1 弁護士になるために受けなければならない試験
弁護士になるためには避けて通れないのが「試験」です。
弁護士関連の試験は以下の4つとなっています。
・法科大学院入学試験(未修者コースまたは既修者コース)
・予備試験
・司法試験
・二回試験(司法修習生考試)
人によって受ける試験や回数は変わりますが、弁護士になるためには少なくとも3回は試験を受け、合格する必要があります。
全員が共通して受ける試験が司法試験と二回試験です。
そして、司法試験を受けるための資格を得るために、法科大学院入試または予備試験を受けなければなりません。
簡単な試験は一つもなく、弁護士になるためにはかなりの量の試験勉強が必要だと言えます。
弁護士になるためには多くの試験を乗り越えることが必要となり、試験マスターであるともいえるかもしれません。
2 法科大学院(未修者)試験
(1) 試験内容
法科大学院未修者コースの入学試験は、小論文の試験が課されることが多いです。
小論文のテーマとしては、時事的な比較的新しい話題のものもあれば、昔から文献で扱われている社会・人文科学的なものまで、様々です。
出題形式としては、文章の要約、文章で述べられている課題に対する自分の意見の論述、などがあります。
また、法科大学院によっては面接を行い志望動機や時事問題への考察などが問われる場合があります。
さらに、法科大学院によっては出願の際にTOEICやTOEFLの結果など外国語能力を示す書類の提出が義務付けられる場合があります。
この外国語能力の成績が書類選考段階で大きなウエイトを占める法科大学院もあり、語学の対策も手が抜けません。
なお、現在、例年こうした語学能力を示す書類の提出を課している法科大学院も臨時で提出を義務付けないとする措置をとっている場合があります。新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、各地でTOEICやTOEFLなどの公開試験が中止となっていることから志願者の受験 機会の公平性を鑑みてこのような措置をとっているのです。
適性試験は実質廃止に!
かつて、法科大学院への入学希望者は『法科大学院全国統一適性試験(いわゆる、適性試験』を受ける必要がありました。 この適正試験は、大学入試におけるセンター試験や共通テストのようなもので論理力や読解力が試されました。 法科大学院への入学希望者は、法科大学院の個別試験を受ける前に必ずこの適性試験を受ける必要がありました。 この適性試験は2011年から2017年まで実施されていました。 ところが、2018年に実質廃止され、以降は実施されていません。 |
(2) ポイント
小論文試験では、法律に求められる論理的な思考力が問われることになります。
もちろん未修ですので、法律の専門知識そのものが問われるわけではありません。
文章を的確に理解し、その課題に対する自分の意見を論理的に書ける力が求められています。
(3) 難易度
法科大学院によりますが、法律の試験がないことや、競争率があまり高くないことが多いことから、難易度は高くはありません。
ただし、人気の法科大学院では出願の際に提出する大学在学中の成績証明書や外国語能力を示す書類において、高い能力を示すことが求められる場合もあります。
(4) 学習時間
小論文の学習は必要ですが、総学習時間は長くはありません。
数百時間程度の学習で十分でしょう。
ただし、法科大学院に入ってから猛勉強が必要になります。
また、TOEICやTOEFLの結果など外国語能力を証明する書類の提出を義務付ける法科大学院を志望する場合、そのための勉強時間も必要になります。
3 法科大学院(既修者)試験
(1) 試験内容
既修者コースの入試は、未修者コースと異なり、法律の試験が課されます。
法律試験の試験科目は法科大学院によって大きく異なります。
例えば、早稲田や慶應、中央といった有名私立大学は行政法を試験に課していません。
