弁護士になるためには、司法試験という国家試験に合格する必要がありますが、合格すればすぐに弁護士として登録できるわけではないことをご存じですか?最難関の試験を突破した後も、実は司法修習生考試(二回試験)という試験に最終的に合格しなければ、弁護士登録をすることができないのです。
この記事では、司法試験に合格するまでと合格した後弁護士になるまでの流れについて、詳しく解説します。是非参考にしてみてください。
1 司法試験とは?
(1) 法曹になるための試験
法曹になるためには、まず司法試験という国家試験に合格しなければなりません。司法試験は、年に1回、例年5月中旬に行われ、4日間にかけて試験が行われます。
司法試験には、短答式と論文式があります。4日間の試験のうち、1日目、2日目、3日目は論文式試験が行われ、4日目の最終日に短答式試験が行われます。
短答式試験は憲法、民法、刑法の3科目、論文式試験は選択科目、憲法、行政法、民法、商法、民事訴訟法、刑法、刑事訴訟法の8科目から出題されます。
4日間の長丁場となる試験なので、体力的にもとても厳しい試験といえます。
(2) 司法試験の受験資格
司法試験は、誰もが受けられる試験ではなく、主に2つのルートから司法試験の受験資格を得る必要があります。この2つのルートというのは、①予備試験ルート(予備試験に合格する)と②法科大学院ルート(法科大学院を修了する)です。
いずれのルートも、司法試験を5年間で5回まで受験ができます
(予備試験ルートは予備試験合格後の最初の年の4月1日から5年間、法科大学院ルートは法科大学院修了後の最初の年の4月1日から5年間)。
① 予備試験ルート
予備試験ルートは、予備試験という試験に合格することで司法試験の受験資格が得られるルートです。
予備試験は、司法試験と異なり、短答式試験、論文式試験に加えて、口述試験も行われます。例年毎年5月中旬頃に短答式試験が行われ、これを突破すると7月頃に論文式試験を受けることができます。また、論文式試験を突破すると、10月頃に口述試験を受けることができます。段階的に試験が行われるという意味では、司法試験と制度が大きく異なるといえるでしょう。
また、出題科目も異なります。短答式試験では、憲法、行政法、民法、商法、民事訴訟法、刑法、刑事訴訟法、一般教養科目の8科目から出題されます。
論文式試験では、憲法、行政法、民法、商法、民事訴訟法、刑法、刑事訴訟法、刑事実務基礎、民事実務基礎、選択科目(2022年度から)の10科目から出題されます。
口述試験では、民事実務基礎と刑事実務基礎から出題されます。
司法試験と比較すると予備試験の方が負担が大きいのでは?と思うかもしれません。確かに、科目数も多く、合格率も約4%と非常に難易度の高い試験といえます。もっとも、予備試験受験者数は毎年増加傾向にあり、法科大学院ルートに比べて人気傾向にあります。
その理由の一つとして、予備試験経由の司法試験合格率がとても高いことが挙げられます。
法科大学院修了者の令和2年度司法試験の合格率が32.68%であるのに対して、予備試験合格者の司法試験合格率は89.36%と、その差は約60%もあります。予備試験に合格することができれば、司法試験に合格することも夢ではないということですね。
予備試験の勉強をそのまま司法試験にも活かせることができるという点も、人気の一つといえるでしょう。
② 法科大学院ルート
法科大学院ルートは、法科大学院を修了することで司法試験の受験資格が得られるルートです。法科大学院は、既修コースであれば2年、未修コースであれば3年修了するまで時間がかかります。
法科大学院では、同じ目的に向かって切磋琢磨できる仲間を作ることができ、一緒にゼミを組むなど、モチベーションを維持できる環境の中で学習が続けられるという点では、予備試験よりも孤独にならずにすみます。
他方で、経済的な理由で法科大学院ルートを選択できない方や、社会人の方などは、予備試験ルートを選ぶ傾向にあります。
2 司法試験の難易度
(1) 司法試験合格率の推移
年 | 受験者数 | 最終合格者数 | 合格率 | |
平成24年 | 2012 | 8,387 | 2,102 | 25.06% |
平成25年 | 2013 | 7,653 | 2,049 | 26.77% |
平成26年 | 2014 | 8,015 | 1,810 | 22.58% |
平成27年 | 2015 | 8,016 | 1,850 | 23.08% |
平成28年 | 2016 | 6,899 | 1,583 | 22.95% |
平成29年 | 2017 | 5,967 | 1,543 | 25.86% |
平成30年 | 2018 | 5,238 | 1,525 | 29.11% |
令和元年(平成31年) | 2019 | 4,466 | 1,502 | 33.63% |
令和2年 | 2020 | 3,703 | 1,450 | 39.16% |
上記の司法試験合格率の推移をご覧ください。直近の傾向としては、受験者数が減少傾向にあります。一方で、司法試験の合格率は、2017年から上がっており、特に令和元年から令和2年にかけて、合格率が約6%も上昇しています。
全体の統計としては、合格率は低く、容易に合格できる試験とはいえませんが、受験生としては、合格率が上がってきている今がチャンスといえますね。
