司法試験の合格率はどのくらい?が難易度に直結しないワケ

司法試験

司法試験は、文系最難関の国家試験ともいわれる国家試験ですが、合格率だけをみると、他の国家試験に比べて比較的高くなってきています。

しかし、だからといって試験自体の難易度が下がったとは言い切れない側面があります。

この記事では、司法試験の合格率について、難易度に直接直結しない理由なども含めて解説します。

1 司法試験とは

司法試験とは、法曹三者(裁判官、検察官、弁護士)の資格を得るための試験です。

司法試験法第1条(司法試験の目的等)

司法試験は、裁判官、検察官又は弁護士となろうとする者に必要な学識及びその応用能力を有するかどうかを判定することを目的とする国家試験とする。

令和5年の司法試験の試験日程は、以下のとおりです。

論文式試験 令和5年7月12日(水)、13日(木)、15日(土)

短答式試験 令和5年7月16日(日)

中1日を挟み4日間実施される長丁場の試験です。

論文式試験は、1科目につきA4用紙8枚分に記述し解答します。短答式試験は、マークシート方式で解答します。試験科目については、以下をご覧ください。

司法試験科目
短答 憲法
民法
刑法
論文 憲法
民法
刑法
商法
民事訴訟法
刑事訴訟法
行政法
選択科目【倒産法・ 租税法・ 経済法・ 知的財産法・ 労働法・ 環境法・ 国際関係法(公法系)・ 国際関係法(私法系)】※いずれか1科目を選択

参照:法務省「司法試験について」をもとに作成

 

なお、司法試験は、前提となる受験資格がなければ受験することができません。以下の2つのうち、どちらかのルートを経て受験資格を取得しなければなりません。

法科大学院修了者(法科大学院ルート)

予備試験合格者(予備試験ルート)

※令和5年から、一定の条件を満たすことにより、法科大学院在学中であっても司法試験を受験することが可能となります。

司法試験の受験資格についてはこちらで詳しく解説しています。

2 司法試験の合格率

続いて、司法試験合格率の推移について法務省のデータを元に紐解いていきましょう。

近年の司法試験の合格率は以下のとおりです。

受験者数 最終合格者数 合格率
平成24年 8,387 2,102 25.06%
平成25年 7,653 2,049 26.77%
平成26年 8,015 1,810 22.58%
平成27年 8,016 1,850 23.08%
平成28年 6,899 1,583 22.95%
平成29年 5,967 1,543 25.86%
平成30年 5,238 1,525 29.11%
令和元年(平成31年) 4,466 1,502 33.63%
令和2年 3,703 1,450 39.16%
令和3年 3,424 1,421 41.50%

参照: 法務省「司法試験の結果について」

平成24年から平成30年においては、司法試験の合格率は20%台を推移しています。令和元年からは30%台に乗り、令和3年は40%台を超える結果となりました。

上記表から見ておわかりいただけるとおり、受験者数は減少しているものの合格者数はあまり変化が見られません。一方で、合格率は上昇傾向にあります。

受験者数の推移については、平成24年と令和3年を比較すると、その差はおよそ5,000人弱と大幅に減少していることがわかります。難易度の高い試験であることには変わりありませんが、受験者数が減少している中で合格率が上がっているということは、ある意味今が狙い目の試験であるともいえますので、適切な対策で挑めば勝機があるチャレンジです。

(1) 短答式試験の合格率

短答式試験の科目は、憲法(50点満点)、民法(75点満点)、刑法(50点満点)の3科目です。

司法試験の短答式試験には、一定基準の成績を満たさなければ不合格となる、いわゆる足切りがあります。

最低ラインは、各科目において満点の40%と定められており、憲法20点、民法30点、刑法20点が最低ラインとなります。もし、1科目でも最低ラインに達していなければ、それだけで不合格となってしまいます。

また、短答式試験の合格率の推移については、平成24年から平成29年までは60%台を推移しており、平成30年から令和3年は70%台まで上昇し、令和4年に至っては80%を超える結果が出ています。

 

(2) 論文式試験の合格率

論文式試験においても足切りがあります。

論文式試験の科目は、公法系科目(憲法・行政法  200点満点)、民事系(民法・商法・民事訴訟法  300点満点)、刑事系科目(刑法・刑事訴訟法  200点満点)、選択科目(倒産法・ 租税法・ 経済法・ 知的財産法・ 労働法・ 環境法・ 国際関係法〈公法系〉・ 国際関係法〈私法系〉いずれか1科目を選択 100点満点)の8科目です。