一方、多くの国立大学は行政法も試験科目の一つとなっています。
自分の目指す法科大学院の試験科目をしっかり把握し、それに合わせた勉強をすることが重要です。
なお、『既修者コース』と言っても、大学の法学部出身者しか受験ができないわけではありません。
他学部を卒業した人も法律知識を独学することで法科大学院の既習者コースに入学することも可能なのです。
また、未修者コースと同様、法科大学院によっては出願の際にTOEICやTOEFLの結果など外国語能力を示す書類の提出が義務付けられる場合があります。
さらに、法科大学院によっては面接を行い志望動機や時事問題への考察などが問われる場合があります。
(2) ポイント
既修者コースの試験は、一般教養関連の試験より法律の試験の比重が大きいことがほとんどです。
そのため、法律試験の学習を過去問を中心に学習することが重要です。
まずは過去問を入手し、その大学の試験科目や傾向を探ってみましょう。
(3) 難易度
法科大学院によります。
しかし、有名私立大学や上位国立大学の法科大学院は難関であることが多いです。
もっとも、予備試験に比べると難易度は下がります。
(4) 学習時間
予備試験の学習の半分程度の学習を行えば合格できるでしょう。
1000〜1500時間程度の勉強で上位法科大学院に合格できます。
時間の取れる大学生であっても、遅くとも入学試験の1年前から対策を始めたいところです。
4 予備試験
(1) 試験内容
テキスト予備試験は、「法科大学院を修了した者と同様の学識及びその応用能力並びに法律に関する実務の基礎的素養を有するかどうかを判定すること」を目的に実施される試験です。
試験は短答式試験・論文式試験・口述試験の3段階になっています。
まず、例年5月(令和5年は7月)に実施される短答式試験を突破した人が、論文式試験にすすむことができます。
そして、論文式試験に突破した人が口述試験にすすむことができます。
この口述試験を突破してやっと予備試験合格者の資格が得られます。
なお、令和5年は短答式試験が7月、論文式試験が9月、口述試験が1月に行われることが決定しています。
これは、司法試験の日程が令和5年に変更されることに合わせた決定です。
令和5年以降の試験を受ける人はスケジュールが大幅に変更されるので注意が必要です。
なお、税理士や、公認会計士の試験とは違って、各試験に落ちたら翌年の短答式試験から受け直すことになります。
論文式試験において一般教養科目が廃止
そして、選択科目が導入! 令和4年度の予備試験から論文式試験の試験科目が大きく変わりました。 それまで、1日目の最後の試験科目であった一般教養科目の試験が廃止になり、代わりに選択科目が導入されました。 選択科目の試験では以下の8つの法律科目から受験生が任意に選んだ1科目について解答することになります。 ・倒産法 ・租税法 ・経済法 ・知的財産法 ・労働法 ・環境法 ・国際関係法(公法系) ・国際関係法(私法系) この8科目は司法試験の選択科目と共通です。 予備試験受験者は司法試験の選択科目も見据えて受験科目を選ぶ必要がありそうです。(もちろん、予備試験と司法試験で別の科目を選択することもできます。) なお、一般教養科目は論文式試験において廃止されましたが、短答式試験においては未だに試験科目であるため注意が必要です。 |
試験科目 | 試験日程 | 受験対象者 | |
短答式試験 | 憲法,行政法,民法,商法,民事訴訟法,刑法,刑事訴訟法,一般教養科目 | 5月中旬
(試験日数:1日) 令和5年度は 7月に実施 |
誰でも受験可能 |
論文式試験 | 憲法,行政法,民法,商法,民事訴訟法,刑法,刑事訴訟法,
法律実務基礎科目(法律に関する実務の基礎的素養についての科目) 選択科目(倒産法、租税法、経済法、知的財産法、労働法、環境法 、国際関係法(公法系)、国際関係法(私法系)の中から1科目) |
7月中旬
(試験日数:2日) 令和5年度は 9月に実施 |
