会社にある知財部ってどんなところ?弁理士との関連性は?

弁理士

この記事では、近年、企業ビジネスにおいてますます重要性が高まっている知的財産部、略して「知財部」について、どのような業務を行う部門なのか、どのような人が働いているのかという点を詳しく解説していきます。

また、同じく知的財産権を専門分野とする弁理士ひいては特許事務所との関係で、知財部にはどのような特徴があるのかという点についても説明します。ぜひ参考にしてみてくださいね。

1 知財部とは

知財部の業務内容等の具体的な説明に入る前に「知財部」とは会社においてそもそもどのような部門なのでしょうか。簡単にみていきましょう。

知財部は、「知的財産部」の略のことです。その名の通り、特許権や実用新案権などといった知的財産権を対象としています。

日々たくさんの会社が、私たちの生活に関わる様々な技術を発明しています。これらの発明した新技術が仮に他の会社に無断で使われてしまえば、会社は多大な利益を失うことにもなりかねません。そこで、このような知的財産権を保護することで会社の利益を守るために設置されている部門が知財部というわけです。

2 知財部の業務内容は?

それでは、知財部は具体的にどのような業務を行っているのでしょうか。大きく分けて発明の発掘・出願戦略の検討、特許の出願手続、特許調査、知財訴訟への対応という業務が挙げられます。個々を詳しくみていきましょう。

(1) 発明の発掘・出願戦略

1つ目の主な業務内容は、発明を発明者から引き出すことで発掘し、その発明を実際に出願するのかどうかという出願戦略を検討することです。

会社の研究・開発部門で働く研究者は、日々様々な研究開発を行っています。その過程では様々な発明がなされていますが、その中には発明として認識されていないなど、いわゆる埋もれた発明が含まれていることがあります。

知財部はそのような埋もれた発明を発掘し、特許出願などという形で会社の利益に資することが求められます。

また、すべての発明を特許出願できれば良いのですが、会社の出願戦略を担当する知財部員にとってはそうはいきません。というのも、特許出願には、発明について特許出願を行ってたとしても、その出願されてから1年6ヵ月後にはすべての出願が公開されるという出願公開制度があります。

そこで、会社の出願戦略としては、他社は発明できなさそうな技術であれば出願せずに自社内にその技術を保持しておき、一方、他社も発明できそうな技術であれば特許出願を行うことで権利化をするなどの戦略が考えらます。

知財部には、このように知的財産権の様々な制度との関係で、会社にとって何が利益になるかという観点からどのような戦略をとるのかを考えることが求められています。

(2) 特許の出願手続

2つ目の主な業務内容は、特許の出願手続きを行うというものです。

発明の発掘・出願戦略という過程を経て選ばれた発明は実際に特許の出願手続に入ります。その際には特許出願書類として発明の内容を記載した明細書などの書類を提出しなければなりません。

もっとも、その作成にあたっては発明の概念を理解し、文章化しなければならないため特別なスキルが求められます。また、特許権の範囲は、明細書の記載に基づいて決まるため、その作成も慎重に行う必要があります。

この作業は、特許事務所の弁理士に依頼することもありますが、知財部員が発明者に話を聞き、自分で明細書に書き起こしていくこともあります。

(3) 特許調査

3つ目の主な業務内容は、特許の調査です。

商品開発前の特許調査も知財部員にとって大切な仕事です。

特許出願をするためには、自社の製品や技術が他社の特許を侵害しないように、かつ特許性があるかどうかなど、慎重に特許調査を行う必要があります。これにより紛争リスクを防止できる上、無駄な研究開発・投資を避けることができます。

この作業は、特許事務所や特許調査会社に依頼することも出来ますが、商品開発前の特許調査は知財部員が行う場合が多い仕事です。

(4) 知財訴訟の対応

4つ目に挙げられるのは知財訴訟への対応です。

これは実際に特許権などが侵害されたという場合において、損害賠償請求や差止め請求等を行うといったものです。

また、訴訟に先んじて特許侵害をしている者に対して警告を行うこともあります。

3 知財部と弁理士の関わり合いは?

