免除制度を活用して「書類のプロ」行政書士になるには?どんな試験をパスしたらいいの?

行政書士

国家資格の中には、試験科目や試験そのものを、免除できる制度を設けているものがあります。もし可能なら、少しでも負担を減らして試験を受けたいですよね。

「身近な町の法律家」として人気の国家資格・行政書士には、免除制度があるのでしょうか。行政書士試験ではどんな人が科目・試験免除を受けることができるのか、この記事を読めばよく分かります。また、行政書士登録すれば優遇される、他の資格試験についてもお伝えします。

1 行政書士試験には免除制度はある?

行政書士試験は、行政法と民法をはじめとする「法令等科目」5科目と、「一般知識等科目」から出題されます。法令等科目では行政法と民法の割合が大きく、これらの科目の出来栄えが特に大きく合否に関わります。一般知識等科目も対策がなかなか難しいため、設けられた合格基準点に到達できずに、不合格になってしまう受験生も多くいます。

このような難関試験・行政書士試験には、免除制度は設けられているのでしょうか。

⑴ 科目免除ではなく、試験免除の制度がある

結論からいえば、行政書士試験には免除制度があります。しかし、実務経験や保有資格によって免除科目が指定されるのではなく、試験そのものの受験が免除される制度です。

 行政書士法第2条には、行政書士になることのできる資格(または実務経験)の種類が規定されています。下表は、行政書士法第2条に規定された、行政書士試験を免除される資格(または実務経験)をまとめたものです。

1 行政書士試験に合格した者
2 弁護士となる資格を有する者
3 弁理士となる資格を有する者
4 公認会計士となる資格を有する者
5 税理士となる資格を有する者
6 国又は地方公共団体の公務員として行政事務を担当した期間及び特定独立行政法人(独立行政法人通則法 (平成十一年法律第百三号)第二条第二項 に規定する特定独立行政法人をいう。以下同じ。)、特定地方独立行政法人(地方独立行政法人法 (平成十五年法律第百十八号)第二条第二項 に規定する特定地方独立行政法人をいう。以下同じ。)又は日本郵政公社の役員又は職員として行政事務に相当する事務を担当した期間が通算して二十年以上(学校教育法 (昭和二十二年法律第二十六号)による高等学校を卒業した者その他同法第五十六条 に規定する者にあつては十七年以上)になる者

出典:特許庁 

⑵ 公務員には特認制度がある

上表の六(行政書士法第2条6号)は、公務員の「特認制度」と呼ばれます。条文のままでは、なかなか意味が理解しにくいため、噛み砕いて言い換えましょう。六は、以下のような意味になります。

国家公務員、または地方公務員を17年間(中卒の場合は20年間)勤続した者

 

つまり、公務員として17年間か20年間勤続すれば、行政書士試験を免除され行政書士になれる制度のことを、公務員の「特認制度」といいます。

行政書士と公務員は、行政手続きに携わるなど、業務に親和性があります。また、公務員試験をパスしていれば、行政書士試験には合格できるといえます。これらが公務員が行政書士試験を免除されている理由です。

試験なしで行政書士資格を手にできるのですから、該当する公務員はこの制度を使わない手はないでしょう。

 

⑶ 公務員はいつ特認制度を活用すべき?

「特認制度」に与かる公務員は、将来的に行政書士として独立開業する道をのぞむことができます。定年退職を待たずに転職をするという選択肢もありますが、実行に移す公務員は少ないようです。その理由は、次の2つの留意すべき点があるからです。

① 特認制度を利用できるのは40代以降

先述のように、公務員の特認制度を活用するためには、少なくとも17年は公務員として勤続しなければなりません。17年勤続すると、制度を活用できるのは最短でも40代以降になります。

公務員として勤続し40代以降にもなれば、お分かりのように、責任があるポジションに就き、待遇もかなり改善されていることは容易に想像できます。

② 公務員の充実した退職金制度

また、公務員の場合、退職金制度が充実しています。このことも、公務員を退職した後に行政書士登録する人が多い理由のひとつです。

下表は、勤続20年以上で定年退職した会社員と、勤続25年以上の公務員の退職金の平均額を、比較したものです。

 

大学・大学院卒(管理・事務・技術職) 1983万円
高校卒(管理・事務・技術職) 1618万円
高校卒 1159万円
国家公務員(常勤職員) 2068万円
地方公務員(都道府県・勤続25年以上) 2240万円