最低ラインは、各科目において満点の25%と定められており、公法系科目50点、民事系科目75点、刑事系科目50点、選択科目25点が最低ラインとなります。もし、1科目でも最低ラインに達していなければ、それだけで不合格となってしまいます。

論文式試験の合格率の推移は、平成24年から平成29年までは30%台を推移しており、平成30年には40%台へ、さらに令和元年は40%台半ばへと上昇しています。直近5年ほどは、右肩上がりで上昇傾向にあり、令和2年、3年は50%台を超える結果となっています。

(3) ルート別の合格率

法科大学院ルート 予備試験ルート
受験者数 合格者数 合格率 受験者数 合格者数 合格率
平成24年 8,302 2,044 24.62% 85 58 68.24%
平成25年 7,486 1,929 25.77% 167 120 71.86%
平成26年 7,771 1,647 21.19% 244 163 66.80%
平成27年 7,715 1,664 21.57% 301 186 61.79%
平成28年 6,517 1,348 20.68% 382 235 61.52%
平成29年 5,567 1,253 22.51% 400 290 72.50%
平成30年 4,805 1,189 24.75% 433 336 77.60%
令和元年 4,081 1,187 29.09% 385 315 81.82%
令和2年 3,280 1,072 32.68% 423 378 89.36%
令和3年 3,024 1,047 34.62% 400 374 93.50%

ルート別の合格率の推移では、近年は法科大学院生の受験者数が減少している状況と反比例するように予備試験ルートでの受験生が増加していることがわかります。

また、合格率の推移に関しては、予備試験ルートにおいては、平成29年から年々高い合格率を更新し続け、令和3年に93.5%という結果が出ています。一方で、法科大学院生の近年の合格率は、30%台を緩やかに上昇しています。法科大学院生の中には、在学中に予備試験を受験する層も増えてきており、在学中の予備試験ルートのトレンド化がうかがえます。

(3)法科大学院別合格者の内訳

司法試験の受験を検討した場合、法科大学院を修了すれば確実に司法試験の受験資格を取得できることから、法科大学院ルートを検討される方もいらっしゃるでしょう。

入学してから後悔しないためにも事前の情報収集はしっかりと行うことをおすすめします。各大学院により特徴が異なりますので、司法試験の合格率をはじめ学費やゼミ、通いやすさ、雰囲気などさまざまな面を考慮要素として検討し、自分に合った大学院を選択しましょう。

【令和3年度 司法試験 法科大学院別 合格者 合格率】

順位 法科大学院名 受験者 最終合格者 合格率(対受験者数)
1 予備試験合格者 400 374 93.50%
2 愛知大法科大学院 3 2 66.70%
3 京都大法科大学院 185 114 61.60%
4 一橋大法科大学院 110 64 58.20%
5 慶應義塾大法科大学院 227 125 55.10%
6 東北大法科大学院 39 20 51.30%
7 東洋大法科大学院 2 1 50.00%
7 山梨学院大法科大学院 4 2 50.00%
9 早稲田大法科大学院 231 115 49.80%
10 岡山大法科大学院 33 16 48.50%

参照先:法務省「令和3年司法試験法科大学院等別合格者数等」

上記の表からもおわかりいただけるように、京都大学・一橋大学・慶応義塾大学・早稲田大学の各大学院は、受験者数が数百名いることがわかり、切磋琢磨しあえる仲間が多くいることが見て取れます。合格率は40%台後半〜60%台前半ですが、特筆すべきは予備試験合格者の合格率です(93.5%)。司法試験の合格率だけを見れば予備試験合格者の方が圧倒的に有利であるといっても過言ではないでしょう。