その年の短答式試験合格者 |
口述試験 | 法律実務基礎科目(民事、刑事) | 10月下旬
(試験日数:2日) 令和5年度は 翌1月(令和6年1月)に実施 |
その年の論文式試験合格者 |
(2) ポイント
予備試験は、法律7科目が中心となる試験であり、短答式試験、論文式試験、口述試験と3つ形式での試験が課されます。
中でも論文式が特に難関な試験です。
そのため、論文式の学習が非常に重要になります。
また、論文式試験の中でも2日目の試験は体力も重要なポイントになる試験です。
午前中に3時間の実務基礎科目の試験を受け、午後に3時間30分にも渡る『民法・商法・民事訴訟法』の試験を受ける必要があります。
司法試験の科目の中で一番試験時間が長い科目である選択科目でさえ3時間ですからその長さがわかります。
そして、司法試験の選択科目は1日目の一番最初に行われます。
これに対して、予備試験最長の試験時間を誇る『民法・商法・民事訴訟法』の試験は試験最終日の2日目の一番最後に行われます。
予備試験の論文式試験を突破するには、最後まで答案を書ききる体力も重要になってきます。
また、予備試験の特徴として出願資格に制限がないことが挙げられます。
法科大学院の入学試験には大学の卒業資格など、一定の資格がないと受験資格が与えられませんが、予備試験にはそうした受験資格が一切ありません。
そのため、大学生や社会人、中には高校生で受験する人もいます。
(3) 難易度
司法試験よりも合格率が低く(約4%)、法科大学院既修コースや司法試験よりも難関試験であるといえます。
弁護士になるための試験は難関なものばかりですが、その中でも合格するのが最も難しい試験です。
以下の表は近年の予備試験の短答式試験、論文式試験、口述試験の全てを突破して最終合格した人の数と合格率をまとめたものです。
年度 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
2021 | 11,717 | 467 | 4.00% |
2020 | 10,608 | 442 | 4.20% |
2019 | 11,780 | 476 | 4.00% |
2018 | 11,136 | 433 | 3.90% |
2017 | 10,743 | 444 | 4.10% |
2016 | 10,442 | 405 | 3.90% |
2015 | 10,334 | 394 | 3.80% |
2014 | 10,347 | 356 | 3.40% |
2013 | 9,224 | 351 | 3.80% |
(4) 学習時間
予備試験に合格するまでの学習時間は人によって大きく異なります。
例えば、1年〜1年半の学習期間で合格した場合の目安として、学習を効率的に進めた場合、およそ2,000時間と考えられます。
とはいえ、1,500時間以下で合格した人もいますし、数年間かけて3,000時間〜5,000時間ミッチリ学習した人もいます。
学習時間は学習期間や学習方法によって変わります。
時間はあくまで目安と考え、とらわれすぎないように注意しましょう。
5 司法試験
(1) 試験内容
司法試験は、「裁判官、検察官または弁護士になろうとする者に必要な学識及びその応用能力を有するかどうかを判定する試験」です。
短答式と論文式の2種類の試験が行われます。
受験者全員が両方の試験を受けることになっています。
短答式試験 | 憲法、民法、刑法 | 令和4年5月15日(日) | 法科大学院修了者、一定の要件を満たした法科大学院在学中の学生、予備試験合格者 |
論文式試験 | 選択科目(
公法系科目(憲法、行政法)、 民事系科目(民法、商法、民事訴訟法)、 刑事系科目(刑法、刑事訴訟法) |
令和4年5月11,12,14日 | 法科大学院修了者、一定の資格を満たした法科大学院在学中の学生、予備試験合格者 |
令和5年の司法試験より司法試験の受験資格が拡大!