平成30年度「就労条件総合調査」「国家公務員退職手当実態調査」「地方公務員給与実態調査」資料を基に作表

 

公務員とひとくちに言っても、退職金の金額には職種により開きがあります。とはいうものの、公務員の退職金の平均額は2000万円を超えるため、一般的に会社員よりも高めと考えられます。

ちなみに、公務員は在職中の兼業は禁止されているため、週末行政書士になることはできません。これらの理由から、退職後に特認制度を活用する公務員が多いのだと考えられます。

2 行政書士資格があれば免除される試験はある?

最後に、行政書士試験を免除される資格ではなく、行政書士資格を持っていると免除される資格試験についてまとめていきます。

⑴ 社会保険労務士(社労士)の受験資格が得られる

まず該当するのは、社労士試験です。しかしこの場合は試験免除や科目免除ではなく、「受験資格」が得られるだけです。

しかしこのことは、学歴では社労士試験の受験資格を得られない高卒の受験者にとっては、大変大きな意味を持ちます。行政書士資格を取得すれば、高卒でも社労士試験の受験資格が得られるからです。また、行政書士試験は学歴や経験不問で受験できます。

下表は、社労士試験の受験資格として認められる資格をまとめたものです。社労士試験の受験資格には、他に学歴と実務経験があります。

 

コード 受験資格 提出書類(受験資格証明書)
06 社会保険労務士試験以外の国家試験のうち厚生労働大臣が認めた国家試験に合格した者

厚生労働大臣が認めた国家試験はこちら

原則として、次のいずれかとします。

(1)合格証明書又はその写し

(2)合格証書の写し

07 司法試験予備試験、旧法の規程による司法試験の第一次試験、旧司法試験の第一次試験又は高等試験予備試験に合格した者
10 行政書士試験に合格した者 次のいずれかとします。

(1)合格証明書又はその写し

(2)合格証書若しくは証票又は会員証の写し

出典:社会保険労務士試験オフィシャルサイト

⑵ 弁理士試験の論文試験が免除される

次に行政書士試験の合格者は、弁理士試験の一部について免除されます。行政書士登録が必要ですが、この場合は弁理士試験の論文試験(選択科目)が免除されます。

 

弁理士試験選択科目・

論文試験

が免除される者

弁理士法施行規則第3条に掲げるいずれかの選択問題に関する分野の研究により学校教育法(昭和22年法律第26号)第68条の2に規定する修士又は博士の学位を有する者
技術士であって、規則第3上の表の第1号から第6号までに掲げるいずれかの科目について弁理士試験の筆記試験に合格した者と同等以上の学識を有すると経済産業大臣が認める者
1級建築士
第1種電気主任技術者免状又は第2種電気主任技術者免状の交付を受けている者
情報処理技術者試験合格証書の交付を受けている者であって、規則第3条第4号に掲げる科目について弁理士試験の筆記試験に合格した者と同等以上の学識を有すると経済産業大臣が認める者
電気通信主任技術者資格者証の交付を受けている者
薬剤師
規則第3条第7号に掲げる科目に対応するいずれかの選択問題について司法試験第2次試験を受け当該試験に合格した者
司法書士
行政書士

出典:特許庁 

 

弁理士は知的財産権のプロフェッショナルです。行政書士はそのような資格取得にアドバンテージかあることを、覚えておきましょう。

3 サマリー

行政書士試験を受ける場合と、行政書士が他の試験を受ける場合における、様々な免除制度を紹介してまいりました。この記事が、各種免除制度に該当する方々が、そのアドバンテージを活かして資格取得に挑戦するきっかけとなれば幸いです。

4 まとめ

  • 行政書士試験の免除制度は科目が免除されるのではなく、試験そのものが免除される。
  • 試験免除で行政書士になれるのは弁護士、弁理士、公認会計士、税理士資格保有者と特定の公務員である。
  • 国家公務員又は地方公務員を17年間(中卒は20年間)勤続した公務員がそれにあたる。
  • 公務員が特認制度を利用できるのは40代以降であり、公務員の退職金制度が充実しているため、退職後に特認制度を活用する人が多い。
  • 行政書士は社労士試験の受験資格であり、弁理士試験の論文試験(選択科目)が免除される。
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