最近、テレビドラマなどで裁判官を題材とするものが放映されたりと、裁判官に注目が集まるようになりましたが、裁判官は、判決を下す重責のある職業で、魅力がたくさんあります。
裁判官になるには、大きく分けて4つのステップを経る必要があります。最も大きいステップは、司法試験に合格することですが、司法試験に合格した中でも、裁判官になることができるのはごく一部なのです。
この記事では、裁判官になるまでのステップや、向いている人などをご紹介します。
1 裁判官の仕事とは
裁判官の仕事は、端的にいえば裁判(刑事事件・民事事件・家事事件など)を行うことです。
テレビや映画のワンシーンなどでも見る機会がありますのでイメージしやすいかもしれません。社会的地位が高く法曹を目指す人にとっては憧れの存在となりますが、一つ間違えば、冤罪を生んでしまい人の人生を大きく左右する重責のある仕事です。
裁判官は、裁判手続を主宰し最終的に判決を示すことが基本的な職務となりますが、それ以外にも重要な仕事が山ほどあります。
たとえば、刑事事件を例に挙げてみましょう。
刑事事件は、検察官に起訴された被告人が起訴状に記載されている犯罪について、本当に犯罪を行ったか否か(有罪or無罪)、もし、有罪であるならば、どのような刑罰を科すべきかを判断する裁判です。
また、裁判員制度による裁判員裁判では刑事事件を扱いますので、国民の皆さんと共に、証拠の取り調べや証人や被告人に対する質問、公判への立ち合い、判決まで関与することとなります。
それでは、裁判がない時に、裁判官は一体何をしているのでしょうか?
裁判がない時に行う仕事は、主に執務室において裁判の当事者から提出される書類(主張書面や証拠書類など)の精査や手続きの進行及び事件の争点、争点審理の進行について検討をするほか、判決の起案など多岐に渡ります。
また、合議体(3名の裁判官で事件を担当する)と呼ばれる事件を担当している場合は、構成員である他の裁判官と方針や結論について議論を交わすなど、裁判がない日は一日中執務室にいるということも少なくありません。
2 裁判官になるには
裁判官になるためには、大きくわけて4つのステップを乗り越える必要があります。
この4つのステップというのは、以下になります。
①司法試験の受験資格を得る
②司法試験に合格する
③司法修習を受ける
④二回試験に合格する
これらについて、これから具体的に説明していきます。
(1) 司法試験の受験資格を得る
司法試験は、誰もが受験できる試験ではありません。
司法試験を受験するためには、受験資格を得る必要があり、大きく2つのルートから受験資格を得ることが可能になります。
まず1つは、予備試験に合格するというルートです。
予備試験は、司法試験の受験資格を得るために作られた試験制度で、試験科目や形式も共通する点が多くあります。
予備試験には受験資格がないため、高校生でも受験することができ、最近では最年少合格者として18歳の方が予備試験に合格しました(令和3年度予備試験)。
後に説明する法科大学院ルートに比べると、学生や社会人など、幅広い年代の方が受験できるようになり、法曹を目指しやすくなったという点において予備試験制度には大きなメリットがあります。
もっとも、合格率が約4%と難関試験であることには変わりないため、予備試験に合格するためには、相当の勉強量が必要になります。
2つ目のルートは、法科大学を修了するルートになります。
法科大学院は、「法曹育成のための教育」を目的としており、法曹三者である弁護士、検察官、裁判官を育成する教育機関になります。
そして、法科大学院に進学するには、大学を卒業する必要があります。
法科大学院では、2つのコースが設けられています。
一つは、法律の基礎知識を既に学習している者を対象とする、法学既修者コースです。こちらのコースは、2年間で法科大学院を修了することができます。
もう一つは、初学者を対象とする法学未修者コースです。このコースは、3年間のコースになります。
最近では、「法曹コース」というものが、2020年4月に施行されました。司法試験の受験資格が緩和された新しいコースになります。
これまでは、大学に入学してから、法曹資格を取得できるまで、最短でも約8年かかりました。
「法曹コース」が設置されることで、法科大学院在学中に司法試験を受験することができるようになるため、法曹資格を最短で約6年で取得できるようになります。
これは、大学の早期卒業を前提とした制度になっているため、大学を3年生で早期卒業し、更に法学既修者コース(2年間)、司法修習(1年間)で約6年で法曹資格を得ることが可能となった制度です。また、法科大学院在学中に司法試験を受験することができることも大きな特徴といえます。
また、2023年より、法科大学院在学中に司法試験が受験できるようになります。
法科大学院ルートは、授業や課題をこなすために時間的な制約を伴うため、社会人の方にとってはデメリットも大きく、予備試験ルートの方が人気傾向にあるようです。
(2) 司法試験に合格する
上記ルートにより司法試験の受験資格を得ると、次は司法試験を受験します。
司法試験は、受験資格を得られた次の年から、5回までしか受験できないため、受験回数制限が設けられています。
司法試験は毎年1回実施されるため、5年間の受験期間があるということになります。
ちなみに、司法試験の合格率については、以下のように推移しています。
出典:法務省
上記統計をみると、司法試験の合格率は、2017年から上昇傾向にあり、2021年には、初めての40%台に入りました。
これには、受験者数が減少傾向にあることと、合格者数が1400人〜1500人で維持されていることが背景にあると考えられます。
もっとも、今後は合格者数も減少することも考えられるため、合格率が高い水準で維持されるとは言い切れません。
また、予備試験ルート、法科大学院ルートそれぞれの司法試験合格率は以下のようになっています。
出典:法務省
この統計を見ると明らかですが、法科大学院ルートの司法試験合格率は20%台〜30%台で推移しているのに対して、予備試験ルートの司法試験合格率は、80%台後半から、90%台と、とても高い水準にあります。
