でより多くの業務を提供するサービスをいいます。例えば、以下のような組み合わせが可能になります。
・行政書士と宅建士のダブルライセンスで、不動産売買から必要書類の提出までの業務を一貫しておこなう。
・行政書士と社会保険労務士(社労士)のダブルライセンスで、会社設立から従業員の福利厚生や社会保険手続き、軌道に乗ったら労務管理や予防法務などを担当できる。
・行政書士と司法書士のダブルライセンスで、会社設立から登記、建設トラブル対応など、不動産業界に特化したサービスを提供できる。
このように、ダブルライセンスは良い相乗効果を生みます。ワンストップサービスが実現できれば、「この行政書士ならいろいろ頼める」と多くの企業から信頼してもらえるようになります。
しかし、親和性の高さやダブルライセンスの実現性も考慮しなければなりません。それでは、行政書士業務と相性の良く、ダブルライセンスにおすすめの資格とは何か、紹介していきましょう。
2 行政書士のダブルライセンスにおすすめの資格(法律系)は?
まずは、行政書士と同じ法律系の資格から紹介します。
⑴ 司法書士
主な業務 | ・不動産登記や法人登記(独占業務)
・遺言や成年後見 |
合格率 | 3~4% |
資格試験 | ・民法、商法・会社法・憲法が行政書士試験と重複する。
・登記関係科目の配点割合が高い。 ・司法書士試験には合格まで3年を要する人が多い。 |
行政書士と合わせると良い点 | ・会社設立や土地が絡んだ相続では、両者の専門は微妙に異なる。
・ダブルライセンスを取得することで一貫した会社設立業務、土地が絡む相続問題を担当できる。 |
司法書士は登記申請を独占業務とする、会社設立や不動産登記の専門家です。具体的な業務としては、法務局や裁判所・検察庁に提出する書類の作成や、登記手続き代行をおこないます。
「認定司法書士」という資格を取得すれば、簡易訴訟代理業務をおこなうことが許されます。当該資格を持つと、訴額140万円以下の民事訴訟を請け負うことができます。
しかし、司法書士試験は合格率3~4%と、超難関です。ダブルライセンスを実現するには、かなりの時間をかける必要があるでしょう。
⑵ 社会保険労務士
主な業務 | ・労働社会保険などの手続き
・就労規則などの作成 ・労務・人事問題の相談(コンサルティング) |
合格率 | 約10% |
資格試験 | 8つの法令を中心として10科目が出題される。 |
行政書士と合わせると良い点 | ・社労士は雇用保険問題、賃金・報酬の取り決めなどを専門とする。
・行政書士として会社設立に、社労士として人事労務サポートに携わることが可能になる。 ・許認可申請後は社会保険手続きや労務相談が付き物。 |
社労士は、社会保険の手続きなどを独占業務とする国家資格です。企業を顧客としているなら、仕事につながりやすいです。規模が大きな会社には、社労士と顧問契約を結ぶところが多くあります。
ダブルライセンスが実現できたら、社会保険の加入手続き、労働問題の解決や予防、就業規則の作成のアドバイスなどで、社労士資格を活かしていけます。
⑶ 弁理士
主な業務 | 知的財産の事務手続き(特許取得など) |
合格率 | 6~7% |
資格試験 | 行政書士試験に合格していると、弁理士試験で論文試験が免除される。 |
行政書士と合わせると良い点 | 特許やデザイン、商標登録などの申請業務を請け負うことができる。 |
弁理士は、特許申請など産業分野における業務をおこなう国家資格です。弁理士資格保有者は、無試験で行政書士登録をおこなうことができます。
しかし、特筆すべきは弁理士試験の難しさです。ゼロから弁理士とのダブルライセンスに挑戦するなら、かなり時間がかかると思われます。
⑷ 中小企業診断士
主な業務 | 企業の経営・財務の状況を分析する専門家 |
合格率 | ・1次試験・2次試験の合格率はともに20%前後
・合算した全体の合格率は、4%前後 |
資格試験 | 1次試験(マークシート)8月初旬
2次試験(論述試験) 10月初旬 2次試験(口述試験) 12月初旬 ※合格ライン:満点700点中、60%以上を得点すること。 得点率40%未満の科目が一つもがないこと。 ※行政書士試験「会社法」がまるまる被り、一般教養や文章理解は中小企業診断士試験に役立つ。 |
行政書士と合わせると良い点 | 中小企業の経営・財務の状況を分析ができるので、コンサルティング業務の強みにできる。 |
中小企業診断士も、行政書士と相性の良い資格です。行政書士は許認可申請や会社設立といった、まさに起業の瞬間に立ち会うことができる国家資格ですが、中小企業診断士の資格があればその後の企業サポートも請け負うことができます。
3 行政書士のダブルライセンスにおすすめの資格(建築・不動産系)は?
