司法試験の学習経験がない方は、司法試験と聞いて、「司法試験といえば、条文を全て暗記しなければならないの?」というイメージを抱く方も多いのではないでしょうか。
実際には司法試験では、六法を参照することができるので、条文を全て暗記しなければならないというようなことはありません。ただ、司法試験でも、一定の暗記が必要な場合があります。
この記事では、司法試験に暗記は必要なのか、必要だとして、どのような場合に暗記が必要なのかなどを徹底解説します。
1 司法試験で求められる能力
司法試験に合格するために求められる能力は、一言で解説することはできませんが、司法試験法第三条には、以下のように規定されています。
(司法試験の試験科目等)
司法試験法第三条 短答式による筆記試験は、裁判官、検察官又は弁護士となろうとする者に必要な専門的な法律知識及び法的な推論の能力を有するかどうかを判定することを目的とし、次に掲げる科目について行う。
一 憲法
二 民法
三 刑法
2 論文式による筆記試験は、裁判官、検察官又は弁護士となろうとする者に必要な専門的な学識並びに法的な分析、構成及び論述の能力を有するかどうかを判定することを目的とし、次に掲げる科目について行う。
一 公法系科目
二 民事系科目
三 刑事系科目
四 専門的な法律の分野に関する科目として法務省令で定める科目のうち受験者のあらかじめ選択する一科目
まず、短答式試験については、司法試験法第三条1項において、①必要な専門的な法律知識、②法的な推論の能力を有するかどうかを判定すると定めています。
続いて司法試験第三条2項を読むと、論文式試験では、①専門的な学識、②法的な分析、構成、③論述の能力を有するか、この3つを判定するとしています。
短答式試験と論文式試験において共通している能力としては、専門的な法律知識を有しているかという部分になり、特に暗記の対象となる部分といえるでしょう。
2 司法試験に合格するためには暗記が必要?
(1) 暗記だけでは合格できない
法律知識について、全て暗記しなければならないのか、という疑問に対しては、結論として、必ずしも暗記が必要になるとは言い切れません。
司法試験は、相対評価試験になります。受験生のレベルに応じて合格ラインが毎年定められるため、受験生の多くが試験本番で書けた部分については、自分自身も書けていないと、相対的に評価が下がってしまうことになります。
例えば、行政法における「処分」の定義は、今ではほとんどの受験生が書ける定義ですが、これを正確に書けないと、評価が下がってしまう恐れがあります。
したがって、「処分」の定義は、暗記する必要があります。
このように、受験生の大半が書ける定義や論証については、試験までに理解し、暗記していないといけないのです。
もっとも、司法試験の難しいところは、闇雲に暗記したとしても、採点者に「この人は定義を暗記しただけで、何も理解していない」と思われる可能性があることです。
例えば、上記の「処分」について暗記でき、試験で定義が書けたとしても、あてはめの段階に入ったところで、正しくあてはめができていないと、この定義の意味を理解していないということが採点者にバレてしまいます。
後に詳しくお話しますが、暗記といっても、その暗記対象の意味内容を理解していることが不可欠になります。
(2) 初学者は暗記思考に陥ってはダメ
特に初学者の方にありがちな例ですが、テキストを読んでいく中で、全てを一言一句覚えようとする方がいます。
上記でもお話したように、司法試験は相対評価試験なので、重要度の低い定義や判例について、時間を割いて一生懸命暗記しようとするのは効率的ではありません。
しかし、勉強を始めたばかりの段階では、何が重要で、何が重要でないかの判断ができないので、暗記対象を絞ることができず、全てを暗記しようとしてしまいます。
これも後述するように、まずはテキストに書いてあることを理解することが大事なので、一つ一つの定義や判例などを全て暗記しなければという思考は一旦捨てる必要があります。
暗記作業は、過去問などを解く段階に入ってから意識するようにしてください。アウトプットを何度も反復していく中で、暗記対象は自然と覚えられるようになります。
3 司法試験における暗記のコツ
