行政書士試験の出題科目である商法は、民法の特別法です。
1. 商法と民法の異なる規定
民法第555条では
売買は、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。
とある通り、契約は申し込みと承諾2つの意思表示の合致によって成立するとされています。
しかし、商法第509条を見てみましょう。
第1項には、
商人が平常取引をする者からその営業の部類に属する契約の申込みを受けたときは、遅滞なく、契約の申込みに対する諾否の通知を発しなければならない。
第2項には、
商人が前項の通知を発することを怠ったときは、その商人は、同項の契約の申込みを承諾したものとみなす。
とあります。
つまり、商法においては申し込みと承諾の意思表示が合致しなくても、商人による諾否の返事がなかった場合には申し込みに対して承諾と見なされるのです。
2. 民法と違う理由
なぜ、こういった規定がなされているのでしょうか。
注目してほしいポイントは、第1項にある「平常」という部分です。
これは「いつも取引をしている」ということであり、この場合において諾否の返事がないというのは、日頃は承諾しているのに返事が返ってこないという意味で捉えます。
ですから、この法は初めて取引する場合や、ごくまれに取引する場合は適応されないのです。
たとえば、とあるレストランがいつも野菜を買っている業者に「この野菜をいつもの時間にお願いします」とメールで注文を入れたとします。このレストランと業者が日頃からこういった取引を交わしている場合、もし業者から返事がなかったとしても、それは基本的に承諾したと考えて良いでしょう。
いわゆる暗黙の了解、取引を繰り返して成立した信頼関係というわけです。
もちろん、申し込みのたびに諾否の返事をすることが必要なことは第1項でも定められていますから、たとえいつもと同じでもレスポンスは返すべきでしょう。
しかし、こういった信頼を保護することも大切であるため、商法第509条では返事がなくても売買契約が成立すると定められているのです。