どちらのルートで司法試験の合格を目指すかは、時間的・時間的な側面からも慎重に検討しなければなりません。

3 司法試験の合格率と難易度はイコールではない

司法試験の合格率は近年右肩上がりの傾向です。

「司法試験の合格率が上がっているということは難易度が下がったのでは?」などと囁かれることもありますが、合格率はあくまでも「受験者数に対する合格者の割合」です。

そのため、単純に難易度が下がっているとはいい切ることはできません。

ここでは3つの要因に絞り司法試験の難易度について考察していきます。

(1) 受験資格がある

先に述べた通り、司法試験には受験資格が必要であり、受験資格を取得するまでにはいくつかのハードルがあり、乗り越えなくてはなりません。

法科大学院ルートであれば、法科大学院へ入学するための試験を突破しなくてはなりませんし、履修するためには日々の勉強は必須です。

また、予備試験ルートであれば、4%という合格率を乗り越える必要があります。

(2) 試験範囲が広い

司法試験は、8科目あり科目ごとの範囲も広くインプットをするだけでも相当な時間を要します。科目ごとの特性も異なりますので、全ての科目を合格レベルに引き上げるまでには、どうしても時間がかかります。

法学ならではの独特な言い回しや判例の解釈など一朝一夕で習得できるものではありませんので、広範な科目をすべて習得するまでには、忍耐力も求められます。

(3) 論文式試験の対策の難しさ

“論文を制するものは司法試験を制する”といわれるほど、司法試験において、論文式試験は要となる試験です。インプットをしただけでは合格できるような易しい試験ではありませんので、司法試験の天王山ともいえる論文式試験に向けた学習がかなりハードであることを覚悟しなければなりません。

また、論文式試験の対策に最も有効な勉強方法は、アウトプット(演習)に尽きますので、手を動かして実際に書くことが大切です。

論文式試験では、答えがない問題に私見を論述するような問題が出題されることもあり、日頃の論理的思考力や知識が問われます。そして、書く分量も多く、これらすべてを日々こなしていかなければならず、アウトプット学習の段階でつまずいてしまい挫折しやすいことが論文式試験対策の難しさともいえます。

4 司法試験受験を決めたら

司法試験の受験を決断したら、まず始めに行わなければならないことは「ルート選び」です。司法試験合格目標年度を設定し、自身の置かれている環境に合った無理のないプランを立ててみましょう。

具体的には、司法試験合格から逆算して、どのくらいの勉強期間が必要であるかを洗い出してみることをおすすめします。

例えば、1日の勉強の可処分時間は、社会人・学生問わず千差万別です。そのため、ご自分の置かれている環境に合った最適なルートを選択することが大切ですので、時間的な面はもちろんのこと、学費などの経済的な面からも熟慮して決断されることをおすすめします。

5 予備試験ルートで広がる選択肢

予備試験ルートで司法試験合格を目指すと選択肢が広がります。

なぜなら、予備試験の試験範囲と司法試験の試験範囲は殆どが重複しており、予備試験で学び得た知識やテクニックがそのまま司法試験対策に活かせるからです。これは、予備試験ルートの司法試験合格率が高い所以でもあります。

また、学生の方は、在学中に予備試験合格を目指し学習をスタートすることで、合格すれば早期に法曹への道が拓かれることになります。もし、仮に合格に届かなかったとしても、予備試験学習で得た知識を法科大学院の入試対策に活かすことができますので、予備試験学習は早めにスタートされることをおすすめします。

そして、忙しい社会人の方にとっても、時間的・経済的メリットが大きいので、無理なく司法試験合格を目指すのであれば、予備試験ルートが最適なルートであるといえるでしょう。

6 サマリー

司法試験は、難易度の高い試験であることは間違いありませんが、近年の受験者数や合格率の相関性を見ても勝機が見える試験であることは間違いありません。司法試験合格を目指すのであれば、短期決戦に有効かつ経済的にも負担の軽い「予備試験ルート」でチャレンジすることをおすすめします!

7 まとめ

  • 司法試験とは、法曹三者(裁判官、検察官、弁護士)の資格を得るための試験です。
  • 司法試験の合格率は、平成24年から平成30年は20%台を推移しており、令和元年からは30%台、令和3年は40%台を超え右肩上がりの結果となっている。
  • 司法試験の難易度が高い要因は、①受験資格がある①試験範囲が広い②論文式試験の対策が難しいからと考えることができる。
  • 司法試験の合格率と難易度は、さまざまな要素が絡み合っているので必ずしもイコールではない。
  • 司法試験の受験を決めたら、まず始めにするべきことはルート(予備試験ルートor法科大学院ルート)選び!
  • 予備試験の学習は、時間的・経済的なメリットが大きく、司法試験や法科大学院入試対策にも役立つ。
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