これまでの説明で、知財部の仕事内容についてある程度理解していただけたのではないかと思います。

それでは、知財部と、同じく知的財産を専門とする弁理士にはどのような関わりがあるのでしょうか。

会社の知財部で働く人たちは、自社の技術を特許出願に持っていくために様々な仕事を行っています。

また、特許事務所に明細書作成を依頼する場合には、発明者と弁理士の間に立って、どのような明細書を作成していくかを決める仲介役といった役割もこなします。

弁理士は、発明者のアイデアを形にし、明細書に書き起こしていくプロフェッショナルではありますが、発明者の意図を理解し、会社の知財戦略とあわせて弁理士と打ち合わせを行うのは、知財部員の仕事です。

知財部員は、弁理士と打ち合わせを行い、発明について入念なディスカッションを行い、どのように明細書を作成していくのかを決めていきます。知財部員は、いわば弁理士と企業をつなぐゲートキーパーのような役割を果たしているのです。

また、知財部で働く知財部員は、技術バックグラウンドがある人がほとんどなので、弁理士資格を取得していなくても、明細書を自分で作成することができます。ただ、先ほど説明したように特許明細書というのは独特の文章構成が特徴で、作成には特別なスキルが求められます。そのため、知財部の知財部員が自分で明細書を作成し、特許事務所の弁理士にチェックだけ依頼しているという会社もあります。

さらには、最近の傾向として、大手企業の中には自社内で弁理士を増やし、自社内で出願作業まで行っているところもあります。

今後は知財部員 = 弁理士という会社も増えていくかもしれません。

4 知財部と特許事務所での働き方の違い

上記でみたように知財部と特許事務所の業務分野は重複するところがあります。

そこで、弁理士資格を持った人は特許事務所で弁理士として働くか、それとも知財部員として働くかという選択に迷われる方もいるかもしれません。それでは、知財部と特許事務所での働き方の違いはどのような点にあるのでしょうか。

大きな違いとしては、特許事務所で弁理士として働く場合には、会社に外部者として関わることとなります。

一方、知財部員として働く場合には、会社の内部者として案件に関わることとなります。

この立場の違いから、知財部では、特許事務所における弁理士以上に幅広い業務を行い、発明の発掘から研究開発部門と関わるなど社内での密接なコミュニケーションがより重要となってきます。

また、知財部で勤める場合には、会社との関係は雇用関係、いわゆるサラリーマンとなる一方、特許事務所の中には所属する弁理士が雇用関係ではなく業務委託関係にある場合もあります。

そのような勤務形態では、社会保険に入れないなどのデメリットはあるとはいえ、雇用関係にある場合と比して個人の勤務形態の自由度は上がるともいえるでしょう。

このような勤務形態の違いからも働き方に差が表れます。

みなさんはこのような、仕事において何がやりたいか、どのように働きたいかという視点からどちらの道を選ぶのか、考えてみてはいかがでしょうか。

5 知財部ではどのような人が働いているの?

それでは知財部ではどのような人が働いているのでしょうか。

まずは上記でみたように、知財部においては明細書を作成することなども業務の1つであり、発明を理解しなければならないため、技術面での知識に精通した人が多く所属しています。また、弁理士資格保有者は社内弁理士として知財部に所属することもあります。

加えて、近年のグローバル化に伴い、国際出願を積極的に行っている会社では、海外の現地代理人と直接コンタクトをとる機会も増えています。現地代理人とのコンタクトに日本の特許事務所を間に挟めば、コミュニケーションのわずらわしさからは解放されますが、その分対応も遅れてしまいますし、費用もかさんでしまいます。

そこで、技術バックグラウンドを前提に、英語等の外国語スキルを持つ人材の需要が高まっています。

6 サマリー

いかがだったでしょうか?今回の記事で説明したように、知財部は、企業がビジネスを行う際に、企業利益を守る、知的財産に関する紛争リスクを回避するといった点で重要な役割を有しています。

そして、近年、その重要性は国内外問わずますます高まっており、弁理士資格保有者として知財部で働くことを選択する方もいます。今回の記事が、みなさんがキャリア設計を考える際の参考になれば幸いです。

7 まとめ

  • 知財部は企業の知的財産を権利として活用および保持し、企業ビジネスを支えることが主な業務。
  • 知財部の具体的な業務内容は、発明の発掘・出願戦略、出願手続き、特許調査等が挙げられる。
  • 弁理士は、企業の出願手続きや訴訟対応等で、知財部ひいては企業を外側から支える。
  • 知財部では技術に精通した理系出身の技術者などが働いている。近年では知財部の中に弁理士を置く企業もある。
  • グローバル化に伴い、知財分野における人材では英語等の外国語を使えることが求められている。
  • 知財部では自社の研究・開発部門と密接にコミュニケーションを取りながら業務を行うが、特許事務所では、複数の企業と業務内容を行うこともあり、業務内容の性質が異なる。

 

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