司法試験を受験するには、予備試験ルートか法科大学院ルートのどちらかを選ぶ必要があります。
どちらのルートも、メリット・デメリットがあり、よく検討して選択する必要があります。
この記事では、予備試験ルートと法科大学院ルートを比較したうえで、“司法試験の受験資格を得るための最適ルート”について解説していきます。
また、令和5年度からは、法科大学院在学中での司法試験が受験が可能となります。
この新制度についても、解説していますので、是非、参考にしてください。
1 司法試験とは?
司法試験とは、裁判官、検察官又は弁護士となろうとする者に必要な学識及びその応用能力を備えているかどうかを判定する試験です。(法務省 「新司法試験Q&A」法務省:新司法試験Q&A (moj.go.jp))
すなわち、司法試験とは、法曹三者(裁判官、検察官、弁護士)になるために必要な国家試験をいいます。
2 司法試験を受験するには受験資格が必要
昔の司法試験(旧司法試験)は、誰でも司法試験を受験することが可能でした。
しかし、現在の司法試験(新司法試験)は、誰でも受験できるわけではありません。
司法試験を受験するには、法科大学院を修了するか、もしくは、予備試験に合格する必要があります。
また、この2つに加え、令和5年度からは、法科大学院在学中であっても、一定の要件を満たせば、司法試験を受験することが可能となります。
⑴ 法科大学院修了での受験資格
法科大学院は、2年ないし3年通う必要があります。
2年間のコースは既習コース、3年のコースは未修コースと呼ばれています。
既習コースは、学部時代に法律を学んだ方を前提としている一方で、未修コースは、学部時代に法律を学んだことがないことが前提とされたカリキュラムが構築されています。
なお、法学部卒でなくても、既習者試験に合格すれば、既習コースに入学することは可能です。逆に、法学部卒であっても、未修コースに入学することも可能です。
⑵ 法科大学院在学中での受験資格
① 制度の概要
従来、法科大学院ルートで司法試験を受験する場合は、法科大学院を修了していることが必要でした。
しかし、令和5年度から、一定の要件を満たせば、法科大学院在学中に司法試験を受験することが可能となりました。
以下では、法務省が掲載する「在学中受験資格に関するQ&A」法務省:在学中受験資格に関するQ&A (moj.go.jp)を参考に、法科大学院在学中での受験資格について解説します。
② 受験資格が与えられる要件
在学中受験資格を得るには、司法試験が行われる日の属する年の3月31日までに、以下の区分に応じ、それぞれ以下に定める単位を修得していることが必要です。
・法律基本科目(憲法、行政法、民法、商法、民事訴訟法、刑法及び刑事訴訟法に関する分野の科目)の基礎科目・・・30単位以上
・法律基本科目の応用科目・・・18単位以上
・選択科目(倒産法、租税法、経済法、知的財産法、労働法、環境法、国際関係法(公法系)又は国際関係法(私法系))・・・4単位以上
なお、選択科目は、司法試験を受験する科目と同一である必要はありません。
例えば、法科大学院で、倒産法の単位を4単位以上取得したうえで、司法試験では、労働法を選択することは可能です。
ただ、法科大学院で学んだ科目を司法試験で受験するほうが効率はいいと思われます。
③ 受験できる時期
在学中受験資格は、法科大学院の課程に在学する者であって、当該法科大学院を設置する大学の学長が、以下の両要件を満たすことについて認定(以下「学長認定」といいます。)をした者に付与されます。
・当該法科大学院において所定科目単位(法律基本科目30単位以上、法律応用科目18単位以上、選択科目4単位以上)を修得していること
・司法試験が行われる日の属する年の4月1日から1年以内に当該法科大学院の課程を修了する見込みがあること
すなわち、法科大学院最終学年時(既習コースであれば2年目、未修コースであれば3年目)に、所定の単位を修得し、法科大学院を修了する見込みがある者に受験資格が与えられます。
最終学年に進級できれば、自動的に受験資格が与えられるわけではないため、注意が必要です。
⑶ 予備試験ルートでの受験資格
予備試験は、短答式試験、論文式試験、口述試験から構成されます。
その3つの試験全てに合格すれば、法科大学院を修了しなくても、司法試験を受験する資格が与えられます。
3 法科大学院ルートのメリット・デメリット
⑴ メリット
① 修了すれば受験資格が与えられる
法科大学院を修了すれば、全員に司法試験の受験資格が与えられます。
そのため、司法試験の受験資格を得るという観点からは、予備試験ルートと比較すると、法科大学院ルートのほうが確実といえます。
② 教授との距離が近い
法科大学院は、ソクラテスメソッドで授業が行われます。
ソクラテスメソッドとは、教授が一方的に講義を行うのではなく、教授が学生に対して質問形式で行う授業のことを指します。
このソクラテスメソッドの授業により、法科大学院の学生は、法律を深く学んでいくことができます。
また、学生と教授の距離が近いため、質問に行く機会も与えられます。こういった環境の中で、司法試験に向けて勉強を進めていくことができます。
⑵ デメリット
① 時間的な負担(留年)
法科大学院を修了するには、2年ないし3年かかります。そのため、時間的な負担がかかってしまいます。
また、法科大学院によっては、留年率が高い法科大学院も存在します。
特に、未修コースの進級率は、既習コースと比較すると、留年率は高いです。そのため、入学すれば、ストレートに法科大学院を修了できるというわけでもありません。留年すると、その分、終了年度も遅くなり、ますます時間的な負担がかかってしまうことになるでしょう。
② 経済的な負担
法科大学院を修了するためには、数百万円の学費がかかります。
法科大学院を検討する際には、経済的な負担への対応を検討する必要があります。
また、学生生活は、講義の予習や復習に追われます。そのため、アルバイトをすること等で、収入を得ることは容易ではありません。
