行政書士の試験科目より 〜基礎法学

行政書士

行政書士試験では、「基礎法学」という科目からの出題が択一式で2問あります。
これだけさんざん法律のことを細かく見ておいて「基礎」とはどういうことか、という感じがありますが、この科目は今まで見てきた「法」がどのようなものか、何のためにあるのかといった理念をあらためて理解するということが達成目標です。

日本の法全体を通して、分類や解釈、その他法律用語について幅広い出題がされています。
基本的には一般的な常識があり、出題の基礎を押さえておけば、他の科目の学習もあって解くことができる問題といえるでしょう。
範囲はあまりにも膨大、というか無限ですから、主要科目で得た知識を確実にしたり出題ポイントをチェックしたりといった効率的な勉強が必要です。

1 法の意義

日常的なものから、場合によっては一生使わないようなものまで、社会生活において必要となる何かしらのルールをまとめて「社会規範」といいます。

「法」も社会規範の1つで、他に道徳や宗教、習俗や礼儀といったものも社会規範に含まれますが、「法」と「道徳」は混同しやすいので違いをはっきりさせておきましょう。

どちらも社会規範という、人の行為の規範であることは同じですが、法が「社会秩序の維持」を目的とし、外部的行為を規制する他律規範的な、正義を理念とするものであるのに対し、道徳はあくまで内心を規律する自律規範的なものであり、「正しい人格形成」を目的として善の理念に基づくものです。

とはいっても、法が社会のために存在している以上、法に触れるような行為は社会道徳に反するものと考えられるため、法と道徳は重なるものであるということもできます。しかし、単に人に嫌がらせをするなどという社会道徳違反をしても刑罰を受けることはなく、ただ本人が周囲から非難されるなどにすぎないため、やはり法と道徳は異なるものなのです。

では、道徳とは別に、法が存在しているのはなぜなのでしょうか。

これは「社会秩序の維持」「法的安定の実現」「正義の実現」が目的とされているのですが、早い話「道徳」などという曖昧かつ基準の無いものに一定のルールを定めることにより、安全・秩序を守っているということです。
みんながみんな、社会道徳を意識して自分を律せるならば当然それでよく、法もいらないのですが、なかなかそうもいかないため、道徳に違反したレベルが一定を超えたら「法違反」としてペナルティを加えるということにしているのです。
このペナルティには「民事上の責任」「刑事上の責任」「行政上の責任」があります。

2 法の分類

法は、一定の基準によって分類することが可能です。

(1)不文法と成文法

まずは「不文法」か「成文法」か。不文法は文字通り、文章として示していない規範です。

不文法

不文法の1つ「慣習法」は、慣習が社会全体に支持されて成立したものです(いわゆる「みんながやってるし、今までもそうだったから今回もそうしよう」というものです)。

実は、かつて「日の丸が国旗」「君が代が国歌」という規定はどこにもなく、それらは慣習法として成立していました。今ではそれを示す法律ができましたし、罪刑法定主義の基本原則も成立したため、慣習刑法も認められなくなりました。

2つめの不文法は「判例法」といい、これは過去あった裁判の判決を拠り所にして新たな判決をするというものです。判例には影響力がありますが、法律ではっきり決まっているわけではないので、実際どういう判決をするかは最終的に個々の裁判官に委ねられています。

3つめは「条理」、つまりは社会の基本理念や社会通念と呼ばれるものです。
裁判の判決をしたいのに成文法も慣習法も判例法も無い! という場合に「社会通念にしたがい」と、基準にすることができます。

成文法

不文法に対して、明文化した法が成文法です。
憲法や法律、命令・規則・条令がその代表で、文書によって表されているため明確かつ安定というメリットがあります。
ただし、時代の変化に合わせて法律を変えたくても、必要な手続を踏まなくてはならず時間がかかるという点もあり、手続により時間がかかる国際法ではこの成文法ではなく、慣習法の採用も少なくありません。
成文法の成立は国会の議決により、天皇による公布がなされます。
特別の定めがない限り、公布から20日が経過することによって施行されます。

(2)自然法と実定法

2つめの分類は「自然法」と「実定法」です。

自然法は時間・空間に関係なく適用される不変の法で、自由や平等など、あらゆる時代において認められるべきものなどがこれにあたります。
反対に実定法とは特定の時間・空間において現実に効力を持つもので、人為的に作られた法を指します。

(3)公法と私法

3つめは「公法」と「私法」、つまり公のためのものか私のためのものかということです

公法は憲法や刑法など、国家の内部関係もしくは国家と個人の間を規律するもので、私法は民法や商法などといった、個人間・一般私人間の権利関係について定めた法です。

(4)実体法と手続法

4つめは「実体法」と「手続法」というものです。

実体法は民法や刑法など、権利義務の発生・変更・消滅の要件を定めているもので、手続法は実際に裁判を行う際に用いる一定の手続を定めたものです。
権利義務が本当に実現されるには具体的な手続を定める必要があり、民事訴訟法や刑事訴訟法がその役割を担っています。

(5)一般法と特別法

5つめは「一般法」と「特別法」で、適用場面を限定しないか、するかという違いがあります。

これは民法と商法の関係にあたり、私人一般に適用される民法が、商取引という場面に限定されたのが商法ということです。
一般法特別法は繋がっているため大筋の理念は同じですが、別の法律なので部分的に異なる内容があることもあります。
矛盾している内容があった場合には特別法が適用されます。

一般法と特別法以外にも、法令同士で内容に矛盾がある場合には「上違法優先の原則」にのっとり、法に優先順位がつけられます。
優先順位は上から憲法、法律、命令で、命令はさらに政令、省令、条例という順になります。

