司法試験や公認会計士試験に次ぐ難関法律資格である弁理士試験。
めでたく合格を勝ち取ったあと、就職活動がとても難しいなんていう情報を耳にしたことはあるのではないのでしょうか?
そこで、本記事では「弁理士の就職」について詳しく解説していきます。
1 時代の変化から見る弁理士の就職状況
弁理士試験を取得しても就職が難しいという情報がありますが、これは一体どういうことなのでしょうか?
その噂の背景には、弁理士業界が経験重視の採用形態をとっていることにあります。
ですから、弁理士試験に合格したとしても「実務経験」がなければ、「実務経験」のある人材を優先して採用されてしまうという傾向があるということです。
とはいえ、これは同年齢であった場合です。若ければ若いほど弁理士資格においては就職活動は有利になります。
以下は弁理士資格を保有している人の年齢分布です。
20歳以上~25歳未満 | 3 | 0.00% | |
25歳以上~30歳未満 | 54 | 0.50% | |
30歳以上~35歳未満 | 298 | 2.60% | |
35歳以上~40歳未満 | 882 | 7.60% | |
40歳以上~45歳未満 | 1,849 | 15.90% | |
45歳以上~50歳未満 | 2,366 | 20.30% | |
50歳以上~55歳未満 | 1,876 | 16.10% | |
55歳以上~60歳未満 | 1,365 | 11.70% | |
60歳以上~65歳未満 | 963 | 8.30% | |
65歳以上~70歳未満 | 662 | 5.70% | |
70歳以上~75歳未満 | 618 | 5.30% | |
75歳以上~80歳未満 | 349 | 3.00% | |
80歳以上~85歳未満 | 222 | 1.90% | |
85歳以上~90歳未満 | 82 | 0.70% | |
90歳以上~ | 45 | 0.40% |
参考:日本弁理士会「日本弁理士会会員の分布状況(2022年04月30日現在)」
このデータからわかるように、弁理士は40歳~60歳の年齢に集中しています。20歳~24歳は3人です。
したがって、20歳~34歳の若い人材は若ければ若いほど、育成の観点から就職活動はうまくいくと思ってよいでしょう。
例えば、社会人経験を積んでいたものの意を決して弁理士資格を取得し、転職活動をするにしても年齢が高ければ高いほど求められる条件も厳しくなっていく傾向にあります。
参考までに、一般的に弁理士の就職活動で見られる内容は以下のような条件を気にされます。
・年齢
・実務経験の有無or実務経験年数
・学歴、大学時代の専攻内容
・語学能力
・弁理士試験に合格しているかどうか
よく聞く話で、「国際出願が増えているから、弁理士資格×語学能力ですぐ採用されるよ。」というものがあります。
これは半分ホントで、半分ウソです。
何が言いたいのかというと、
PCT出願などの国際出願の案件は、軒並み報酬が高く、英語などの語学能力に長けている人材はもちろん重宝されます。
しかし、こと採用となると、語学よりも年齢、実務経験、学歴を重視されてしまいますから、
「語学を勉強して・・・さらに弁理士試験も合格して・・・」と考えるのはナンセンスです。
むしろ、弁理士を志している場合には、早期に弁理士資格を取得することに集中し「どこでもいいので所属→英語を勉強する&実務経験を積む」という流れが一番の年収アップへの近道になります。
近年、世界的に特許出願が急増し、かつ各企業の海外進出が顕著になってきており、それに伴い国際出願などの案件が増加しているため、「実務経験×語学能力×弁理士資格」の人材はかなり高い年収を見込めることでしょう。
さらに、ここ数年は弁理士の新規求人数が年々増加しており、就職先を見つけやすい状況となっています。これには主に以下のような理由があります。
・あらゆる業種全体での転職市場が「売り手市場」。多分に漏れず弁理士も「売り手市場」に変わってきている
・売り手市場であることから、転職者が多く、各特許事務所等に欠員がでやすい
・世界的に特許出願が急増し、かつ各企業の海外進出が顕著になってきており、それに伴い国際出願などの案件が増加している
上述もしましたが、日本国内の特許出願件数は減少傾向にあるなか、国際出願は増加傾向であり、その影響で、日本国内の特許事務所も案件を急激に伸ばしている事務所と案件が急降下している特許事務所の二極化が進んでいるのです。
国際出願案件を多く抱える特許事務所の需要は高まり、就職活動の競争率も高まることが予測されます。
2 年齢から見る弁理士の就職活動の方向性は?