4 法科大学院在学中受験のメリット・デメリット
⑴ メリット
① 時間的な負担を解消
在学中に司法試験を受験することができれば、本来の修了年度よりも早く司法試験の挑戦権を得られることになります。
これは、時間的な負担がかかるという法科大学院ルートのデメリットをカバーしてくれるため、魅力的な制度といえます。
② モチベーションの維持につながる
法科大学院での2年ないし3年というのは、短いようで長いです。
そのため、在学中も、「司法試験はまだまだ先だから・・・」という理由で、勉強へのモチベーションが下がることも十分考えられるでしょう。
他方で、在学中受験制度により、既習コースであれば、入学した1年後には、司法試験を受験することが可能となりました。
そうすると、試験日が近いこともあり、自ずから勉強へのモチベーションを高めたまま学生生活を過ごすことがでるでしょう。
⑵ デメリット
①期末試験対策とのバランスが難しい
令和5年度の司法試験は、7月に行われます。
この時期は、法科大学院においても、期末試験が行われる時期であると思われます。
法科大学院の期末試験対策と司法試験対策が必ずしも一致するとはいえません。
そのため、在学中受験に挑戦するのであれば、司法試験対策に加え、法科大学院の期末試験の対策も十分念頭に置かなければなりません。両方の試験対策に取り組んだがゆえに、どちらも不十分な対策で試験に望まなければならないという事態も考えられます。
5 予備試験ルートのメリット・デメリット
⑴ メリット
① 時間的な拘束がない
予備試験は、試験にさえ合格すれば、受験資格を得られます。
法科大学院ルートのように、2年ないし3年間拘束されることはありません。
② 司法試験の合格率が高い
予備試験ルートは、司法試験の合格率が非常に高いです。
また、どの法科大学院修了者と比べても、予備試験ルートでの受験者のほうが、司法試験の合格率は高いです。この事実からすると、予備試験ルートは、司法試験に強いといえます。
順位 | 法科大学院名 | 受験者 | 最終合格者 | 合格率(対受験者数) |
1 | 予備試験合格者 | 400 | 374 | 93.50% |
2 | 愛知大法科大学院 | 3 | 2 | 66.70% |
3 | 京都大法科大学院 | 185 | 114 | 61.60% |
4 | 一橋大法科大学院 | 110 | 64 | 58.20% |
5 | 慶應義塾大法科大学院 | 227 | 125 | 55.10% |
6 | 東北大法科大学院 | 39 | 20 | 51.30% |
7 | 東洋大法科大学院 | 2 | 1 | 50.00% |
7 | 山梨学院大法科大学院 | 4 | 2 | 50.00% |
9 | 早稲田大法科大学院 | 231 | 115 | 49.80% |
10 | 岡山大法科大学院 | 33 | 16 | 48.50% |
※合格率順で上位10位を法務省データより抜粋
③ 就職活動で有利
大手法律事務所の内定は、司法試験の合格発表前に行われています。
そのため、合否が不明な時点で、内定を出すことになります。
この点、予備試験の司法試験の合格率は非常に高いです。
法律事務所の採用担当者の立場からしても、司法試験に合格している可能性が高い予備試験ルートでの受験者を採用したいという考えになるのです。
実際に、予備試験合格者を対象としたインターンシップが行われています。
このように、予備試験に合格すれば、就職活動で有利に働く可能性が高いといえるでしょう。
⑵ デメリット
① 予備試験に合格することが難しい
予備試験の合格率は3~4%です。
そのため、予備試験に合格することは容易ではありません。
② モチベーションの維持
法科大学院では、クラスメートや教授と毎日顔を合わせるので、誰かと勉強する環境が自然と整っています。
他方で、予備試験受験生は、そのような環境は自分で作らなければ、ひとりで勉強することになります。ゆえに、モチベーションを維持させることが難しいと考えられます。
6 司法試験を目指すなら予備試験を目指そう
それぞれのルートには、メリット・デメリットがありますが、司法試験を目指すなら、予備試験ルートがおすすめです。
予備試験と法科大学院入試の試験科目は、重なる科目も多く、相関関係があります。
学生においては予備試験を目指したうえで、大学在学中までに予備試験に合格できなかった場合に、法科大学院への入学も検討するというパターンが最も選択肢を広げることができるでしょう。
また、社会人においても時間・経済的メリットが大きい予備試験ルートで司法試験を目指すことをおすすめします。
予備試験は、非常に難しい試験ですが、司法試験の合格率も高く、非常に魅力的な試験です。
是非、予備試験ルートで司法試験合格を勝ち取ってください!
7 サマリー
司法試験を受験するためには3つの方法があることを解説しました。
それぞれのルートにはメリット・デメリットがあるので自分に合ったルートで最終的な目標である司法試験合格を勝ち取ってください!
司法試験の合格率が高く、経済的・時間的な負担が比較的少ない予備試験ルートは人気があり、受験者数が増加しています。
それに伴い多くの予備校が様々な講座を提供しています。オンライン予備校の資格スクエアの予備試験講座からも多くの合格者を輩出しています。ぜひ合格体験記も併せてご覧ください。
8 まとめ
- 司法試験には、①法科大学院を修了での受験資格、②法科大学院在学中での受験資格、③予備試験ルートでの受験資格がある。
- 法科大学院在学中での受験資格は、法律基本科目30単位以上、法律応用科目18単位以上、選択科目4単位以上を取得する必要がある。なお、選択科目は、司法試験受験時の選択科目である必要はない。また、受験できるのは、最終学年である。
- それぞれのルートには、メリット・デメリットがあるが、司法試験の高い合格率や時間的な拘束が少ない予備試験ルートはとても魅力的。