3 法の解釈

しかし、いくら細かく法を定めたといっても、実際の事件にそのまま条文を適用できるかというとそれは難しい話です。
裁判所は事件が持ち込まれるたびに、法を具体的な事件に当てはめていく作業をするのですが、この作業を「法の解釈」といいます。

法の解釈にはまず「文理解釈」と呼ばれるものがあります。
これは条文の用語をそのまま、通常の意味で解釈するというもので、文法通りに考えるため解釈の結果のバラつきは少なくなります。

しかしそれだけではなく、論理性を重視する「論理解釈」もなされることがあり、これには「反対解釈」「拡張解釈」「縮小解釈」「類推解釈」があります。
反対解釈は類似した2つの事実がある際、片方についてのみ規範があるとき、もう片方はそれと反対の結果を認める解釈とするものです。
拡張解釈は条文に書かれた以上に適用範囲を拡げること、縮小解釈は条文の意味を通常よりも狭くすることです。
類推解釈は、本来予定されなかった類似のケースにも条文を適用することですが、これがあまり認められてしまうと勝手なルールが増えるおそれがあるため、それなりの必要性・合理性が求められる上、不当な人権侵害を招きやすい刑罰法規では罪刑法定主義により禁じられています。
なお、類推解釈によって類似の事項に適用することを「類推適用」といいます。

4 法律用語

法律で使われている言葉は、同じ漢字を使っていても日常的な意味とは異なる場合があります。
行政書士試験の基礎法学では、そこを確認する出題がされることもあるため、あらためて一通り押さえておきましょう。

・善意と悪意
法律における「善意」と「悪意」は、良い人と悪い人という意味ではなく、「事実を知らない」「事実を知っている」ということを指します。

・推定と擬制(みなす)
推定・擬制(みなす)ともに、事実関係や法律関係がいまひとつ不明瞭である場合、一般に存在すると考えられる状態を基準とすることで一応の判断を下すことです。
「推定」は真実でないということが立証されたら覆すこともできますが、擬制(みなす)は一度したなら覆せないという違いがあります。

・又はと若しくは
どちらも選択的接続詞であることに違いはありませんが、「又は」は選択肢が2つしかない場合、「若しくは」はそれ以上の選択肢がある場合に使います。

・並びにと及び
どちらも併合的接続詞ですが、これも、対象が2つであれば「及び」を使い、それ以上に分かれている場合は「並びに」を使うという違いがあります。

・直ちに、速やかに、遅滞なく
直ちに→速やかに→遅滞なく、の順番で、切迫性が緩くなります。
「直ちに」が使われていれば、それは時間的即時性が強く一切の遅滞が許されないものですが、「速やかに」であればある程度の余裕があり、「遅滞なく」も正当で合理的な理由があれば遅滞が許されるということで時間的急迫性が低くなるということになります。

・科すと課す
「科す」は刑罰等の制裁を与える場合、「課す」は国や地方公共団体等が租税、その他の負担を命じる場合に使われています。

・適用と準用
「適用」は法律や規制、方法などを当てはめて用いること、「準用」はある事項に適用する法律や規則等を、類似する別の事項に当てはめて用いるということです。

5 その他、押さえておきたいポイント

その他、基礎法学として、近年登場してきた制度などについても出題されることがあります。

・裁判員制度
2009年から始まった制度で、もしかしたら経験した方もいるかもしれません。
従来の日本の刑事事件における審理が長すぎること、判決内容が国民にとってわかりにくいなどの私的により、司法制度改革によって導入された国民の司法参加制度で、国民から裁判員を選んで刑事裁判に参加させ、裁判官と協働して判決を下すというものです。
有罪・無罪の判断だけでなく、有罪の際には量刑についても決定します。

裁判員裁判では原則、裁判官3人と裁判員6人がメンバーとなり、殺人事件や強盗致死事件といった重大事件を担当します。
参加してもしなくても、この制度の存在によって裁判全体に対する国民の理解が深まり、私法が身近なものになることが期待されますが、一方で、裁判に時間をとられるため、裁判員に選ばれることで自分の生活を犠牲にしなくてはならないという問題もあります。

・法テラス
日本司法支援センターの通称で、2006年10月に業務開始となった制度です。
総合法律支援法に基づき、弁護士や司法書士による法的サービスを受けられるというもので、司法制度を国民にとってより身近なものにするという目的のもと成立しました。

契約や離婚、相続といった民事事件だけでなく、刑事事件やその他法律問題の相談も承っているほか、弁護士費用の立替援助や国選弁護人の確保、犯罪被害者支援といった取り組みも行われています。
東京にある本部を中心に、都道府県庁所在地などに設置され、過疎地にも存在しています。

・裁判外紛争解決手続
Alternative Dispute Resolutionの頭文字を取り、「ADR」とも呼ばれます。
この促進により「裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律」が成立しました。
基本理念や国・地方公共団体の負う責務、民間事業者による和解の仲介などによって定められ、手続は、和解の仲介(あっせんや調停)のように当事者同士の合意によって解決を図る「調整型」と、事前に第三者の審理・判断に従うような合意をして手続を始める「裁断型」に分かれます。

裁判を実際にするとなると、手続は複雑だし時間とお金はかかるし、他人に公開されてしまうし……という問題点があるのですが、ADRはそういった点を解消するというメリットがあります。
申立ての手続も簡単ですし、当事者の意向に沿った解決を図れる柔軟性、専門性、非公開性、迅速性(時間・費用共に抑えられる)もあるため促進がされています。

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