弁理士業界の特徴のひとつとして、新卒採用よりも経験重視の採用形態をとることは上述しましたね。
とはいえ、統計的にみてみると実は弁理士になる人は「大学卒業後、5年~10年程度社会人を経験したあと弁理士試験に挑戦し合格し弁理士になる」というパターンが最も多いのです。
したがって、大部分が30代・40代で弁理士資格をとり、弁理士として働き始める方が多いということになります。
そこで、弁理士になる年齢別に以下でどのように就職活動をしていくべきか解説していきましょう。
(1) 20歳~29歳
弁理士業界において20代は超若手です。分布図からも分かる通り、20代の弁理士はなんとたったの57人です。
したがって経験が少ないことを見越した上で他の判断基準で採用を検討されます。
「おお!若手が来た!」と面接では歓迎されるケースもあり、就職活動はスムーズに進むでしょう。
(2) 30歳~35歳
30代前半も弁理士業界では十分若手です。
特にこの年代は社会人経験を数年経験していることが多く、例えば企業内で知財の業務を経験している方などは積極的に採用されます。
仮にそうではなかったとしても、エントリーを重ねれば難なく内定を勝ち取ることができるでしょう。
文系出身の場合は理系出身と比べて内定を取りにくい傾向にあるため、理系知識を勉強していることアピールしたり、ないしはきちんと専門知識を習得するように動きましょう。
(3) 36歳~40歳
36歳~は、実務経験の有無が内定獲得の分かれ道となってきます。
とはいえ、弁理士試験の平均合格年齢はおよそ37歳であり、まだまだ諦めてはいけません。
人手不足が叫ばれる昨今、知財業務の実務経験があれば内定を勝ち取ることができる年齢です。
他方で、未経験の場合は内定を獲得することが難しくなってくるでしょう。
この場合、現在所属している企業での立ち位置にもよりますが、弁理士資格を取得したことをアピールすれば企業内でキャリアアップを図ることができる可能性は高まります。
企業の知財部でインハウスの弁理士として活躍し、特許事務所に転職するというキャリアプランも描けますから、知財方面のプロフェッショナルになりたい想いが強い方はまず自社で動くことをオススメします。
未経験で就職活動をする場合、転職エージェントの活用は必須です。
(4) 41歳~
実務経験の有無がものを言うでしょう。
実務経験のある方は通常通り求人に応募をしていき、自分に合った事務所、企業を見つけましょう。
他方で未経験の方にとっては就職活動は非常に難しいかもしれません。
月並みですが、ここで重要なのは「熱意」です。
未経験者ということは当然、一から業務を教えてもらうことになります。
したがって、一からやっていきます!という熱意と、将来を見越して多少の年収ダウンを呑むことも必要になってきます。
最初はつらいかもしれませんが、一度どこかに所属し知財の専門家としてのキャリアを積んでいけば、年収はすぐに追いついてきます。
(5) 51歳~
数年前まで、年齢制限を設けた求人が非常に多く50代弁理士の就職活動は難航を極めていました。
それこそ、個人のツテなどを使ったりしなければ、本当に大変な時期でした。
ところが、近年では各特許事務所の人手不足により年齢制限を設けない求人が溢れています。
まず、知財の業務で実務経験がある方は粘り強く求人に応募しましょう。
知財専門の転職エージェントなどもありますから、積極的に活用するようにしましょう。
では実務経験のない未経験者は諦めなきゃいけないのでしょうか?
