予備試験は、後に詳しくご紹介しますが、合格率が約4%であり、国家資格の中でも最難関の試験であると言われています。
予備試験制度そのものは、平成23年から開始されたまだ比較的新しい制度ですが、受験者数は毎年増加傾向にあり、人気の試験です。予備試験は人気の試験であるにもかかわらず、難易度がとても高いと言われている試験ですが、この記事では、予備試験の肝となる論文式試験について、その難易度について解説していきます。
1 予備試験論文式の難易度はどれくらい?
予備試験に最終合格するためには、3つの試験を突破する必要があります。
この3つの試験は、短答式試験、論文式試験、口述式試験です。
特に特徴的なのは、短答式・論文式・口述式はそれぞれ日程が段階的に設けられており、各試験を突破して初めて次の試験を受験できるという制度になっています。
短答式試験に合格してはじめて論文式試験を受験でき、論文式試験に合格してはじめて口述式試験を受験できるということです。
予備試験はこのような制度になっていることから、それぞれの試験について綿密な勉強計画を立てないと、せっかく短答式試験に合格したのに論文式試験の対策に間に合わないなんてことにもなりかねません。
後にご紹介するように、これも予備試験の難易度が高いと言われている要因の一つかもしれません。
これから予備試験に挑戦しようと考えている方は、まずは試験制度についてしっかり把握することも重要かもしれませんね。
2 予備試験の論文式について
短答式試験、論文式試験、口述式試験について簡単な流れをご紹介します。
日程 | 科目 | |
短答式試験 | 令和3年5月16日(日) | 憲法・行政法・民法・商法・民事訴訟法・刑法・刑事訴訟法・一般教養
(全8科目) |
論文式試験 | 令和3年7月10日(土)、11日(日) | 憲法・行政法・民法・商法・民事訴訟法・刑法・刑事訴訟法・一般教養
(人文化学・社会科学・自然科学)法律実務基礎科目(民事・刑事) (全10科目) |
口述式試験 | 令和3年10月23日(土)、24日(日) | 法律実務基礎科目(民事・刑事) |
出典:法務省ウェブサイト(令和3年度予備試験実施日程について)
こちらは令和3年度予備試験の日程です。短答式試験は毎年5月、論文式試験は毎年7月、口述式試験は毎年10月に行われます。この日程を見ると、それぞれの試験の間隔が2カ月~3カ月程度しかあいていません。
また、出題科目も、短答式で8科目、論文式で10科目もあります。科目が被っているものもありますが、選択式の短答式に比べて論文式では記述になるので、それぞれの試験対策が必要になってきます。
論文式については、後にご紹介するように、予備試験の論文式は相対評価なので毎年合格点は変わりますが、令和2年度の論文式試験でいえば、合格点が230点(500点満点中)、得点率は半分を切っています。
3 予備試験論文式の合格率は?
次に、予備試験の合格率を見てみましょう。
① 短答式試験の合格率
年 | 受験者 | 合格者 | 合格率 |
令和3年 | 11,655 | 2,723 | 23.36% |
令和2年 | 10,608 | 2,529 | 23.84% |
平成31年 | 11,780 | 2,696 | 22.89% |
平成30年 | 11,136 | 2,661 | 23.90% |
平成29年 | 10,743 | 2,299 | 21.40% |
平成28年 | 10,442 | 2,426 | 23.23% |
出典:法務省ウェブサイト(令和3年度予備試験短答式の結果)
② 論文式試験の合格率
年 | 受験者 | 合格者 | 合格率 |
令和3年 | 2,619 | 479 | 18.29% |
令和2年 | 2,439 | 464 | 19.02% |
平成31年 | 2,580 | 494 | 19.15% |
平成30年 | 2,551 | 459 | 17.99% |
平成29年 | 2,200 | 469 | 21.32% |
平成28年 | 2,327 | 429 | 18.44% |
出典:法務省ウェブサイト(令和3年度予備試験論文式の結果)
③ 口述式試験の合格率
年 | 受験者 | 合格者 | 合格率 |
令和2年 | 462 | 442 | 95.67% |
平成31年 | 494 | 476 | 96.36% |
平成30年 | 456 | 433 | 94.96% |
平成29年 | 469 | 444 | 94.67% |
