司法試験制度は、各国・地域ごとに実にさまざまです。
日本では弁護士になるために司法試験に合格しなければなりませんが、国や地域によっては、司法試験を経ることなく、弁護士になることができます。そのような国の1つがイギリスです。
転職やキャリアアップのために海外留学をしたり、海外の弁護士資格を目指したりすることを考えておられる方にとっては、英語圏であるイギリスの弁護士事情も気になるところではないでしょうか。
そこで、この記事では、イギリスで弁護士になる方法とその司法試験制度について解説します。
イギリスへの留学やイギリスの弁護士資格取得を考えておられる方には有用な情報となっておりますので、ぜひ参考にしてみてください。
1 イギリスの司法試験制度について
イギリスでは司法試験に相当する試験はなく、所定の法曹養成課程を経て、実務研修を行うことで弁護士になることができます。
イギリスの弁護士は、バリスター(Barrister)と呼ばれる法廷弁護士とソリシター(Solicitor)と呼ばれる事務弁護士の2種類があり、どちらもまずは原則として大学の法学部で3年間勉強し、その後原則として1年間ロースクールのバリスター養成コースもしくはソリシター養成コースに進むことになります。
大学で法学以外を専攻していた場合は、大学卒業後1年間の法学準修士課程(Graduate Diploma in Law)を修了することで、ロースクールのバリスター養成コースまたはソリシター養成コースに進むことができるようになります。
もっとも、司法試験がないとはいっても、養成コース終了後、バリスターは1年間、ソリシターは2年間実務研修を行わなければなりません。そして、イギリスにおいてはこの研修先を自分で見つけてくる必要があり、これがとても大変なようです。
2 イギリスで弁護士になるには?
(1) イギリスの弁護士は2種類
イギリスの弁護士は、法廷弁護士であるバリスター(barrister)と事務弁護士であるソリシター(solicitor)の二種類に分かれます。
基本的にはバリスターは訴訟業務を行い、ソリシターは書類作成や法律相談を行います。
バリスターは、上位の裁判所で弁論を行うことができますが、依頼者に代わって申し立てや契約書に署名するなど、依頼者の代理人にはなることができません。反対に、ソリシターは下位の裁判所でのみ弁論を行うことができ、依頼者の代理人になることができます。
また、バリスターは、裁判官や検察官に選ばれる資格も有しています。
そして、イギリスではこのバリスターとソリシターで養成課程が異なっています。
(2) イギリスの法曹養成制度
①バリスター養成制度
バリスターになるためには基本的には大学の法学部卒業後、Bar Professional Training Course(BPTC)と呼ばれるロースクールでの1年間のバリスター養成コースを修了する必要があります。
そして、BPTCの前にロンドンにある4つのInns of Court(法曹院)のうちの1つに所属を決めなければなりません。
バリスター養成コースでは、アドバイス文書の作成や訴訟書面作成、クライアントとの面談や交渉、弁論、訴訟法や法曹倫理など、実務的な科目を中心に勉強します。
バリスター養成コースを終えると、法曹院からバリスターとして認定されます。
そして、バリスターとして認定されると、次はバリスター事務所でPupilageと呼ばれる1年間の実務研修を修了することでバリスターとして実務を行うことができるようになります。
実務修習では、まず前期修習の6ヶ月で指導役バリスターに付いてリーガル・リサーチや法律文書作成、会議や法廷の見学などを行います。次に後期修習の6ヶ月では、指導役の監督下で自分で事件を処理していくことになります。
バリスターが所属することになるBar Councilの「Pupil barristers」によると、実務修習中においては、2019年9月からは、ロンドンでは年間18,436ポンド、ロンドン以外では年間15,728ポンドのお給料が出ることになっているようです。
1年間の実務研修を終え、開可証を得ると、バリスターとしての実務を行えるようになるものの、独立して開業するためには3年以上の実務経験が必要となるため、まずはバリスター事務所で共同パートナーになるのが一般的です。
②ソリシター養成制度