令和4年度の司法試験までは、司法試験の受験者資格を有するのは法科大学院修了者か、予備試験合格者に限られていました。 ところが、令和5年の司法試験からこの受験資格が拡大され、一定の要件を満たした法科大学院に在学中の学生は、法科大学院を修了することなく、司法試験の受験資格を得ることができるようになりました。 この『在学中受験資格』は、法科大学院の過程に在学する者であって、当該法科大学院を設置する大学の学長が、以下の両要件を満たすことについて認定をした者に付与されます。
この司法試験の受験資格の拡大に伴って令和5年の司法試験は受験者数が増加することが予想されます。 (参照:法務省『在学中受験資格に関するQ&A』) |
(2) ポイント
司法試験も、法律7科目に加え、専門科目の試験が課されます。
短答式は憲法・民法・刑法のみで、論文式で専門科目を入れた8科目が問われることになります。
論文式の試験時間が長く、論文式の学習がほとんどを占めることになります。
論文試験対策が必須、と言えるでしょう。
(3) 難易度
受験資格が法科大学院修了者や予備試験合格者に限られているにもかかわらず、合格率は25〜40%程度と決して低くはないです。
しかも、受験生のレベルが高く、法科大学院の既修コースの入学試験よりも遥かに難易度は高いです。
もっとも、予備試験に比べると合格するのは難しくありません。
以下の表は近年の司法試験の最終合格率を示したものです。
近年合格率は増加傾向にありますが、これは志願者の減少によるところが大きく、決して司法試験の内容が簡単になっているとは言い切れません。
合格率 | 受験者数 | |
2021年 | 41.5% | 3,424人 |
2020年 | 39.2% | 3,703人 |
2019年 | 33.6% | 4,466人 |
2018年 | 29.1% | 5,238人 |
2017年 | 25.9% | 5,967人 |
(4) 学習時間
ロースクール未修者だと独学の場合9,000時間程度の勉強量が必要になると言われています。
司法試験に特化した予備校を利用することで7,000~7,500時間に短縮することができると言われています。
6 二回試験
(1) 試験内容
正式名称は「司法修習生考試」です。
司法修習の卒業試験のようなもので、弁護士になるための最後の試験、と言えます。
試験科目は、民事裁判、刑事裁判、検察、民事弁護、刑事弁護の5科目です。
1日1科目ずつ、計5日間にわたって試験が行われるという、超耐久レースになっています。
試験内容は起案です。
100ページ程度の実際にあった事件の記録を読み、起案を行います。
司法修習では何度も起案を行うので、そのときの知識や記憶を総動員して取り組むことになります。
試験時間は昼食も含めて7時間30分にも及びます。
しかしこれでも時間が足りないくらいで、ほとんどの受験生は昼食をとりながら起案をしています。
(2) ポイント
二回試験は、司法修習の卒業試験であり、民事裁判、刑事裁判、民事弁護、刑事弁護、検察の5科目について問われます。
実務修習や座学での修習の成果が問われる極めて過酷な試験です。
合格率は非常に高いですが、レベルが高くプレッシャーも非常に高いので、全科目についてしっかりとした学習が必要になります。
また、多くの司法修習生は司法修習期間中に就職先の内定をもらいます。
(弁護士なら、弁護士事務所や企業の法務部など。)
二回試験に落ちると、司法修習の修了が一年延長されるので、この内定が取り消される場合もあるようです。
このような事情から、二回試験は一回で合格できないと代償が大きすぎるがゆえに、今までの試験とは違った緊張感が伴います。
(3) 難易度
合格率は98%程度で、ほとんどの受験者が合格する試験です。
しかし、司法試験合格者のみが受験するのでレベルは非常に高く、問題の難易度は最も高いです。
また、体力・精神的にもかなり厳しいテストになっています。
(4) 学習時間
約1年間の司法修習の集大成となる試験ですので、総学習時間は1000時間程度は必要です。
人により学習時間が大幅に異なりますが、毎日何かしら勉強することが必要です。
7 サマリー
いかがだったでしょうか?
弁護士になるためにはまず、法科大学院の入学試験か、予備試験を突破して司法試験の受験資格を得なければなりません。そして、司法試験を突破しても、さらに二回試験を突破する必要があります。弁護士になるにはこうした数々の試験を乗り越える必要がありますが、こうした各試験を突破して弁護士バッジを手に入れた時の感慨はひとしおです。
また、弁護士になるための試験制度は近年変革期にあります。
弁護士を目指す人はこうした試験制度の変化にも十分に注意する必要がありますね。
8 まとめ
- 法科大学院未修者コースの入学試験は法律の知識は問われず、小論文の試験がほとんどである。
- 法科大学院既修者コースの入学試験は法律の素養があれば法学部出身者でなくても受けられる。
- 予備試験は論文式試験が最難関。最終合格率はわずか4%である。
- 司法試験は合格率が25%〜40%ほど。令和5年から受験資格が拡大される。
- 二回試験は弁護士になるための最後の関門。落ちると、就職先の内定が取り消しされる。
- 弁護士になるための試験制度はよく変わる。十分な情報収集をしよう!