許認可申請、会社設立、相続・遺言を取り扱う行政書士にとって、不動産関係の資格にも業務の親和性があります。
⑴ 宅地建物取引士
主な業務 | (独占業務)
・不動産契約などに関する重要事項説明 ・捺印・記名を担う ・不動産売買の重要事項の説明 |
合格率 | 15~17% |
資格試験 | ・民法等(14問)
・宅建業法(20問) ・法令上の制限(8問) ・その他関連知識(8問) ※民法が行政書士試験と重複。 |
行政書士と合わせると良い点 | ・行政書士と宅建士のダブルライセンスで不動産手続きに特化できる。
・行政書士業務の場所的要件の調査(用途地域の確認、都市計画法・農地法・建築基準法への抵触がないか等)では宅地建物取引士の知識が役立つ。 ・相続業務では不動産取引に関する知識が役立つ。 |
宅地建物取引士は、土地・建物といった不動産取引の専門家です。この資格も行政書士業務と親和性が高く、行政書士と不動産業を兼業する事務所もあるほどです。
ダブルライセンスが実現すると、相続や遺産相続業務で自宅や土地の売却が発生した際に、宅建士の資格をアピールすれば顧客に安心感を与えることができます。また許認可申請では、不動産に関する知識があると場所的要件の調査で役立ちます。
⑵ 土地家屋調査士
主な業務 | ・土地や建物の利用状況の調査
・図面の作成 ・不動産の「表示に関する登記」の申請を代理 |
合格率 | 8~9% |
資格試験 | 10月:筆記試験(択一式と記述式)
※択一式の法令科目は民法、不動産登記法、土地家屋調査士法 翌年1月:口述試験 ・行政書士試験と代理権や不動産物件の対抗要件・相続分野で被る。 ・民法からの出題が増えると予想されているため、取り組みやすい。 |
行政書士と合わせると良い点 | ダブルライセンスによるワンストップサービスの例
①農地転用 農地を宅地や駐車場などに転用したい場合は、許可申請となる。その際土地家屋調査士が、土地を測量して分筆したり、地目(土地の利用目的)を農地以外に変更する業務をおこなう。 ②開発許可 開発許可では土地家屋調査士が、土地の区画を分筆・合筆によって整える。 ③相続 相続に必ず関係してくる不動産は、土地の分筆や売却の検討のために測量が必要になれば、土地家屋調査士がおこなう。 ④測量や図面の作成 例えば行政書士が風俗営業許可申請をおこなう場合、土地家屋調査士が店舗の測量や図面の作成をおこなうことができる。 |
行政書士と土地家屋調査士は、相性抜群の資格です。このダブルライセンスが取得できれば、受注できる仕事の幅はぐっと広がります。実際、土地家屋調査士には行政書士資格を取得している人が多くいます。このダブルライセンスで享受できるメリットの背景について、更に説明します。
① 「表題部」は土地家屋調査士が担当
不動産登記といえば、司法書士の専売特許のイメージが強いですよね。しかし、実は不動産登記とは「表示に関する登記(表題部)」と、「権利に関する登記(権利部)」に分業されているのです。
表示に関する登記(表題部) | 不動産の物理的な状況を示す | 土地家屋調査士が担当 |
権利に関する登記(権利部) | 権利関係を示す | 司法書士が担当 |
上表の通り、権利に関する登記(権利部)を司法書士が担当し、表示に関する登記(表題部)を土地家屋調査士が担当しています。この二者が、不動産登記の両輪を担っているのです。
② 表示に関する登記とは?
土地家屋調査士が担当する「表示に関する登記」とは、土地・建物の物理的状況(所在、広さ、用途、構造)を登記簿上の「表題部」に公示することです。登記記録の一番上欄に載っている部分です。このように、行政書士と土地家屋調査士の仕事はお互いに関わることが多く、実に相性の良い資格なのです。
4 行政書士のダブルライセンスにおすすめの資格(税務・経理系)は?