(2) 予備試験ルートと法科大学院ルートの合格率の比較
法科大学院ルート | 予備試験ルート | |||||
受験者数 | 合格者数 | 合格率 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 | |
平成28年 | 6517 | 1348 | 20.68% | 382 | 235 | 61.52% |
平成29年 | 5567 | 1253 | 22.5% | 400 | 290 | 72.5% |
平成30年 | 4805 | 1189 | 24.7% | 433 | 336 | 77.6% |
令和元年 | 4081 | 1187 | 29.09% | 385 | 315 | 81.82% |
令和2年 | 3280 | 1072 | 32.68% | 423 | 378 | 89.36% |
こちらの表をみると、法科大学院ルート(法科大学院を修了してから司法試験に合格する)の司法試験合格率は、20%台~30%台であるのに対して、予備試験ルート(予備試験経由で司法試験に合格する)の司法試験合格率は、60%台~80%台と、明らかに予備試験ルートの司法試験合格率が高いことが分かります。
特に、令和2年度の統計では、予備試験ルートの司法試験合格者の合格率が89.36%と、これまでの統計の中で合格率が最も高くなっています。
このことから、合格率が約4%の予備試験を突破することができれば、司法試験に合格することも夢ではありません。予備試験ルートは、2つの大きな試験を突破しなければならないという意味では、とてもハードルが高く、茨の道ですが、予備試験の学習は司法試験の学習に活きるので、どちらのルートを選択しても、予備試験に挑戦してみることは大きな価値があるかもしれません。
3 司法試験合格した後~弁護士になるまで
(1) 司法修習を受ける
最難関の司法試験の合格すれば、弁護士になれると思われがちですが、実は、弁護士になるまでまだ通らなければならない関門があります。
それは、司法修習を受けた後、司法修習生考試(二回試験)という試験に合格する必要があるということです。
司法修習では、法曹として、実務の場で必要となる知識や技術を身につけるための研修を1年間受ける必要があります。
司法修習の特徴としては、司法試験に合格さえすれば、司法修習を受けるタイミングを自由に決められるということです。例えば、司法試験の合格した後、一般企業に就職し、何年間か働いた後に司法修習を受けることができます。中には留学に行って語学力を身につけてから司法修習に行く方もいます。
このように司法修習はすぐ受けなければならないものではないので、受験生の方は、司法試験に合格した後どのようなステップで法曹になりたいかを考えてみるのも良いかもしれません。
司法修習を受けた後は、最終試験である司法修習生考試(二回試験)に合格する必要があります。
司法修習生考試(二回試験)は、司法修習の卒業試験のようなもので、法曹になるための最後の試験です。
試験科目は、民事裁判、刑事裁判、検察、民事弁護、刑事弁護の5科目です。
1日1科目ずつ、計5日間にわたって試験が行われるという、超耐久レースになっています。
試験内容は起案です。
100ページ程度の実際にあった事件の記録を読み、起案を行います。
司法修習では何度も起案を行うので、そのときの知識や記憶を総動員して取り組むことになります。
試験時間は昼食も含めて7時間30分にも及びます。
しかしこれでも時間が足りないくらいで、ほとんどの受験生は昼食をとりながら起案をしています。
合格率は98%程度で、ほとんどが合格する試験です。
しかし、司法試験合格者のみが受験するのでレベルは非常に高く、問題の難易度は最も高いといえます。
また、体力・精神的にもかなり厳しい試験といえます。
4 弁護士の仕事
法曹の一つである弁護士の仕事は様々あります。
一つは、法律事務所に就職し、一般民事や刑事事件、企業法務などを取り扱う業務です。弁護士といえば、一般的にこの業務を行うというイメージが強いのではないでしょうか。
最近では、インハウスローヤー(企業内弁護士)といわれる分野も人気傾向にあります。会社の中で弁護士として働くので、企業法務を取り扱うことが多いですが、会社によっては、企業法務意外にも、幅広い分野にわたって働く方もいます。
また、弁護士の傍ら、実務家教員として法科大学院で学生を教えるという働き方もあります。
弁護士は自由業なので、法律の専門家として、様々な場所で役に立ちます。法律事務所で働く方が多いかもしれませんが、それだけではなく、色んな働き方があるということも知っておいてくださいね。
5 サマリー
弁護士として働けるようになるまでに、いくつものステップを通らないといけないので、とても大変な道かもしれませんが、業務の幅も広く、魅力的な職業なので、将来設計をしながら司法試験に向けて頑張ってください!
6 まとめ
- 司法試験は、法曹になるための最難関国家試験
- 司法試験の受験資格は、予備試験ルートと法科大学院ルートの2つのいずれかによって取得することができる
- 弁護士になるためには、司法試験に合格した後、司法修習を受け、司法修習生考試(二回試験)に合格しなければならない
- 弁護士の仕事には、法律事務所の勤務以外にも、インハウスローヤーや、法科大学院教員など幅広くある