行政書士試験において、行政法は非常に重要な地位を占めている科目です。
中でも頻出、というよりも必ず出題されているといっても過言ではないのが行政争訟制度で、出題頻度・難易度ともに確実な理解を求められています。
行政争訟制度には行政不服申立てと行政事件訴訟がありますが、このうち行政事件訴訟の分野では、抗告訴訟の一つである取消訴訟を中心に構成されていることがほとんどです。
取消訴訟がどのような要件の元に行われるのかを押さえておかないと、その規定を準用している他の訴訟についても解答が難しくなってしまうでしょうから、しっかり確認しておきましょう。
1 取消訴訟の処分性
取消訴訟を行うためには、「処分性」「訴えの利益」「被告適格」「裁判管轄」「出訴期間」「訴えの形式」という要件を満たす必要があります(逆を言うと、これらが満たされていないのに訴訟をしようとしたところで却下されます)。
この一つ目、「処分性」から見ていきましょう。
当たり前のことをいうようですが、「処分その他公権力の行使に当たる行為」の取消を求めるのが取消訴訟ですから、それを提起するためには行政庁による「処分」があることが大前提です。
行政庁がしてもいないことに対して、取消を求めることなど出来るわけがないということです。
そんなことは言うまでも無いのですが、しかし、重要なのは「何を処分とするか」「どんなことが処分にあたるのか」ということで、処分になるかならないのかの線引きを理解していなくてはならないのです。
取消訴訟における処分は「行政行為」とほぼ同義で、判例では「その行為によって直接国民の権利義務を形成し、またはその範囲を確定することが法律上認められているもの」だとされました。
この規定により、
・行政指導
・行政立法
・行政計画
・自由裁量行為
・訓令・通達など内部行為
・政府関係機関に対する監督庁の行為
は範囲外とされ、取消訴訟の対象にはならないとされています。
ただ、一律にこれら全てを取消訴訟の対象から外すのではなく、判例ではもっと実質的な判断がなされており、単純に「これは行政指導にあたるから取消訴訟では扱えません」という区別をしているわけではないということも、頭に入れておきましょう。
行政争訟制度では判例に関する問題も頻出しますから、処分性の有無に関わる判例をチェックすることが必要です。
処分性を肯定し、取消訴訟が認められたものとしては、
・最判昭45.7.15 供託金取戻請求の却下処分取消請求
・最判昭45.12.24 税務署長の納税告知
・最判平14.1.17 2項道路の一括指定告示
・最判平16.4.26 食品衛生法違反通知
・最判平17.7.15 知事による病院開設中止観光
・最判平20.9.10 土地区画整理事業計画の決定・抗告訴訟
・最判21.11.26 市による設置の保育所廃止の条例制定
があり、処分性が否定されたのは
・最判昭35.7.12 国有財産の払下
・最判昭57.4.22 都市計画法上の用途地域指定
・最判昭57.5.27 公務員の採用内定取消
・最判昭57.7.15 交通反則金納付通告
・最判平11.1.21 市町村長による住民票の続柄記載
です。
2 その他公権力の行使に当たる行為
取消訴訟の対象とされるものには、「その他公権力の行使に当たる行為」もあります。
これは行政庁が国民に対してする、優越した地位に基づき権力的な法的行為・事実行為を行うことで、行政行為に準ずる効力を有するものを指します。
たとえば関税法により、外国から動植物を持ち込む際には日本に入れても大丈夫かどうかのチェックをするため、一時的にそれらは留置されることになりますが、これは行政庁が国民に優越し、法に基づいて国民から携帯品を預かることになるため、公権力の行使とされています。
ただ、ごみ焼却場を建設するなど私法上の契約に基づいた行為は公権力の行使ではなく、判例では単なる事実行為だとされました。