法科大学院ルートと予備試験ルートで合格率に大きな差があることがわかります。
(3) 司法修習を受ける
司法試験に合格することができれば、すぐに裁判官になれるというわけではなく、実は司法修習という研修を1年間受ける必要があります。
司法修習について、裁判所のホームページでは、以下のような説明がされています。
「司法修習は、法科大学院で学んだ法理論教育及び実務の基礎的素養を前提として、法律実務に関する汎用的な知識や技法と、高い職業意識や倫理観を備えた法曹を養成することを目的としており、法曹養成に必須の課程として置かれています。」(出典:裁判所HP)
要するに、法曹として実務に出ていく上で必要とされる倫理観や知識などを学ぶための制度になります。司法試験を通して得た知識を、実務ではどのように使うのか、これを司法修習で学ぶことができるということになります。
司法修習は、合格した年の12月頃から次の年の11月までの約1年間行われます。
司法試験の受験から司法修習のカリキュラムの過程については、現状は以下のようになっています。
なお、令和5年度司法試験については、法務省で発表されているように、7月12日(水)、13日(木)、15日(土)、16日(日)と、時期が異なります。
司法試験の日程が後ろ倒しになる影響で、合格発表も、11月8日(水)となっているため、司法修習の時期についても、翌年の3月に開始されることが想定されています(2022年5月現在)。
最新情報については、法務省のページをご覧ください。
司法修習の特徴としては、司法試験に合格さえすれば、司法修習を受けるタイミングを自由に決められるということです。例えば、司法試験に合格した後、一般企業に就職し、何年間か働いた後に司法修習を受けることができます。中には留学に行って語学力を身につけてから司法修習に行く方もいます。
このように司法修習はすぐ受けなければならないものではないので、受験生の方は、司法試験に合格した後どのようなステップで法曹になりたいかを考えてみるのも良いかもしれません。
(4) 二回試験に合格する
司法修習を受けた後は、最終試験である司法修習生考試(二回試験)に合格する必要があります。
司法修習の卒業試験のようなもので、法曹になるための最後の試験です。
試験科目は、民事裁判、刑事裁判、検察、民事弁護、刑事弁護の5科目です。
1日1科目ずつ、計5日間にわたって試験が行われるという、超耐久レースになっています。
試験内容は起案です。
100ページ程度の実際にあった事件の記録を読み、起案を行います。
司法修習では何度も起案を行うので、そのときの知識や記憶を総動員して取り組むことになります。
試験時間は昼食も含めて7時間30分にも及びます。
しかしこれでも時間が足りないくらいで、ほとんどの受験生は昼食をとりながら起案をしています。
合格率は98%程度で、ほとんどが合格する試験です。
しかし、司法試験合格者のみが受験するのでレベルは非常に高く、問題の難易度は最も高いといえます。
2 裁判官になるには成績が重要?
法曹三者(弁護士、検察官、裁判官)の中でも、裁判官として就職するのは最も難しく、狭き門であるといわれています。
73期(令和3年度)には閣議決定で66名の判事補(裁判官)が任命されました(政府発表)。司法試験合格者が約1500人いることを考えると、ほんの僅かな人しか裁判官になることができないことがわかると思います。
また、裁判官になるには、司法試験の成績や、司法修習の課題の成績、二回試験の成績などが重視されるといわれています。
司法試験を優秀な成績で収めた人の中でも、二回試験を良い成績で突破した者でなければ裁判官として選ばれないことを考えると、裁判官は法曹の中でも極めて優秀なエリートが集まっているといえます。
3 裁判官に向いている人は?
裁判官は、優秀なエリートが選ばれると説明しましたが、優秀であるということ以外にも、裁判官になることが相応しいといえる要素がいくつかあります。
裁判官は、法廷で出てきた証拠から推察できる事実などから、判決を出さなければならないため、合理的な判断ができなければなりません。仮に非常識な判断をしてしまうと、誤った人を牢獄に入れてしまう可能性があり、その重責は重大といえます。
法律をきちんと適用し、合理的に常識にかなった判断をして妥当な判決が出せる人が裁判官に向いているといえます。
また、日本における裁判官は、黒い法服を着ますが、これには、何色にも染まらない、公正さを象徴するという意味合いがあります。
どのような状況においても、裁判官としての品位を保ちながら、公正・平等な立場で物事をとらえるという重責のある仕事であることを十分理解していなければなりません。
4 サマリー
裁判官は、法曹の中でも特に狭き門ですが、とても魅力のある職業であり、司法試験を突破した方の中には、当初は弁護士志望であったものの、司法修習を通して裁判官に興味を持ったという方もいます。法曹になるためには、まずは司法試験に合格することが大きなハードルになりますが、将来どのような法曹になりたいかを描きながら受験勉強に励んでくださいね。
5 まとめ
- 裁判官になるには、①司法試験の受験資格を得る、②司法試験に合格する、③司法修習を受ける、④二回試験に合格する、という4つのステップを乗り越えなければならない。
- 司法試験の受験資格には、予備試験ルートと、法科大学院ルートがある。
- 司法試験には受験回数制限が設けられており、受験資格を得てから5回までしか受けることができない。
- 司法試験に合格すると、司法修習を1年間受ける必要がある。
- 司法修習を経たあとは、二回試験という最終試験に合格して初めて法曹になることができる。
- 裁判官になるには、司法試験の成績に加え、司法修習での成績、二回試験の成績が重視されている。
- 裁判官に向いている人として、法律をきちんと適用し、合理的に常識にかなった判断ができる人や、公正な立場で物事を考えられる人があげられる。