裁判所事務官は、裁判所において裁判が円滑に運営されるために必要な職業です。しかし、司法試験受験生の中でも、法律に関わる仕事である裁判所事務官について、詳しく知らないという方も多いのではないでしょうか。裁判所事務官とは、どのような職業なのか、なり方、キャリア等を解説します。
1 裁判所事務官とは
裁判所の司法行政部門・裁判部門に配置されている事務職員です。
司法行政部門では、総務課・人事課・会計課といった事務局に配置され、裁判部門では、民事部・刑事部・家事部・少年部という事件部に配置され、裁判事務を担当しています。
2 裁判所事務官のなり方
裁判所事務官のなり方について紹介します。
裁判所事務官になるためには、裁判所職員採用試験に合格しなければなりません。この試験は、総合職試験と一般職試験に分かれています。
総合職試験は、院卒者区分・大卒程度区分であり、一般職試験は大卒程度区分であるという違いの他に、下記のとおり、試験科目にも差異があります。
(1) 総合職試験の試験科目
① 第1次試験
基礎能力試験(他肢選択式)
公務員として必要な基礎的な能力についての筆記試験です。
大学卒業レベルの基本的な知識や思考力が問われる試験です。
専門試験(他肢選択式)
裁判所事務官に必要な専門的知識などについての筆記試験。
憲法7題・民法13題
選択 刑法又は経済理論 10題
② 第2次試験
論文試験(小論文)
文章による表現力、課題に対する理解力などについての筆記試験。
1題
専門試験(記述式・民法、刑法、訴訟法)
裁判所事務官に必要な専門知識などについての筆記試験。
憲法1題、民法1題、刑法1題、民事訴訟法又は刑事訴訟法1題
政策論文試験(記述式)
組織運営上の課題を理解し、解決策を企画立案する能力等についての筆記試験。
1題
人物試験
人柄、資質、能力などについての個別面接
③ 第3次試験
人物試験(集団討論及び個別面接)
人柄、資質、能力などについての集団討論及び個別面接
(2) 一般職試験の試験科目
① 第1次試験
基礎能力試験(他肢選択式)
専門試験(他肢選択式)
憲法7題、民法13題
選択 刑法又は経済理論 10題
② 第2次試験
論文試験(小論文)
1題
専門試験(記述式)
憲法1題
人物試験(個別面接)
ご覧いただいたとおり、試験科目では、総合職試験では、第2次試験において、専門試験として、民法、刑法、訴訟法の記述の問題が1題ずつと政策論文試験が1題、試験科目にあることが一般職試験との大きな違いです。
(3) 試験の難易度
令和3年度実施結果
申込者数 | 第1次試験
有効受験者数 |
第1次試験
合格者数 |
第2次試験
有効受験者数 |
第2次試験
合格者数 |
第3次試験
有効受験者数 |
最終合格者数 | 倍率 | |
総合職試験 院卒者区分 | 101 | 75 | 57 | 55 | 20 | 18 | 9 | 8.3 |
総合職試験
大卒程度区分 |
469 | 310 | 119 | 99 | 29 | 25 | 9 | 34.4 |
一般職試験
大卒程度区分 |
10,275 | 7,802 | 3,274 | 3,119 | —- | —- | 1,080 | 7.2 |
令和2年度実施結果
申込者数 | 第1次試験
有効受験者数 |
第1次試験
合格者数 |
第2次試験
有効受験者数 |
第2次試験
合格者数 |
第3次試験
有効受験者数 |
最終合格者数 | 倍率 | |
総合職試験 院卒者区分 | 168 | 78 | 65 | 57 | 22 | 22 | 11 | 7.1 |
総合職試験
大卒程度区分 |
673 | 148 | 105 | 84 | 30 | 29 | 13 | 11.4 |
一般職試験
大卒程度区分 |
12,784 | 2,135 | 1,638 | 1,519 | —- | —- | 970 | 2.2 |
試験の倍率は年によって、ばらつきがあり、特に総合職試験は難易度が高い試験であるといえます。
しっかりと過去問対策をして、法律科目については、重要判例や条文をおさえる学習をする必要があるといえます。