会社の企業に携わった行政書士が、その後の税務や財務管理も請け負うことができれば、更に幅広いサービスを提供できます。そのための資格を紹介します。
⑴ 税理士
主な業務 | (独占業務)税務、税務書類の作成。 |
合格率 | ・各科目の合格率:9~18%ほど |
資格試験 | ・税理士は、行政書士資格も取得できる。
・全科目に合格し資格取得するまで、5~10年かかることも少なくない。 |
行政書士と合わせると良い点 | ダブルライセンスを活かし、開業や新規事業立ち上げに携わった後、法人税等の税務案件を請け負うことができる。 |
税理士は、税務を独占業務とする難関国家資格です。税理士試験の科目別合格率ではその難易度は測れません。全科目に合格して資格取得するまで、5~10年かかる人も少なくないほどの難関資格なのです。
税理士資格を取得してダブルライセンスが実現できれば、非常に高い競争力を持つことができます。税理士は行政書士登録が無試験でおこなえますが、行政書士が税理士資格を取得するのは、そう簡単では高くありません。
⑵ 簿記
主な業務 | ・経理などの部署で活躍
・財務管理に必要な財務諸表の読み取りと、作成をおこなう |
合格率 | 3級約45%、2級約25%、1級約10% |
資格試験 | 簿記3級:一月あれば十分に合格できる。
簿記2級:会社の簿記を学べる。 簿記1級: ・商業簿記、工業簿記、会計学、原価計算などは出題される。 ・公認会計士や税理士と対等に仕事ができるレベル。 ・100点満点中70点得点で合格だが、10点以上取れない科目が一つでもあると足きりに合う。 |
行政書士と合わせると良い点 | ・財務諸表の作成・読み取りができるためコンサルティングができる。
(株主総会議事録など企業の申請書類、届出書類上)例えば、建設業 ・許可申請業務で建設業法令に沿った財務諸表が作成できる。 (簿記の知識で決算書を建設業法令に沿った財務諸表に変換できる) ・建設業許可申請では、建設業経理士検定試験2級を取得すると役立つ。 |
簿記は、行政書士の実務で大変役立つ資格です。行政書士が担当する建設業許可申請業務では、建設業法令に沿った「財務諸表」を作成します。この時、簿記の知識が役立ちます。挑戦するなら、簿記2級から始めてみましょう。
⑶ ファイナンシャルプランナー
主な業務 | ライフプランを専門とするコンサルタント資格
・個人のライフプラン(税金、投資、相続、年金など) ・事業主の税金対策など |
合格率 | FP3級:70%程度
FP2級:25~30%程度 FP1級:学科試験の難易度が高い |
資格試験 | 行政書士試験で出題される民法の知識を活かせる。 |
行政書士と合わせると良い点 | 行政書士業務と合わせ、以下の業務を請け負うことができます。
・相続や事業継承など個人や事業主のライフプランの相談・手続き ・質の高いアドバイス |
ファイナンシャルプランナーは、行政書士と相性が良い資格です。当該資格には複数の種類があり、国家資格であるFP(ファイナンシャル・プランニング)技能士の他に、AFP・CFPなどの民間資格があります。
国家試験 | FP技能検定試験 | 金融財政事情研究会 |
日本FP協会 | ||
民間資格 | AFP | 日本FP協会 |
CFP(AFPの上位資格) |
これらの難易度を比較すると、以下のようになります。
FP技能士1級=CFP > FP技能士2級=AFP > FP技能士3級 |
どの資格にも法律を根拠とした独占業務は規定されていません。なお、国家資格であるFP技能士は、登録費や会費などの諸経費がお金がかからないのでおすすめです。
5 サマリー
行政書士とのダブルライセンスにふさわしい資格について、紹介してまいりました。自らの資質やキャリアと併せて、検討してみてください。
6 まとめ
・行政書士がダブルライセンスを取得すると、業務の幅が広がる。
・コンサルティング(書類作成の相談)の幅が広がる。
・他資格と連携したワンストップサービスを提供できる。
・行政書士のダブルライセンスにおすすめの法律系資格は、司法書士、社労士、弁理士、中小企業診断士である。
・行政書士のダブルライセンスにおすすめの建築・不動産系資格は、宅地建物取引士、土地家屋調査士である。
・行政書士のダブルライセンスにおすすめの税務・経理系資格は、税理士、簿記、ファイナンシャルプランナーである。