結論からいうと、未経験者が内定をもらうことは極めて難航するでしょう。
まずは自身の持っているスキルの中で以下にあてはまるか探してみてください。
・訴訟ないしは係争業務の経験がないか?(法務部、法律事務所など)
・外国の現地代理人、知財訴訟に強い弁護士、過去のクライアントなどの人脈がないか?
・弁護士資格、英語などの語学資格、TOEICの高いスコアなどの別のライセンスを所持しているか?
その上で、「いやあ、特にないんだよなあ・・・」という方は通常の弁理士業務に従事する求人に採用されることは極めて難しいといえます。
しかし、弁理士業界の仕事は事務所や知財部に所属することだけでしょうか?
いいえ違います。
・弁理士資格を取得した勉強法、ノウハウを教える「資格の学校」の講師
・弁理士業界にまつわる知識、情報に特化した記事制作
などその資格を活用できるステージは非常に多く、資格取得がマイナスに働くことは絶対にありません。
特許という性質上、これまで弁理士としての実務経験が全くなかったとしても、
・大学時代の専攻が電子・電機・半導体等などの内容
・以前技術者として働いた経験を持っている
などの場合、特許事務所としてはその経験を高く買ってもらえます。
弁理士資格を所有しかつ専門知識をもつということは弁理士業界ではスタンダードなのです。
3 実務経験が重視されるというけれど、具体的にはどんな内容なの?
さてこれまでの解説で実務経験の大切さはご理解頂けましたでしょうか。
とはいえ実務経験って具体的になんなの?と思われる方もいることでしょう。
まず前提として、実務経験は、就職先で求められる「実務経験」ということを念頭に置いてください。
企業内の知財部に所属していたとしてもその業務内容が開発部の発明者とのコミュニケーションや外部の特許事務所への明細書作成依頼などのいわゆる折衝担当で合った場合、特許事務所への就職の「実務経験」にはならないということです。
なぜなら、特許事務所は
・産業財産権の取得(国内外含む)
・産業財産権にまつわる各評価書の作成(鑑定・判定・技術)
・産業財産権にまつわる訴訟、裁判外紛争解決手続き、輸出差し止め業務
・産業財産権にまつわる取引業務(出願、訴訟、コンサル)、契約の締結
・著作権管理業務
が主たる業務内容であり、どの業務においても「明細書の作成」が伴うのですが、前述の知財部の人材の例では、「明細書の作成」の実務経験がありませんよね。
したがって、特許事務所からは「実務経験なし」とみなされてしまうのです。
このように就職したい場所によって、実務経験の内容に差があります。
以下では弁理士資格取得後の就職先別に、「実務経験」の内容を解説していきます。
(1) 特許事務所の場合
自分が入りたい特許事務所に求められた技術分野での実務経験があるかどうかという点は最も重要になってきます。
技術革新の目覚ましい近年、技術は枝分かれし、ハイレベルかつ細分化され、それに付随して多くの特許事務所も専門化して分化してきています。
・求められている範囲内の技術分野での経験がある
・ピッタリ合わなくとも、その技術範囲の知識を充分持っていることを示すことができる
ということができれば、「実務経験」の有無をクリアしていくことができるでしょう。
その後、能力面と人間性がみられます。
能力面は「明細書の作成」能力をみられ、これまでに作成した明細書を確認されます。
人間面では、その事務所に適正であるかどうかを判断されますから、
・面接
・適性試験
などをくぐりぬける必要があります。
また、国際的な特許事務所の場合は英語能力を図る試験を課される場合もあります。
その後、事務所と本人との間で条件面の話し合いがうまくいけば、無事内定獲得となります。
(2) 企業内の知財部の場合
企業の知財部に所属したい場合、実務経験の内容は多岐にわたります。
ポジションによって求められるスキルは変わってくるのです。
とはいえ、どこの企業でも等しく求められる実務経験といえば、「企業での勤務経験」です。
・開発部、研究部での経験
・知財部での業務経験
以上は企業の知財部を志望する場合、「実務経験」にカウントされます。
また、行きたい会社が完全に知財の権利化を社内リソースのみで行っている場合には、
・特許事務所と同様の「明細書の作成」スキル
知財部のマネージャー候補の場合は、
・管理部の経験
・訴訟、渉外にまつわる業務経験
が求められます。
したがって、就職したい企業の求めていることをよく見極め、自身にあった企業を選ぶようにしましょう。
アドバイスとしては、背伸びをしないことです。
スキルのミスマッチは、入社後にとてもつらい思いをするのでオススメできません。
また、企業の場合は「知財部にこだわっているわけではなく、御社で働きたいのです!」という熱意を伝えることも大事です。これは一般の就職活動に通じるものですね。
4 文系ですが弁理士として特許事務所に就職できますか?