司法試験では、暗記だけに頼っていては、合格することは不可能な試験です。なぜなら、冒頭でもお伝えしたように、法律知識があるだけでなく、法的に分析し、法的三段論法に則って適切に論述するためには、暗記だけでは補えないからです。
また、司法試験の出題範囲はとても広いので、全てを暗記をすることは物理的にも厳しいといえます。
しかし、その中でも、頻出論点や重要な定義については、他の受験生に相対的に負けないためにも、暗記対象となる部分については、まずは理解することを先行させてください。
人間は、理解していないものを暗記してもすぐに忘れてしまいます。
逆にいえば、一度理解することができれば、時間が経過しても、理解している部分については思い出せるので、暗記しようとしなくても自然と書けるようになります。
ただ、法律はただでさえ難しい学問なので、理解しようとしても、理解できない場合もあると思います。そういった場合には、自分なりに理解できそうなストーリーを構築することで、忘れにくくすることができます。あくまで試験で思い出せれば良いので、正しく理解ができなくても、思い出せる過程を作ってみるのも、暗記のコツになります。
さらに重要なことは、アウトプットを何度も繰り返すことです。
特に論文式試験では、何ページも論述しなければならず、論点ごとに定義や趣旨、論証などを書かなければなりません。理解して覚えたとしても、実際にアウトプットでなぜか上手く書けないといったことも必ず経験すると思います。
アウトプットを繰り返していく中で、自分が理解できている部分と理解できていない部分が明確になるため、その後の復習にも活きますし、自然と暗記できるようになります。
また、アウトプットを通して、書けなかったところを確認する過程でインプットの質が高まり、暗記にも繋がります。さらに、これを繰り返すことで暗記対象を次第に少なくすることもできるので、おすすめです。
人間はどうしても忘れてしまう生き物なので、何度もアウトプットをする中で思うように書けず、自信をなくしてしまうこともあるかもしれませんが、忘れてしまうのが当たり前だと思って、忘れることを苦と思わないようにすることも勉強を続ける上で大事なことかもしれません。
4 司法試験短答式試験で必要な暗記
短答式試験は、択一式なので、より暗記が求められる試験と思われるかもしれませんが、これも上記でお話したように、まずは理解することが大事です。
もっとも、短答式試験でしか問われない、いわゆる短答プロパー知識については、暗記が必要な場合があります。
例えば、刑法における執行猶予については、数字なども含め条文で細かく規定されているため、理解するのに時間を割くよりも、暗記してしまう方が早い場合があります。
試験が近づくにつれ、どうしても忘れてしまう短答プロパー知識については、最終手段として暗記するというのも一つの手段になります。
5 司法試験論文式試験で必要な暗記
論文式試験では、知識だけでなく、問題文を読解し、分析する能力や、答案作成能力など、暗記だけでは対応できないということをまず念頭に置きながら、何を暗記しなければならないのかを見極める必要があります。
「暗記しなければ」という意識よりも、まずは答案を書けるようになることの方が重要になります。
司法試験は相対評価試験なので、何を書ければ合格できるのか、合格ラインを知ることで、「合格するためには最低限これは書けないといけない」「この定義・判例の文言は正確に書けないといけない」など、暗記の対象を明確にしていくことができます。
ただ、何度もお伝えしているように、すぐに暗記しようとするのではなく、まずは理解することが重要です。
6 サマリー
司法試験は難易度も高く、暗記しようという思考に走ってしまいがちですが、暗記は最終手段としてやるという意識を持って、まずは目の前の課題を一つ一つこなしていくようにしましょう。
7 まとめ
・司法試験は、暗記だけでは合格することができない
・司法試験は出題範囲が広いため、最初から暗記しようとしてはダメ
・特に初学者は、暗記に頼らないことが重要
・まずは理解することを先行させることで、自然と覚えられるようになる
・短答式試験では、短答プロパー知識の暗記が必要な場合がある
・論文式試験では、知識だけでは論文が書けないので、まずは合格ラインを知り、そのために必要な暗記対象を絞りましょう