平成28年 | 429 | 405 | 94.41% |
出典:法務省ウェブサイト(令和2年度予備試験口述式の結果)
④ 予備試験最終合格率
年 | 受験者数 | 合格者 | 合格率 |
令和2年 | 10,608 | 442 | 4.2% |
平成31年 | 11,780 | 476 | 4.1% |
平成30年 | 11,136 | 433 | 3.9% |
平成29年 | 10,743 | 444 | 4.1% |
平成28年 | 10,442 | 405 | 3.9% |
出典:法務省ウェブサイト(令和2年度予備試験口述式の結果)
上の表を見ていただくと、予備試験の最終合格率は4%前後となっており、合格率がとても低いことが分かります。
他方で、短答式・論文式・口述式それぞれの合格率の表をみると、それぞれ異なることが分かると思います。
短答式試験については、合格率が21%~23%で推移しています。
これに対して、論文式試験の合格率は20%を下回っている年度が多く、短答式試験の合格率を下回っています。
そして、特に特徴的といえるのは、論文式の合格率が約20%前後で推移してるのに対して、口述式の合格率は90%を超えているということです。
予備試験全体の合格率で見ると5%を切っていますが、各試験の合格率の統計をみると、実は司法試験の合格率と大きな差はないのです。
言い換えれば、論文式まで合格できれば、かなりの確率で最終合格に至ることができます。
ただ、論文式の合格率が約20%とはいえ、難易度は依然として高いといえます。筆者が考える予備試験論文式試験の難易度が高いと思われる要因を次にご紹介します。
4 予備試験論文式の難易度が高いと言われる要因
(1) 予備試験論文式試験は科目が多い
さきほどもご紹介したとおり、論文式試験では10科目から出題されます。各科目についての出題傾向などを把握した上で試験対策をしなければならないので、勉強時間もその分かかってしまいます。
しかも、インプットにも時間がかかるだけでなく、論文式なので、答案の書き方や作法を勉強し、アウトプットとして答案を書く練習を繰り返す必要があります。
また、人によっては、科目の得意不得意があると思います。ただ、試験本番では何が出題されるか未知なので、得意科目だからといって苦手な科目ばかりに勉強時間を割いてしまうと、本番で失敗してしまうするリスクもあります。
このように、苦手科目だけを集中的に勉強するだけでは論文式を突破することが困難であり、10科目全てを万遍なくバランスよく勉強しなければならないということも、難易度が高いと言われている要因の一つかもしれません。
(2) 予備試験論文式試験は相対評価である
予備試験論文式試験は、相対評価試験です。行政書士試験のように、毎年定められた点数以上の得点で合格することができる試験ではなく、受験者全体のレベルに応じて合格点が決められます。
そのため、自分の実力と、合格との距離を図ることがとても難しい試験です。
年度によっては、マイナーな論点ばかり問われて受験生の大半が書けなかった問題もあるかもしれませんが、この場合は自分も書けなくても、合否に大きな影響はないかもしれません。ただ、逆にいえば受験生の大半が書けた問題について、自分が書けなかった場合には、相対的に合格から遠ざかってしまう可能性があります。
このように、予備試験の論文式については相対的に評価される試験なので、合格ラインを把握するのがとても難しく、これが難易度が高いと言われる要因の一つであると推測できます。
(3) 予備試験論文式試験は時間切れになりやすい
予備試験の論文式試験の時間割は以下のようになっています。
試験時間 | 試験科目 |
9:30~11:50
(2時間20分) |
憲法・行政法 |
13:15~15:35
(2時間20分) |
刑法・刑事訴訟法 |
16:30~17:30
(1時間) |
一般教養
(人文化学・社会科学・自然科学) |
9:30~12:30
(3時間) |
法律実務基礎科目(民事・刑事) |
14:00~17:30
(3時間30分) |
民法・商法・民事訴訟法 |
出典:法務省ウェブサイト(令和3年度予備試験受験案内)
憲法・行政法、刑法・刑事訴訟法については、試験時間は2時間20分なので、各科目につき、1時間10分時間を使うことができます。
そして各科目につき答案用紙4枚配られます。筆力は人それぞれですが、1枚につき15分程度時間がかかると想定すると、4枚まで書ききるとすると60分書くのに時間を使うことになります。