弁理士業務は技術を理解する能力が非常に重要なので、文系出身者よりも理系出身者の方が業務・就職の際に有利なのは事実です。
事実、実際弁理士の8割が理系出身者で占めています。
しかし、逆に考えると弁理士全体の2割が文系出身であり、かつ特許事務所の所長の中にも、文系出身の人も数多くいるのです。
弁理士の仕事で最も重要なのが特許業務です。
特許業務では理系の技術を理解する能力が必要であると言われており、文系出身の弁理士の中には特許業務が苦手である人が多いといわれています。
ですから、特許事務所も文系出身者よりも理系出身者を優先しがちになってしまいます。
実際文系出身弁理士は「特許業務ができる文系出身弁理士」と「特許業務ができない文系出身弁理士」に分かれており、それほど、特許業務というのは難しく論理的思考能力、技術に対する理解力が必要になってくるのです。
では、特許業務ができない文系出身弁理士はどういった業務に携わっているのでしょうか?
(1) 意匠・商標関連業務
デザイン関係の意匠関連とブランド関係の商標業務は、理系の知識はあまり必要なく、法律関係に強い人向けの業務です。よって、法学部や司法書士の経験がある文系出身者にはこなしやすい業務になります。
ただ、意匠・商標に関しては市場が小さく独立開業が困難な分野です。さらに性質上人工知能にとって代わられやすいのです。
(2) インバウンド・アウトバウンド業務
インバウンド・アウトバウンド業務とは、日本人が外国で特許を取得したり、逆に外国人が日本で特許をしたりする業務のことを指します。この業務に必要なのは、外国語能力とコミュニケーション能力です。外国語能力が高く、かつコミュニケーション能力にも長けている文系出身の弁理士には活躍できる分野であると言えます。
このように、文系出身で技術の理解する能力が理系出身の弁理士よりも落ちる場合であっても活躍できる場があります。ただし、独立開業がしにくかったりするデメリット面を考えた時に、「特許業務もできる文系出身弁理士」になることをお勧めします。
5 サマリー
売り手市場といわれるこの時代にあっても、弁理士資格を持っているだけでは就職できません。
実務経験の有無が就職活動において重視されますから、その点を念頭に置いてキャリアプランを形成するようにしましょう。
資格以外に、外国語などの付加価値を自らに付けることも大事ですが、捉われてしまうと深みにはまってしまいます。
とはいえ、国際的な取引の増加傾向にある近年、「実務経験×語学能力×弁理士資格」の人材は高い年収を見込めます。
弁理士資格の価値は依然として高いので、取得後のキャリアアップはまさに本人次第ですね。
知財業界でキャリアップをしたい方は、ぜひ弁理士資格への挑戦を考えてみてください。
6 まとめ
- 弁理士業界が経験重視の採用形態をとる
- 主たる採用基準は①年齢②実務経験の有無③学歴、大学時代の専攻④弁理士資格の有無⑤語学能力
- 20歳~35歳までは就職しやすく、36歳~は実務経験の有無が重視される
- 特許事務所の求める実務経験は自事務所の分野での業務経験、「明細書作成」スキル
- 企業の知財部の実務経験は多岐にわたる
- 時代の流れから「実務経験×語学能力×弁理士資格」は高い年収を見込める