3 年収
裁判所事務官の年収についてご紹介します。
裁判所事務官の年収は、合格した試験の種類によって異なります。
以下、裁判所事務官の初任給、諸手当について、東京特別区内に勤務する場合の例をご覧下さい。
試験の種類 | 初任給
(東京都特別区内に勤務する場合の例) |
総合職試験 (院卒者区分) | 255,600円 |
総合職試験 (大卒程度区分) | 224,040円 |
一般職試験 (大卒程度区分) | 218,640円 |
諸手当の例
期末・勤勉手当… 1年間に俸給月額などの約 4 箇月分
通勤手当…6箇月定期券の価額等 (1箇月当たり最高 55,000 円)
住居手当…最高 28,000 円
扶養手当…配偶者 6,500 円等 超過勤務手当等
4 キャリアパス
裁判所事務官になった後、そのまま裁判所事務官として働くという道もありますが、その後試験を受けるなどして、さらに違う職業につくこともできます。
(1) 裁判所事務官のキャリアパス
裁判所事務官のキャリアパスとしては、司法書士や裁判所書記官、裁判所書記官を経て、簡易裁判所判事になる道等があります。
もっとも、司法書士になるには、裁判所事務官として、10年以上勤務しなければならず(司法書士の資格認定に関する訓令第1条)、裁判所事務官のキャリアパスとしては、裁判所書記官を目指す人が多いです。
そこで、以下、裁判所書記官について説明します。
(2) 裁判所書記官について
裁判所書記官は、裁判手続きに関する様々な手続きを行う権限を有する法律の専門職です。
裁判所書記官は、法律の専門家として固有の権限が付与されており(裁判所法第60条)、その権限に基づき、法廷立会、調書作成、訴訟上の事項に関する証明、執行文の付与のほか、支払督促の発付等を行います。
手続きに関する事務だけでなく、法令・判例の調査や事件についての必要な事項の調査等、裁判官を補助する様々な事務を処理します。
裁判所書記官になるためには、裁判所職員として一定期間勤務した後、裁判所職員総合研修所入所試験に合格し、同研修所で約1~2年の研修を受ける必要があります。
5 司法試験合格後に事務官として働くこと
おまけとして、司法試験に合格後、裁判所事務官として5年以上勤務すると、司法修習を経ずとも、弁護士資格を得ることができる制度について紹介します。
これは、弁護士法5条1号に規定されています。裁判所事務官だけでなく、簡易裁判所判事、検察官、裁判所調査官、法務事務官、司法研修所等の職にあった期間が5年以上になる場合には、司法修習に行かなくとも、弁護士資格を得ることができます。
もっとも、現在は、司法修習の期間は1年程度と短く、給付金や貸与金の制度も導入されており、このような制度を用いる人はほとんどいません。
6 サマリー
いかがだったでしょうか。
法に携わる職業の一つである裁判所事務官について、どのような職業か、なり方、キャリアパス等について知ることができたでしょうか。
自身の進路選択の一つとして考えるため、また、将来仕事上関わる職業について知るため、法に携わる職業について知ることは大切です。
今後も、広い視野をもって、自身の進路を考えてみてください。
7 まとめ
- 裁判所事務官は、司法行政部門・裁判部門に配置されている事務職員である
- 裁判所事務官になるには、裁判所職員採用試験に合格しなければならない
- 裁判所職員採用試験は、総合職試験と一般職試験があり、総合職試験では、一般職試験の試験科目に、民法、刑法、訴訟法の記述問題、政策論文試験が追加されている
- 裁判所事務官の初任給は、総合職試験 (院卒者区分)で255,600円、総合職試験(大卒程度区分)で224,040円、一般職試験(大卒程度区分)で218,640円である
- 裁判所事務官のキャリアパスとしては、裁判所書記官になる道が最も多い
- 裁判所書記官とは、裁判手続きに関する様々な手続きを行う権限を有する法律の専門職である
- 司法試験合格後、裁判所事務官として5年間働くと、司法修習を経ずとも、弁護士資格を得ることができる