そうすると、答案構成をするのに10分しか時間がないことになります。
問題の量は司法試験に比べて多くないので読む時間はそこまでかかりませんが、六法を開きながら、場合によっては関係図など書いたり整理しながら構成しないといけないので、時間配分に気を付けないと最後まで書ききれなくなってしまいます。
実際に最後まで書ききれず、途中答案になってしまう受験生も毎年いるので、時間切れに陥るリスクを回避するためにも時間配分に気を付けなければならないのです。
(4) 短答式・論文式・口述式の日程の間隔が狭い
冒頭でもお話しましたが、短答式・論文式・口述式の日程の間隔が2カ月から3カ月程度ととても狭くなっています。
口述まで進んでしまえば、2カ月程度の間隔でも口述に関しては十分な対策をすることが可能ですが、短答と論文に関していえば、短答に合格してからはじめて論文の勉強を始めるには物理的な限界があります。
そうすると、短答対策や論文対策を並行しながら勉強を進めるか、論文対策を先にやってから短答対策をやるなど、工夫する必要があります。
そして短答式から論文式までの日程で必要十分な勉強量を積んでいくには、試験日程から逆算し、勉強計画を立てることがとても重要になってきます。
ただ、なかなか計画とおり進まないこともありますよね。計画倒れから挫折してしまう受験生も多くいます。
また短答式試験の合格発表を待っていてば論文式試験にも間に合わなくなってしまうので、短答式の合否を待ちながら勉強を進めなければならないという点も、精神的にきつく感じるかもしれません。
この日程の間隔の短さは、多くの受験生を苦しめる原因の一つといえるかもしれません。
(5) 予備試験の学問としての難しさ
こちらは予備試験に限らず、法律系の資格試験にいえることですが、法律を扱う試験なので、法律という学問そのものを理解することがとても難しいといえます。
民法や刑法などは身近にある法律なので比較的理解しやすいかもしれませんが、手続法である民事訴訟法や刑事訴訟法は手続きの一部分だけをみてもなかなか理解しづらいと思います。一定程度学習が進んできてはじめて全体像が分かるということもあります。
また、インプットとしての学習が進んできても、次は論文として答案を書く必要があるので、法律の全体像を理解することができても、これを答案としてアウトプットすることがとても難しい試験です。
上記でも話したとおり、答案の書き方にも一定の作法があるので、これを守らないと答案の内容が正確でも合格答案にはなりづらいのです。
頭の中では理解できているのに答案で書こうとするとうまく書けないという受験生の方も少なくありません。
これは法律系資格試験の特有の難しさといえるでしょう。
5 予備試験論文式に突破することがカギとなる!
これまでご紹介してきたように、予備試験の論文式は合格率が約20%であるとはいえ、受験者数も毎年増加傾向にあるので競争率も高く、難易度は高いというのが現状です。
また、予備試験は、司法試験の受験資格を得るための試験なので、予備試験を合格した後も、司法試験の試験対策をしなければならず、長い道のりかもしれません。
ただ、論文は科目が重複していることや、答案の作法の基本的な部分は司法試験と変わらないので、論文の勉強はそのまま司法試験の論文の勉強に活きます。
最初はインプットしても分からないことだらけで挫折しそうになるかもしれませんが、一定程度学習が進んできて答案が書けるようになれば、他の受験生と競争できる範囲に入れるので、難易度が高いということだけで大きな壁を感じる必要はありません。
難易度を把握することは試験対策をする上でとても重要なことなので、この記事を読んで難易度を知っていただけただけで大きな一歩といえます!
6 サマリー
これから予備試験に挑戦しようと考えている方も、すでに学習している方も、予備試験の難易度を客観的に把握した上で、これに見合った試験対策をしっかり講じていけば必ず合格に近づくことができるので、是非頑張ってください!
7 まとめ
- 予備試験の合格率は約4%だが、論文式に限ると合格率は約20%
- 論文式を突破すれば、次の口述式試験(合格率約90%)に進める
- 予備試験の難易度が高いと思われる要因は、科目が多いこと、相対評価であること、時間切れになりやすいこと、日程の間隔が狭く勉強計画が破綻しやすい、学問としての難しさ、などがあげられる
- 予備試験では論文式試験を突破することが大きなカギ