ソリシターになるためには、基本的には大学の法学部卒業後、Legal Practice Course(LPC)と呼ばれるロースクールでの1年間のソリシター養成コースを修了する必要があります。
ソリシター養成コースでは、弁護実務や法律文書作成、面談とアドバイス、リーガルリサーチなど、実務的な科目を中心に勉強します。
ソリシター養成コースを修了すると、2年間の実務研修に進みます。
実務研修はソリシター事務所で行われることがほとんどで、実際は大学の2年生の終わりから3年生にかけてすでに選考が始まっているようです。この時期にソリシター事務所の面接を受け、その選考に通ればソリシターの実務研修としてソリシター事務所と実習契約を結ぶことができます。
イギリスでいう弁護士会に相当するLaw Societyの「How much do solicitors earn?」によると、実務修習中の給料としては決まった額はないものの、Law Societyとしては、2021年においてはロンドンで22,541ポンド、ロンドン以外では19,992ポンドを最低額として推奨しているようです。
この実務研修を修了すると、ソリシターとして登録することができ、毎年会費を払うことで開業許可証を取得することができます。
(3) 日本の弁護士資格を有している場合はSQEで弁護士資格取得ができる
SQEとは、Solicitors Qualifying Examinationのことをいいます。
以前はQualified Lawyers Transfer Scheme(QLTS)が実施されていましたが、2021年9月からSQEに変更になりました。
これは、すでに弁護士資格を有している人が一定の要件を満たし、試験に合格することでイギリスのソリシター資格を取得できるという制度です。
その要件としては、以下の4つとなっています。
①何らかの科目で学位を取得しているか、同等の資格や実務経験があること。
②SQEの試験に合格すること。
③2年間の実務経験を有すること。
④ソリシター規制局(SRA)の人格および適性に関する要件を満たすこと。
SQEの試験は2段階に分かれており、SQE1は法的知識に関する択一試験、SQE2は実践的な法的スキルと知識に関する試験となっています。
SQE1の試験科目は、ビジネス法と実務、紛争解決、契約、不法行為、イングランドとウェールズの法制度、憲法、行政法、EU法とリーガルサービス、不動産実務、遺言と遺産管理、弁護士の会計、土地法、信託、刑法と実務です。
他方、SQE2の試験では、クライアント面談や、ケースと問題の分析、リーガルリサーチ、リーガルライティングなどを行うことになっており、かなり実践的な内容となっています。
ソリシター規制局(SRA)の認定が必要にはなりますが、学位と実務経験を有していて試験に合格すればイギリスで弁護士資格を取得できる制度なので、イギリスでは比較的外国弁護士に対して広く門戸が開かれているといえそうです。
3 イギリスの弁護士の年収
イギリスの弁護士の平均年収は、2021年4月20日の「Cosmopolitan」の記事によると、バリスターで41,874ポンド、ソリシターで43,194ポンドとされています。
他方、イギリスの5大事務所の1つ、Linklatersでは、初任給が107,500ポンド、日本円にして1,680万円程度とされており、平均年収をはるかに上回っていることがわかります。
4 サマリー
イギリスの弁護士は、法廷弁護士(barrister)と事務弁護士(solicitor)の2種類に分かれます。
基本的には法廷弁護士は訴訟業務を行い、事務弁護士は書類作成や法律相談を行います。イギリスでは司法試験に相当する試験はなく、所定の法曹養成課程を経て、実務研修を行うことで弁護士になることができます。
また、日本の弁護士資格を有している方であれば、択一式試験と実技試験を受け、一定の要件を満たすことでソリシターの資格を得ることができます。
5 まとめ
- イギリスには司法試験に相当する試験がない
- 弁護士は法廷弁護士(barrister)と事務弁護士(solicitor)の2種類に分かれる
- 所定の法曹養成課程を経て実務研修を行うことで弁護士になることができる
- 外国で弁護士資格を有する人は試験合格など一定の要件を満たすことでソリシターになることができる